う蝕検知液の染色性を指標にう蝕象牙質を段階的に削除し、削除面直下の細菌の残存と、その面へのレジン浸入の深さ・形を同じ歯の中で照合した研究(福島正義 1981・口腔病学会雑誌)
う蝕検知液で染めて、赤いところを削る。染めて、削る。ピンクになり、淡いピンクになり、やがて染まらなくなる——どこまで削ればよいのでしょうか。45年前、新潟大学の福島正義先生が、この問いを「細菌がどこまでいるか」と「レジンがどこまで入るか」の両方から同時に測りました。著者の答えは、赤が消えた時点では足りず、「淡いピンク」までは必ず削る、というものでした。
①赤が消えたら止める、で合っているのか
う蝕検知液は、総山らがう蝕象牙質第1層(細菌感染があり再石灰化しない死層)と第2層(脱灰しているが感染のない生層)を臨床的に見分けるために開発したものです。総山の臨床指針は明快で、赤染する第1層のみを削除し、赤染しない第2層や正常象牙質は極力保存すべきというものでした。私たちもそう習っています。
では、赤が消えた時点で止めて、本当に細菌は取り切れているのでしょうか。そして、そこにレジンはどれだけ入るのでしょうか。
1981年、新潟大学の福島正義先生が、この2つを同じ歯の中で同時に測りました。染色と削除を繰り返しながら、各段階の削除面について①直下に細菌が残っているか(顕微X線+Brown-Brenn細菌染色)と、②その面にレジンがどこまで、どんな形で入るか(SEM)を照合したのです。
②染めて、削って、また染める——5〜10回
う窩を開拡し、軟化崩壊部を粗く取ったあと、検知液を5〜10秒滴下して水洗し、赤く染まった部分だけを低速ラウンドバーで削除。これを染色性がピンク染ないし不染になるまで5〜10回繰り返した(染色液は生活歯・新鮮抜去歯に1.0%アシッドレッド液〔カリエスディテクターF〕、長期保存抜去歯に自家調製の0.5%塩基性フクシン液)。検知液に染まりにくい硬い自然着色部は、あえて残した歯と、着色そのものを指標に徹底除去した歯の両方を作った。
全面を60秒酸蝕してボンディング剤+クリアフィルコンポジットレジンを充填し、歯を半切して片方は組織像(未脱灰研磨標本・顕微X線・細菌染色)、もう片方は脱灰してレジンタグだけを取り出しSEM観察にまわした。対照は、矯正等で抜去予定の生活健全歯6本(口腔内で処置してから抜去)と、埋伏・智歯周囲炎で抜去された新鮮健全第三大臼歯に深さ約1.5〜2.0 mmのⅠ級窩洞を形成したもの。
1本の歯を、組織学とレジンタグの両方から同時に見る。この設計が、この論文を単なる「検知液の使い方」の話から引き上げています。
③結果その一——赤が消えても、また染まりにくい着色部でも、細菌は残っていることがある
著者の結論2は、こう書かれています。「細菌の残存は検知液赤染部および、一部のピンク染部で認められたのに対し、淡いピンク染部および不染部では全く認められなかった」。
赤く濃染したまま残した部分の直下は、顕微X線で高度に脱灰しており、明瞭に細菌が残存していました。ピンク染部を残した代表例では、グラム陽性菌が深さ約140 μmまで確認されました——著者は「それ以外の広域の脱灰層には細菌が全く存在していない」ことも併記していますが、臨床的考察では「その一部にわずかな細菌の残置が認められた」ことを根拠に、止める場所を1段深くしています。
そして、もう1つ背筋が伸びる所見が硬い自然着色部です。検知液の染色性が不明瞭で、スチールバーが滑るほど硬い着色部を残した例では、窩底から約1.4 mmの深さまで細菌が残存していました。著者はこれを「検知液に染まりにくい硬い自然着色部は、細菌感染のある脱灰層であり」と結論3で明記し、臨床的考察では「自然着色部はやはり完全に削除されるべきである」と断定しています。慢性う蝕では検知液に頼らず、自然着色そのものを指標に削除したほうが能率的だとも書かれています。実際、着色を指標に徹底除去すれば窩底は透明層に達し、細菌は完全に取り除かれていました。
