イットリア部分安定化ジルコニアについて、焼結時間・着色・熱処理といった製作工程の処理が強度と表面硬さ・相変態に影響するか、また手動コピーミリングの個別アバットメントが既製品と同等の強度と適合をもつかを4本の研究で調べた博士論文(Hjerppe 2010・トゥルク大学)
ジルコニアは強い。だから製作工程の細かな違いは気にしなくていい——本当でしょうか。焼結時間を縮める、液に浸けて色をつける、陶材を焼き付けるために何度も炉に入れる。フィンランド・トゥルク大学の博士論文が、こうした「普段の工程」を1つずつ切り分けて測りました。多くは影響しなかった。ただ、はっきり強度を落とした処理がありました——着色と、引張側に焼き付けた薄い陶材層です。
①「ジルコニアは強いから、工程の違いは気にしなくていい」のか
イットリア部分安定化ジルコニアは、補綴で最もよく使われるセラミック材料のひとつになりました。曲げ強さは800〜1500 MPaと報告され、「とにかく強い材料」という印象があります。
ただ、技工の現場では同じジルコニアでも工程はさまざまです。焼結時間を短縮するプログラムがある。半焼結の段階で着色液に浸けて色をつける。前装陶材を焼き付けるために何度も炉に入れる。そして既製のアバットメントではなく、手動のコピーミリングで個別アバットメントを作ることもある。
フィンランド・トゥルク大学のJenni Hjerppeは、こうした製作工程の処理が材料の性質を変えるのかどうかを、4本の研究に切り分けて調べ、博士論文にまとめました。
②4つの工程を、別々の実験で測る
研究Ⅰ(焼結時間)… 通常(3時間かけて1500℃・2時間保持)と短縮(1時間40分・1時間保持)の円板を、それぞれ半数は5℃/55℃の熱サイクル2万回にかけた(各n=14・厚さ1.6 mm)。
研究Ⅱ(着色)… VitaクラシックのA3・B1・C4・D2・D4の5色の着色液に、メーカー指示の3秒と延長1分浸け、30分乾燥して焼結(各n=10、無着色の対照n=9・厚さ0.8 mm)。
研究Ⅲ(熱処理)… 熱処理の回数(1回・2回)と、10 μm未満の薄いウォッシュ/グレーズ陶材層を引張側または圧縮側に焼き付けた条件(厚さ1.2 mm)。
Ⅰ〜Ⅲはいずれもピストン・オン・スリーボール法の二軸曲げ強さ、ビッカース硬さ、SEM、X線回折(正方晶→単斜晶の相変態)で評価した。
研究Ⅳ(アバットメント)… 既製のAstra ZirDesign・Xive Cerconと、それを手本に手動コピーミリングした個別アバットメントを、45°方向の静的荷重で破壊し、SEMで適合を見た。
③まず、変わらなかったもの——焼結時間と熱処理
研究Ⅰ。焼結時間の短縮も、熱サイクル2万回も、二軸曲げ強さに統計的な差を生じませんでした(p>0.05・各群おおむね1060〜1130 MPa)。ビッカース硬さも1478〜1532で群間差なし。短縮焼結のほうが結晶粒径はやや小さく(平均0.77〜0.83 μm 対 0.98〜1.05 μm)、差は有意ではありませんでした。
ただしX線回折では、熱サイクルと水中保管で表面の単斜晶が増えていました。強度が変わらなかったことから、相変態は表面にとどまったと考えられています。そして短縮焼結の試料のほうが、熱サイクル後の単斜晶の割合が低かった——粒が小さいほど相変態しにくい、という既知の関係と一致する所見です。
研究Ⅲ。熱処理を1回・2回と繰り返すと、二軸曲げ強さはわずかに上がったが有意差はなしでした。著者は、焼結後に削り出す方式では熱処理で強度が落ちるという他の報告を引きつつ、グリーンステージでミリングする方式ではその影響が見られなかったことが、この方式を支持すると書いています。
④結果その二——着色は、3秒でも強度を下げた
無着色の対照は1132(SD 162)MPa。これに対してメーカー指示どおり3秒浸けた群は、A3 898・B1 918・C4 885・D2 897 MPaで、本文は「3秒着色の試料は、無着色の対照より統計的に有意に弱かった」と書いています。浸漬を1分に延ばすとさらに低下し(本文ではp<0.05。ただし表6の記号では同じ色の3秒と1分に差が付いておらず、本文と表で記述が揃っていない)、A3 798・B1 809・C4 793・D2 812 MPaでした。
興味深いのはD4です。3秒で1007 MPaと着色群で最も強く、1分でも934 MPaで、他の色の3秒群と同じ水準にとどまりました。本文は「D4は対照と統計的な差がなかった」と書いていますが、表6に付された有意差の記号は対照(a)とD4 3秒(b)で異なっており、原著の中で記述が揃っていません。いずれにしても「D4だけは下がり方が小さかった」ことは確かです。
