エンド|歯の自家移植を行っている日本の歯科診療所の歯科医師37人に、1990〜2009年に行った移植をすべて報告してもらい、生存率と失われた理由を調べた後ろ向きのアンケート調査(Yoshino ら 2012・Journal of Oral Rehabilitation)。1つの臨床研究会の会員が対象で、術式は統一されていない
歯の自家移植の長期成績は、大学や病院の外科からの報告が中心でした。東京歯科大学のYoshinoらは、臨床研究会 Kyushikai の会員で自家移植を行っている歯科医師に、開業してから行った移植をすべて報告してもらいました。解析したのは歯科医師37人・患者552人・614歯(平均44.1歳)です。ドナー歯の約74%は智歯(上顎36.8%と下顎37.1%の合計)、移植先の約61%は下顎の第一・第二大臼歯部(32.6%と28.0%の合計)でした。根完成歯599歯の累積生存率は5年90.1%、10年70.5%、15年55.6%(カプラン・マイヤー法)。失われた102歯の主な理由は、付着の喪失(54.9%)と歯根吸収(26.5%)です。40歳以上は40歳未満より生存率が低く、10年では67.0%と79.3%でした(ログランク検定 P=0.02)。後ろ向きのアンケート調査で、生存は「歯が残っていること」を意味し、残っている歯の20.9%には歯根吸収や骨性癒着などの問題がありました。
①歯の自家移植、診療所でやって何年もつ?
大臼歯を失った患者さんに、使っていない智歯がある。ブリッジかインプラントか、それとも移植か。迷ったことのある方は多いはずです。
自家移植の長期成績は、これまで大学や病院の外科からの報告が中心でした。診療所で行った移植がどれくらい残るのかは、ほとんど記録がありませんでした。東京歯科大学のYoshinoらは、そこを調べました。
・根完成歯599歯の累積生存率は、5年90.1%、10年70.5%、15年55.6%(カプラン・マイヤー法)
・平均生存期間は165.6か月
・失われたのは102歯。主な理由は付着の喪失(54.9%)と歯根吸収(26.5%)
・40歳以上は40歳未満より生存率が低かった(10年で67.0%と79.3%。ログランク検定 P=0.02)
・著者らは、適したドナー歯があるなら、自家移植は診療所でも選択肢になりうると述べている
・後ろ向きのアンケート調査
②どんな調査だったのか
・臨床研究会 Kyushikai(原著の説明では「歯を救う会」の意)の会員で、自家移植を行っている歯科医師42人にアンケートを送付。39人が回答
・開業してから行った移植をすべて報告してもらった。全例を報告していなかった2人のデータと、2010年に移植した歯は除外
・解析したのは、歯科医師37人・患者552人・614歯。患者は17〜79歳、平均44.1歳
・診療所は東北2、関東30、東海4。歯科医師の卒後年数は平均23.2年(11〜44年)
・観察期間は1990年1月〜2010年12月。移植歯の観察は平均63.8か月(0〜237か月)
・失敗は「移植歯が失われたこと」。理由を問わず全て解析に含めた
・最後の来院時に歯が残っていれば「生存」とし、そこで観察を打ち切った扱いにしている
・累積生存率と平均生存期間はカプラン・マイヤー法。根が完成していないドナー歯15歯は除き、根完成歯599歯で計算
術式は統一されていません。多くの歯科医師がAndreasenらやTsukiboshiの方法を基本にしていましたが、固定の方法や根管治療を始める時期などの細部は、歯科医師ごとに違います。メインテナンスの間隔は1〜6か月でした。
③結果①:どれくらい残ったか
1診療所あたりの自家移植の患者数は、年に平均1.4人でした。
・5年:90.1%
・10年:70.5%
・15年:55.6%
・平均生存期間:165.6か月
年齢では差が出ました。40歳未満(229歯)と40歳以上(370歯)に分けると、生存曲線に有意な差がありました(ログランク検定、図2では P=0.02)。著者らは、高い年齢が生存に不利な要因だったと述べています。
・40歳未満:5年94.0%、10年79.3%、15年56.5%
・40歳以上:5年88.0%、10年67.0%、15年54.4%
・差が大きいのは10年の時点で、15年では約2ポイントの差になっている
