1問1答 論文 エンド

根充後の髄室をボンディング材でふさぐと、歯冠側からの細菌は通る?——抜去した下顎大臼歯の実験では、ボンディング材でふさいだ2群(各15本)は90日間で漏洩0本、ふさがなかった群は15本中11本で細菌が通過した(Wolanek 2001・実験室の研究)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管充填後の髄室に置いたデンティンボンディング材が、歯冠側からの細菌の通過を防ぐかを調べた抜去歯の実験(Wolanek・Loushine・Weller・Kimbrough・Volkmann 2001・Journal of Endodontics)。下顎大臼歯51本・口腔レンサ球菌1株・90日間の実験室の研究で、臨床成績を調べた研究ではない

根管充填が終わったあと、築造や修復までのあいだに歯冠側から細菌が入り込む。コロナルリーケージと呼ばれる問題です。Wolanekらは2001年、抜去したヒト下顎大臼歯51本を使い、根管充填後の髄室全体をデンティンボンディング材(Clearfil Liner Bond 2V)でおおうと、細菌の通過を防げるかを調べました。髄室に口腔レンサ球菌の培養液を入れ、根の先側の培地が濁るかどうかを90日間観察しています。ボンディング材でふさいだ2群(ガッタパーチャのみ+バリア15本、ガッタパーチャ+ユージノール系シーラー+バリア15本)は、90日間で漏洩0本でした。バリアを置かなかった群(ガッタパーチャ+シーラー)は15本中11本(73%)で、15〜76日のあいだに細菌が通過しました。バリアの有無の差は60日(p=0.002)と90日(p=0.00005)で有意で、30日の時点では有意ではありませんでした(p=0.1)。シーラーのユージノールは、このボンディング材の封鎖に影響しませんでした(p=1)。抜去歯・細菌1株・1製品・90日間の実験室の研究で、根尖病変の発生や治療の成功率を調べたものではありません。

論文
In Vitro Bacterial Penetration of Endodontically Treated Teeth Coronally Sealed with a Dentin Bonding Agent
著者
Gary A. Wolanek, Robert J. Loushine, R. Norman Weller, W. Frank Kimbrough, Keith R. Volkmann(ジョージア医科大学 歯学部・米国)
掲載
Journal of Endodontics 2001;27(5):354-357. doi:10.1097/00004770-200105000-00012
種類
抜去歯を使った実験室の研究(in vitro)。抜去したヒト下顎大臼歯51本の根尖側半分を切り落とし、根管の長さを4mmにそろえて根管充填。実験群3つ(各15本)と対照6本(陽性3本・陰性3本)に分け、髄室にストレプトマイシン耐性の口腔レンサ球菌の培養液を入れて、根の先側の培地の濁りを毎日、90日間観察した。漏洩は「あり・なし」で記録し、量は測っていない。群間の比較はFisherの正確検定(30日・60日・90日)。臨床での根尖病変や成功率を調べた研究ではない
資金・利益相反
原著に資金提供・利益相反の記載は見当たらない。本文には、使用したボンディング材・シーラー・充填器材の製品名が登場する
PMID
11485256

①根充のあと、髄室はどうしていますか

根管充填が終わった。築造は次回。髄室には綿球と仮封材。よくある流れです。

けれど、仮封がゆるんだり、修復物の辺縁から漏れたりすれば、歯冠側から細菌が入ります。ガッタパーチャとシーラーだけで、その細菌を止められるのか。Wolanekらは2001年、根管充填後の髄室をデンティンボンディング材でおおう方法を、抜去歯で試しました。

先に断っておきます。これは抜去歯に細菌の培養液を入れて、通り抜けるかどうかを見た実験室の研究です。患者さんの口の中で、根尖病変ができたか、治療が成功したかを調べた研究ではありません。

結論を先に書きます(実験群は各15本。観察は90日間)。
・髄室をボンディング材(Clearfil Liner Bond 2V)でおおった2つの群は、90日間で漏洩0本(15本中0本と、15本中0本)
・バリアを置かなかった群(ガッタパーチャ+シーラー)は15本中11本(73%)で細菌が通過した。通過したのは15〜76日のあいだ
・バリアあり・なしの差は、30日では有意でなく(p=0.1)、60日(p=0.002)と90日(p=0.00005)で有意だった
・シーラーにユージノールが入っていても、このボンディング材の封鎖は変わらなかった(群1と群2の比較、p=1)

