エンド|再根管治療で残るエポキシ系シーラー(AH Plus)を、発がん性が心配されるクロロホルムの代わりに何で溶かすか。歯科ではふだん使わない工業用溶剤(メチルエチルケトン=MEK、酢酸エチル)を含む7種類の溶剤と、超音波撹拌の効果を比べた実験研究(Ferreira 2017・Journal of Endodontics)
再根管治療で根管壁に残るAH Plus。定番の溶剤クロロホルムはよく溶かす一方、IARCの区分で「ヒトに対して発がん性がある可能性がある(2B)」とされています。著者らは、エポキシ樹脂が酸素を含む有機溶剤に溶けることに着目し、工業用の溶剤MEKと酢酸エチルを含む7種類の溶剤に、硬化させたAH Plusの円板を2分・5分、超音波あり・なしで浸して、溶けた量(重さの減少)を比べました。結果、2分・超音波ありではMEK 24.8%とクロロホルム29.3%に迫ったものの、超音波なしのMEKは3.5%、5分・超音波ありではクロロホルム62.2%対MEK 34.2%と差が開きました。ユーカリ油とEndoSolv Rはどの条件でも0%。MEKは「超音波とセットで効く、クロロホルムの次の候補」というのが著者らの見立てですが、シーラー片を溶剤に沈めた実験室の研究で、臨床での効果を確かめたものではありません。
①AH Plusが残る再根管治療、溶剤は何を使う?
再根管治療でガッタパーチャを除去したあと、根管壁にAH Plusの薄い膜が残っている——マイクロスコープで覗くと、よく出会う場面です。
溶剤といえばクロロホルム。よく溶かすことは知られていますが、国際がん研究機関(IARC)の区分では「ヒトに対して発がん性がある可能性がある(グループ2B)」に入っています。ユーカリ油やキシレンがエポキシ系のAH Plusにどこまで効くかは、報告が割れていました。
結論を先に言います。この実験室の研究では、歯科ではふだん使わない工業用の溶剤「メチルエチルケトン(MEK)」が、超音波と組み合わせると、2分でクロロホルムに近い量のAH Plusを溶かしました(溶けた量の平均 24.8% 対 29.3%)。ただし5分ではクロロホルムが大きく上回り(62.2% 対 34.2%)、超音波なしのMEKはほとんど溶かしていません(2分で3.5%)。
②なぜ「クロロホルムの代わり」が要るのか
根尖病変の治癒には、古い充填材をできるだけ取り除いて根管をきれいにすることが大切です。ところが、根管壁や象牙細管に入り込んだ充填材を完全に取り除くのはほぼ不可能とされています。ガッタパーチャに対する溶剤の効き目はよく調べられている一方、シーラーに対してどの溶剤が効くかは報告が割れていました。
AH Plusは、エポキシ樹脂とアミンの重合で固まる2液型のシーラーです。溶けにくく、封鎖性がよいので広く使われ、比較研究の基準にもなっています。
そこに、洗浄液の効果を高めることが知られている超音波での撹拌を組み合わせたらどうなるか——これが今回の問いです。
③今回の一手:硬化したAH Plusの円板を、7種類の溶剤に浸した
溶剤=クロロホルム、ユーカリ油、キシレン、EndoSolv R、EndoSolv E、MEK、酢酸エチルの7種類(対照は蒸留水)。
手順は次のとおりです。
・室温で溶剤に2分または5分浸す。超音波ありの群は、溶剤10mLに入れたまま超音波洗浄槽(30kHz)で撹拌(各7個)
・取り出して蒸留水10mLに10分浸して溶剤の作用を止め、37℃で48時間乾かしてから重さを量る
・浸す前と後の重さの差(%)=溶けた量として比べる(3つの要因=溶剤・時間・超音波をまとめて分散分析)
・あわせて、効いた溶剤でビッカース硬さ(2分・超音波なし)、電子顕微鏡(SEM)とX線回折で表面の変化を確認
・最後に抜去した上顎側切歯10本で予備的な実験。AH Plus+シングルコーンで根管充填し、1週間後にプロテーパー・ユニバーサルのリトリートメント用ファイルとHファイルで除去。5本は溶剤なし、5本は最終洗浄としてMEK 1mLを超音波チップ(IrriSafe)で5分撹拌し、縦に切断してSEMで根管壁を観察
ポイントは、歯科用ではない溶剤を、超音波とセットで評価したことです。円板を丸ごと溶剤に沈める方法は、水への溶解度を測る国際規格(ISO 6876)をもとにしたもので、ほかの溶剤研究でも使われてきたやり方です。
