1問1答 論文 保存修復

削っていないエナメル質に、セルフエッチは効いていなかった——SEMに脱灰の跡が無い

1問1答 論文 保存修復

ユニバーサルアドヒーシブ3種と従来型セルフエッチ2種を、削った/削っていないエナメル質でセルフエッチモードとエッチ&リンスモードで比べた研究(Takeda 2019・Eur J Oral Sci)

シーラント、正中離開の閉鎖、破折歯の修復。削らないエナメル質にレジンを載せる場面は、思っているより多くあります。ユニバーサルアドヒーシブは「セルフエッチでもいける」と謳いますが、その検証はほとんど削って平らにした面で行われてきました。日本大学と米クレイトン大学のグループが、削っていない面で測り直しました。

論文
Immediate enamel bond strength of universal adhesives to unground and ground surfaces in different etching modes
著者
Takeda M, Takamizawa T, Imai A, Suzuki T, Tsujimoto A, Barkmeier WW, Latta MA, Miyazaki M
掲載
European Journal of Oral Sciences 2019;127(4):351-360(doi:10.1111/eos.12626)
種類
in vitro(ヒト下顎前歯200本・ISO 29022準拠のせん断接着試験・各群n=10+SEM観察)
PMID
31206905

削っていないエナメル質に、レジンを載せる場面

小窩裂溝填塞。正中離開の閉鎖。破折した前歯の修復。ベベルを越えて広がった充填の辺縁。

削っていないエナメル質にレジンを載せる場面は、思っているより多くあります。

ところが、私たちが接着強さの根拠にしている実験の大半は、#320のカーボランダム紙で平らに削った面で行われています。標準化しやすいからです。面積が揃い、応力が均等にかかる。

臨床のエナメル質の外側は、そうではありません。プリズム構造がはっきりしない、あるいはまったく無い層——無小柱エナメル質(プリズムレス層)に覆われています。

ユニバーサルアドヒーシブは「セルフエッチでもエッチ&リンスでも使える」と謳います。では、削っていないエナメル質ではどうなのか。日本大学と米クレイトン大学のグループが、200本のヒト下顎前歯で確かめました。

4つの条件で測り分ける

方法: ヒト下顎前歯200本を用い、①非切削エナメル×セルフエッチ ②切削エナメル×セルフエッチ ③非切削エナメル×エッチ&リンス ④切削エナメル×エッチ&リンスの4条件を作った。切削は#320カーボランダム紙、エッチ&リンスはリン酸15秒→水洗15秒→乾燥。接着材はユニバーサル3種(クリアフィル ユニバーサルボンド Quick/スコッチボンド ユニバーサル/プライム&ボンド ユニバーサル)と、比較用の2ステップセルフエッチ(クリアフィルSEボンド)1ステップセルフエッチ(ゼノJP)の計5製品。ISO 29022準拠のノッチドエッジせん断接着試験(各群n=10)で、37℃蒸留水24時間保管後に測定した。あわせてSEMで処理面と接着界面を観察し、破断様式も分類している。

結果——リン酸を足すと、削っていない面が削った面に追いつく

0 16.7 33.3 50 せん断接着強さ SBS (MPa) 42.2 19.1 41.2 21.8 40.8 18.4 43.1 21.2 41.3 14 クリアフィルUQ スコッチボンドU プライム&ボンドU クリアフィルSE ゼノJP リン酸15秒あり セルフエッチのみ 非切削(削っていない)エナメル質での接着強さ。濃い棒=リン酸前処理あり、淡い棒=セルフエッチのみ(各n=10)。ティール=ユニバーサルアドヒーシブ3種、グレー=比較用の従来型セルフエッチ(2ステップのクリアフィルSEボンドと1ステップのゼノJP)。前処理の有無による差は全製品で有意(p<0.05)
非切削エナメル質での接着強さ。リン酸前処理の有無(各n=10)

非切削エナメル質でセルフエッチモードのまま接着すると、14.0〜21.8 MPa。ところがリン酸で15秒前処理すると、40.8〜43.1 MPaへ。倍率は製品で幅があり、約1.9倍(スコッチボンド ユニバーサル)から約3.0倍(ゼノJP)、平均で約2.2倍です。この差は5製品すべてで有意でした。

そして重要なのは、こちらです。エッチ&リンスモードでは、非切削(40.8〜43.1)と切削(39.5〜43.3)のあいだに、どの製品でも有意差がありませんでした。リン酸を1本足すだけで、削っていない面が削った面と同じ土俵に乗る。

0 16.7 33.3 50 せん断接着強さ SBS (MPa) 26.8 19.1 28.5 21.8 25.6 18.4 34.5 21.2 23.1 14 クリアフィルUQ スコッチボンドU プライム&ボンドU クリアフィルSE ゼノJP 切削エナメル 非切削エナメル セルフエッチモード(リン酸前処理なし)だけを取り出し、削った面(濃い棒)と削っていない面(淡い棒)を比べたもの。5製品すべてで非切削のほうが低い。なおエッチ&リンスモードでは、この非切削と切削の差はどの製品でも有意でなくなる
セルフエッチモードだけを取り出した比較。5製品すべてで非切削のほうが低い

セルフエッチモードでは、5製品すべてで非切削のほうが低いという結果でした(非切削14.0〜21.8/切削23.1〜34.5 MPa)。削った面で測った数字を、削らない面にそのまま持ち込めないということです。