残っていた512歯についても、著者らは状態を調べています。臨床的に成功と判定されたのは79.1%で、歯根吸収が10.9%、骨性癒着が4.7%、その他の問題が5.3%にありました。「残っている」と「問題がない」は同じではありません。
④結果②:どこへ移植し、なぜ失われたか
・ドナー歯:上顎智歯36.8%、下顎智歯37.1%(合わせて約74%)、小臼歯6.7%、切歯5.0%
・移植先:下顎第一大臼歯部32.6%、下顎第二大臼歯部28.0%(合わせて約61%)、上顎第一大臼歯部13.2%、上顎第二大臼歯部10.9%
・生存率は根完成のドナー歯全体の値で、智歯だけの成績ではない。ドナー歯の種類ごとの生存率は示されていない
・単冠(レジン充填・連結冠を含む):445歯(72.5%)
・ブリッジの支台:116歯(18.9%)
・オーバーデンチャーの支台:47歯(7.7%)
・その他:6歯(1.0%)
・付着の喪失:56歯(54.9%)
・歯根吸収:27歯(26.5%)
・う蝕:4歯
・歯根破折:3歯
・その他(初期治癒の失敗を含む):12歯(11.8%)
失われた理由の半分強は、歯根吸収ではなく付着の喪失でした。著者らは、メインテナンスの方法は統一されていなかったが、この結果は先行研究と同じ傾向だと述べています。
⑤明日の臨床へ
・患者の平均年齢が先行研究より高いことを考えると、5年90.1%・10年70.5%は、先行研究とおおむね合う
・生存率だけを見れば、一般にインプラントのほうが良い
・一方で、うまくいった移植歯には利点がある。歯根膜が残るので歯を動かせ、骨の再生を促す。ブリッジのように隣の歯を削らなくてよい
・日本では、抜歯してすぐに移植する智歯の自家移植は健康保険の対象で、インプラントより費用を抑えられる
・ブリッジやインプラントを自動的に選ぶ前に、自家移植も検討する価値がある。適したドナー歯があるなら、診療所での欠損への選択肢になりうる
・患者さんへの説明に使うなら、「10年で約7割が残る。40歳以上では10年で67%だった。残っていても歯根吸収などの問題がある歯があった」という伝え方が、この調査の数字に沿います
・失われた理由の半分強が付着の喪失だったことは、術後のメインテナンスを計画に含めておく理由になります
・この成績は、自家移植の経験のある歯科医師のものです。経験の少ない段階で同じ数字が出るとは、この調査からは言えません
後ろ向きのアンケート調査です。対象は1つの臨床研究会の会員で、卒後平均23年の、自家移植の経験がある歯科医師です。データは各歯科医師の報告にもとづいています。
術式もメインテナンスも統一されていません。どの手技が成績に関わったかは、この調査では分かりません。要因の検討は年齢(40歳で2群)だけで、ドナー歯の種類や移植先、補綴の方法ごとの生存率は示されていません。
長期の数字は、少ない歯にもとづいています。表2を数えると、観察が15年以上の歯は24歯、10年以上でも98歯です。2005〜2009年に移植した243歯が全体の約4割を占めます。来院が途絶えた歯は最後の来院時点までの観察として扱われており、その後に失われた歯は数えられていません。
生存は「歯が残っていること」で、問題なく機能していることとは別です。
「生存率だけならインプラントのほうが良い」という記述は、著者らが別の研究を引いて述べたもので、この調査でインプラントやブリッジと比べたわけではありません。
原著の中で数字が食い違う箇所があります。歯根吸収で失われた割合は、要旨では25.7%、本文と表6では26.5%です(102歯中27歯は26.5%)。
それでも、大学ではなく診療所で、20年分の移植を全例報告のかたちで集めた点に価値があります。歯の自家移植を説明するときに、「何年でどれくらい」と「なぜ失われるか」の両方を示せる数字です。
今日のひとこと
自家移植を行っている診療所の歯科医師37人・614歯の調査で、根完成歯の累積生存率は5年90.1%、10年70.5%、15年55.6%でした。失われた理由の半分強は付着の喪失、4分の1強は歯根吸収です。著者らは、適したドナー歯があるなら、自家移植は診療所でも欠損への選択肢になりうると述べています。ただし後ろ向きのアンケート調査で、1つの研究会の経験のある歯科医師の成績です。生存は「残っていること」で、残っている歯の約2割には問題がありました。


