1問1答 論文 保存修復

収縮量がいちばん大きかった材料が、唯一ギャップを作らなかった——4mm窩底のリアルタイム観察

1問1答 論文 保存修復

4mm深さの窩洞にバルクフィルレジンを一括充填し、光照射中の窩底で何が起きているかをOCTでリアルタイム撮影した研究(Hayashi 2019・Dental Materials)

バルクフィルは4mmを一度に詰められる。カタログにはそう書いてあります。では、その4mmの底で、光を当てている数秒のあいだに何が起きているのか。東京医科歯科大学とワシントン大学のグループが、OCT(光干渉断層計)で断面を動画のまま撮りました。ソニックフィルでは、ギャップが照射開始から3秒後に窩洞の隅から生まれ、2秒で窩底を走り抜けていました。

論文
Real-time in-depth imaging of gap formation in bulk-fill resin composites
著者
Hayashi J, Espigares J, Takagaki T, Shimada Y, Tagami J, Numata T, Chan D, Sadr A
掲載
Dental Materials 2019;35(4):585-596(doi:10.1016/j.dental.2019.01.020)
種類
in vitro(swept-source OCTによるリアルタイム観察・材料5種・各n=10)
PMID
30819550

「4mm一括」と書いてある。その底で何が起きているか

バルクフィルレジンは、4mmを一度に詰められる。カタログにはそう書いてあります。低収縮、高い光透過性、十分な重合度——謳い文句も揃っています。

私たちが確かめられるのは、詰め終わったあとの見た目だけです。光を当てている40秒のあいだ、窩底で何が起きているのかは見えません。

断面を切って顕微鏡で見る方法はありますが、切って磨く過程そのものが人工的な隙間を作ってしまう。それに、切った断面は「結果」であって、いつ・どうやってその隙間ができたかは教えてくれません。

東京医科歯科大学とワシントン大学のグループは、OCT(光干渉断層計)で窩底の断面を動画のまま撮るという方法を採りました。近赤外光で内部構造を非破壊に見る装置です。読み終えて、材料選びの物差しがひとつ増えました。

撮り方

方法: レジンブロックに直径3mm・深さ4mmの円柱窩洞(C-factor 4.98)を形成し、サンドブラスト+シランとMDP配合プライマー+ボンディングで強固に接着させた。ここへ5種類の材料を一括充填し、ハロゲン照射器(600 mW/cm²)で40秒照射しながら、スウェプトソースOCT(波長1330nm・30kHz)で断面を連続撮影した。材料は——光重合型バルクフィル3種(テトリックN-セラム バルクフィル、ソニックフィル、シュアフィルSDR)、デュアルキュア型バルクフィル(バルクEZ)、比較用の支台築造用レジン(クリアフィル フォトコア)。各n=10。バルクEZだけは説明書どおり充填後90秒待ってから照射している。照射直後に3Dスキャンし、窩底の封鎖面積率(SFA%)を算出。別に、接着したチューブの上下自由面の変形から体積収縮率(VS%)を測り、マイクロラマン分光で4mm深部と表層の重合度比(DC-R%)も測定した。

OCTで見えた高輝度の線が本当にギャップかどうかは、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)で照合して確認されています。

動画に映っていたもの——3秒で始まり、2秒で走り抜ける

まず、時間の話から。ギャップは照射開始から数秒後、窩洞の内側の隅(line angle)に現れ、窩洞の中心へ向かって進んでいきました。ただし発生の時刻も、広がる範囲も、進む速さも、材料によって違います——ここは原著が明記しているところです。

いちばん激しかったソニックフィルでは、照射3秒後に隅から始まり、約2秒で窩底全体へ。シュアフィルSDRでは4秒後に両隅から始まり、2秒で窩底の約65%まで進行してそこで止まりました。その後、横方向の進行が止まったあと、高輝度の線が二重線に変わりました——ギャップが横に広がるのをやめて、縦に開き始めたということです。

