1問1答 論文 保存修復

クロルヘキシジンは1年もたなかった——抗菌モノマーMDPBは接着耐久性を保った

1問1答 論文 保存修復

抗菌モノマーMDPBがレジン-象牙質接着の1年後の耐久性に与える影響を、クロルヘキシジンと比較したin vitro研究(Hashimoto 2018・Dent Mater J)

接着は貼った直後がいちばん強く、あとはゆっくり落ちていく。犯人は象牙質のMMPだと2004年に名指しされ、それを止める手としてクロルヘキシジンが使われてきました。理屈は通っています。ただ、1年後に確かめた人はどれだけいるでしょうか。大阪のグループが、CHXと抗菌モノマーMDPBを1年並べました。落ちたのは、CHXを塗った群でした。

論文
Improving the durability of resin-dentin bonds with an antibacterial monomer MDPB
著者
Hashimoto M, Hirose N, Kitagawa H, Yamaguchi S, Imazato S
掲載
Dental Materials Journal 2018;37(4):620-627(doi:10.4012/dmj.2017-209)
種類
in vitro 実験研究(抜去ヒト小臼歯・接着システム3種×前処理・計7群・各群n=18・1年水中保管)
PMID
29669952

接着はなぜ、時間とともに弱くなるのか

コンポジットレジンの接着は、貼った直後がいちばん強い。そのあとは、ゆっくり落ちていく。この事実自体は、in vitro でも in vivo でも繰り返し確認されてきました。

犯人として2004年に名指しされたのが、宿主由来の象牙質MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)です。MMPは亜鉛とカルシウムに依存するエンドペプチダーゼで、歯の発生過程で象牙質に閉じ込められている。ところが接着システムの各種の薬剤で象牙質を処理すると、接着操作の最中に放出されて活性化する

そして活性化したMMPが狙うのが、ハイブリッド層と石灰化象牙質の境目に残った、レジンが染み込みきれなかった裸のコラーゲンです。ここが年月をかけて分解され、接着強さが落ちていく。

ならばMMPを止めればいい。そこで長く使われてきたのがクロルヘキシジン(CHX)です。CHXは両親媒性の分子で、陽イオンをキレートする機序でMMPの触媒部位(Ca²⁺やZn²⁺)に結合しうるとされ、きわめて低濃度でも阻害すると報告されています。理屈は通っています。

大阪大学・大阪歯科大学のグループが問うたのは、その先です。「1年もつのか」。

抗菌モノマーMDPBという、もう一つの手

MDPBとは: 12-メタクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド。第四級アンモニウム化合物にメタクリロイル基を結合させた、重合できるレジンモノマー。重合前は各種のう蝕原性菌・歯内療法関連菌に強い抗菌活性を示し、重合するとポリマー網に固定されて、硬化レジンから溶け出さない。この「非放出型」であることが、フッ化物や銀イオンのような従来の抗菌剤との決定的な違い。市販の クリアフィル SEプロテクト がMDPB配合のセルフエッチングプライマーを採用している。

近年になって、MDPBには第2の顔があることが報告されました。MMPとカテプシンを阻害するのです。

機序の推測も示されています。MDPBは陽イオン性で、石灰化象牙質も脱灰象牙質も正味で陰性の電荷を帯びている。だから静電的に象牙質コラーゲンに結合し、MMPの活性部位の立体配置を変えてしまい、コラーゲン線維を受け入れられなくする——というものです(ただし著者ら自身が「詳細な機序の解明にはさらなる研究が必要」と書き添えています)。

研究の骨格: 健全なヒト小臼歯の歯冠を切って平坦な象牙質面を作り、#600のSiCペーパーでスミヤー層の厚さを揃える。接着システムは3つ——SE Bond(MDPBなしのセルフエッチ)/SE Protect(MDPB配合プライマー+NaF配合ボンド)/Adper Single Bond 2(トータルエッチ)。前処理が3通りあるのは SE Bond と Single Bond 2 だけ——①蒸留水30秒(対照)②MDPB 5%を含む試作の窩洞消毒剤30秒 ③0.2%クロルヘキシジン二酢酸塩30秒。SE Protect は水のみなので、完全な3×3ではなく計7群である。24時間後1年後(37℃の蒸留水中、6か月で1度交換)に微小引張接着試験(μTBS)を行い、SEMで破断面を、TEMでナノリーケージを観察した。各群 n=18

1年後に落ちたのは、クロルヘキシジンを塗った群だった

1年間の水中保管で、接着強さは落ちたか(各群 n=18)

有意に低下した(p<0.05) SE Bond + 水(対照) MDPBなしのセルフエッチ、前処理は水のみ SE Bond + クロルヘキシジン CHXでは1年もたなかった Single Bond 2 + クロルヘキシジン トータルエッチでも同じ結果

