保存修復|短繊維強化CR(everX Flow・everX Posterior)の破壊靭性を、厚み2・3・4mmの試験片で測った実験室研究(Kamourieh ほか 2024・Materials)
窩洞の底に象牙質の代わりとして置く短繊維強化CR(sFRC)。「象牙質と同じくらい割れにくい」という説明をよく聞きますが、この論文が引用した先行研究の多くは、フィンランドの同じグループのものでした。ロンドン大学(UCL)イーストマン歯科研究所のチームは、everX Flow(EXF)とeverX Posterior(EXP)で厚み2・3・4mmの棒状の試験片を各10本つくり、カミソリで約0.1mmの亀裂を入れてから3点曲げで割り、破壊靭性を計算しました。厚み2mmではEXFが2.72、EXPが1.90(MPa·m1/2)とEXFが高く、3mm・4mmでは両者は同程度でした。すべての条件の平均値が、論文が引用した象牙質の文献値1.79〜3.08の範囲に入りました。ただし象牙質そのものは、この研究では測っていません。
①「象牙質並み」は、誰が、どう測った数字?
深い窩洞や失活歯の築造で、窩底に短繊維強化CR(sFRC)を敷いてから通常のCRで覆う。「繊維が象牙質のコラーゲンのように割れを止めるので、象牙質並みに粘り強い」という説明とセットで広まってきた方法です。
では、その「粘り強さ」は誰がどう測ったのか。この論文が引用する先行研究の多くは、フィンランドの同じ研究グループ(Garoushi・Lassila・Vallittu ら)によるものでした。今回はロンドンの別の研究室が、市販の2製品を厚みを変えた試験片で、測り方を明示して測っています。結果は、厚み2mmではeverX Flowが高く、3mm・4mmでは2製品が同程度。すべての条件で、論文が引用した象牙質の文献値の範囲に入りました。
②破壊靭性とは、何を測る物差しか
破壊靭性(KIC)は、すでにある小さな亀裂の先から、割れが一気に進むのにどれだけ耐えられるかを表す値です。単位はMPa·m1/2。曲げ強さが「傷のない材料がどこまで耐えるか」なのに対し、破壊靭性は「傷が入った後に割れ広がりにくいか」を見ます。
やっかいなのは、象牙質の値が測り方で大きく変わることです。論文が引用した文献値では、切り欠きだけを入れた象牙質で3.08(El Mowafy と Watts 1986)。切り欠きに加えてカミソリで鋭い亀裂を入れた条件では1.79、切り欠きだけでは2.72でした(Imbeni ほか 2003)。著者らはこの1.79〜3.08を「象牙質の範囲」として使っています。同じく引用値として、通常のCRは1.4〜2.3、アマルガムは1.3〜1.6とされています。
③今回の実験:厚み3条件×2製品、各10本
試験片:テフロン製の型で、幅2mm・長さ25mmの棒を厚み2・3・4mmの3種類。著者らは、臼歯の窩洞で象牙質の代わりに置く厚みを想定した。各条件10本、計60本。
重合:LED照射器(700mW/cm²)で、9か所をずらして各20秒。
亀裂:カミソリで約0.1mmの予亀裂を入れ、3D顕微鏡で深さを確認。切り欠き(ノッチ)は入れていない。
試験:3点曲げで毎分1.0mmの速さで割れるまで押し、破折荷重と亀裂の深さから破壊靭性を計算。二元配置分散分析で材料と厚みを比較。破断面は電子顕微鏡で観察。
④結果:厚み2mmではFlowが高く、3〜4mmでは同程度
材料全体の平均は、EXFが2.49(95%信頼区間 2.25〜2.73)、EXPが2.13(1.95〜2.31)で、材料間に有意差がありました(p<0.001)。材料と厚みの交互作用も有意で(p<0.001)、厚みによって2製品の差の出方が違っていました。
・厚み2mm:EXF 2.72(0.37)/EXP 1.90(0.19)。95%信頼区間が重ならず(EXF 2.49〜2.95、EXP 1.78〜2.02)、著者らは有意に異なるとした
・厚み3mm:EXF 2.36(0.37)/EXP 2.16(0.29)
・厚み4mm:EXF 2.41(0.36)/EXP 2.31(0.23)
・3mm・4mmについて、著者らは「同程度」と述べている(厚みごとの2群比較の検定値は示されていない)
向きが逆なのも目を引きます。EXFは2mmがいちばん高く、EXPは厚くなるほど上がりました。ばらつき(標準偏差)は、どの厚みでもEXFのほうが大きめでした。
⑤割れ方:繊維が亀裂を曲げ、つなぎ止めていた
割れた試験片を見ると、ほとんどは亀裂が入っても2つに分かれず、つながったままでした。電子顕微鏡では、多くの亀裂が反対側の面まで届いていません。EXFの2mmでは反対側に届いたものは0本で、反対側まで500μm以内に迫ったのも1本だけでした。
亀裂の形は、EXFがジグザグ、EXPはまっすぐ。繊維が亀裂の両岸にまたがる「橋渡し」、繊維が樹脂から抜ける「引き抜け」、繊維そのものが折れたとみられる跡も観察されています。著者らは、短く向きがばらばらなEXFの繊維に亀裂がぶつかって進路を曲げられ、割れが進みにくくなったと考えています(観察にもとづく推察)。ただし2製品は繊維の形だけでなく、繊維の量や樹脂の組成も違います(表1)。
一方で、EXFの4mmは10本中5本が真っ二つに割れていました。著者らは結論で「sFRCは破局的な破折を起こしにくい」とまとめていますが、この群については半数が2片に分かれた点も併せて読んでおきたいところです。
⑥明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・「薄く敷くならFlow、厚く盛るなら好みで」という線引きは、メーカーの推奨とも一致すると著者らは書いています。材料選びの目安として持ち帰りやすい一手です。
・ただし「象牙質の範囲」1.79〜3.08はかなり広く、論文が引用した通常のCRの値(1.4〜2.3)とも重なります。EXPの2mm(1.90)・3mm(2.16)は、通常のCRの文献値の範囲にも入る数字です。
・切り欠きに鋭い亀裂を加えて測った象牙質の文献値は1.79(この研究は切り欠き無し)で、切り欠きだけの条件ほど値が高く出ています。測り方をそろえずに比べた「範囲内」だと理解しておくと、数字に振り回されません。
・sFRCは研磨性が劣るため、表面は通常のCRで1〜2mm覆う前提です(論文が引用した先行研究・書籍による)。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:両材料とも、論文が引用した象牙質の文献値(1.79〜3.08 MPa·m1/2)の範囲の破壊靭性を示し、厚み2mmではeverX Flowの平均値が高かった(3mm・4mmでは同程度)。著者らは「2mmの象牙質置換ならFlow、3〜4mmならどちらでもよい」と提案している。ただし歯を使わない試験片1回の破壊試験で、象牙質は実測しておらず、通常のCRとの比較群もない。「範囲に入った」は「象牙質と同じ」の証明ではない。