④結果その二——レジンは、染まる層と自然着色部には深く、不染の透明層には浅い
レジンの浸入は、細菌とちょうど逆の分布を描きました。著者は臨床的考察で、染色所見ごとの結果を表1にまとめています(上の図2)。
SEMで実際に観察された例では、ピンクに染まる面(明らかな脱灰層)や自然着色を残した面の窩底部に、数百μmの長いレジンタグが毛髪状に密に分布し、なかには500 μm以上のものもありました。ピンク染部のタグは太さ1.5 μmほどで表面が比較的滑沢で、側枝にまで浸入しているものが多く観察されています。自然着色部のタグは1.0〜1.5 μmで表面がより粗造でした。
一方、検知液に染まらなくなるまで削った面や、自然着色を完全に除去した面では、レジンの浸入はわずかでした(結論4)。特徴的だったのは10 μm前後の長さで、外径3〜4 μm・内径約1.5 μmの「管腔状」あるいは管腔の中に細い突起を持つタグ。ほかに太さ1.0〜1.5 μmで表面が粗造な100 μm前後のタグも混在していました。
なぜ短いのか。著者は透明層を別に取り出してSEMで観察しています。透明層の中層部では象牙細管がほとんど閉塞ないし狭窄しており、60秒酸蝕すると直径3〜4 μmに開口するものの、中に1〜1.5 μmの円筒状・円柱状の構造物が溶解せずに残っていました。レジンはこの細管内構造物を包み込むようにして管周象牙質相当部へ浸入硬化し、管腔状のタグを形成した——著者は模式図まで描いてこれを説明しています。
ただし透明層の表層部では様子が違います。石灰沈着のみられる細管と脱灰変化を受けた細管が混在しており、後者にレジンが入って100 μm前後の比較的長いタグができた、というのが著者の解釈です。透明層は一様ではないということです。そして、そのさらに下層の透明層については「明らかに物質の透過性を阻止する能力を持っているものと推測しうる」——歯髄保護上の重要な意義がある、と結ばれています。
⑤そして著者は、削った歯からレジンが落ちるのを見てしまった
この論文でいちばん鮮烈なのは、統計でも数値でもなく、著者が標本を作りながら偶然気づいた事実です。
ここで脱落しなかったのは「ウ蝕検知液で明らかに染まる脱灰層」を残した歯です。著者はここから「象牙質内へ浸入硬化したレジンが、レジン修復物の保持に大きく関与していることは明らかである」と踏み込みます。同教室の佐藤らの実験も引かれていて、Bis-GMA系コンポジットレジンは酸蝕象牙質に25 kg/cm²前後の接着力を示し、固有のボンディング剤を併用すると約2倍の50 kg/cm²に向上した。そして同じ条件で電顕像を見ると、コンポジットレジン単味では10〜20 μm、ボンディング剤併用では数百μmのタグだった——「象牙質接着性には象牙質内レジンタグがかなりの要素を持っている」。
ただし著者は、タグ万能論には立ちません。「レジンタグが形成されても、レジン材そのものに歯質、とくに象牙質接着性という特性を有していなければ、タグは修復物保持の単なる補助的効果しか示さず、前述のように冷熱刺激や水分浸入などで、容易に結合が破壊されてしまうであろう」。象牙質接着性はレジン自体の化学的親和性とタグの様態の二者に依存する、というのがこの論文の立場です。
⑥著者の考察——淡いピンクまでは是非とも削る。残すなら、それは接着のための一方法
2つの所見を重ねると、細菌が認められず、かつレジンが深く(表1で「深>100 μm」)入る層——それが淡くピンクに染まる、細菌感染のない脱灰層です。ただし、淡いピンク部だけを取り出したSEM像は論文に載っておらず、数百μmのタグが実際に観察されたのはピンク染部と自然着色部です。
