抗菌モノマーMDPBがレジン-象牙質接着の1年後の耐久性に与える影響を、クロルヘキシジンと比較したin vitro研究(Hashimoto 2018・Dent Mater J)
接着は貼った直後がいちばん強く、あとはゆっくり落ちていく。犯人は象牙質のMMPだと2004年に名指しされ、それを止める手としてクロルヘキシジンが使われてきました。理屈は通っています。ただ、1年後に確かめた人はどれだけいるでしょうか。大阪のグループが、CHXと抗菌モノマーMDPBを1年並べました。落ちたのは、CHXを塗った群でした。
①接着はなぜ、時間とともに弱くなるのか
コンポジットレジンの接着は、貼った直後がいちばん強い。そのあとは、ゆっくり落ちていく。この事実自体は、in vitro でも in vivo でも繰り返し確認されてきました。
犯人として2004年に名指しされたのが、宿主由来の象牙質MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)です。MMPは亜鉛とカルシウムに依存するエンドペプチダーゼで、歯の発生過程で象牙質に閉じ込められている。ところが接着システムの各種の薬剤で象牙質を処理すると、接着操作の最中に放出されて活性化する。
そして活性化したMMPが狙うのが、ハイブリッド層と石灰化象牙質の境目に残った、レジンが染み込みきれなかった裸のコラーゲンです。ここが年月をかけて分解され、接着強さが落ちていく。
ならばMMPを止めればいい。そこで長く使われてきたのがクロルヘキシジン(CHX)です。CHXは両親媒性の分子で、陽イオンをキレートする機序でMMPの触媒部位(Ca²⁺やZn²⁺)に結合しうるとされ、きわめて低濃度でも阻害すると報告されています。理屈は通っています。
大阪大学・大阪歯科大学のグループが問うたのは、その先です。「1年もつのか」。
②抗菌モノマーMDPBという、もう一つの手
近年になって、MDPBには第2の顔があることが報告されました。MMPとカテプシンを阻害するのです。
機序の推測も示されています。MDPBは陽イオン性で、石灰化象牙質も脱灰象牙質も正味で陰性の電荷を帯びている。だから静電的に象牙質コラーゲンに結合し、MMPの活性部位の立体配置を変えてしまい、コラーゲン線維を受け入れられなくする——というものです(ただし著者ら自身が「詳細な機序の解明にはさらなる研究が必要」と書き添えています)。
③1年後に落ちたのは、クロルヘキシジンを塗った群だった
まず24時間後には、3つのシステムの間に有意差はありませんでした。出発点は横並びです。
差がついたのは1年後でした。
接着強さが有意に低下したのは3群。SE Bond+水(対照)、SE Bond+CHX、そして Single Bond 2+CHX。
低下しなかったのは4群。SE Protect+水、SE Bond+MDPB配合窩洞消毒剤、Single Bond 2+水、Single Bond 2+MDPB配合窩洞消毒剤。
この並びを、もう一度ゆっくり読んでみてください。
MDPBを与えた群は、プライマーに入っていても(SE Protect)、前処理として塗っただけでも(SE Bond+窩洞消毒剤)、1年もちました。
そしてCHXを塗った群は、セルフエッチでもトータルエッチでも落ちました。MMP阻害剤として塗ったはずのものが、守れていない。
ひとつ注意が要ります。Single Bond 2 は対照(水)の群も低下しなかったため、この系ではMDPB消毒剤の効果があったかどうかは判定できません——著者ら自身がそう明記しています。MDPBの効果がはっきり示されたのは、セルフエッチング系においてです。帰無仮説が棄却されたのも、セルフエッチング系についてでした。
④なぜCHXは守れなかったのか
著者らの説明は、化学の言葉で明快です。
CHXは「放出型(agent-releasing)」の薬剤とみなされている、というのが著者らの整理です。この研究で使われたCHXの塩はレジンモノマーと混ざり合わないため、その存在がボンディングレジンの物性や接着強さを下げたと著者らは考えています。放出型である以上、MMP阻害効果も時間とともに落ちていく。