低下しなかった(p>0.05) SE Protect(MDPB配合プライマー) 前処理は水のみ SE Bond + MDPB配合の窩洞消毒剤 前処理でMDPBを与えても保たれた Single Bond 2 + 水/MDPB消毒剤 対照が落ちなかったため判定できず 24時間後の接着強さには3システム間で差はなかった。差がついたのは1年後。Fig.1の統計判定にもとづく整理

1年間の水中保管による接着強さの変化(Fig.1の統計判定にもとづく整理)

まず24時間後には、3つのシステムの間に有意差はありませんでした。出発点は横並びです。

差がついたのは1年後でした。

接着強さが有意に低下したのは3群。SE Bond+水(対照)、SE Bond+CHX、そして Single Bond 2+CHX。

低下しなかったのは4群。SE Protect+水、SE Bond+MDPB配合窩洞消毒剤、Single Bond 2+水、Single Bond 2+MDPB配合窩洞消毒剤。

この並びを、もう一度ゆっくり読んでみてください。

MDPBを与えた群は、プライマーに入っていても(SE Protect)、前処理として塗っただけでも(SE Bond+窩洞消毒剤)、1年もちました。

そしてCHXを塗った群は、セルフエッチでもトータルエッチでも落ちました。MMP阻害剤として塗ったはずのものが、守れていない。

ひとつ注意が要ります。Single Bond 2 は対照(水)の群も低下しなかったため、この系ではMDPB消毒剤の効果があったかどうかは判定できません——著者ら自身がそう明記しています。MDPBの効果がはっきり示されたのは、セルフエッチング系においてです。帰無仮説が棄却されたのも、セルフエッチング系についてでした。

なぜCHXは守れなかったのか

同じMMP阻害でも、残り方が違う(著者らの推論)

クロルヘキシジン=放出型 ・レジンモノマーと混ざらない塩 ・徐々に溶け出し、阻害効果は減っていく ・重合を妨げ、吸水を増やすと推測される ・不完全な重合が加水分解を加速しうる 1年後:接着強さが有意に低下 SE BondでもSingle Bond 2でも同じ

MDPB=非放出型(硬化レジン中で固定される) ・プライマー配合の場合、重合してポリマー網に組み込まれる ・硬化したレジンから溶け出さない ・陽イオン性で陰性の象牙質コラーゲンに結合 ・MMPの活性部位の形を変えると推測される 1年後:接着強さは保たれた(結果) プライマー配合でも前処理でも 著者らの考察にもとづく整理。MDPBの非放出型という性質は「硬化レジン中に重合固定されたMDPB」についての記述で、前処理として塗ったMDPBが界面に留まるとは原著に書かれていない。MMPの阻害機序もまだ詳細には解明されていない

クロルヘキシジンとMDPBの、接着界面への残り方の違い(著者らの考察にもとづく整理)

著者らの説明は、化学の言葉で明快です。

CHXは「放出型(agent-releasing)」の薬剤とみなされている、というのが著者らの整理です。この研究で使われたCHXの塩はレジンモノマーと混ざり合わないため、その存在がボンディングレジンの物性や接着強さを下げたと著者らは考えています。放出型である以上、MMP阻害効果も時間とともに落ちていく

それだけではありません。CHXでの前処理は、ボンディングレジンの重合を阻害し、吸水を増やすと推測されています。不完全な重合は、接着構造の加水分解をむしろ加速しうる。実際、CHX前処理では24時間保管の時点ですでに接着性が落ちるという報告が複数あります。

対してMDPBは「非放出型」。重合してポリマー網に固定されるので、硬化レジンから溶け出さない。放出型の薬剤が抱える弱点を、構造そのもので回避しているわけです。

裏づけになる先行研究も引かれています。CHX-メタクリレートとCHX-ジグルコネートを比べた研究では、CHX-メタクリレートの効果のほうがはるかに長く続いた——理由は接着レジンの他のモノマーと共重合できるから。「MMPを阻害できるか」ではなく「界面に留まり続けられるか」が分かれ目だった、ということです。

ただし、形態の観察は単純にこの話を裏づけたわけではありません。トータルエッチ(Single Bond 2)の1年群では、破断面に脱灰象牙質の領域が現れ水1年群とCHX 1年群では象牙細管の側枝が拡大して見えました。著者らはこれをその層でコラーゲンの加水分解が起きている形態学的な証拠かもしれないとしています。ところが同じ考察のなかで、著者らは「この研究では、そうした分解はSingle Bond 2の接着強さの低下を引き起こさなかった——1年の水中保管後でさえも」とも書いています(実際、Single Bond 2+水の群は落ちていません)。形態の変化と接着強さの低下は、この研究では一致しませんでした。TEMでもコラーゲン加水分解の相ははっきり観察されず、セルフエッチング系の2つでは24時間と1年で形態学的な差もありませんでした。

