エンド|根尖性歯周炎の単根歯55本を1回法で形成・洗浄・根管充填し、充填直前に嫌気培養で細菌の有無を調べて、根尖部の治癒を最長5年追った古典(Sjögren ほか 1997・Int Endod J)
根管貼薬をはさまず、その日のうちに根管充填まで終える1回法。そのとき根管に細菌が少し残っていたら、長い目で見て治り方は変わるのでしょうか。スウェーデン・ウメオ大学のグループは、歯髄壊死で根尖病変のある単根歯55本を、ラバーダム下で形成し0.5%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄したうえで、充填の直前に嫌気培養の検体を採り、同じ日に根管充填しました。治療前は55本すべてから細菌が出ましたが、形成・洗浄の直後にも22本(40%)で細菌が残っていました。追跡できた53本を最長5年見たところ、充填直前の培養が陰性だった歯は31本中29本(94%)、陽性だった歯は22本中15本(68%)が治癒し、この差は統計学的に有意でした(P=0.023)。治らなかった9本はいずれも無症状でした。著者らは、根管内の細菌を充填前に取り除くことが予後に大切で、1回の来院ではそれを確実には達成できないと結論しています。ただし1つの大学グループが経験豊富な専門医の治療で行った55本の観察研究で、1回法と2回法(貼薬あり)を直接比べた試験ではありません。
①その日のうちに充填して、本当に大丈夫?
根尖病変のある失活歯。形成も洗浄も丁寧にできた。根管も乾いた。このまま今日、根管充填まで進めるか。それとも貼薬をして次回にするか。1回法か2回法かは、今も臨床で迷う分かれ道です。
この迷いの芯にある問い——「充填の時点で根管に細菌が少し残っていたら、予後は変わるのか」——を、嫌気培養と長期の追跡で確かめたのがこの1997年の研究です。結論を先に言うと、1回の来院で充填した根尖性歯周炎の単根歯で、充填直前の培養が陰性なら94%、陽性なら68%が治癒し、その差は統計学的に有意でした。
②なぜ、あらためて調べる必要があったのか
「充填前に細菌を減らすほど成績がよい」という考え方自体は、当時もすでに常識でした。1960年代の研究でも、充填前の培養が陽性の歯は、陰性の歯より成功率がおよそ10〜15%低いと報告されていました。
ただし著者らは、その古い研究には2つの弱点があったと指摘します。ひとつは培養法。感染根管の細菌は多くが酸素に弱い偏性嫌気性菌で、当時の一般的な培養法では拾いきれず、「陰性」と判定された根管にも実は細菌が残っていた可能性があります。もうひとつは追跡期間。根尖病変の多くは治療後4〜5年以内に治るため、短い追跡では本当の結果が見えない、というのが著者らの立場です。そこで、しっかりした嫌気培養と最長5年の追跡を組み合わせて調べ直しました。
③1回法で充填し、充填直前の細菌を培養した
治療:ラバーダムと無菌的操作。まず治療前の検体を採取。細い根管は#20の手用ファイルが作業長まで入るまで拡大し、歯冠側は超音波ファイルで拡大、洗浄は0.5%次亜塩素酸ナトリウム。根尖部は#40のHファイル以上に仕上げ、残った次亜塩素酸は5%チオ硫酸ナトリウムで不活化しました。
充填直前の検体:1根管から3本の検体を採り、酸素を遮った培地で嫌気培養。3本とも発育がなければ「陰性」としました。
充填:同じ来院のうちに、ロジンクロロホルムを使った側方加圧でガッタパーチャ充填。根管貼薬は使っていません。ポストが要る歯は、根管充填の上に1〜2 mmの酸化亜鉛ユージノールを置いてから修復しました(修復そのものはラバーダムなし)。
評価:毎年、エックス線写真と臨床所見で診査。Strindbergの基準(歯根膜腔の輪郭・幅・構造が正常なら成功)で判定し、完全に治らない歯は5年まで追跡。較正した2名が別々に読影し、意見が割れたら協議、それでも割れたら3人目の専門医が決めました。
ポイントは、その日のうちに充填していることです。だから「充填直前の培養」がそのまま「充填時点で根管に細菌がいたか」を表します。
④結果:まず、形成・洗浄の直後にも40%で細菌が残った
治療前の検体では55本すべてから細菌が出ました。形成と洗浄のあとでも、22本(40%)にはまだ培養できる細菌が残っていました。ただし数はおおむね少なく、8本は増菌培養でようやく検出、9本は10²〜10³個で、10⁴個を超えたのは3本だけ。1根管あたり1〜6菌種で、分離株の93%が嫌気性菌でした。
⑤結果:陰性なら94%、陽性なら68%が治った
