エンド|根管充填後のクラウン装着と、歯の生存の関連を調べた後ろ向きコホート研究(Aquilino・Caplan 2002・The Journal of Prosthetic Dentistry)。米国アイオワ大学歯学部の診療記録にもとづく203歯・156人の分析で、治療を無作為に割り付けた試験ではない
「根管治療をした歯にはクラウン」。そう教わってきましたが、著者らによれば、その根拠の多くは経験則でした。AquilinoとCaplanは2002年、アイオワ大学歯学部で1985〜1987年に初回の根管充填を受けた歯の記録をたどり、条件を満たした203歯(156人)を分析しました。根管充填のあとにクラウンを装着した歯は129歯、アマルガムかコンポジットレジンの修復で終えた歯は74歯です。Kaplan-Meier法による生存率の推定は、クラウンありが5年94%・10年89%、クラウンなしが5年77%・10年62%でした(P<.0001)。歯種とアクセス時のう蝕を調整したCox比例ハザードモデルでは、クラウンなしの歯の抜歯のハザード比は6.0(95%信頼区間3.2〜11.3)でした。診療記録をさかのぼった後ろ向きの研究で、著者ら自身が「因果関係があるとは言えない」と書いています。
①根管治療のあと、クラウンは本当に要る?
根管治療が終わった臼歯。クラウンにするか、コンポジットレジンやアマルガムの充填で終えるか。費用や削る量のことを考えると、迷う場面です。
「根管治療歯にはクラウン」と教わってきました。けれど著者らによれば、その選択は主に経験則(anecdotal evidence)にもとづいていました。AquilinoとCaplanは2002年、大学歯学部の診療記録をさかのぼり、クラウンの有無と歯の生存の関係を、ほかの要因をそろえたうえで調べました。
先に断っておきます。これは診療記録をさかのぼった後ろ向きコホート研究です。クラウンにするかどうかを無作為に割り付けた試験ではありません。示されたのは「関連」で、「クラウンをかぶせたから残った」という因果関係までは言えません。
・Kaplan-Meier法による生存率の推定は、クラウンあり(129歯)が5年94%・10年89%、クラウンなし(74歯)が5年77%・10年62%(P<.0001。ほかの要因を調整する前の値)
・観察期間中に抜歯になったのは203歯中42歯(20.7%)。クラウンありは129歯中14歯、クラウンなしは74歯中28歯
・歯種とアクセス時のう蝕を調整したCox比例ハザードモデルで、クラウンなしの歯の抜歯のハザード比は6.0(クラウンありの歯と比べて。95%信頼区間3.2〜11.3)
・著者らは「強い関連が観察された」としたうえで、因果関係があるとは言えないと書いている
②研究の組み立て:10年分の記録をたどった
舞台は米国のアイオワ大学歯学部です。治療データベースから、1985年7月1日〜1987年12月31日に初回の根管充填を受けた永久歯を拾い出しました。対象は、1985〜1996年のあいだ、2年ごとに少なくとも1回は同学部を受診していた患者に限っています。734人・1089歯が該当し、そこから無作為に400歯(280人)を選びました。データの収集は1997年です。
カルテ、エックス線写真、データベースを調べ、条件に合わない歯を外しました。再根管治療の歯、第三大臼歯、最終修復の記録がない歯、ブリッジの支台歯、アクセス時にすでにクラウンが入っていた歯などです。残ったのが203歯(156人。女性88人・男性68人、平均54.1歳)でした。
・歯種:切歯33、犬歯25、小臼歯72、第一大臼歯43、第二大臼歯30
・アクセス時にエックス線写真でう蝕があった歯:103歯(50.7%)
・築造:ポストあり(既製ポストか鋳造ポストコア)95歯、ポストなし(アマルガム・コンポジットレジン・グラスアイオノマー)108歯
・根管治療後の修復:クラウン129歯、アマルガムかコンポジットレジンの最終修復74歯
評価項目は「抜歯までの時間」です。観察はアクセスの日から始め、抜歯された歯は抜歯の日まで、残っている歯はデータ収集の日までを数えました。
