1問1答 論文 保存修復

CAD/CAMセラミック3種、どう使い分ける?——リューサイト系・二ケイ酸リチウム系・ジルコニアの物性と適応(製造元イボクラビバデント社の研究者が自社材料の物性値と症例1例ずつで示した論文)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|CAD/CAMで削る3種類のセラミック(リューサイト系・二ケイ酸リチウム系・ジルコニア)の物性と使い分けを、製造元の研究者が自社材料で紹介した論文(Ritzberger ほか 2010・Materials)。著者5名全員が製造元の所属

チェアサイドでインレーを削るとき、臼歯のクラウンを作るとき、ブリッジを頼むとき。ブロックの種類を何となく選んでいないでしょうか。この論文は、IPS Empress CAD(リューサイト系)・IPS e.max CAD(二ケイ酸リチウム系)・IPS e.max ZirCAD(ジルコニア)の3種について、製造元の研究者が物性表と症例写真で使い分けを示したものです。同社3製品の二軸曲げ強さは160、300〜420、900超 MPaと段違いで、著者らは「臼歯部のガラスセラミックスは単独歯まで、臼歯部の長いブリッジは通常ジルコニア」と説明しています(一方で、プレス用のe.max Pressは3ユニットブリッジのフレームにも適するとも書いています)。ただし大半の物性値は試験方法の記載がなく、試料数・ばらつきはすべて記載なし。症例は各1例で経過の記載もありません。臨床成績を比べた研究ではありません

論文
Properties and Clinical Application of Three Types of Dental Glass-Ceramics and Ceramics for CAD-CAM Technologies
著者
Christian Ritzberger, Elke Apel, Wolfram Höland, Arnd Peschke, Volker M. Rheinberger(全員がイボクラビバデント社〈Ivoclar Vivadent AG〉所属・リヒテンシュタイン)
掲載
Materials 2010;3(6):3700-3713。DOI: 10.3390/ma3063700(オープンアクセス。PMCに収載 PMC5521757)
種類
製造元の研究者による材料紹介の論文(誌上の区分は Article)。自社のCAD/CAM用セラミック3種の物性(表1・表2)、結晶構造の電子顕微鏡像、CAD/CAMの流れ、症例写真3例(各1例・術者も同社所属)を示す。大半の物性値は試験方法の記載がなく(ジルコニアの破壊靭性のSEVNB法、硬さのHV10、化学的耐久性の4%酸での重量減少、熱膨張係数の温度域などは記載あり)、試料数・ばらつきはすべて記載なし。症例の経過期間の記載、群間比較や統計解析もない
利益相反
著者5名全員が、紹介された材料の製造元の所属。論文中に資金提供・利益相反の記載欄はない。謝辞も同社の歯科技工士に向けたもの
PMID
なし(PubMed未収載を確認。DOIからPMC5521757を確認)

そのブロック、何を基準に選んでいますか

チェアサイドでインレーを削る。臼歯のクラウンを作る。欠損にブリッジを入れる。CAD/CAMで作れる修復は増えましたが、ブロックの種類はなんとなくで決めていないでしょうか。

この論文は、CAD/CAM用セラミックの代表的な3系統(リューサイト系・二ケイ酸リチウム系・ジルコニア)について、物性と使い分けを1本にまとめたものです。書いたのは、その3製品(IPS Empress CAD・IPS e.max CAD・IPS e.max ZirCAD)を作るイボクラビバデント社の研究者たち。つまり製造元が自社材料を説明した論文であることを先に押さえたうえで、「1社の3製品の強さの段差」と「なぜ削れるのか」という材料の見取り図として読むと役に立ちます。

なぜ3種類も必要だったのか

著者らの説明では、長く使われてきた陶材焼付金属冠(PFM)に対し、20世紀の終わりから見た目を求める声に応えてオールセラミックが開発されてきました。同時に、治療時間と製作時間を短くする方法としてプレス法とCAD/CAMが広がります。

CAD/CAM用の材料には、臨床側の要求(強さと靭性・耐久性・天然歯に近い見た目・扱いやすさ)と、機械側の要求(削っても欠けない・加工しやすい・できれば診療室に置ける小型の機械で削れる)が同時にかかります。強い材料ほど削りにくいという矛盾があり、二ケイ酸リチウム系とジルコニアでは、この矛盾を途中の状態で削る工夫で解いています(リューサイト系はもともと機械加工に向くとされます)。