ギャップができた場所: 剥がれていたのはその多くがバルクフィルレジンと接着層のあいだだった(CLSMで確認)。接着層が窩壁から剥がれた症例は1つも無かった。つまり、ボンディングが負けたのではなく、レジンがボンディングから離れていった。もうひとつ——ギャップは窩底にだけ生じ、側壁には生じなかった
0 33.3% 66.7% 100% 窩底の封鎖率 SFA(%) 100% 84.97% 52.13% 45.97% 16.23% バルクEZ(デュアル) テトリックN-セラムBF フォトコア(築造用) シュアフィルSDR ソニックフィル 4mm深さ・直径3mm・C-factor 4.98の窩洞に一括充填し、光照射直後にOCTの3Dデータから算出した窩底の封鎖面積の割合(各n=10)。統計的順位はバルクEZ>テトリック>フォトコア=シュアフィルSDR>ソニックフィル(p<0.05)。ギャップはいずれも窩底に限局し、側壁には生じなかった
窩底の封鎖率(SFA%)。100%=ギャップなし

数字はこうでした。デュアルキュア型のバルクEZは、全10試料で窩底にギャップが1つも出ず、封鎖率100%。テトリックN-セラム バルクフィルが84.97%、支台築造用のクリアフィル フォトコアが52.13%、シュアフィルSDRが45.97%。いちばん悪かったのはソニックフィルで16.23%——窩底の8割以上が剥がれていました。

収縮量では説明がつかない

0 1.3% 2.7% 4% 総体積収縮率 VS(%) 3.4% 3.22% 1.82% 1.65% 1.56% バルクEZ(デュアル) シュアフィルSDR テトリックN-セラムBF ソニックフィル フォトコア(築造用) 接着したチューブ(直径3mm・高さ4mm)の上下自由面の変形から算出した総体積収縮率。順位はバルクEZ>シュアフィルSDR>テトリック>ソニックフィル=フォトコア(p<0.05)。封鎖率の順位(前の図)とは一致しない——収縮の量ではなく向きと速さが窩底のギャップを決めていた
総体積収縮率(VS%)。封鎖率の順位とは一致しない

ここが、この研究のいちばん面白いところです。

体積収縮率がいちばん大きかったのは、ギャップゼロだったバルクEZ(3.40%)でした。次いでシュアフィルSDR(3.22%)、テトリック(1.82%)、ソニックフィル(1.65%)、フォトコア(1.56%)。

著者らの評価は明快です。「界面のギャップと体積収縮は、相関していないように見えた」。順位を突き合わせても対応しません——フォトコアは収縮が最小(1.56%)なのに封鎖率は3位(52.13%)で、収縮2位のシュアフィルSDR(封鎖率4位)より上でした。「低収縮を選べば剥がれない」という直感は、少なくともこの実験では成立していません。

では何が効いたのか。答えは収縮の「向き」にありました。

収縮の向き: 光重合型の材料はすべて、チューブの下側(照射源から遠い側)で上側より有意に大きく収縮していた(p<0.001)。光は深くなるほど吸収・散乱で弱まる。上のほうが先に固まって硬くなり、あとから固まる下のほうが上へ引っ張られる——その引き上げるベクトルが窩底で接着を破っていた。一方デュアルキュアのバルクEZだけは、上下で収縮に差が無かった(p>0.05)。著者らの説明は「同時に固まるから」ではなく、むしろ逆で——照射前の90秒間にゆっくり進む化学重合が、材料内部の粘弾性的な流動と応力緩和を許し、さらに窩底でレジンと接着層の共重合を起こしたのではないか、というものである。速く固めないことが効いた、という筋書きになる。

重合度のデータも同じ方向を指していました。4mm深部の重合度は、表層に対してテトリックN-セラム バルクフィルが70.5%と最も低く、次いでソニックフィルが81.8%。バルクEZは103.8%で、深部のほうがむしろ高いくらいでした(フォトコアとシュアフィルSDRも深さによる低下はほとんど無し)。

面白いのは、テトリックは深部の重合度が最も低いのに、窩底の封鎖率は2位(84.97%)だったことです。著者らはこれを「重合度が低いほど発生する応力も小さいことが知られており、結果を部分的に説明しうる」と解釈しています(もうひとつの候補として、重合を遅らせる組成により窩底で接着層と共重合した可能性も挙げています)。「深くまで固まる」と「窩底が剥がれない」は、別の話だということです。

