骨造成を伴わないインプラント埋入で、予防的な全身投与の抗菌薬を「なし/プラセボ」や別の飲み方と比べたランダム化比較試験15本(2,874人)を統合したコクラン・システマティックレビューの2026年改訂版(Esposito ほか・Cochrane Database of Systematic Reviews)
「埋入の1時間前にアモキシシリンを1回」——そう指示している先生も、何日分か出している先生もいると思います。一方で、抗菌薬には副作用や耐性菌の問題があり、予防投与には慎重論も根強くあります。2008年から改訂を重ねてきたコクランレビューの最新版が、この問いに現時点の答えを出しました。
①結論から——「術前に1回」で、早期の脱落はおそらく減る
先に答えを書きます。骨造成を伴わないインプラント埋入では、予防的な抗菌薬で早期のインプラント脱落がおそらく減る(確実性は中等度)。これがレビューの結論です。
ただし、この根拠の中心は「術前にアモキシシリンを1回(多くは埋入の1時間前に2 g)」と、プラセボ・投与なしを比べた試験です。複数回・長めに飲む方法が上乗せで役に立つのか、ほかの抗菌薬でもよいのかは、まだ分かっていません。
②なぜ、ずっと議論が続いてきたのか
インプラントの失敗の一部は、埋入時に細菌が入り込むことが原因かもしれません。インプラントのような人工物の周りの感染は治療が難しく、撤去になることも少なくありません。
一方で、外科での予防投与が一般に勧められるのは、感染性心内膜炎のリスクがある人、免疫の働きが落ちている人、感染部位の手術、大がかりで長時間の手術、大きな人工物を入れる場合などです。骨造成を伴わない通常の埋入に、副作用や耐性菌のリスクを負ってまで出す価値があるのか——ここが論点でした。
③今回の一手——ランダム化試験15本をまとめ直した
比べたもの: 全身投与の予防的抗菌薬を、①プラセボ・投与なし(10試験)②1回投与と複数回投与(5試験)③術前投与と術後投与(2試験)④アモキシシリン2 gとクリンダマイシン600 mg(1試験)で比較。多くの試験は術前に経口で2 gを1回だった。
評価: 埋入後1年までのインプラントの脱落、上部構造の失敗、術後感染、有害事象。
規模: 15試験・2,874人。2008〜2024年に発表され、欧州・北米・ブラジル・イラン・サウジアラビアで行われた。
質の見方: バイアスのリスクは低い8試験・高い7試験。結果の確実性はGRADEで「高・中等度・低・非常に低」の4段階で示されている。
④結果その一——1000人あたり80人の脱落が、27人に
抗菌薬を使わなかった群では1000人あたり約80人にインプラントの脱落があり、抗菌薬を使った群では約27人でした。リスク比は0.34(95%CI 0.22〜0.53)、統計的な異質性は検出されず(I²=0%)、確実性は中等度です。
言い換えると、19人に抗菌薬を使うと、1人の早期脱落を防げる計算になります(NNTB 19)。
⑤結果その二——上部構造の失敗と術後感染も、おそらく減る
上部構造の失敗はリスク比0.38(95%CI 0.23〜0.60、9研究・1,864人)、術後感染はリスク比0.55(95%CI 0.33〜0.93、10研究・1,919人)。どちらも確実性は中等度で、「おそらく減る」と判定されています。
⑥結果その三——「どう飲むか」は、まだ決着していない
飲み方を比べた試験は数が少なく、判定は「差はほとんどないかもしれない」か「非常に不確実」のどちらかで、確実性は低い〜非常に低いものでした。
- 1回と複数回(5研究・760人):脱落はリスク比0.55(95%CI 0.20〜1.55)、感染は0.57(0.21〜1.50)で、差はほとんどないかもしれない(確実性は低い)。上部構造の失敗は0.17(0.02〜1.44)で非常に不確実
- 術前と術後(2研究・293人):脱落と上部構造の失敗はいずれもリスク比2.12(0.19〜23.06)、感染は0.79(0.18〜3.48)。すべての項目で非常に不確実
