カリオロジー|う窩のあるう蝕・象牙質う蝕の治療法(従来法・選択的除去・ステップワイズ除去・シーラント・ホールテクニック・非修復的う窩コントロール)を比べたCochraneレビュー(Schwendicke・Walsh・Lamont・Innes ほか 2021・Cochrane Database of Systematic Reviews)。ランダム化比較試験27件・3,350人・4,195歯。27研究すべてがバイアスのリスクが高いと判定され、ほとんどの比較で確実性は低〜非常に低
歯髄に近い深いう蝕で、軟らかい象牙質をどこまで取るか。Schwendickeらは2021年、う窩のあるう蝕・象牙質まで進んだう蝕(歯髄は生きている歯)の治療法を比べたランダム化比較試験27件(3,350人・4,195歯)をCochraneレビューにまとめました。永久歯の深いう蝕では、全部取り切る従来法は、ステップワイズ除去より失敗が多く(オッズ比2.06、95%信頼区間1.34〜3.17)、ステップワイズ除去は選択的除去より失敗が多い結果でした(オッズ比2.25、95%信頼区間1.33〜3.82)。この2つの比較の確実性は中です。ほかの13の比較は、乳歯のホールテクニック対従来法が「低」、残り12が「非常に低」。27研究すべてがバイアスのリスクが高いと判定されており、追跡は12〜24か月が多い点もあわせて読みたいレビューです。
①深いう蝕、軟化象牙質は全部取り切る?
歯髄に近い深いう蝕。軟らかい象牙質を追いかけていくと、露髄しそうになる。それでも硬い象牙質が出るまで取り切るのか、歯髄の近くは残して詰めるのか。毎日のように迷う場面です。
Schwendickeらは2021年、う窩のあるう蝕・象牙質まで進んだう蝕の治療法を比べたランダム化比較試験(RCT)27件を集め、Cochraneレビューとしてまとめました。対象は、歯髄が生きていて、不可逆性歯髄炎や歯髄壊死と診断されていない歯です。
・永久歯の深いう蝕では、全部取り切る従来法は、2回に分けて取るステップワイズ除去より失敗が多かった(オッズ比2.06、95%信頼区間1.34〜3.17。3研究・398歯。確実性は中)
・同じく永久歯の深いう蝕で、ステップワイズ除去は、1回で終える選択的除去より失敗が多かった(オッズ比2.25、95%信頼区間1.33〜3.82。3研究・371歯。確実性は中)
・確実性が「中」と評価されたのは、15の比較のうちこの2つだけ。残りは「低」が1つ、「非常に低」が12
・27研究すべてが、バイアスのリスクが高いと判定されている
②比べられた6つの治療法
従来、う窩のあるう蝕や象牙質に達したう蝕は、う蝕象牙質をすべて取り除いて修復してきました。レビューは、これより取る量が少ない方法、まったく取らない方法を含めて、次の6つを比べています。
・従来法(CR):非選択的除去。硬い象牙質が出るまで全体を取り、修復する
・選択的除去(SE):窩洞の周囲は硬い象牙質まで取り、歯髄に近い中央部は軟らかい(または革のような・しっかりした)象牙質を残して修復する
・ステップワイズ除去(SW):1回目は歯髄の近くに軟らかい象牙質を残して数か月封鎖し、2回目にしっかりした象牙質まで取る
・シーラントによる封鎖:う蝕象牙質を取らずに、レジンやグラスアイオノマーで覆う
・ホールテクニック(HT):う蝕を取らずに、既製の金属冠を乳臼歯にかぶせて封鎖する
・非修復的う窩コントロール(NRCC):う窩を清掃しやすい形にし、歯みがきとフッ化物でう蝕を管理する
従来法には、深いう蝕で露髄のリスクが高いこと、歯質を多く失うことという弱点があります。では、取る量を減らした方法は、従来法と比べて失敗が多いのか少ないのか。これがレビューの問いです。
③レビューの組み立て
4つのデータベースを2020年7月21日まで検索し、う蝕組織を取る量の違う方法どうし、またはプラセボ・無処置と比べたRCTを集めています。採用されたのは27研究、参加者3,350人、4,195歯(病変)。1977年から2020年に11か国で発表された研究で、13件はブラジルの研究でした。
