エンド|根管充填を通した根尖側の漏れが失敗の大きな要因の1つとされてきたなかで、「歯冠側からの漏れ(コロナルリーケージ)」の証拠をまとめ、原因と予防策を整理したナラティブ総説(Saunders & Saunders 1994・Endod Dent Traumatol)
根管充填まで終えた歯の最終補綴が延びている。仮封が薄くなっている。ポスト形成で根管充填を削る。こうした「根管充填のあと」の場面が、根管治療の成否にどこまで関わるのか。スコットランドのグラスゴーとダンディーの歯科大学に所属する2人の著者は、1994年のこの総説で、当時までの研究を拾い集めて「コロナルリーケージ(歯冠側からの漏れ)は根管治療の失敗の重要な原因である」と主張しました。根拠に置いたのは、放射性トレーサー(1961年)、人工唾液に3日さらしただけで色素が広く漏れた実験(1987年)、根管充填した単根歯の50%が菌種により19日または42日で全長にわたり細菌に汚染された実験(1990年)、唾液にさらした根管がすべて30日以内に根尖まで汚染された実験などで、多くは実験室(in vitro)の漏洩研究です。著者らは汚染の道すじとして、歯冠修復までの遅れ、修復物や歯の破折、ポスト形成、大臼歯の髄床底の副根管を挙げ、仮封は3.5 mm以上の厚みにする、歯冠修復はできるだけ速やかに行う、大臼歯では余剰ガッタパーチャを除いて髄床底をグラスアイオノマーで覆う、といった予防策を示しています。ただし、コロナルリーケージがあると臨床の失敗率がどれだけ上がるのか、という数値はこの総説には示されていません。
①根管充填のあと、どこまでが根管治療?
根管充填まで終えて、ひと息。でも最終補綴は次回以降、ポストを立てるなら根管充填を一部削る、仮封は数週間そのまま——。この「根管充填のあと」の時間は、根管治療の成否にどこまで関わるのでしょうか。
1994年のこの総説の答えははっきりしています。著者のW. P. SaundersとE. M. Saunders(グラスゴーとダンディーの歯科大学)は、当時までの研究をまとめて「コロナルリーケージ(歯冠側からの漏れ)は、根管治療の失敗の重要な原因である」と主張しました。ただし、これは研究を集めて論じたナラティブ総説で、根拠の多くは実験室(in vitro)の漏洩研究です。この記事では「何を主張したか」「根拠に何を置いたか」「何がまだ分かっていなかったか」の順に読んでいきます。
②それまでの主役は「根尖側の漏れ」
総説はまず、従来の考え方から始めます。根管治療の失敗にはいろいろな原因があるものの、根管充填を通した漏れが大きな要因と考えられてきました。
Washington Study(Ingleの報告として紹介):失敗した104例のうち66例が、根尖側の封鎖不良と関係していた。
ほかの研究:根尖部で根管充填と根管壁の間に空隙があると、予後が悪かった。
なぜ封鎖が悪いと失敗するのか。総説の著者らは、形成した根管から壊死組織の残渣や微生物を完全には除ききれない可能性が高く、根管が十分に封鎖されていなければ、微生物そのものや毒素が根尖周囲に炎症を起こしうる、と説明しています。そのうえで、「封鎖が破れるのは根尖側だけではない」と話を進めます。
③総説の主張:歯冠側から再汚染される道すじ
著者らは、根管充填を終えた根管が微生物に再び汚染される道すじとして、次の3つを番号を付けて挙げています。
② 歯冠修復物や歯の破折。
③ ポスト形成:ポストのために根管充填を除去したとき、根尖側に残した根管充填の緊密さや長さが足りない場合。
さらに大臼歯の節では、髄床底に副根管があることがあり、そこを通して微生物や毒素が根分岐部の歯周組織に広がる可能性にも触れています(図の④)。
④根拠に置いた研究:多くは実験室の漏洩研究
「コロナルリーケージが失敗の原因になる」という考え自体は新しくない、と著者らは書いています。総説が並べた研究を、年代順に見てみます(いずれも総説本文の記述どおり)。
1979年 Allison ら:歯冠側の封鎖が悪いと臨床の失敗につながる可能性に簡単に触れた。
1987年(Swanson & Madison・著者名は文献リストから補足):in vitroの漏洩実験で、人工唾液にわずか3日さらしただけで、一見良好な根管充填を通して色素が広く漏れた。
Madison & Wilcox:根管を口腔環境にさらすと漏れが起き、根管の全長に及ぶ例もあった(参考文献の題名は「In vivo study」)。
1990年 Torabinejad ら:側方加圧とシーラーで充填した単根歯の50%が、菌種によって19日または42日で根の全長にわたり細菌に汚染された。
唾液の浸透を調べた研究(引用15):結果から、少なくとも3か月歯冠側から汚染された根管充填は、最終修復の前にやり直すべきだという提言につながった。