②実験の組み立て:51本の下顎大臼歯

使ったのは、抜去したヒト下顎大臼歯51本です。修復物がないか、咬合面に小さなう蝕があるだけの歯を選んでいます。

根尖側の半分を切り落とし、髄床底から根の切断面までの根管の長さを4mmにそろえました。漏洩が起きるなら早く濁りとして現れるように、という著者らの工夫です。根管は回転式のファイルで拡大し、5.25%の次亜塩素酸ナトリウムで洗浄。加熱したガッタパーチャを注入する方法(Obtura II)で充填し、プラガーで垂直に加圧しました。

充填のあと、全ての歯の髄室をクロロホルムで湿らせた綿球で清掃し、余ったガッタパーチャやシーラーを取り除いています。滅菌生理食塩水で洗い、乾燥させました。

3つの実験群(各15本)と対照(6本)
・群1:ガッタパーチャのみ(シーラーなし)+ボンディング材のバリア
・群2:ガッタパーチャ+ユージノール系シーラー+ボンディング材のバリア
・群3:ガッタパーチャ+ユージノール系シーラー。バリアなし
・陽性対照(3本):ガッタパーチャのみ。シーラーもバリアもなし
・陰性対照(3本):ガッタパーチャのみ。髄室にマニキュアを2層

バリアは、セルフエッチングプライマーとボンドからなる製品です。メーカーの指示どおり、プライマーを髄室全体に塗って30秒置き、弱いエアーで乾燥。ボンドを髄室全体に塗って30秒光照射し、同じようにもう1層重ねています。

細菌は、ヒトの歯肉縁上プラークから分離した口腔レンサ球菌です(コロニーの形はStreptococcus mutansに特徴的なもの、と原著は書いています)。ストレプトマイシン耐性にしてあり、根の先側の培地にもストレプトマイシンを入れました。ほかの菌が混入して濁る「偽陽性」を減らすためです。

歯をピペットとバイアルに組み込み、髄室に培養液(7.9×108 CFU/ml)を0.5ml入れます。根の先は、無菌の培地に約2mm浸っています。髄室側の菌液は6日ごとに入れ替えました。根の先側の培地が濁れば「漏洩あり」です。濁りは毎日確認し、漏洩は「あり・なし」だけを記録しています。量は測っていません。

③結果その1:ふさいだ30本は、90日間で0本

0 5 10 15 細菌が通過した歯(本) 群1 ガッタパーチャのみ+ボンディング材のバリア(15本) 0本(0%) 群2 ガッタパーチャ+ユージノール系シーラー+バリア(15本) 0本(0%) 群3 ガッタパーチャ+ユージノール系シーラー・バリアなし(15本) 11本(73%) 原著の結果の本文と表1の値。群3は15〜76日のあいだに11本で細菌が通過した。対照:陽性対照(シーラーもバリアもなし・3本)は全て9日以内に通過、陰性対照(マニキュア2層・3本)は通過なし。抜去歯に口腔レンサ球菌の培養液を入れて90日間観察した実験の値で、臨床成績ではない。
90日間に細菌が通過した歯の本数(原著の結果の本文と表1。実験群は各15本。抜去歯の実験の値で、臨床成績ではない)

対照は、想定どおりに動きました。バリアもシーラーもない陽性対照の3本は、全て9日以内に細菌が通過。マニキュアでふさいだ陰性対照の3本は、90日間通過なしです。

実験群はどうだったか。ボンディング材でおおった群1(15本)と群2(15本)は、90日間、1本も濁りませんでした。バリアのない群3は、15本中11本(73%)が15〜76日のあいだに濁りました。残りの4本は、90日間濁っていません。

割合で比べると(原著の本数から筆者が計算)
・群1:15本中0本(0%) 群2:15本中0本(0%) 群3:15本中11本(73.3%)
・バリアありの群は漏洩が0本のため、リスク比は0になり、「何分の1に減った」という形では表せない。差で書くと73.3ポイント

