1問1答 論文 保存修復

深いMOD窩洞、CRの土台に流れる短繊維強化CRを入れると?——抜去大臼歯の実験室研究では、繰り返し荷重で割れずに残った本数は通常CRと有意差なし、残った歯を割る荷重は有意に高かった

1問1答 論文 保存修復

保存修復|深さ4.5〜5mmのMOD窩洞を、フロアブルの短繊維強化CR(everX Flow)を土台にして直接修復し、繰り返し荷重と破折荷重・割れ方を通常のCRと比べた実験室研究(Fráter ほか 2021・Polymers)

生活歯の大臼歯に、深いMOD窩洞。CRで直接詰めるなら、土台に短繊維強化CRを入れる価値はあるのか。ハンガリー・セゲド大学とフィンランド・トゥルク大学などのグループは、抜去した下顎第三大臼歯100本に深さ4.5〜5mmのMOD窩洞をつくり、流れるタイプの短繊維強化CR(everX Flow)を一括または積層で入れて咬合面2mmを通常のCRで覆った4群と、通常のペーストCRだけの対照群を比べました。最大1000Nの繰り返し荷重で割れずに残った本数は、群の間で有意差がありませんでした。一方、残った歯を割るまで押した荷重は、短繊維強化CRの4群すべてが対照群より有意に高く、途中で割れた歯の割れ方は、短繊維強化CRの群で修復できる割れ方が多い結果でした(割れ方の統計検定は報告されていません)。

論文
Fracture Behavior of Short Fiber-Reinforced Direct Restorations in Large MOD Cavities
著者
Márk Fráter, Tekla Sáry, Eszter Vincze-Bandi, András Volom, Gábor Braunitzer, Balázs Szabó P., Sufyan Garoushi, András Forster(ハンガリー・セゲド大学 歯学部 保存修復・審美歯科学講座、フィンランド・トゥルク大学 生体材料学講座 ほか)
掲載
Polymers 2021;13(13):2040. DOI: 10.3390/polym13132040
種類
実験室研究(in vitro)。歯周病・矯正の理由で抜去した下顎第三大臼歯100本を5群(各20本)に分け、深さ4.5〜5mm・壁の厚み2.5mmのMOD窩洞をCRで直接修復(咬頭被覆なし・根管治療なし)。土台にフロアブルの短繊維強化CR(everX Flow)を一括または積層し、咬合面2mmをペーストCRか高充填フロアブルで覆った4群と、ペーストCRだけの対照群を比較。最大1000N・2万5千回の繰り返し荷重(生存分析)→割れずに残った歯を割るまで押す試験(破折荷重)→割れ方の分類
PMID
34201423

深いMOD窩洞、土台に短繊維強化CRを入れる意味はある?

生活歯の大臼歯で、二次う蝕を外したら深いMOD窩洞になった。咬頭は残っているので、CRの直接修復でいきたい。そのとき、窩洞の奥にガラス繊維の入った短繊維強化CR(SFRC)を入れるか、いつものCRだけで積むか。

この論文の答えは、2つに分かれます。抜去した下顎大臼歯の実験で、最大1000Nの繰り返し荷重で割れずに残った本数は、短繊維強化CRを入れても通常のCRと有意差がなかった。一方、残った歯を割るまで押すと、短繊維強化CRを入れた4群はどれも通常のCRより有意に高い荷重に耐え、途中で割れた歯も、CEJより上の修復できる割れ方が多い結果でした(割れ方の統計検定はなし)。

なぜ深いMOD窩洞で「繊維」なのか

著者らはまず、MOD窩洞は両側の辺縁隆線を失うため歯の剛性が大きく落ち、生活歯の臼歯の窩洞の中でも最も難しい、と整理しています。深い窩洞ほど、詰めるCRの量も増えます。

著者らが挙げるCRの弱点は、重合収縮による応力と、象牙質に比べて破壊靭性(亀裂が進みにくい粘り強さ)が足りないことです。繊維を混ぜた短繊維強化CRは、この弱点を補う材料として研究されてきました。2019年には流れるタイプ(everX Flow)が登場しましたが、生活歯の深い窩洞で直接修復の土台に使った研究はまだ無い、というのが著者らの問題意識です。あわせて、一括で入れるか積層するか、咬合面をペーストCRで覆うか高充填のフロアブルで覆うかも比べました。