明日の臨床へ

①「CHXを塗っておけば長持ちする」という前提を、そろそろ点検する。この研究では、CHX前処理は1年後の接着強さ低下を防げませんでした。それどころか、Single Bond 2ではCHXを塗った群だけが落ちています(水の群は落ちなかった)。塗らないほうがよかった可能性すら示唆する結果です。

②MDPB配合のセルフエッチングプライマーを使う(クリアフィル SEプロテクト)。前処理を何も足さず、水だけで、1年後の接着強さが保たれました。抗菌性のために選ばれてきた製品ですが、接着耐久性という別の理由が加わったと読めます。

③抗菌とMMP阻害を1成分で兼ねられる、という選び方はありうる。原著の導入によれば、5%MDPBを含む試作の窩洞消毒剤は直接・間接の各種修復に用いる目的で開発され、象牙質内の細菌を効果的に除去しつつ、レジンセメントの接着性に悪影響を与えないことが示されています(ただし市販品ではありません)。なおこの研究が使ったのは健全小臼歯の平坦な切削面で、う蝕象牙質や深い窩洞は検証されていません。深在性う蝕への応用は、理屈のうえでの期待にとどまります。

ただし正直に付け加えておくと、SE Protectのプライマーには MDPB が、ボンドには NaF が入っています。著者らも「10-MDPやNaFが象牙質表面を化学的に修飾して、全体の耐久性に寄与している可能性がある」と書いています。実際、フッ化物徐放性の接着材が象牙質接着の耐久性を改善したという報告や、フッ化物がMMP阻害剤としてコラーゲン分解を防ぎうるという報告もある。SE Protectの結果を、丸ごとMDPBの手柄とは言い切れない——ここは著者らも慎重です。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 抜去ヒト小臼歯を使ったin vitro研究で、各群18本のビーム。老化は37℃の蒸留水に1年——臨床の口腔内とは違い、咬合力も温度変化も細菌もpH変動もありません。「1年」という数字も、臨床の1年と等価ではないことに注意が要ります。前処理に使ったのは0.2%クロルヘキシジン二酢酸塩で、臨床でよく使われるグルコン酸クロルヘキシジンとは塩が違う点も見落とせません(著者ら自身が「本研究で用いたCHXの塩はレジンモノマーと混和しない」と書いており、CHX全般ではなくこの塩についての結果です)。MDPB配合の窩洞消毒剤は市販品ではなく試作品であり、そのまま買えるものではありません。しかも組成はMDPB 5%・エタノール80%・水15%で、効果のうちエタノールの寄与がどれだけかは分離できていません。そしてトータルエッチ系については対照群が低下しなかったため効果を判定できていない——これは著者らが明記している通りです(つまりMDPBを一切与えていないSingle Bond 2+水も、1年後に落ちていません)。TEMではコラーゲン加水分解の相がはっきり観察されず、著者らは「界面が分解した試片は、切片作製やTEMの高真空チャンバー内で先に壊れてしまった可能性がある」と推測しています。SE Protectの結果にMDPB以外の成分(10-MDP・NaF)が寄与している可能性も残ります。それでも——「MMPを阻害できる薬剤かどうか」ではなく「その薬剤が界面に留まり続けられるか」を見るべきだという視点は、明日から効きます。放出型と非放出型。同じ目的の材料を選ぶとき、この一線を意識するだけで判断が変わるはずです。

今日のひとこと

24時間後には3つの接着システムに差はなかった。差がついたのは1年後——有意に低下したのはSE Bond+水、SE Bond+CHX、Single Bond 2+CHXの3群。CHXを塗った群はセルフエッチでもトータルエッチでも落ち、MDPBを与えた群(SE Protect、SE Bond+MDPB配合窩洞消毒剤)は低下しなかった。MMPを阻害できるかどうかではなく、その薬剤が界面に留まり続けられるかが分かれ目である。CHXはレジンと混ざらない塩で、溶け出し、重合も妨げる「放出型」。MDPBは重合してポリマー網に固定される「非放出型」。ただしトータルエッチ系では対照群も落ちなかったため、そこでのMDPBの効果は判定できていない。

Hashimoto M, Hirose N, Kitagawa H, Yamaguchi S, Imazato S. Improving the durability of resin-dentin bonds with an antibacterial monomer MDPB. Dent Mater J. 2018;37(4):620-627. doi:10.4012/dmj.2017-209 PMID: 29669952
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。