群1と群2の比較では、差はありませんでした(p=1)。どちらも0本だからです。シーラーのユージノールは、この実験の条件では、このボンディング材の封鎖に影響しなかったことになります。

④結果その2:差がついたのは60日から

群3 ガッタパーチャ+ユージノール系シーラー・バリアなし(15本) 0 5 10 15 累積(本) 30日まで 4本(27%) p=0.1 有意差なし 60日まで 8本(53%) p=0.002 90日まで 11本(73%) p=0.00005 原著の表1の区間ごとの本数(1〜30日4本・31〜60日4本・61〜90日3本)を足した累積。割合は筆者の計算。p値は、バリアありの各群(群1・群2。どちらも90日間0本)との比較(Fisherの正確検定)。抜去歯の実験の値で、臨床成績ではない。根管の長さは4mmにそろえてある。
群3(バリアなし・15本)で細菌が通過した歯の累積本数(原著の表1の区間ごとの本数を足したもの。p値はバリアありの各群との比較・Fisherの正確検定)

原著の表1は、群3の漏洩を30日ごとに示しています。1〜30日に4本、31〜60日に4本、61〜90日に3本。合わせて11本です。

群3の累積(区間ごとの本数を足したもの。割合は筆者の計算)
・30日まで:4本(27%)。バリアありの群との差は有意でない(p=0.1)
・60日まで:8本(53%)。差は有意(p=0.002)
・90日まで:11本(73%)。差は有意(p=0.00005)

30日の時点では、統計的な差は出ていません。観察を60日、90日と続けて、はじめて差がはっきりしました。

著者らは、髄室側にクリスタルバイオレット(グラム染色の紫色の色素)を入れて、漏洩の道も確かめています。濁った歯には濁りを確認したあとに、濁らなかった歯には90日目に色素を入れ、実験の終わりに全ての歯を切って中を見ました。濁った歯では、漏洩の道は根管の中を通っていました。模型のつなぎ目からの漏れはなかった、と書かれています。群1と群2では、色素はどの歯でもボンディング材より先に入っていませんでした。

⑤なぜ止まったのか(著者らの考察)

著者らは、先行研究を引いて、ガッタパーチャとシーラーは細菌の漏洩に対して最小限の抵抗しか示さない、と述べています。そのうえで、ボンディング材には長期の封鎖をもたらす可能性がある、としています。可能性の指摘で、この実験が確かめたのは90日までです。

ユージノールについては、別の製品(All Bond 2)を調べた先行研究が、逆の結果を報告していました。ボンディング材はガッタパーチャ+シーラーより劣り、シーラーのユージノールやボンディング材の重合収縮が漏洩を早めた、という結論です。今回の結果はそれと食い違います。

食い違いについての著者らの説明
・今回の実験では、ユージノール系シーラーを使っても封鎖は変わらなかった
・もしユージノールがボンディング材の接着を弱めるのだとしても、クロロホルムで湿らせた綿球で髄室を清掃すれば、その影響を打ち消すのに十分であることを、今回の結果は示唆している

つまり、「ユージノールは接着に影響しない」と証明した実験ではありません。髄室を清掃したうえで塗れば影響は見られなかった、という結果です。

⑥明日の臨床へ

著者らの主張(原著に書かれていること)
・ボンディング材の設置は速く、簡単で、安く、必要な器具も少ない
・ボンディング材は半透明なので、下のガッタパーチャが見える。ポスト孔の形成や再治療が必要になったとき、髄床底を穿孔するリスクを減らせるかもしれない
・歯冠の歯質が十分に残っていれば、アマルガムやレジンの築造を、このバリアに直接接着することもできるだろう
・コロナルリーケージの重要性は10年以上前から示されてきたが、根管充填後にバリアを置く標準的な手順は存在しない。バリアを置くことは、治療の成功率を高めるかもしれない、簡単な追加の一手である