今回の実験:土台の入れ方×咬合面の材料で5群

実験の骨格:歯周病・矯正の理由で抜去した、目視でう蝕や歯根の亀裂がなく根管治療歴もない下顎第三大臼歯100本を、5群(各20本)に分けた。
窩洞:全歯に深さ4.5〜5mm・頬舌側の壁の厚み2.5mmのMOD窩洞(根管治療なし)。
共通の前処理:エナメル質のセレクティブエッチング→ボンド(G-Premio Bond)→フロアブルレジンを全壁に約0.5mm→隣接面の壁をCRで先に立ち上げて1級窩洞の形にする。
5群
・群1:everX Flowを一括で注入+咬合面2mmをペーストCR(G-aenial Posterior)
・群2:everX Flowを一括+咬合面2mmを高充填フロアブル(G-aenial Universal Injectable)
・群3:everX Flowを2mm以下ずつ積層+咬合面をペーストCR
・群4:everX Flowを積層+咬合面を高充填フロアブル
・対照群:ペーストCRだけを2mmずつ斜めに積層
評価:歯根にラテックスで歯根膜を模し、CEJから2mm下まで樹脂に埋めた。①繰り返し荷重(5Hz、200Nから200Nずつ1000Nまで、各段階5000回、最大2万5千回)で割れるまでの回数(生存分析)②割れずに残った歯を、割れるまでゆっくり押して最初に破折した荷重(N)③割れ方を、CEJより上(修復できる)かCEJより下(修復できない)かで分類。

結果:残った本数は有意差なし、割る荷重は短繊維強化CRの群が有意に高い

結果1 繰り返し荷重で割れずに残った本数(各群20本中)
・対照群(ペーストCRのみ):8本
・群1(一括+ペースト):9本/群2(一括+フロー):12本/群3(積層+ペースト):13本/群4(積層+フロー):12本
どの2群の間も有意差なし(対照群と群3の比較が最も近く p=0.066)

最大1000Nまでの繰り返し荷重では、対照群の残りが最も少なかったものの、統計的な差にはなりませんでした。

0 1000 2000 3000 破折荷重の平均・概数 (N) 1050 2100 2150 2150 2000 対照ペーストCRのみ 群1一括+ペースト 群2一括+フロー 群3積層+ペースト 群4積層+フロー 論文の図3(平均と標準偏差)から筆者が目盛で読み取り50N単位に丸めた概数。原著に数値の表は無く、標準偏差は大きい(群1〜4で約±500〜700N)。繰り返し荷重で割れずに残った歯だけを測定(8〜13本)。群1〜4はeverX Flowを土台に使用、4群とも対照より有意に高く、4群の間は有意差なし
繰り返し荷重で割れずに残った歯を、割れるまで押したときの破折荷重の平均(N)。原著は数値の表を載せていないため、図3の目盛から筆者が読み取った概数(50N単位)。灰=対照群(ペーストCRのみ)、ティール=everX Flowを土台にした4群。測定した本数は、残った歯だけ(8〜13本)

図の読み取りでは、対照群の平均が約1,050N、短繊維強化CRの4群は約2,000〜2,150Nでした。4群すべてが対照群より有意に高く、平均でおよそ2倍の荷重に耐えた計算になります。ただし標準偏差は大きく、図では短繊維強化CRの群で平均の上下におよそ500〜700Nの幅がありました。一方、4群の間には有意差がありませんでした。つまりこの研究では、everX Flowを一括で入れても積層しても咬合面をペーストCRで覆っても高充填フロアブルで覆っても、破折荷重に有意な違いは出ていません。

0 4本 8本 12本 繰り返し荷重の途中で割れた本数 8本 4本 0本 11本 0本 8本 3本 4本 1本 7本 対照ペーストCRのみ 群1一括+ペースト 群2一括+フロー 群3積層+ペースト 群4積層+フロー 修復できない破折(CEJより下) 修復できる破折(CEJより上) 原著の表2より(各群20本中。割れずに残った本数は対照8・群1 9・群2 12・群3 13・群4 12本)。濃い棒=修復できない破折、淡い棒=修復できる破折。割れ方の群間の統計検定は報告なし
繰り返し荷重の途中で割れた歯の割れ方(本数)。CEJより上の破折=修復できる、CEJより下に及ぶ破折=修復できない。原著の表2より。割れ方について群間の統計検定は報告されていない

割れ方では、対照群は途中で割れた12本のうち8本がCEJより下に及ぶ修復できない破折でした。一括注入の2群(群1・群2)は、割れた歯がすべてCEJより上の修復できる破折。積層の2群は、群3で7本中3本、群4で8本中1本が修復できない破折でした。

なぜ割れ方が変わるのか(著者らの推察)