・歯の種類:乳歯16研究、永久歯10研究、両方1研究
・年齢:小児・思春期のみ20研究、成人のみ2研究、両方5研究
・病変:う窩のない病変3研究、深いう蝕12研究、う窩はあるが深くない(または深さが混在)12研究
・追跡期間:0(治療中の露髄だけを数えた研究)から120か月。多いのは12〜24か月
・実施場所:23研究が大学病院などの二次医療機関
主要評価項目は「失敗」です。露髄、歯内療法、抜歯、修復のやり直し(シーラントの再封鎖を含む)を1つにまとめた複合指標で、効果はオッズ比で示されています。深いう蝕に限って、ネットワークメタ解析も行われました。
④結果(1):確実性が「中」だった2つの比較(永久歯・深いう蝕)
オッズ比は「何倍なりやすいか」とは別の指標で、失敗が多い集団ではリスク比より大きな数字になります。そこで、原著の図に載っている失敗数から割合も出しておきます。
・従来法 対 ステップワイズ除去(3研究・398歯。追跡6〜60か月):失敗は従来法213歯中99歯(46.5%)、ステップワイズ除去185歯中58歯(31.4%)。オッズ比2.06(95%信頼区間1.34〜3.17)。単純に合算した割合の比=リスク比は約1.48(筆者の計算)
・ステップワイズ除去 対 選択的除去(3研究・371歯。追跡12〜60か月):失敗はステップワイズ除去183歯中50歯(27.3%)、選択的除去188歯中27歯(14.4%)。オッズ比2.25(95%信頼区間1.33〜3.82)。同じくリスク比は約1.90(筆者の計算)
レビュー著者は、前者を「ステップワイズ除去は従来法より、おそらく失敗を減らす」、後者を「選択的除去はステップワイズ除去より、おそらく失敗を減らす」とまとめています。どちらも、盲検化ができないことによるバイアスのリスクを理由に、確実性を1段階下げた評価です。
では、従来法と選択的除去を直接比べるとどうか。永久歯の深いう蝕では、失敗は従来法93歯中19歯(20.4%)、選択的除去86歯中1歯(1.2%)で、オッズ比は11.32でした(95%信頼区間1.97〜65.02。2研究・179歯)。単純に合算した割合の比=リスク比は約17.6になります(筆者の計算。メタ解析の推定値ではなく、失敗が1歯しかない群との比なので、数字そのものは当てにできません)。確実性は「非常に低」です。信頼区間の幅が広く、重みの62%を占める1研究が、割り付けと盲検化でバイアスのリスクが高いと判定されています。
⑤結果(2):15の比較を全部並べる
図は、レビューが確実性を評価した比較を1つも落とさずに並べたものです。オッズ比は「先に書いた方法」の失敗のオッズを「後に書いた方法」と比べた値です。
・シーラント 対 従来法(永久歯・う窩あり):オッズ比5.00(0.51〜49.27)。1研究・41歯
・シーラント 対 選択的除去(乳歯・う窩あり):オッズ比3.11(0.11〜85.52)。2研究・82歯
・シーラント 対 無処置(永久歯・う窩なし):オッズ比0.05(0.00〜2.71)。2研究・103歯
・従来法 対 ホールテクニック:オッズ比8.35(3.73〜18.68)。2研究・249歯。確実性は低
・ホールテクニック 対 非修復的う窩コントロール:オッズ比0.19(0.05〜0.74)。1研究・84歯。非常に低
・選択的除去 対 ホールテクニック:オッズ比8.94(0.57〜139.67)。2研究・586歯。非常に低
・従来法 対 非修復的う窩コントロール:オッズ比1.16(0.50〜2.71)。1研究・102歯。非常に低
・従来法 対 選択的除去:オッズ比0.62(0.21〜1.88)。2研究・204歯。非常に低
・従来法 対 ステップワイズ除去(永久歯):オッズ比2.06(1.34〜3.17)。3研究・398歯。確実性は中
・従来法 対 ステップワイズ除去(乳歯):オッズ比2.43(0.65〜9.12)。1研究・63歯。非常に低
・従来法 対 選択的除去(永久歯):オッズ比11.32(1.97〜65.02)。2研究・179歯。非常に低