結語は控えめです。このボンディング材は、実験室のモデルで、口腔レンサ球菌の移動に対して十分な封鎖をもたらした。原著が述べているのはここまでです。

ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・根充後の髄室を「次回まで綿球と仮封だけで置く」のか、「その日のうちに接着材料でふさぐ」のか。その判断を考える材料になります
・この実験は、髄室を清掃して、髄室全体に、メーカーの指示どおりに塗っています。清掃や防湿が不十分な条件で同じ結果になるかは、この論文からは分かりません
・清掃に使ったのはクロロホルムです。アルコールなど別の方法で同じ結果になるかも、この実験では調べていません
ここだけ、冷静に補助線この研究は、抜去歯を使った実験室の漏洩試験です。著者ら自身が、実験室の漏洩試験の臨床的な意味には疑問があり、どのくらいの漏洩が臨床的に問題になるのかは分かっていない、と書いています。調べたのは「培地が濁ったかどうか」で、根尖病変の発生や治療の成功率ではありません。「ボンディング材を塗れば再感染を防げる」とまでは言えません。
各群15本、対照は3本ずつの小さな実験です。細菌は口腔レンサ球菌1株で、唾液のような複数の菌が混ざった条件ではありません。観察は90日間。咬合の力や温度変化は加えていません。口の中で何年ももつかどうかは、調べていません。
ボンディング材は1製品です。ほかの製品に当てはまるかは分かりません。著者らも、別の製品では逆の結果を報告した先行研究があることを紹介しています。歯は根尖側の半分を切り落としてあり、根管の長さは4mm、ガッタパーチャの長さは平均3.63mmでした。バリアのない群で漏洩が73%に達したのは、この短い根管での数字です。通常の長さの根管に、割合をそのまま当てはめることはできません。
原著の中で、読むときに気をつけたい箇所が2つあります。(1)歯を切って測ったボンディング材の厚みの平均は、原著の表記で3.18mmです。プライマーとボンド2層という塗り方から想像する薄い膜よりも、かなり厚い数値です。測り方の説明は原著にありません。この記事では「髄室全体に、メーカーの指示どおりに塗った」という原著の書き方にとどめ、「薄く1層塗るだけ」とは書いていません。(2)30日・60日・90日のp値は、表1の区間ごとの本数ではなく、その時点までの累積本数(4本・8本・11本)で比べたものと読めます。この記事の図2の累積本数は、表1から筆者が足したものです。
資金・利益相反:原著に、資金提供や利益相反の記載は見当たりません。謝辞にあるのは、統計解析への協力と、支援への感謝です。本文にはボンディング材、シーラー、充填器材の製品名が登場します。
それでも、陽性・陰性の対照を置き、耐性菌と抗菌薬入りの培地で偽陽性を減らし、色素で漏洩の道まで確かめた実験です。根充後の髄室をどう閉じるかを、あらためて考えるきっかけになる1本です。

今日のひとこと

この実験が示したのは、抜去歯のモデルでは、根管充填後の髄室全体をボンディング材(Clearfil Liner Bond 2V)でおおった30本で、90日間、口腔レンサ球菌の通過が1本も記録されなかったということです。バリアを置かなかった群は15本中11本(73%)で、15〜76日のあいだに細菌が通過しました。差は60日(p=0.002)と90日(p=0.00005)で有意で、30日の時点では有意ではありませんでした(p=0.1)。ユージノール系シーラーを使っても、このボンディング材の封鎖は変わりませんでした(p=1)。著者らは、根管充填後にバリアを置くことは、治療の成功率を高めるかもしれない簡単な追加の一手だと述べています。一方で著者ら自身が、実験室の漏洩試験の臨床的な意味には疑問があるとも書いています。各群15本・細菌1株・ボンディング材1製品・90日間の実験で、口の中での長期の封鎖や治療成績を調べた研究ではありません。筆者の読みでは、根充後の髄室を「次回まで仮封だけで置く」のか「その日に接着でふさぐ」のかを考えるときの、材料の1つになる1本です。

Wolanek GA, Loushine RJ, Weller RN, Kimbrough WF, Volkmann KR. In vitro bacterial penetration of endodontically treated teeth coronally sealed with a dentin bonding agent. J Endod. 2001;27(5):354-357. doi:10.1097/00004770-200105000-00012. PMID: 11485256
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。