理由について著者は、EDX分析でD4の着色液にだけカルシウムが含まれていたことを挙げ、他の色の着色液は浸漬中に構造を膨潤させ、焼結時に気孔や密度低下を招いたのではないかと推測しています。ただし「結晶構造の変化はこの方法では確認できず、さらなる検討が必要」と明記しています。X線回折では、着色による相変態は見られませんでした。
ビッカース硬さは1352〜1481で、A3とD4は他の着色群より有意に低い値でした(浸漬時間は影響せず)。
⑤着色は、寸法まで変えていた
この論文でいちばん臨床に響くのは、強度よりこちらかもしれません。
強さが最も高かったD4と最も低かったC4で寸法変化を測ると、焼結収縮(直径)は無着色が19.8%、着色では19.4〜19.5%と、着色したほうが縮み方が小さく、差は有意でした(p<0.05)。直径にして平均0.08 mmの差です。着色液に浸けた直後は重量が15%増え、焼結後、無着色の対照は着色群より0.12 wt%多く重量が減りました——色素の粒子がジルコニアの結晶構造の中に残っていることを示しています。
著者は考察でこう書いています。「着色した構造物は無着色とは辺縁の精度・適合・セメント層の厚さが異なる。この収縮の差は、構造物が大きいほど大きくなる」。円板試料での差は80 μm。細菌の直径が平均2 μm未満であることを引き、適合の差は小さく保つべきだと述べています。
⑥結果その三——薄い陶材1層が、引張側にあると強度を落とす
研究Ⅲの二軸曲げ強さは553.0〜1019.4 MPaの範囲でした。10 μm未満の薄いウォッシュ/グレーズ陶材を引張側に焼き付けると、強度が有意に低下しました。同じ層を圧縮側に置くと、対照と同じ水準でした。
著者の説明はこうです。焼結前の研削で表面に残った微小な傷に、溶けたウォッシュやグレーズが粘弾性の液体として入り込み、冷却で固まる際に熱膨張の違いから応力を抱え込む。それが割れの起点になりやすい——という推測です。X線回折でも、反対側にコーティングした熱処理試料の表面に小さな単斜晶のピークが見られました。SEMでは、薄い層にもかかわらず陶材層の剥離が観察されています。
研究Ⅳ。個別コピーミリングのアバットメントは、既製品と同等の最終破壊荷重を示しました(群1〜5で412〜624 N・有意差なし。短く体積の大きい改良型のみ1099 Nと有意に高い)。ただし適合は既製品ほど満足できるとは限らず(形を変えた2群で辺縁の隙間が有意に広い)、コピーミリングの一部では辺縁の隙間が22 μmまで広がったとされています。破壊様式はインプラントのデザインに依存し、アバットメントスクリューの曲がりも観察されました。
⑦明日の臨床へ
②色によって下がり方が違う。この研究ではD4の低下が最も小さかった。技工所に使う着色液と浸漬時間を確認する意味はある。
③着色は焼結収縮を変える。無着色19.8%に対して19.4〜19.5%。ブリッジのように大きな構造物ほど差が大きくなる。適合の確認を省かない。
④前装やグレーズの位置に意識を向ける。薄い層でも、引張側にあると強度が落ちた。円板試験の結果なので実際の補綴物にそのまま当てはまるとは限らないが、引張がかかる面にどう陶材を置くかは技工所と話題にする価値がある(ここは筆者の推論)。
⑤焼結時間の短縮・熱処理の繰り返しは、この方式では強度を落とさなかった。ただしグリーンステージでミリングしてから焼結する方式での結果であり、焼結後に削り出す方式には当てはまらない可能性がある。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
焼結時間を縮めても、熱サイクル2万回をかけても、二軸曲げ強さは変わらなかった(研究Ⅰ・p>0.05)。熱処理を繰り返しても変わらなかった(研究Ⅲ)。強度をはっきり下げたのは着色だった。無着色の対照が1132(SD 162)MPaだったのに対し、メーカー指示どおり3秒浸けただけで、A3・B1・C4・D2は885〜918 MPaに低下し、3秒着色群は対照より有意に弱かった(本文)。浸漬を1分に延ばすとさらに下がり、793〜812 MPa。例外はD4で、3秒では1007 MPaと着色群で最も強く、本文は「対照と統計的な差がなかった」と書いている(ただし表6の有意差記号は対照と異なっており、原著内で記述が揃っていない)。着色は寸法も変えた。焼結収縮が無着色の19.8%から着色では19.4〜19.5%に減り(p<0.05)、直径で平均0.08 mmの差になった。一方で引張側に10 μm未満の薄いウォッシュ/グレーズ陶材を焼き付けただけで強度は有意に低下し、同じ層を圧縮側に置いた場合は対照と同等だった。個別コピーミリングのアバットメントは破壊荷重が群1〜5では412〜624 Nで既製品と有意差がなく(短く体積の大きい改良型は1099 Nと有意に高い)が、辺縁の隙間は形を変えた2群で既製品より有意に広く、適合は既製品ほど満足できるとは限らなかった。