ここで押さえておきたいのは、著者が「不染まで削る」ことを否定していない点です。臨床的考察の冒頭は「その目的を達成するためには、ウ蝕検知液を指標にして、ウ窩が全く染まらなくなるまで染色削除を繰り返せば良いことが再確認された」で、問題にしているのは数回から10数回の染色削除が必要で、相当な時間が消費されることです。そのうえで、感染象牙質を取り除くには淡いピンクまでは是非とも削る必要があるとし、接着の観点から次の結論を置いています。
臨床的考察はさらに踏み込む。「従来の保存修復学の原則からいえば、修復物は強固な歯質の上に置かれるべきであるけれども、象牙質接着性レジンを用いる修復においては、レジンが細管壁と緊密に接着することと、脱灰歯質がレジンで補強されることを期待して、細菌のない脱灰層を残置したままでレジン修復が行われることも一方法であると考えられる。」
もうひとつ、この論文には教科書的な理解を揺さぶる指摘があります。う窩の側から染色・削除を厳密に繰り返すと、脱灰層はすべて除去されてしまい、総山のいう「ウ蝕象牙質第2層」に相当するものは見あたらなかった——強いて第2層を求めるなら、検知液に淡くピンクに染まる細菌の全く認められない脱灰層がそれに該当する、と著者は書いています。さらに、その層のレジンタグの所見から「ウ蝕象牙質第2層がその象牙細管内に象牙芽細胞突起を有し、生きている層であるとは考え難い」とも述べています。第2層の概念そのものに、この論文は疑問符を打っているのです。
⑦明日の臨床へ
②不染まで削るのも正しい。ただし接着の面では不利になる。著者は「全く染まらなくなるまで染色削除を繰り返せば良いことが再確認された」とも書いている。一方、不染=透明層まで削るとレジンの浸入は浅く、研磨薄片を作る途中でレジンが脱落した歯もあった。淡いピンクで残すのは、接着を考えた「一方法」という位置づけ。
③染色・削除は5〜10回かかる。著者も「この処置だけで相当な時間が消費される」と正直に書いている。1回染めて赤を取って終わり、では届かない。
④硬い自然着色部は別扱い。検知液に染まりにくいが、細菌感染のある脱灰層で、この研究では約1.4 mmの深さまで細菌がいた。慢性う蝕では自然着色そのものを指標に、完全に削除する。
⑤脱灰層と透明層の境界は、平面ではない。著者は両層が鋸歯状に入り組んでいると書いている。染色部を皿状に一律に削る方法では脱灰層がわずかに残るのはやむを得ず、無理に取ろうとすれば周囲の透明層を犠牲にする。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
1981年、中等度う蝕のヒト臼歯の組織標本(代表例の記述)で、細菌の残存は赤染部と一部のピンク染部で認められ、淡いピンク染部と不染部ではまったく認められなかった(結論2)。だから著者は「赤染する象牙質を除去するのみでは感染象牙質を取り残す危険性が極めて高い」とし、「細菌が全く認められなかった淡くピンクに染まる状態にまで、削除を繰り返すことが感染象牙質の除去にとって是非とも必要である」と書く。一方レジンは、表1で赤染・ピンク染・淡いピンク染・自然着色の各部が「深>100 μm」、不染部が「浅<100 μm」とまとめられ、ピンク染部と自然着色部のSEMでは数百μm(なかには500 μm以上)のタグが観察された。著者の結論7は「レジンの象牙質に対する接着性を向上させるために、検知液で淡くピンクに染まる細菌感染のない脱灰層を残置し、全酸蝕を行うことは有効な方法であると考えられる」。ただし著者は、全く染まらなくなるまで染色削除を繰り返せば感染象牙質を除去できることも再確認しており、淡いピンクで残すのは接着を考えた「一方法」という位置づけである。硬くて検知液に染まりにくい自然着色部は、窩底から約1.4 mmの深さまで細菌が残っており「やはり完全に削除されるべき」とされた。