- アモキシシリン2 gとクリンダマイシン600 mg(1研究・81人):脱落と上部構造の失敗はいずれもリスク比2.93(0.12〜69.83)、感染は0.98(0.14〜6.59)で、差はほとんどないかもしれない(確実性は低い)
どれも信頼区間が非常に広く、優劣を判断できるだけの情報はまだありません。複数回・長めの投与による上乗せ効果は、示されていないというのが正確なところです。
⑦副作用は?——少ないが、ゼロとは言えない
有害事象は起こること自体が少なく、報告のしかたも試験ごとにまちまちでした。
- 抗菌薬とプラセボ・投与なし:有害事象が出たのは2研究だけで、ほかの7研究ではどちらの群にも起きていない(リスク比0.63、95%CI 0.08〜5.09、9研究・1,900人、確実性は非常に低い)
- 1回と複数回:リスク比0.63(95%CI 0.04〜11.05、3研究・430人、非常に不確実)。複数回投与の群で、入院を要するアレルギー反応が1件
- 術前と術後:有害事象を報告した1研究では、どちらの群にも起きていない(0/25 対 0/25)
- アモキシシリンとクリンダマイシン:有害事象はクリンダマイシン群だけで報告(リスク比0.33、95%CI 0.01〜7.76、1研究・81人)
多くは下痢などの軽いものでした。件数が少ないため、どの比較でも群間の差は判断できず、まれで重い害を否定することもできません。著者らは入院を要した1件を受けて、予防投与は「効果が示され、臨床的に正当化できるときだけ使うべき」と結んでいます。
⑧明日の臨床へ
- 骨造成を伴わない通常の埋入では、「術前に1回」の予防投与で早期脱落がおそらく減る。根拠の中心は、アモキシシリンを術前に1回(多くは埋入の1時間前に2 g)飲む方法と、プラセボ・投与なしを比べた試験です
- 複数回・長めに出すことの上乗せ効果は、今のところ示されていない。日数を増やすなら、その理由を持っておきたいところです
- ペニシリンアレルギーの患者さんで何を選ぶかは、このレビューからは決められません。クリンダマイシンとの比較は1試験・81人だけで、有害事象の報告はクリンダマイシン群のみでした
- 骨造成を同時に行う埋入はレビューの対象外です。抜歯即時埋入は、著者らが今後の研究が必要な領域として挙げています。対象者の全身状態の詳細は、抄録からは分かりません
- 用量は海外の試験での設定です。実際の処方は、国内の添付文書・指針と患者さんの状態に合わせて判断してください
確実性は「中等度」で、試験の約半数(15本中7本)はバイアスのリスクが高いと判定されています。評価は埋入後1年までの早期の成績で、長期の生存率やインプラント周囲炎は対象外です。脱落そのものが1000人あたり80人と多くはないため、19人に1人という数字を、副作用・耐性菌のリスクと天秤にかけて考える必要があります。また、本記事はレビューの抄録と平易な要約をもとに書いており、個々の試験のイベント数や副次解析は全文で確認していません。それでも、「術前1回でおそらく早期脱落が減る」という中等度の確実性の結果は、日々の処方の日数や飲み方を見直すきっかけになります。
今日のひとこと
骨造成を伴わないインプラント埋入では、予防的な抗菌薬によって早期のインプラント脱落がおそらく減る(1000人あたり80人→27人、リスク比0.34、10研究・1,919人、確実性は中等度。19人に投与して1人の脱落を防ぐ計算)。上部構造の失敗(リスク比0.38)と術後感染(リスク比0.55)もおそらく減る。この根拠の中心は「術前にアモキシシリンを1回(多くは1時間前に2 g)」とプラセボ・投与なしを比べた試験だった。一方で、1回と複数回、術前と術後、アモキシシリンとクリンダマイシンの比べ合いは、試験が少なく信頼区間も広いため、優劣を判断できない。有害事象は起こること自体が少なく、群間の差は判断できないが、複数回投与の群で入院を要するアレルギー反応が1件あった。