・従来法 対 選択的除去(乳歯):オッズ比4.43(1.04〜18.77)。4研究・265歯。非常に低
・ステップワイズ除去 対 選択的除去(永久歯):オッズ比2.25(1.33〜3.82)。3研究・371歯。確実性は中
・ステップワイズ除去 対 選択的除去(乳歯):オッズ比2.05(0.49〜8.62)。2研究・126歯。非常に低
・選択的除去 対 ホールテクニックの変法(乳歯):オッズ比1.95(0.57〜6.63)。1研究・72歯。非常に低
乳歯で目を引くのはホールテクニックです。レビュー著者は「従来法に比べて、失敗を大きく減らすかもしれない」と書いています(確実性は低。追跡30〜60か月)。Summary of findingsの表では、失敗はホールテクニックで1,000歯あたり75歯、従来法で404歯(95%信頼区間232〜602歯)と見積もられています。これは、ホールテクニック群の失敗の割合を基準に、オッズ比から計算した値です。
一方、乳歯の深くないう蝕では、従来法と選択的除去の差ははっきりしませんでした(オッズ比0.62。信頼区間は1をまたぐ)。「残した方がよい」という結果が出ているのは、深いう蝕の話です。
⑥ネットワークメタ解析:深いう蝕で、従来法は最下位
深いう蝕を扱った並行群RCT 11件(1,316人・失敗353件)をつないだネットワークメタ解析では、従来法の失敗のオッズは、選択的除去に対して6.59(95%信用区間2.75〜25.01)、ステップワイズ除去に対して2.8(1.12〜9.87)、ホールテクニックの変法に対して12.83(1.05〜257.26)でした。ステップワイズ除去と選択的除去の間(2.33、0.86〜7.39)には、差があるという十分な証拠はありません。
失敗の少なさで順位をつけると、従来法が最下位になる確率は96%でした。ホールテクニックの変法を使った1研究を外した感度分析でも98%です。
ただしレビュー著者は、このネットワークは研究数も失敗数も少なく、順位の統計は数値として安定しないことがあると書いています。順位を読みすぎず、1対1の比較の結果とあわせて見るよう求めています。ホールテクニックの変法が1位(確率72%)になったのは、1研究だけの結果です。
⑦明日の臨床へ
・従来法に比べて、乳歯ではホールテクニックと選択的除去、永久歯では選択的除去とステップワイズ除去で、失敗のリスクが低かった
・ほとんどの研究はバイアスのリスクが高く、ほとんどの比較で確実性は「低」か「非常に低」
・深いう蝕では、永久歯でも乳歯でも、従来法を選択的除去やステップワイズ除去より優先すべきではない、と考察に書いている
・ステップワイズ除去が従来法より良かったのは、主に露髄を避けられたためだと説明している
・選択的除去とステップワイズ除去のどちらを選ぶかは、ほかの要素も考える。歯髄側1/4に及ぶ非常に深いう蝕ではステップワイズ除去を選ぶべきだという意見があること、選択的除去の方が費用対効果が高いという研究が増えていることを挙げている
ステップワイズ除去と選択的除去の比較で、重みの71.3%を占めたのはMaltz 2018です。レビュー著者によると、この研究ではステップワイズ除去147件のうち42件が、患者さんが来院せず2回目の除去まで終わっていません。原著者は、ステップワイズ除去の失敗が多かったことに、これが関わった可能性を指摘しています。
・「歯髄の近くは残す」を支える数字のうち、確実性が中なのは永久歯の深いう蝕の2つの比較です。従来法と選択的除去を直接比べた結果は、向きはそろっていますが、確実性は非常に低いままです
・2回目の来院が確実でない患者さんでは、ステップワイズ除去の「2回に分ける」こと自体が弱点になりえます。Maltz 2018の経過は、そう読めます
・対象は、歯髄が生きていて不可逆性歯髄炎と診断されていない歯です。自発痛のある歯や、X線で象牙質の全層を貫いている病変に、そのまま当てはめる話ではありません
・「失敗」には、露髄や抜歯も、修復物の補修も一緒に入っています。同じ1件でも、患者さんにとっての重さは違います
