3D光干渉断層計(SS-OCT)で窩縁エナメル質のクラックを非破壊で観察した実験研究(Tabata 2017・J Dent)
CR充填を研磨し終えたあと、窩縁がうっすら白い線に見えることがあります。ホワイトラインと呼ばれるあれです。原因は重合収縮応力によるエナメル質のクラックだと、半世紀前に日本から報告されました。この論文は、その白い線を3D光干渉断層計で非破壊のまま数え、部位とエッチングの有無で比べています。結果は少し落ち着かないものでした。選択的エナメルエッチングをかけた側で、クラックが有意に増えていたのです。しかも歯頸部でとくに大きく。
①研磨し終えた窩縁が、白い
CRを充填して、形態を整えて、シリコーンポイントで仕上げる。水をかけながらミラーで確認すると、窩縁がうっすら白い線になっている——経験のある光景だと思います。エアーをかけると余計に目立つ。着色ではないし、段差でもない。
ホワイトラインと呼ばれるこの現象を最初に報告したのは、日本の総山(Fusayama)でした。原因は重合収縮応力によるエナメル質のクラックだとされています。臨床的には術後の知覚過敏や二次う蝕の入口になりうると指摘されてきました。
ただ、これまでは「見えた/見えない」の主観に頼るしかありませんでした。同じグループはOCTでエナメル質のクラックを非侵襲的に断面で捉える方法を先に報告していましたが、窩縁の全周にわたる広がりを定量する物差しはまだありませんでした。この論文は、そこに3D光干渉断層計(SS-OCT)を持ち込みました。
②光でエナメル質の中を覗く
SS-OCTは近赤外光を歯に当て、返ってくる光の強さと遅れから断面像を作る装置です。この研究では1240〜1380nm(中心1310nm)を50kHzで掃引し、深さ方向11μmの分解能で(幅と長さ方向は原著本文が40μm、Table 1が30μmと食い違っています)、深さ1mmまでの3Dデータを取っています。
なぜクラックが写るのか。屈折率の差が大きいほど、境界面で光が強く跳ね返るからです。エナメル質の屈折率は約1.63、象牙質は約1.55。これに対しクラックの隙間は空気か水で満たされている(約1.33)と考えられます。この差が大きいので、ひびは明るい線としてはっきり浮かび上がります。
評価は、窩縁の全周のうちクラックがどこまで伸びているかを5段階(0=なし/1=1/4未満/2=1/4〜1/2/3=1/2〜3/4/4=3/4超)で採点。統計はWilcoxon順位和検定+Bonferroni補正です。さらに代表的な標本をレーザー顕微鏡で切断観察し、OCTで見えた明るい線が本当にクラックであることを確認しています。
③エッチングした側に、ひびが増える
結果は2つの軸で有意差が出ました(いずれもp<0.05)。
ひとつ目は部位。歯頸部のほうが歯冠中央部よりクラックが多い。ふたつ目はリン酸エッチングの有無で、かけたほうがクラックが多い。これは歯冠中央部でも歯頸部でも同じ向きでした。
数で見るとこうです。窩縁の半周を超えてひびが走った窩洞は、歯冠中央部でエッチングなしが15窩洞中0、あり が3。歯頸部ではなしが4、ありが7。とくに3/4周を超えるクラック(スコア4)は、歯冠中央部では両群ともゼロなのに、歯頸部ではエッチングなしで3窩洞、ありで6窩洞に達しています。
正直に補足しておくと、「クラックがまったく無かった」窩洞はどの群でもごく少数です(15窩洞中0〜2)。セルフエッチを使ってもクラックはできる。差がついたのは、あるかないかではなく、どこまで広がるかでした。
レーザー顕微鏡での切断観察では、これらのクラックは窩縁のすぐ脇から始まり、界面に沿ってエナメル象牙境(DEJ)の方向へ伸び、ときに接着界面まで達していました。
④なぜエッチングでひびが増えるのか
理屈はシンプルです。接着が強いほど、収縮応力の逃げ場が歯質側に移る。
光重合型CRは化学重合型と違ってゲル状態でいる時間がごく短く、より高い収縮応力(あるいは応力の立ち上がり速度)を生みます。エナメル質への接着とアドヒーシブ・CR間の共重合が強く、界面が剥がれないなら、応力はエナメル質の内部と接着界面に溜まる。そしてCRとエナメル壁の化学的な結合が、エナメル小柱そのものの破壊靭性を上回ったとき、窩縁のエナメル小柱が隣の小柱から引き剥がされる——これがホワイトラインの正体です。実際、化学重合型CRでは小柱の分離はめったに起きないと報告されています。
もうひとつ、部位の差にも根拠があります。歯頸部エナメル質は、歯冠中央部よりミネラル量が少ない。マイクロラジオグラフィの計測でそう報告されていて、炭酸イオンとマグネシウムの含有量が多いことと相関します。アパタイト格子に取り込まれた炭酸イオンは化学的安定性を下げるため、歯頸部エナメル質はリン酸エッチングを受けやすい=弱くなりやすい。歯頸部で差が大きく出たのは、この脆弱化が上乗せされたためだろうと著者らは考えています。
⑤明日の臨床へ——「かける場所」を分ける
ここで結論が「選択的エッチングをやめよう」にならないのが、この論文の誠実なところです。
著者らは同時に、セルフエッチだけではエナメル辺縁の封鎖が弱いことも書いています。CRが健全エナメル質の上に乗り上がる形になると、マイルドなセルフエッチは切削していないエナメル質への接着が弱く、辺縁着色が起こりやすい。添付文書どおりに使ってもエナメル辺縁のリーケージは防げなかったという報告も引かれています。封鎖という一点では、リン酸系のほうが臨床成績で勝る、と。
そこで著者らが示す落としどころが、塗り分けです。
臨床の手つきに直すと、こうなります。エッチング材を窩洞の中にたっぷり流し込むのではなく、窩縁の外側の健全エナメル質に細く置く。細いチップを使い、窩縁のラインを狙って外へ向けて広げる。窩洞側へ流れ込むと、まさにクラックが増えた条件をつくることになります。
そして部位で手加減する。歯頸部——くさび状欠損や歯頸部カリエスの窩洞は、もともとエナメル質が薄く、結晶配列も不揃いで、酸に弱い。ここではエッチング時間を漫然と延ばさない(この研究の条件は40%リン酸で10秒でした)。
加えて、収縮応力そのものを下げる手も併せて考えられます。この研究はあえてフロアブルをバルク充填していますが、それでもこれだけのクラックが出ました。積層充填は同じ方向の対策になります。ただし照射法については慎重に——この論文が引用するChristensenらは、収縮と白線の形成に有意に関連したのは照射器の設計や強度ではなくレジンの組成のほうだったと報告しています。
患者さんへの説明も変わります。研磨後の白い線は、「詰め物が浮いている」のではなく「エナメル質に細いひびが入っている」。だから力を加える処置ではなく、次のリコールで辺縁の着色と知覚過敏を見ておく——そういう扱いになります。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
ウシ歯のin vitroでは、選択的エナメルエッチングが窩縁のエナメル質そのものを弱くした。窩洞の切削面にリン酸をかけるのではなく、CRが乗り上がる窩縁の外側=切削していないエナメル質に向けてかける——著者らが示した落としどころは、この塗り分けにある。とくに歯頸部は、もともと結晶が不揃いで酸に弱い。同じ手技が、部位によって違う結果を生む。