④結果①:2分・超音波ありなら、MEKはクロロホルムに迫った
2分浸した場合、超音波ありではクロロホルム29.3%、MEK 24.8%。超音波なしではクロロホルム14.6%に対してMEKは3.5%で、酢酸エチル(9.5%)よりも少なかったのです。
つまりMEKは、超音波をかけたときに溶け方が大きく伸びる溶剤でした。酢酸エチルは超音波の有無であまり変わらず(9.5%→10.2%)、EndoSolv E(2.1%→5.1%)やキシレン(0%→2.7%)は少量にとどまりました。
⑤結果②:5分になると、クロロホルムが大きく引き離す
5分・超音波ありでは、クロロホルム62.2%に対してMEK 34.2%。2分のときに近かった差が、5分では大きく開きました。超音波なしではクロロホルム15.8%、MEK 10.7%、酢酸エチル10.5%と、3つが近い値に並んでいます。
分散分析では、溶剤の種類・浸す時間・超音波の3つとも、そしてその組み合わせも、溶けた量に有意に効いていました(P<.05)。溶剤どうしはキシレンとEndoSolv Eの組み合わせを除いてすべて差があり、全条件を通した平均の順位はクロロホルム>MEK>酢酸エチル>EndoSolv E≒キシレン。超音波をかけると溶ける量が増え、時間を延ばしても増えました。
⑥なぜ溶けるのか:溶剤が削っていたのは「樹脂の部分」
硬さでも同じ傾向が出ました。2分浸した(超音波なし)あとのビッカース硬さは、クロロホルム6.8、酢酸エチル12.2、MEK 15.5(単位Hv)。溶剤なしの対照は図で約32Hvなので、よく溶かす溶剤ほど、シーラーを柔らかくしていました。
面白いのはEndoSolv Rです。重さはまったく減らなかったのに、硬さは21.1Hvまで下がっていました。溶けなくても柔らかくはなることがあり、柔らかくなればファイルでこすり取りやすくなる、という別の研究者の指摘も紹介されています。
つまり溶剤は、シーラーの樹脂の部分を溶かしたり変質させたりして効いている、というのが著者らの見立てです。
⑦明日の臨床へ
抜去歯10本の予備実験では、溶剤なしの群もMEK+超音波の群も、全部の歯に充填材が残っていました。そのうえで、SEMの見た目の比較ではMEK+超音波の群のほうが根管壁がきれいに見えた、と著者らは書いています(数で比べた結果ではありません)。
・この実験(洗浄槽で撹拌)では、超音波で溶け方が特に増えたのはMEKとクロロホルム。2分でMEKは3.5%→24.8%、クロロホルムは14.6%→29.3%。一方、酢酸エチルはほぼ変わらず(9.5%→10.2%)、ユーカリ油とEndoSolv Rは超音波をかけても0%のままだった。
・いちばん溶かしたのはクロロホルム。5分・超音波ありでは62.2%と、MEK(34.2%)を大きく上回った。
・この条件ではユーカリ油とEndoSolv RはAH Plusを溶かさなかった(重さの減少0%)。ただしEndoSolv Rは硬さを下げていた。
・根尖の外に押し出したときの組織への影響は、この研究では調べていない。
今すぐ溶剤を替える材料というより、「溶剤+超音波」という組み合わせと、「クロロホルム以外の候補」を探す流れを知っておく一本です。著者ら自身も、臨床での意味を確かめるさらなる研究が必要だと結んでいます。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
この研究では、工業用の溶剤MEKが、超音波と組み合わせると2分でクロロホルムに近い量のAH Plusを溶かしました(24.8%対29.3%)。ただし超音波なしのMEKは3.5%と少なく、5分・超音波ありではクロロホルム62.2%対MEK 34.2%と、いちばん溶かしたのはやはりクロロホルムでした。ユーカリ油とEndoSolv Rはどの条件でも0%。この実験(洗浄槽で撹拌)では、超音波で溶け方が特に増えたのはMEKとクロロホルムでした。著者らはMEKと酢酸エチルを「クロロホルムより安全な候補」としていますが、シーラー片を溶剤に沈めた実験室の研究で、根管内での効果は数では確かめられておらず、根尖周囲への安全性も調べられていません。