Khayat ら(本文の表記・引用16):ガッタパーチャとRothシーラーで側方加圧または垂直加圧した根管を、歯冠側だけ唾液にさらすと根尖まで細菌に汚染され、すべての根管が30日以内に汚染された。
並べてみると、「歯冠側が開けば、根管充填は思ったより早く突破される」という方向で揃っています。「漏れる」ことと「治療が失敗する」ことの間は、著者らの考察でつながれています(⑧で補足)。
⑤ポスト形成と大臼歯の髄床底
ポスト形成:ポスト形成の際に根管充填がねじられたり振動したりして、封鎖が乱れる可能性があります。これを避けるため、根尖部にだけ銀ポイントやガッタパーチャを分割して入れる方法が流行したこともありました。しかし著者らは、根尖部を触らない利点より、歯冠側の封鎖が不十分なときに根管の大部分が汚染にさらされる不利のほうが大きい、と述べています。そして、根尖側に少なくとも5 mmの緊密な根管充填を残せば、側方加圧したガッタパーチャを除去しても根尖の封鎖は損なわれず、ポスト形成が充填直後でも後日でも同じだった、という研究を紹介しています。
大臼歯:コロナルリーケージの研究の多くは単根歯を使っていますが、著者らは大臼歯こそ歯冠側の封鎖が大切だと考えています。著者ら自身の実験室研究では、側方加圧のあとに余ったガッタパーチャとシーラーを髄床底の上に詰めておくというよくあるやり方では、根管の歯冠側を十分に封鎖できませんでした。そこで、余剰のガッタパーチャは根管口の高さで除去し、髄床底をアマルガムやグラスアイオノマー(glass polyalkenoate)などの修復材料で封鎖することが勧められています。
⑥漏れの通り道:スメア層とシーラー
根管を拡大するとできるスメア層は、手用シリンジでの次亜塩素酸ナトリウム洗浄では除去できず、多くの根管治療歯に残っている、と総説は書いています。スメア層が予後にどう影響するかは分かっていないものの、細菌の毒素で分解されて漏れの通り道になるかもしれない、というのが著者らの見立てです。Hovland & Dumshaは、漏れの多くはシーラーと根管壁の間で起きることを示しています。
スメア層を除く意味:開いた象牙細管にシーラーが入り込み、漏れの可能性が減るかもしれない。
接着するシーラー:当時よく使われていたシーラーは、どれも歯質に化学的に接着しない。グラスアイオノマー裏層材(Vitrebond)をシーラーに使った研究では、スメア層を除去すると細管に入り込み、酸化亜鉛ユージノール系のTublisealよりコロナルリーケージが少なかった。市販のグラスアイオノマー系シーラー(Ketac Endo)の初期の報告もおおむね好意的。
⑦明日の臨床へ
・大臼歯では、余剰のガッタパーチャとシーラーを除いたうえで、髄床底をグラスアイオノマーで裏層する。
・歯冠はできるだけ速やかに、漏れを最小にするように修復する。
・すぐに修復できない歯のアクセス窩洞は市販の仮封材で塞ぎ、厚みを少なくとも3.5 mmにする(1978年の仮封材の研究を引用)。
・既存の修復物のアクセス窩洞を簡単に塞ぐだけでは歯冠側の封鎖が危うくなるなら、修復物ごと作り直す。
・根管治療歯には歯髄の感覚がないため、歯冠修復から漏れていても患者が何か月も気づかないことがある。だから定期的に診て、根尖周囲の状態と、コロナルリーケージが起きていないかを確かめる。
補足(筆者の読み):
・「3.5 mm」(予防策の節)と「5 mm」(ポスト形成の節で、側方加圧したガッタパーチャを除去した場合の研究の紹介)は、総説が特定の研究を引いて示した目安で、この総説自体が臨床で検証した数字ではありません。
・それでも、根管充填を終えた日から最終修復が入るまでの期間を「治療の一部」として管理する、という考え方は、仮封の厚み・修復のタイミング・リコールといった日常の段取りにそのまま落とし込めます。
・ポスト形成では、根尖側に残す根管充填の長さを意識しておくことが、この総説の整理から見えてくるポイントです。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
総説の著者らの結論:コロナルリーケージは根管治療の失敗の重要な原因であり、根管治療の最中もその後も、歯冠修復に注意を払って漏れを防ぐことが欠かせない。将来は、歯質に接着する根管シーラーが漏れを減らす役割を担うかもしれない、とも述べています。筆者の読みでは、この総説の値打ちは「根管充填の質だけでなく、その上に載る仮封・歯冠修復・ポスト形成までが根管治療の一部」という視点を、当時の研究でまとめて示した点にあります。ただし根拠の中心は実験室(in vitro)の漏洩研究で、歯冠側の封鎖の良し悪しで臨床成績がどれだけ変わるかは、この総説の時点では数値で示されていません。