充填直前の培養が陰性:31本中29本が治癒(94%)。治らなかったのは2本。
充填直前の培養が陽性:22本中15本が治癒(68%)。治らなかったのは7本。
統計:94%と68%の差は、カイ二乗検定(Yates補正)でP=0.023。わずかな過剰充填の10本を除いた43本で解析しても、充填時に細菌がいないほうが成功しやすい、という結果でした(P=0.041)。
ほかの条件:わずかな過剰充填(1 mm未満)の10本(陽性5本・陰性5本)は10本とも治癒。残る43本は根尖から2 mm以内に充填されていました。術前の病変の大きさは、治った歯と治らなかった歯で目立った違いがなく、著者らは「病変の大きさは結果に影響しなかったようだ」としています(表4は平均と範囲のみで、検定の値は示されていません)。
著者らはこの差を「充填時点で細菌がいない根管は、成功率が26%高い」と表現しています(94%と68%の差で、割合の引き算=26ポイントの意味です)。一方で、陽性でも22本中15本は治っていることも見逃せません。細菌が残れば必ず失敗する、という結果ではありません。
⑥治らなかった歯の中で、何が起きていたか
治らなかった歯のうち、外科処置で組織が得られた3本を詳しく調べています。
陰性だった1本:治療後いったん少し小さくなったものの、3年たってもそれ以上の改善がなく外科処置へ。根尖部には膿瘍があり、Actinomyces odontolyticusが優勢でした。電子顕微鏡では根尖付近の側枝が細菌で詰まっていました。著者らは、フラップを開けてから採った検体なので汚染の可能性はあるとしつつ、膿瘍・顕微鏡所見・側枝の細菌から、持続する感染が原因だった可能性が高いと考えています。根管の検体で見つからなかったのは、細菌が側枝に隠れていたためかもしれない、とも述べています。
陰性だったもう1本:患者が外科も再治療も望まず、原因はわかりませんでした。
3本ともActinomyces属が関わっていた一方、A. israelii以外に「この菌がいると失敗する」と言える菌は見当たらなかった、と著者らはまとめています。
⑦なぜ、細菌が残っても治る歯があるのか
陽性でも15本が治った理由について、著者らは次のような可能性を挙げています(いずれも本研究で確かめたものではなく、考察です)。
ひとつは、充填材で細菌が死ぬ可能性。ロジンクロロホルムのロジンや、ガッタパーチャに含まれる亜鉛には抗菌作用が報告されています。もうひとつは、充填で閉じ込められて栄養が絶たれる可能性。そして生き残ったとしても、数が少ない・病原性が低い・根尖へ届けない、といった理由で病変を維持できない可能性です。残った細菌が少数で菌種も限られていれば、生き延びにくい、とも著者らは述べています。
⑧明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・この研究が比べたのは「充填時に培養陽性だった歯」と「陰性だった歯」です。1回法と、貼薬をはさむ2回法を比べた試験ではありません。「貼薬すれば確実に細菌を除ける」という部分は、著者らが以前の研究を根拠に述べている考察です。
・著者らは、日常臨床で毎回培養する必要はないとも書いています。無菌的操作・抗菌性の洗浄・来院間の貼薬で感染は確実に除ける、というのがその理由です。あわせて著者らは、充填時に感染が残っているかどうかは普通は判定できないので、根管の処置は細菌を完全に取り除くことを目指して行うのが大切だ、と述べています。
・治らなかった9本はすべて無症状でした。症状がないことは治癒の証拠にならない。エックス線写真での経過観察を続ける意味が、あらためて見えます。
・この成績は、経験豊富な専門医が、ラバーダム下で全長まで形成し、ポスト部は酸化亜鉛ユージノールで封鎖したという条件でのものです。著者らは、充填の位置や修復など他の因子はよくそろえてあった、としています。
⑨ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:充填直前の培養が陰性だった歯の治癒率は94%、陽性だった歯は68%で、根管充填の時点で細菌が残っているかどうかが予後を左右する。形成と次亜塩素酸ナトリウム洗浄を丁寧にしても1回の来院では40%の根管に細菌が残ったことから、著者らは初めから感染している根管は、抗菌性の根管貼薬の期間をおいてから充填するのがよいと示唆しています。ただし本研究は単根歯55本の観察研究で、貼薬あり・なしを比べた試験ではありません。