明日の臨床へ

①「低収縮」の数字だけで材料を選ばない。この研究では、収縮量の順位と窩底の封鎖率の順位がほぼ逆でした。カタログの収縮率は、深い窩洞で剥がれないことを保証しません。

②深い窩洞では、化学重合の力を借りるという選択肢がある。デュアルキュア型が唯一ギャップゼロだったのは、深さによる重合の勾配が生じず、ゆっくり固まるあいだに応力が逃げたからだ、と著者らは考えています。ただしこれは試験室での差であって、臨床成績の差が示されたわけではありません。また、バルクEZは充填後90秒待ってから照射するという手順が要り、低粘度材なので咬合面には別の材料を積む前提です——手間とセットで考える必要があります。

③フロアブルのバルクフィルを一層目に敷いても、それ自体は窩底を守らない。シュアフィルSDRの封鎖率は45.97%でした。低粘度=馴染むから剥がれない、とは限りません。

④ギャップの生まれる場所を知っておく。剥がれていたのはレジンと接着層のあいだで、接着層と窩壁のあいだではありませんでした。ボンディングを丁寧に塗ることと、レジンが離れていかないことは、別々の課題です。

⑤分割充填という基本に戻る余地。この研究は一括充填だけを比べています。先行研究では積層充填のほうが内部適合が良いと報告されており、著者らもそれを引いています。4mm一括が「できる」ことと「最良である」ことは違う、という読み方が穏当だと思います。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 これはin vitroの研究で、しかも窩洞は歯ではなくレジンブロックで作られています。著者ら自身がこれを研究の限界として明記しています——象牙質は近赤外光の減衰が大きくOCTで底まで見通せないため、レジンで代用せざるを得なかった。窩壁に使われたフロアブルレジンは通常のコンポジットより剛性が低く(コンプライアンスが高く)、窩底の壁厚も0.5mmと薄い。この条件が応力の出方に影響した可能性があります。また窩洞はC-factor 4.98という極端に不利な形態で、実際の窩洞よりギャップが出やすい設計です。材料は各カテゴリ1製品ずつ(バルクフィル3種+デュアルキュア1種+築造用1種)で、他社製品への一般化はできません。照射条件にも逸脱があります——条件を揃えるため全材料を一律40秒照射していますが、メーカー推奨はバルクEZ 10秒・テトリック/ソニックフィル/シュアフィルSDR 20秒・フォトコア 40秒とばらばらです。さらに3Dスキャンは照射直後だけで、熱サイクルも咬合荷重もかけていません(著者らも「界面の健全性は長期の劣化と熱機械的荷重の影響を受けるだろう」と書いています)。そして最も大事なこと——窩底のギャップが臨床の失敗(術後疼痛・二次う蝕・破折)にどれだけ直結するかは、この研究では検証されていません。著者らも「基礎的性質と臨床成績の相関は保証されない」と冒頭で断っています。それでも——照射開始から3秒で剥がれ始め、2秒で走り抜けるという映像は、頭の中の時間感覚を確実に書き換えます。私たちは40秒ずっと同じことが起きていると思っていましたが、勝負は最初の数秒でついていた。そこを見せてくれただけで、十分に価値のある一本だと思います。

今日のひとこと

4mm深さ・C-factor 4.98の窩洞に一括充填したとき、窩底の封鎖率はデュアルキュア型バルクEZが100%(ギャップゼロ)、テトリックN-セラム バルクフィル84.97%、クリアフィル フォトコア52.13%、シュアフィルSDR 45.97%、ソニックフィル16.23%だった。ところが体積収縮率はバルクEZが3.40%と最大——収縮量と窩底のギャップは相関しなかった、というのが著者らの評価である。光重合の4材料はいずれも接着チューブの下端(照射源から遠い側)で上端より大きく収縮していたのに対し、デュアルキュアのバルクEZは上下で収縮に差がなく、4mm深部の重合度も表層の103.8%を保っていた。テトリックN-セラム バルクフィルの深部重合度は表層の70.5%だった。

Hayashi J, Espigares J, Takagaki T, Shimada Y, Tagami J, Numata T, Chan D, Sadr A. Real-time in-depth imaging of gap formation in bulk-fill resin composites. Dent Mater. 2019;35(4):585-596. doi:10.1016/j.dental.2019.01.020 PMID: 30819550
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。