4mm深さの窩洞にバルクフィルレジンを一括充填し、光照射中の窩底で何が起きているかをOCTでリアルタイム撮影した研究(Hayashi 2019・Dental Materials)
バルクフィルは4mmを一度に詰められる。カタログにはそう書いてあります。では、その4mmの底で、光を当てている数秒のあいだに何が起きているのか。東京医科歯科大学とワシントン大学のグループが、OCT(光干渉断層計)で断面を動画のまま撮りました。ソニックフィルでは、ギャップが照射開始から3秒後に窩洞の隅から生まれ、2秒で窩底を走り抜けていました。
①「4mm一括」と書いてある。その底で何が起きているか
バルクフィルレジンは、4mmを一度に詰められる。カタログにはそう書いてあります。低収縮、高い光透過性、十分な重合度——謳い文句も揃っています。
私たちが確かめられるのは、詰め終わったあとの見た目だけです。光を当てている40秒のあいだ、窩底で何が起きているのかは見えません。
断面を切って顕微鏡で見る方法はありますが、切って磨く過程そのものが人工的な隙間を作ってしまう。それに、切った断面は「結果」であって、いつ・どうやってその隙間ができたかは教えてくれません。
東京医科歯科大学とワシントン大学のグループは、OCT(光干渉断層計)で窩底の断面を動画のまま撮るという方法を採りました。近赤外光で内部構造を非破壊に見る装置です。読み終えて、材料選びの物差しがひとつ増えました。
②撮り方
OCTで見えた高輝度の線が本当にギャップかどうかは、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)で照合して確認されています。
③動画に映っていたもの——3秒で始まり、2秒で走り抜ける
まず、時間の話から。ギャップは照射開始から数秒後、窩洞の内側の隅(line angle)に現れ、窩洞の中心へ向かって進んでいきました。ただし発生の時刻も、広がる範囲も、進む速さも、材料によって違います——ここは原著が明記しているところです。
いちばん激しかったソニックフィルでは、照射3秒後に隅から始まり、約2秒で窩底全体へ。シュアフィルSDRでは4秒後に両隅から始まり、2秒で窩底の約65%まで進行してそこで止まりました。その後、横方向の進行が止まったあと、高輝度の線が二重線に変わりました——ギャップが横に広がるのをやめて、縦に開き始めたということです。
数字はこうでした。デュアルキュア型のバルクEZは、全10試料で窩底にギャップが1つも出ず、封鎖率100%。テトリックN-セラム バルクフィルが84.97%、支台築造用のクリアフィル フォトコアが52.13%、シュアフィルSDRが45.97%。いちばん悪かったのはソニックフィルで16.23%——窩底の8割以上が剥がれていました。
④収縮量では説明がつかない
ここが、この研究のいちばん面白いところです。
体積収縮率がいちばん大きかったのは、ギャップゼロだったバルクEZ(3.40%)でした。次いでシュアフィルSDR(3.22%)、テトリック(1.82%)、ソニックフィル(1.65%)、フォトコア(1.56%)。
著者らの評価は明快です。「界面のギャップと体積収縮は、相関していないように見えた」。順位を突き合わせても対応しません——フォトコアは収縮が最小(1.56%)なのに封鎖率は3位(52.13%)で、収縮2位のシュアフィルSDR(封鎖率4位)より上でした。「低収縮を選べば剥がれない」という直感は、少なくともこの実験では成立していません。
では何が効いたのか。答えは収縮の「向き」にありました。
重合度のデータも同じ方向を指していました。4mm深部の重合度は、表層に対してテトリックN-セラム バルクフィルが70.5%と最も低く、次いでソニックフィルが81.8%。バルクEZは103.8%で、深部のほうがむしろ高いくらいでした(フォトコアとシュアフィルSDRも深さによる低下はほとんど無し)。
面白いのは、テトリックは深部の重合度が最も低いのに、窩底の封鎖率は2位(84.97%)だったことです。著者らはこれを「重合度が低いほど発生する応力も小さいことが知られており、結果を部分的に説明しうる」と解釈しています(もうひとつの候補として、重合を遅らせる組成により窩底で接着層と共重合した可能性も挙げています)。「深くまで固まる」と「窩底が剥がれない」は、別の話だということです。
⑤明日の臨床へ
①「低収縮」の数字だけで材料を選ばない。この研究では、収縮量の順位と窩底の封鎖率の順位がほぼ逆でした。カタログの収縮率は、深い窩洞で剥がれないことを保証しません。
②深い窩洞では、化学重合の力を借りるという選択肢がある。デュアルキュア型が唯一ギャップゼロだったのは、深さによる重合の勾配が生じず、ゆっくり固まるあいだに応力が逃げたからだ、と著者らは考えています。ただしこれは試験室での差であって、臨床成績の差が示されたわけではありません。また、バルクEZは充填後90秒待ってから照射するという手順が要り、低粘度材なので咬合面には別の材料を積む前提です——手間とセットで考える必要があります。
③フロアブルのバルクフィルを一層目に敷いても、それ自体は窩底を守らない。シュアフィルSDRの封鎖率は45.97%でした。低粘度=馴染むから剥がれない、とは限りません。
④ギャップの生まれる場所を知っておく。剥がれていたのはレジンと接着層のあいだで、接着層と窩壁のあいだではありませんでした。ボンディングを丁寧に塗ることと、レジンが離れていかないことは、別々の課題です。
⑤分割充填という基本に戻る余地。この研究は一括充填だけを比べています。先行研究では積層充填のほうが内部適合が良いと報告されており、著者らもそれを引いています。4mm一括が「できる」ことと「最良である」ことは違う、という読み方が穏当だと思います。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
4mm深さ・C-factor 4.98の窩洞に一括充填したとき、窩底の封鎖率はデュアルキュア型バルクEZが100%(ギャップゼロ)、テトリックN-セラム バルクフィル84.97%、クリアフィル フォトコア52.13%、シュアフィルSDR 45.97%、ソニックフィル16.23%だった。ところが体積収縮率はバルクEZが3.40%と最大——収縮量と窩底のギャップは相関しなかった、というのが著者らの評価である。光重合の4材料はいずれも接着チューブの下端(照射源から遠い側)で上端より大きく収縮していたのに対し、デュアルキュアのバルクEZは上下で収縮に差がなく、4mm深部の重合度も表層の103.8%を保っていた。テトリックN-セラム バルクフィルの深部重合度は表層の70.5%だった。


