保存修復|二ケイ酸リチウム系ガラスセラミックス(e.max など)の強さを、結晶の構造と作り方から整理した材料学の総説。紹介データの多くは試作ガラスの実験室研究(Hallmann ほか 2018・J Mech Behav Biomed Mater)
e.maxと書けば、強さも透明感も同じ。そう思って技工指示を出していないでしょうか。キール大学のグループによるこの総説は、主に試作ガラスの実験室研究を束ね、二ケイ酸リチウムの強さはガラスの中に育つ結晶の量・形・大きさに左右され、それを核形成剤・添加物・熱処理が決める、と整理しました。市販品でも、e.max CADは結晶化焼成の前後で曲げ強さが約130から約360 MPaへ上がり(総説が紹介した値)、同じCADブロックでも中程度の不透明(MO)は281 MPaと低めでした(Fonzarらの実験)。
①e.maxなら、どれを選んでも同じ強さ?
「e.maxで」と技工指示を書くと、強さの話はそこで済んだ気持ちになります。あとは色と透明感を選ぶだけ。そう考えがちです。
この総説が示すのは、別の見方です。二ケイ酸リチウムの強さは材料名だけでは決まらず、ガラスの中に育った結晶の量・形・大きさに左右され、それを核形成剤・添加物・焼き方が決める。主に試作ガラスの実験室研究を並べると、同じ系統の材料でも曲げ強さは大きく動いていました。市販品でも、結晶化の焼成の前後や、e.max CADの透光性の違いで数字が変わります。
②なぜ、ガラスセラミックスの強さに幅が出るのか
ジルコニアは強い一方で白く不透明なため、見た目のために陶材を築盛し、その陶材が欠ける(チッピング)ことが課題でした。そこで、見た目と強さを両立できる材料としてガラスセラミックスが広がった、と著者らは背景を述べています。
ガラスセラミックスは、ガラスを決まった温度で熱処理し、中に結晶を析出させた材料です。総説が引く値では、リューサイト系(IPS Empress)の曲げ強さは120〜180 MPa、破壊靭性は1.03〜1.3 MPa·m½。二ケイ酸リチウム系は曲げ強さ300〜400 MPa、破壊靭性2.8〜3.5 MPa·m½でした。
組成が似ていても性質が違うのは、結晶の向き・大きさの分布・形、ガラスと結晶の割合、均一さが違うからだろう、というのが著者らの見立てです。
③この論文:実験データを束ねた材料学の総説
整理したテーマ:核形成の時間/核形成剤(P2O5・Nb2O5)/残留応力/添加物(ZrO2・MgO・Al2O3とK2O)/熱処理/透光性/結晶の大きさ。
中身:大半は組成を調整した試作ガラスの実験室研究で、主な研究は表1に組成・焼成条件・強さ・組織としてまとめられている。後半で市販の e.max CAD、ジルコニア強化型ケイ酸リチウム(セルトラ デュオ、ビタ スプリニティ)の組織と数値、生体適合性の報告を紹介。
ないもの:文献の探し方の記載、研究の質の評価、統合解析、臨床成績。
④しくみ:結晶の量と形が、強さと壊れにくさを左右する
まず結晶の「量」。Serbenaらの実験は、組成を二ケイ酸リチウムに合わせた試作ガラスで、結晶の大きさはそろえたまま、結晶の割合だけを変えました。
ガラスのままでは4点曲げ強さ103 MPa・破壊靭性0.75 MPa·m½だったものが、全体を結晶化させると260 MPa・3.5 MPa·m½。結晶の割合と破壊靭性・弾性率のあいだには直線的な関係がありました。総説はこの強さの伸びを、ガラスと結晶の熱膨張・弾性の差から生じる残留応力で説明しています(この実験の結晶は、縦横比約1.6のわずかに細長い粒でした)。
次に結晶の「形」。総説は一般論として、細長い結晶どうしが絡み合った組織(インターロック構造)では、亀裂が結晶にぶつかって向きを変えさせられ、進みにくくなると述べています。Hölandらが開発した加圧成形用の二ケイ酸リチウム(曲げ強さ400 MPa)でも、約65%の結晶が絡み合う組織が高い強さの理由とされています。
ただし形の影響は、研究どうしで一致していません。Goharianらの実験では、針状の結晶(200 MPa)より球状の結晶(280 MPa)のほうが高い値で、総説の著者らも「ほかの著者の結果と矛盾する」と書いています。
⑤作り方しだいで、強さは上にも下にも動いた
結晶の量・形・大きさを決める「作り方」の研究を、3つに分けて紹介します。いずれも研究室で作ったガラスでの実験(Liらは総説に組成の記載なし)で、研究ごとに組成も試験法も違います。