著者らは、繊維が亀裂の進む向きを変えたり止めたりするという先行研究を引き、亀裂が材料の塊を貫かずに周辺へそらされるためだと説明しています。通常のCRはもろいので、亀裂が修復物の厚み全体を一気に抜けやすい、という読みです。

一方で著者らは、今回の結果が以前の研究(Sáry ほか 2019、同じグループの Fráter ほか 2014)と食い違うことも書いています。それらの研究では、MOD窩洞に短繊維強化CRを一括で入れても、通常のCRを積層した場合と破折荷重に有意差がありませんでした。ただし、どちらの研究も今回と同じ流れるタイプは使っていない、と著者らは断っています。

違いの理由として著者らが挙げたのは、流れるタイプの繊維の構造と量です。著者らの説明では、ペースト状の短繊維強化CRはミリ単位の長い繊維を9wt%、流れるタイプはマイクロメートル単位の短い繊維を25wt%含みます。

咬合面の材料で差が出なかった点について、著者らは、今回使った高充填フロアブルの物性が高いためかもしれないと推察しています。いずれも推察で、この研究で亀裂の進み方そのものを測ったわけではありません

明日の臨床へ

著者らの結論:この研究の範囲では、深いMOD窩洞は、咬合力が通常の範囲なら繊維で補強した直接修復でも補強しない直接修復でも修復できる極端に強い力では、流れる短繊維強化CRを使った直接修復が通常のCRより良い成績で、割れ方も修復しやすい形になる。
補足(筆者の読み):
・この研究で有意差が出たのは「残った歯を強い力で割るとき」で、割れ方にも違いが見られました(統計検定なし)。繰り返し荷重で割れずに残った本数には有意差がなく、短繊維強化CRで修復物が長持ちすることを示したデータではありません。
・持ち帰りやすいのは「割れにくさだけでなく、割れ方も見る」という視点です。この抜去歯の実験では、短繊維強化CRの群でCEJより上の割れ方が多く見られました(統計検定なし)。臨床で割れたときに歯を残しやすいかは、この研究では確かめていませんが、深いMOD窩洞で咬頭を覆わず直接修復を選ぶ場面で、土台にもう1材料を足すかどうかを考える材料になります。
・この研究の条件では、一括注入と積層、咬合面のペーストCRと高充填フロアブルの間に有意差は出ませんでした。ただし各群20本での「有意差なし」は同等の証明ではありません。
・試したのは深さ4.5〜5mm・根管治療なしの生活歯の窩洞だけです。根管治療後の歯や、もっと浅い・深い窩洞には、そのまま当てはめられません。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、抜去した下顎第三大臼歯を使った実験室研究で、各群20本です。繰り返し荷重は最大2万5千回・1000Nまでで、口の中で何年も噛み続けることとは違い、温度サイクルなどの劣化処理の記載もありません。第二に、破折荷重は繰り返し荷重で割れずに残った歯だけで測っており、群ごとの本数が8〜13本と違います。弱い歯が先に脱落した後の比較なので、群の間の差をそのまま材料の差と読み切れません。数値は図3の目盛から読み取った概数です。第三に、割れ方の比較には統計検定がなく、表2の群1の割合(47.4%・52.6%)は本数(9本・11本、計20本)と計算が合いません。第四に、使った材料はすべてGC社の製品で、結果はこの組み合わせでのものです。著者ら自身も、調べたのは1種類の材料だけだと限界に挙げています。利益相反はないと記載され、資金はハンガリーの公的な研究奨学金・研究助成です。材料がメーカーから提供されたかどうかは書かれていません。臨床での破折率や長期の予後は調べていません。それでも、「深い窩洞では、割れにくさだけでなく割れ方も見る」という視点は、直接修復の設計を考えるときの具体的な物差しになります。

今日のひとこと

著者らの結論:この研究の範囲では、深いMOD窩洞は通常の咬合力の範囲なら短繊維強化CRの有無にかかわらず直接修復できるが、極端に強い力では流れる短繊維強化CRを土台にした修復のほうが通常のCRより良い成績で、割れ方も修復しやすい形になった。ただし抜去歯を使った実験室の結果で、繰り返し荷重で割れずに残った本数には有意差がなく、「長持ちする」ことを示したものではない。

Fráter M, Sáry T, Vincze-Bandi E, Volom A, Braunitzer G, Szabó P B, Garoushi S, Forster A. Fracture Behavior of Short Fiber-Reinforced Direct Restorations in Large MOD Cavities. Polymers (Basel). 2021;13(13):2040. PMID: 34201423. DOI: 10.3390/polym13132040
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。