主要評価項目の「失敗」は、プロトコルの段階では「大きな失敗」と「小さな失敗」に分ける計画でした。分けて報告した研究が少なかったため、1つにまとめたとレビュー著者が説明しています。シーラントの脱落は再封鎖すれば済みますが、これも失敗に数えられています。
オッズ比について。この記事の数字はどれもオッズ比で、「何倍失敗しやすいか」ではありません。原著の図4〜13の多くには比較ごとの失敗数と歯数が載っていますが、この記事で割合とリスク比を計算したのは、永久歯の深いう蝕の3つの比較と、乳歯の深いう蝕の従来法対選択的除去(従来法135歯中55歯=40.7%、選択的除去130歯中32歯=24.6%。リスク比は約1.66)だけです。それも筆者が単純に合算した値で、メタ解析の推定値ではありません。
原著の中で、気をつけて読みたい箇所が3つあります。(1)Summary of findings 10の表は、列の見出しでは選択的除去の方が失敗の割合が高く見えます(1,000歯あたりステップワイズ除去144、選択的除去274)。図13の失敗数(ステップワイズ除去183歯中50歯、選択的除去188歯中27歯)、本文、表のコメントはどれも逆で、列の見出しが入れ替わっているようです。この記事は図13と本文に従いました。(2)ネットワークメタ解析の従来法対ホールテクニックの信用区間は、図15の表では1.05〜257.26、図の説明文では1.05〜252です。この記事は表の値を載せました。(3)考察は「従来法を選ぶべきではない」「乳歯の、う窩はあるが深くないう蝕では、少なくとも治療の成功に注目するかぎり、ホールテクニックは標準と言ってよい」と強い言葉を使っていますが、従来法対選択的除去の確実性は非常に低、従来法対ホールテクニックは低です。考察の言葉と、表の確実性をあわせて読むのがよさそうです。
読んだ範囲:この記事は、原著PDF109ページのうち、抄録から著者の結論まで(PDFの1〜41ページ)と、付録7・8(順位表と感度分析)、利益相反、資金源、プロトコルとの相違(106〜109ページ)を読んで書いています。文献リスト、各研究の特性表とバイアス評価の詳細、付表、検索式(42〜105ページ)は精読していません。個々の研究の中身は、レビュー本文に書かれた範囲で紹介しています。
資金・利益相反:英国国立健康研究所(NIHR)のCochrane基盤資金と、Cochrane Oral HealthのGlobal Alliance(各国の学会・大学など)の支援を受けています。著者15人のうち14人は利益相反なしと申告。1人(Fontana)は、過去36か月にNIH、Delta Dental Foundation、DentaQuest、Colgateから研究助成を受け、3MとDentaQuestのコンサルタントを務めたことなどを申告しています。採用された研究には、レビュー著者と同じ姓の筆頭著者の試験(Bjørndal 2017、Innes 2011、Santamaria 2018)が含まれます。その研究の評価を誰が担当したかは、読んだ範囲では確認できていません。
それでも、「取る量を減らす」方法を27のRCTで横に並べ、どの比較がどこまで確かかを1つずつ示してくれたレビューです。深いう蝕の前で手が止まったとき、判断の土台にできる1本です。
今日のひとこと
このレビューが示したのは、永久歯の深いう蝕では、ステップワイズ除去は全部取り切る従来法より、選択的除去はステップワイズ除去より、失敗がおそらく少ないということです(従来法対ステップワイズ除去のオッズ比2.06、ステップワイズ除去対選択的除去のオッズ比2.25。どちらも確実性は中)。ただし、確実性が中と評価されたのは15の比較のうちこの2つだけで、従来法と選択的除去を直接比べた結果や、乳歯のホールテクニックの結果は、確実性が低〜非常に低です。27研究すべてがバイアスのリスクが高く、追跡は12〜24か月が多く、対象は歯髄が生きている歯です。レビュー著者も、今後の研究で結論が変わる可能性があると書いています。筆者の読みでは、「硬い象牙質が出るまで取る」を当たり前にせず、歯髄の近くでは手を止める理由をくれる1本です。