ZrO2の添加:Apelらの実験(2段階焼成・二軸曲げ)では、ZrO2なしがサイクルAで786、サイクルBで828 MPa。加えると下がり、4.05 wt%ではサイクルAが479 MPa。サイクルBは2.91 wt%で608 MPaまで下がり、4.05 wt%で694 MPaに戻りました。一方、ジルコニア粒子を混ぜて加圧焼結したHuangらの実験では15 wt%で340 MPaが最高と、結果は一様ではありません。
焼き方:Liらの実験では、2回目の焼成温度を上げるほど結晶が大きくなり、曲げ強さは小さい結晶305、中くらい370、大きい結晶298 MPaと山なりでした。Zhangらの実験では、2段階焼成後に242〜392 MPaだったものが、550℃で3時間の3回目の焼成を足すと562〜611 MPaに上がりました(総説は、内部応力と微小亀裂が解消したためと説明)。
大きい結晶ほど絡み合いは強くなる一方、ガラスとの収縮の差から生じる引張の応力も大きくなる。Liらはこの2つの綱引きで山なりになると考えています。ZrO2についても「核形成剤として働く」「ガラスの骨格に残るだけ」と見解が割れており、総説の著者ら自身が役割は「はっきりしない」と結論しています。
⑥市販品では:焼成の前後と、透光性で数字が変わる
総説の後半は市販品です。まず e.max CAD。ブロックは削りやすいメタケイ酸リチウム(約40%、0.2〜1.0 µmの板状結晶)の状態で供給され、削り出したあと850℃で結晶化させると、約70%の二ケイ酸リチウム(約1.5 µm)に変わります。
e.max CADは結晶化の前が130±60 MPa(破壊靭性0.9〜1.25 MPa·m½)、あとが360±30 MPa(2.0〜2.5 MPa·m½)。ジルコニア強化型ケイ酸リチウムでは、セルトラ デュオが820℃・1.5分のグレーズで210→370 MPa、ビタ スプリニティが840℃・8分の焼成で180→420 MPa(3点曲げ)と紹介されています。
次に透光性。Fonzarらが e.max Press と e.max CAD を透光性ごとに比べた実験では、次の結果でした。
e.max Press は4種の透光性で差がなく、平均344±65.94 MPa。Fonzarらは、加圧の方向に結晶がそろうためと説明しています。一方 CAD は透光性で差が出て、MTが最も高く397.46±62.61 MPa、次いでLT・HT、最も低いのが中程度の不透明(MO)で281±47.94 MPaでした。Fonzarらは結晶が密で小さいことを理由に挙げ、総説は、丸い結晶では絡み合う組織ができにくいと補っています。
総説が紹介するところでは、Fonzarらは自分たちが調べた材料について ISO 6872:2015 の強度区分に照らし、MOを除く材料は300〜500 MPaの範囲でクラス1〜3にあたり、臼歯部の3本ブリッジ(クラス4)や4本以上のブリッジ(クラス5)には勧められないとし、300 MPaを下回るCADのMOはクラス2で単冠向けと位置づけています。臨床で割れた・割れなかったを数えた結果ではなく、曲げ強さの区分からの判断です。
⑦明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・e.max CADは、結晶化焼成を経て約360 MPa(総説が紹介した値)の材料になります。結晶化焼成は仕上げではなく、強さを作る工程だと知っておきたいところです。ただし市販品で焼成条件を変えて比べた検証はこの総説には無いので、焼成条件はメーカーの指示どおりに。
・e.max CADのブロックでは、Fonzarらの実験室データで中程度の不透明(MO)が281 MPaと低めでした(Pressでは透光性による差はありませんでした)。
・ブリッジの適応を考えるときは、Fonzarらが自分たちの調べたe.maxについてISO 6872の強度区分から「臼歯部3本ブリッジには勧められない」とした点(総説が紹介)も頭に置いておきたいところです。
ただし、この総説は臨床での破折率や長期成績を調べたものではありません。製品ごとの焼成条件や適応は、各メーカーの指示に従ってください。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:二ケイ酸リチウム系ガラスセラミックスの曲げ強さ・破壊靭性・弾性率・見た目は、結晶の構造(微細構造)に左右され、その構造は化学組成・核形成剤・添加物・熱処理で決まる。核形成剤のP2O5は1〜1.5 mol%で最も良い機械的性質が得られ、ZrO2は結晶の成長を妨げて強さを下げうる(役割はまだ議論が分かれる)。ただしこれは主に試作ガラスの実験室データを束ねた総説で、臨床での破折率や長期成績は扱っていない。


