根面う蝕を予防するフッ化物(プロフェッショナルケア5種・セルフケア7種)を、直接比較と間接比較を束ねたネットワークメタアナリシスで順位づけした系統的レビュー(Zhang 2020・J Dent Res)
歯肉が下がって根面が見えてきた高齢の患者さん。サホライド、フッ化物バーニッシュ、APFゲル、家では歯磨剤に洗口液——どれも「効く」と言われますが、並べて比べた研究はほとんどありません。香港大学のグループが、間接比較まで束ねてひとつの順位表にしました。読みどころは、順位そのものより「順位の読み方」です。
①根面が見えてきた高齢の患者さんに、何を出すか
歯肉が下がって、根面が露出している。プラークコントロールはそこそこ。「じゃあ何を使いましょうか」——ここで手が止まる場面は、少なくないはずです。
サホライド(38% SDF)。フッ化物バーニッシュ。APFゲル。家では高濃度歯磨剤、洗口液。どれも「効く」と言われているけれど、並べて比べた研究がほとんどない。直接比較のランダム化試験が組まれていない組み合わせが多いからです。
香港大学のグループが、そこにネットワークメタアナリシス(NMA)を持ち込みました。直接比較だけでなく、「AとC」「BとC」から「AとB」を推定する間接比較も束ねて、順位表を作る手法です。根面う蝕の予防でこれをやったのは、この論文が初めてでした。
②9本の臨床試験・4,030人を、ひとつの網に束ねる
NMAの利点は、直接比較が存在しない組み合わせにも推定値を出せることです。たとえば5% NaFバーニッシュの根面う蝕予防を調べたランダム化試験は1本しかなく、従来のメタ解析では扱えませんでした。この手法なら網に載せられます。
③結果——プロケアは順位が出ても、差は出ていない
まずプロフェッショナルケア。5つすべてが、対照群より根面う蝕の増加を抑えていました。なお原著が数値の範囲を示しているのはこのうち3剤についてで、38% SDF・5% NaFバーニッシュ・1.2% APF が、2年時点で平均DF-rootにして 0.59〜0.85 の減少と報告されています(SDF+口腔衛生指導、SDF+ヨウ化カリウムの2つについては、この範囲の中で個別の値が示されていません)。
順位のトップは、38% SDFの年1回塗布+口腔衛生指導。以下、SDF単独 → 5% NaFバーニッシュ年4回 → 1.2% APFゲル年2回 → SDF+ヨウ化カリウム(KI)年1回、と続きます。
ここで、いちばん大事な一文。「5つの間に、統計学的に有意な差はなかった」のです。順位は付いたけれど、2位以下より1位が優れていることは示されていません。
次にセルフケア。1年時点で対照より有意に良かったのは、7つのうち3つだけでした——①1100〜1500 ppmのフッ化物配合歯磨剤(毎日)②その歯磨剤+0.05% NaF洗口液 ③0.2% NaF洗口液(毎日)。減少幅は平均DF-rootで0.29〜1.90と、こちらは幅が広い。
順位の1位は0.2% NaF洗口液で、0.05% NaF洗口液より有意に優れていました。また歯磨剤+0.05%洗口液の併用は、歯磨剤単独・歯磨剤+NaF錠剤・歯磨剤スラリー洗口・0.05%洗口液単独の4つより増加量が少なく、こちらははっきり差がついています。
面白いのは最下位です。0.05% NaF洗口液の単独使用が、セルフケア7つのうち最も低い順位でした。薄い洗口液を単独で使うより、歯磨剤に足すほうが理にかなっている、という並びになっています。
④「1位」の読み方を間違えない
SUCRAは、「最良の介入である確率」を1万回のリサンプリングで見積もった指標です。順位が付くので分かりやすいのですが、順位差=有効性の差ではありません。
実際、著者らはセルフケアの1位についてこう書いています。「0.2% NaF洗口液が最も効果的である可能性が高い。しかし、このエビデンスの確実性のレベルは低い」。
理由も明かされています。洗口液の研究では、参加者のフッ化物配合歯磨剤の使用が管理されていなかった——使っていた人と使っていなかった人が混ざっており、その交絡の程度は報告されていない。つまり洗口液単独の効果を、きれいには取り出せていません。
そしてGRADE評価。確実性は「非常に低い」から「中程度」までに分布し、プロフェッショナルケアでは15の比較のうち8つが「中程度」。セルフケアにいたっては、「中程度」に届いたのは0.05% NaF洗口液と対照の直接比較だけでした。
もうひとつ構造的な弱点があります。セルフケアの7つの方法のうち6つは、根拠となる臨床試験が1本ずつしかない。網の目が細いのです。著者ら自身が「これがこのレビューから導ける結論の強さを制限している」と書いています。
⑤明日の臨床へ
①プロケアは「順位」より「使えるか」で選んでよい。5つの間に有意差がないのだから、手に入る道具・患者さんの受け入れ・費用で決めて構いません。著者らも「SDFが手に入らない場所では、5% NaFバーニッシュの年4回塗布が選択肢になるべきだ」と明記しています。
②SDFを使うなら、口腔衛生指導とセットで。1位はSDF単独ではなくSDF+口腔衛生指導でした。有意差はないとはいえ、確率の上では指導を足したほうが上に来ています。塗って終わりにしない。
③KIの追加が予防効果を上げるという根拠は、この解析からは出てこない。SDF+KIは順位(SUCRA)では5つの最下位でした。ただしSDF+KIも対照より有効であり、SDF単独に劣ることが示されたわけでもありません(5つの間に有意差はないので)。KIは着色を抑える目的で足されるものですから、審美のために使う選択はあってよい——「予防効果が上乗せされるから」という理由づけだけが、この解析では支持されない、という整理です。
④家でのフッ化物は、歯磨剤を土台に「足す」。0.05%洗口液の単独が最下位で、歯磨剤に足した併用が2位。洗口液は歯磨剤の代わりではなく上乗せ、という順番が数字にも出ています。0.2%洗口液は1位ですが確実性は低いので、強く推すより「選択肢のひとつ」として案内するのが誠実でしょう。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
プロフェッショナルケアは5つすべてが対照より根面う蝕を減らし、順位の1位は38% SDF年1回+口腔衛生指導だった。ただし5つの間に統計学的な有意差はない——順位(SUCRA)は「最も効果的である確率」であって、優劣の証明ではない。原著が数値を示しているのは3剤で、38% SDF・5% NaFバーニッシュ・1.2% APF が2年時点で平均DF-root 0.59〜0.85の減少。セルフケアで対照より有意に良かったのは7つのうち3つ(1100〜1500 ppm歯磨剤・歯磨剤+0.05% NaF洗口液・0.2% NaF洗口液)で、この3つは順位でいうと1位・2位・6位に散らばっており「上位=有意」ではない。1位は0.2% NaF洗口液だが、その根拠の確実性は「低い」うえ、7つのうち6つは支える臨床試験が1本しかない。実務としては、プロケアは5つに有意差がないのだから手に入る道具で選んでよく、SDFを使うなら口腔衛生指導とセットで。SDF+KIは順位こそ最下位だが対照より有効ではあり、示されていないのは「KIによる予防の上乗せ」のほう。家では洗口液を歯磨剤の代わりにせず、上乗せとして足す。