解析は2段階です。まずKaplan-Meier法で、要因ごとに5年・10年の生存率を推定しました。次にCox比例ハザードモデルで、ほかの要因をそろえたうえでのクラウンの有無の関連を調べています。同じ患者が複数の歯を持つことがあるので、その偏りを補正する専用のソフトを使っています。
③結果その1:10年生存率の推定は89%と62%
Kaplan-Meier法による生存率の推定は、クラウンありの歯が5年94%・10年89%、クラウンなしの歯が5年77%・10年62%でした(原著の表記は0.94・0.89・0.77・0.62。P<.0001)。
観察期間中に抜歯になったのは、203歯のうち42歯(20.7%)です。内訳は、クラウンありが129歯中14歯、クラウンなしが74歯中28歯でした。
・クラウンあり:129歯中14歯=10.9%
・クラウンなし:74歯中28歯=37.8%
・リスク比 約3.5(37.8 ÷ 10.9。本文の割合から計算)
・この比は、歯ごとの観察期間の長さを考えに入れていない単純な比です。原著が報告しているのは、次の章のハザード比です
なお、表IIにはクラウン以外の項目も並んでいます。多変量解析の候補になった項目のうち、調整前の比較で生存と有意に関連したのは、クラウンのほかに次のとおりです(上の図は、主題であるクラウンの行だけを描いたものです)。
・隣接面コンタクトの数:2か所88%、0〜1か所65%(P=.0001)
・アクセス時のう蝕:なし87%、あり72%(P=.0016)
・第二大臼歯かどうか:それ以外82%、第二大臼歯63%(P=.0075)。歯種を5つに分けた比較でも有意(P=.0424。切歯79%、犬歯72%、小臼歯83%、第一大臼歯88%、第二大臼歯63%)
・築造の種類:ポストなし73%、ポストあり86%(P=.0111)
・根管充填から築造までの日数:8日以上85%、7日以内73%(P=.0295)
・服薬、保険の種類、年齢、アクセス時の根尖病変は、有意ではなかった
④結果その2:ほかの要因をそろえると、ハザード比は6.0
ここがこの論文の主役です。ハザード比は、ある時点で抜歯に至る速さを2つの群で比べた比です。1なら差がなく、1より大きいほど、その群のほうが早く歯を失っていたことを表します。
クラウンの有無だけを入れたモデルでは、クラウンなしの歯のハザード比は4.2(95%信頼区間2.4〜7.4)でした。そこへ歯種(第二大臼歯かどうか)を加えると5.4(3.0〜9.6)、さらにアクセス時のう蝕を加えると6.0(3.2〜11.3)になりました。著者らはこれを最終モデルとしています。候補の項目をすべて入れたモデルでは6.9(3.8〜12.8)で、大きくは変わりませんでした。
・クラウンなし(クラウンありと比べて):ハザード比 6.0(95%信頼区間3.2〜11.3、P<.0001)
・第二大臼歯(ほかの歯と比べて):ハザード比 3.9(2.0〜7.9、P=.0002)
・アクセス時にう蝕あり(なしと比べて):ハザード比 2.8(1.6〜5.0、P=.0003)
信頼区間は3.2〜11.3と幅があります。抜歯になった歯が42歯と多くないためで、著者らもモデルに入れる項目を最大4つまでに抑えています。
⑤なぜ差が出たのか(著者らの考察)
著者らは、クラウンで咬頭を覆うことが歯の破折のリスクを下げたのだろう、と推測しています。歯の破折は、根管治療歯が失われる理由としてよく挙げられるものの1つです。ただし、この研究は抜歯の理由を集計していません。破折が減ったことを確かめたわけではありません。
同時に、著者らは別の説明も並べています。
・クラウンを入れると決めた歯は、そもそも根管治療の予後がよいと見込まれていたはずだ
・クラウンを選ぶ患者は、社会経済的な状況や歯への意識が高かったかもしれない。どちらも歯が長く残ることと関連すると報告されている