それだけではありません。CHXでの前処理は、ボンディングレジンの重合を阻害し、吸水を増やすと推測されています。不完全な重合は、接着構造の加水分解をむしろ加速しうる。実際、CHX前処理では24時間保管の時点ですでに接着性が落ちるという報告が複数あります。
対してMDPBは「非放出型」。重合してポリマー網に固定されるので、硬化レジンから溶け出さない。放出型の薬剤が抱える弱点を、構造そのもので回避しているわけです。
裏づけになる先行研究も引かれています。CHX-メタクリレートとCHX-ジグルコネートを比べた研究では、CHX-メタクリレートの効果のほうがはるかに長く続いた——理由は接着レジンの他のモノマーと共重合できるから。「MMPを阻害できるか」ではなく「界面に留まり続けられるか」が分かれ目だった、ということです。
ただし、形態の観察は単純にこの話を裏づけたわけではありません。トータルエッチ(Single Bond 2)の1年群では、破断面に脱灰象牙質の領域が現れ、水1年群とCHX 1年群では象牙細管の側枝が拡大して見えました。著者らはこれをその層でコラーゲンの加水分解が起きている形態学的な証拠かもしれないとしています。ところが同じ考察のなかで、著者らは「この研究では、そうした分解はSingle Bond 2の接着強さの低下を引き起こさなかった——1年の水中保管後でさえも」とも書いています(実際、Single Bond 2+水の群は落ちていません)。形態の変化と接着強さの低下は、この研究では一致しませんでした。TEMでもコラーゲン加水分解の相ははっきり観察されず、セルフエッチング系の2つでは24時間と1年で形態学的な差もありませんでした。
⑤明日の臨床へ
①「CHXを塗っておけば長持ちする」という前提を、そろそろ点検する。この研究では、CHX前処理は1年後の接着強さ低下を防げませんでした。それどころか、Single Bond 2ではCHXを塗った群だけが落ちています(水の群は落ちなかった)。塗らないほうがよかった可能性すら示唆する結果です。
②MDPB配合のセルフエッチングプライマーを使う(クリアフィル SEプロテクト)。前処理を何も足さず、水だけで、1年後の接着強さが保たれました。抗菌性のために選ばれてきた製品ですが、接着耐久性という別の理由が加わったと読めます。
③抗菌とMMP阻害を1成分で兼ねられる、という選び方はありうる。原著の導入によれば、5%MDPBを含む試作の窩洞消毒剤は直接・間接の各種修復に用いる目的で開発され、象牙質内の細菌を効果的に除去しつつ、レジンセメントの接着性に悪影響を与えないことが示されています(ただし市販品ではありません)。なおこの研究が使ったのは健全小臼歯の平坦な切削面で、う蝕象牙質や深い窩洞は検証されていません。深在性う蝕への応用は、理屈のうえでの期待にとどまります。
ただし正直に付け加えておくと、SE Protectのプライマーには MDPB が、ボンドには NaF が入っています。著者らも「10-MDPやNaFが象牙質表面を化学的に修飾して、全体の耐久性に寄与している可能性がある」と書いています。実際、フッ化物徐放性の接着材が象牙質接着の耐久性を改善したという報告や、フッ化物がMMP阻害剤としてコラーゲン分解を防ぎうるという報告もある。SE Protectの結果を、丸ごとMDPBの手柄とは言い切れない——ここは著者らも慎重です。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
24時間後には3つの接着システムに差はなかった。差がついたのは1年後——有意に低下したのはSE Bond+水、SE Bond+CHX、Single Bond 2+CHXの3群。CHXを塗った群はセルフエッチでもトータルエッチでも落ち、MDPBを与えた群(SE Protect、SE Bond+MDPB配合窩洞消毒剤)は低下しなかった。MMPを阻害できるかどうかではなく、その薬剤が界面に留まり続けられるかが分かれ目である。CHXはレジンと混ざらない塩で、溶け出し、重合も妨げる「放出型」。MDPBは重合してポリマー網に固定される「非放出型」。ただしトータルエッチ系では対照群も落ちなかったため、そこでのMDPBの効果は判定できていない。