製品間の比較では、非切削×セルフエッチの条件でユニバーサル3種とクリアフィルSEボンドに有意差はなく、1ステップのゼノJP(14.0 MPa)だけが低いという結果でした。一方、切削×セルフエッチでは2ステップのクリアフィルSEボンドが34.5 MPaで、他の4製品より接着強さが有意に高いという結果でした(この条件では1ステップのゼノJP 23.1 MPaが他より有意に低いことも報告されています)。

SEMが見せた理由——エッチングされていない

なぜここまで差がつくのか。SEM像がはっきり答えています。

SEM所見: 非切削エナメル質にセルフエッチをかけた面には、どの接着材でも「脱灰の明らかな徴候が見られなかった」。表面は処理前の滑らかな面のままだった。一方、非切削エナメルにリン酸をかけた面は、プリズムレス層が完全には除去されないため Silverstone の分類には当てはめにくかったと著者らは書いている——そのうえで、同じ領域にタイプIのエッチングパターン(エナメル小柱が脱灰され、小柱間物質が残る型)が観察されたとしている。切削面では、リン酸でスミヤー層が完全に溶解し、タイプIIのパターン(小柱間物質が脱灰され、小柱が残る型)が観察された。

接着が弱かったのではありません。そもそもエッチングが起きていなかった。

破断様式のデータも同じことを言っています。セルフエッチモードでは、非切削・切削を問わず、全試料が界面破壊(接着材とエナメル質の境目での剥離)でした。ところがエッチ&リンスモードでは、混合破壊とエナメル質そのものの凝集破壊が現れる。エナメル質が壊れるまで接着が保っていた、ということです。

著者らが挙げる理由は3つです。①ユニバーサル系のセルフエッチモードはpH 2.3〜2.7のマイルド〜ウルトラマイルドで、酸性度が足りない ②非切削のエナメル最表層はCa/P比が低い ③プリズムレス層そのものがモノマーの浸透障壁になる——先行研究では、非切削面へのモノマー浸透深さがほぼ0〜400nmだったのに対し、切削面では500nm〜1.5µmだったと報告されています。MDPが作る化学結合はエナメル質では象牙質より弱いことも、著者らが引用しています。

明日の臨床へ

①削っていないエナメル質が接着面に含まれるなら、リン酸を使う。シーラント、正中離開の閉鎖、破折歯の修復、ベベルを越える辺縁。この研究の結論は「非切削エナメル面にセルフエッチ接着材を使う前のリン酸前処理は、初期のエナメル接着を高めるために必須である」です——原著は結語に initial と書いており、耐久性まで含めた話ではありません。

②「セルフエッチでもいける」を、面の状態抜きで受け取らない。ユニバーサルアドヒーシブの柔軟性は、モードを選べることにあります。選べる、は「どちらでも同じ」ではありません。

③選択的エッチング(エナメルだけリン酸)が、この結果とよく噛み合う。象牙質はセルフエッチのまま術後知覚過敏のリスクを抑え、エナメル質にだけリン酸をかける。この研究は、その「エナメル質にだけ」の根拠を非切削面まで広げたものと読めます。

④切削面ではやはり2ステップが強い。切削×セルフエッチでクリアフィルSEボンドが34.5 MPaと頭ひとつ抜けていました。ユニバーサルの利便性と、2ステップの接着力。どちらを取るかは症例で変わります。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 これはin vitroの研究で、しかも測っているのは24時間後の「即時」接着強さです。タイトルにもimmediateと入っています。耐久試験(熱サイクル・長期水中保管)は行われていません——この研究が答えていないのは「その差が何年もつか」です。エッチ&リンスのエナメル接着は耐久性が高いと一般に言われていますが、それはこの実験の結果ではなく先行研究の話です。試料はヒト下顎前歯で、しかも重度歯周炎などの理由で抜歯された歯——臼歯の咬合面や小窩裂溝のエナメル質と同じとは限りません。せん断試験は応力集中の影響を受けやすく、微小引張試験とは値の意味が違います。各群n=10で、事前の検出力分析では9本あれば足りるとされていますが、製品間の細かい順位を読むには十分とは言えません。また、5製品はすべて条件を揃えるためメーカー指示どおりに使われていますが、塗布時間・擦り込みの有無が製品ごとに違う(10秒静置と20秒擦り込みが混在)ため、製品間の直接比較には注意が要ります。それでも——SEMに脱灰の跡が写っていなかったという一枚の事実は、数字より雄弁です。効いていないものは、効いていない。リン酸を1本足すかどうかで、削っていないエナメル質の接着は平均で約2.2倍変わる。明日から使える結論としては、これで十分だと思います。

今日のひとこと

非切削エナメル質にセルフエッチモードで接着すると、5製品すべてで削った面より接着強さが低かった(非切削14.0〜21.8 MPa/切削23.1〜34.5 MPa)。ところがリン酸で15秒前処理すると、非切削でも40.8〜43.1 MPaまで上がり、削った面(39.5〜43.3 MPa)との差は消える。SEMでは、非切削エナメルにセルフエッチをかけた面に脱灰の徴候がまったく見られなかった——接着が弱いのではなく、そもそもエッチングされていない。破断様式も、セルフエッチモードでは全試料が界面破壊だったのに対し、エッチ&リンスでは混合破壊とエナメル質の凝集破壊が現れた。

Takeda M, Takamizawa T, Imai A, Suzuki T, Tsujimoto A, Barkmeier WW, Latta MA, Miyazaki M. Immediate enamel bond strength of universal adhesives to unground and ground surfaces in different etching modes. Eur J Oral Sci. 2019;127(4):351-360. doi:10.1111/eos.12626 PMID: 31206905
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。