ポストについての所見も興味深いところです。調整前の比較では、ポストありの歯のほうが生存率が高く見えました。著者らがデータを調べると、ポストは前歯と小臼歯に多く使われ、しかもポストを入れた歯はすべてクラウンで修復されていました。大臼歯では、ポストの有無で生存に差はありませんでした。多変量解析では、クラウンの有無を入れると築造の種類は有意な要因として残りませんでした。著者らは、歯の生存にとっては築造の種類よりクラウンの装着のほうが重要なようだ、と述べています。
根管充填から築造までの日数も、同じ読み方です。日数が長い歯のほうが成績がよいという、予想と逆の結果でした。著者らは、鋳造ポストコアは作るのに時間がかかり、その歯はすべてクラウンで修復されていたためだろうと説明しています。
⑥明日の臨床へ
・根管治療歯へのクラウン装着と、歯の長期の生存には強い関連が観察された
・治療の勧めは1本ずつ個別に決めるべきだが、長く歯を残すことが第一の目標なら、治療計画でこの関連を認識しておくべきだ
・第二大臼歯は、ほかの歯より失われやすかった。根管治療・築造・クラウンの総額を考えると、根管治療に進むか抜歯にするかの判断に影響するかもしれない。残すと決めたなら、最終修復としてのクラウンが長期の生存に重要だと、この結果は示唆している
・金・セラミック・コンポジットレジンのアンレーや、咬頭を覆うアマルガム修復も、破折から歯を守るかもしれない。ただし、臼歯の根管治療歯でそれを裏づける報告は見つからなかった
・「クラウンにすれば抜歯が6分の1になる」とは読めません。後ろ向きの研究で、もともと条件のよい歯にクラウンが入っていた可能性があるからです
・それでも、患者さんに根管治療後の修復を説明するとき、「クラウンなしで終えた歯は、10年でおよそ4割が失われていた(大学歯学部の記録での推定)」という数字は、判断材料の1つになります
・この研究のクラウンなしの群は、1980年代後半のアマルガムやコンポジットレジンの充填です。咬頭を覆う接着修復(アンレーなど)は調べていません。現在の接着修復に、この数字をそのまま当てはめることはできません
記録に残っていない要因は調整できていません。骨吸収の程度や、患者の社会経済的な状況のデータはありませんでした。アクセス時のう蝕や修復の面数は、術前のエックス線写真から推定したものです。
対象は、米国の大学歯学部1施設で治療を受け、10〜12年のあいだ2年ごとに受診していた患者です。治療は教育機関のもので、開業医とは手順が違う可能性があると著者らは述べています。再根管治療の歯、ブリッジの支台歯、アクセス時にすでにクラウンが入っていた歯、最終修復の記録がない歯は外されています。それらの歯に、数値をそのまま当てはめることはできません。
分析したのは203歯、抜歯になったのは42歯です。ハザード比6.0の95%信頼区間は3.2〜11.3と幅があります。評価したのは「抜歯されたかどうか」だけで、根尖病変の治癒や、抜歯の理由(破折・う蝕・歯周病など)は集計していません。
資金・利益相反:原著に、資金提供や利益相反の記載は見当たりません。修復材料の製品名は登場しません。
それでも、「根管治療歯にはクラウン」という経験則を、多変量の生存分析で確かめにいった研究です。根管治療後の修復を患者さんと相談するとき、手元に置いておきたい1本です。
今日のひとこと
この研究が示したのは、大学歯学部の記録203歯では、根管充填後にクラウンを装着した歯のほうが長く残っていたということです(10年生存率の推定は、クラウンあり89%・クラウンなし62%。歯種とアクセス時のう蝕を調整した抜歯のハザード比は、クラウンなしの歯がクラウンありの歯に対して6.0、95%信頼区間3.2〜11.3)。ただし、診療記録をさかのぼった後ろ向きの研究です。予後がよさそうな歯にクラウンが選ばれた可能性があり、骨吸収の程度や社会経済状況のデータもありません。著者らは、因果関係があるとは言えず、確かめるには無作為化試験が必要だと書いています。そのうえで、長く歯を残すことが第一の目標なら、治療計画でこの関連を意識しておくべきだ、というのが著者らの結論です。筆者の読みでは、「根管治療歯にはクラウン」という経験則に、多変量の生存分析で数字を付けた1本です。