この論文:製造元による自社材料の紹介

論文の骨格:イボクラビバデント社(リヒテンシュタイン)の研究者5名による論文(誌上の区分は Article)。
中身:①リューサイト系(IPS Empress CAD)②二ケイ酸リチウム系(IPS e.max CAD/プレス用のIPS e.max Press)③イットリア安定化ジルコニア(IPS e.max ZirCAD)の組成・結晶・物性(表1・表2)と電子顕微鏡像、CAD/CAMの工程、症例写真3例。
ないもの:大半の物性値の試験方法(ジルコニアの破壊靭性の測り方、硬さのHV10、化学的耐久性の4%酸での重量減少、熱膨張係数の温度域などは記載あり)、すべての値の試料数・ばらつき、他社材料との比較、統計解析、症例の経過期間。症例は各1例で、術者も技工士も同社の所属です。
利益相反:著者全員が製造元の所属。論文中に資金提供・利益相反の記載はありません。

製造元が示した物性値:強さと破壊靭性は3段

表1(Empress CAD・e.max CAD)と表2(ZirCAD)に載っている、イボクラビバデント社3製品の二軸曲げ強さを並べると、段差は歴然です。

0 400 800 1200 二軸曲げ強さ (MPa) 160 160 300 420 900 900 リューサイト系Empress CAD 二ケイ酸リチウム系e.max CAD ジルコニアZirCAD 焼結後 範囲の下限 範囲の上限 イボクラビバデント社3製品の値(表1・表2)で試験方法・試料数の記載なし。Empress CADは160、e.maxCADは300〜420、ZirCADは表2の「900超」を900で表示。本文ではイットリア安定化ジルコニア一般として900〜1200 MPa
二軸曲げ強さ(MPa)。イボクラビバデント社3製品について製造元が示した値で、試験方法・試料数の記載はありません。Empress CADは単一の値(160)、e.max CADは表1の範囲(300〜420)、ZirCADは表2の「900超」を900で表示。本文の2.3節冒頭では、イットリア安定化ジルコニア一般として900〜1200 MPaとも紹介されています。濃い棒=範囲の下限、淡い棒=上限

リューサイト系(Empress CAD)の160 MPaに対し、二ケイ酸リチウム系(e.max CAD)は300〜420 MPa、焼結後のジルコニア(ZirCAD)は900 MPa超。亀裂の進みにくさを表す破壊靭性(KIC)も同じ順です。

0 2 4 6 破壊靭性 KIC (MPa·m½) 1.3 1.3 2.0 2.5 5.5 5.5 リューサイト系Empress CAD 二ケイ酸リチウム系e.max CAD ジルコニアZirCAD 焼結後 範囲の下限 範囲の上限 イボクラビバデント社3製品の値(表1・表2)。ZirCADは表2の5.5。本文ではイットリア安定化ジルコニア一般として4〜5(ISO 6872のSEVNB法)。材料の値で臨床の破折率ではない
破壊靭性 KIC(MPa·m½)。イボクラビバデント社3製品について製造元が示した値。Empress CADは1.3、e.max CADは2.0〜2.5(表1)、ZirCADは5.5(表2)。本文ではイットリア安定化ジルコニア一般として4〜5(ISO 6872:2008のSEVNB法)と紹介されています。材料の値で、臨床での破折率ではありません

そのほかの表の値も一部だけ紹介します。弾性率は Empress CAD 62 GPa、e.max CAD 90〜100 GPa。硬さは Empress CAD 6200 MPa、e.max CAD 5700〜5900 MPa、焼結後のZirCAD 13000 MPa(HV10)。4%の酸に浸けたときの重量減少(化学的耐久性)は Empress CAD 25、e.max CAD 30〜50 μg/cm²でした。プレス用の e.max Press は本文で曲げ強さ350 MPa・破壊靭性2.5 MPa·m½と紹介されています。

なぜ差が出るのか、なぜ削れるのか

強さの差は結晶の量と形から。リューサイト系は、ガラスの中に1〜5 µmのリューサイト結晶が35〜45 vol%。二ケイ酸リチウム系は結晶が最大70 vol%まで増え、細長い結晶が絡み合う組織になるため強く壊れにくい、と著者らは説明しています(図3の電子顕微鏡像)。ジルコニアは結晶だけでできた焼結体で、力がかかった部分の結晶が正方晶から単斜晶へ変わって亀裂の進行を抑える仕組み(応力誘起相変態)で高い靭性を持ちます。

削れるのは「途中の状態」で削るから。ここがこの論文でいちばん臨床に近い話です。

二ケイ酸リチウム系(e.max CAD):二ケイ酸リチウムはダイヤモンドバーでは削りにくく、元のガラスはもろすぎる。そこで先にメタケイ酸リチウムを析出させた中間段階のブロック(青っぽい色)を作り、この状態で削る。中間段階は化学的耐久性が非常に低いが、850℃の結晶化焼成で二ケイ酸リチウムに変わり、耐久性と歯の色が出る。
ジルコニア(ZirCAD):焼結しきった硬いジルコニアを削るには大型の多軸加工機と長い時間が要る。そこで多孔質の仮焼結体(気孔率47.3〜49.3%・二軸曲げ強さ50〜90 MPa)を小型の機械で削り、1400〜1500℃で焼結する(焼結後の気孔率は0.5%未満)。焼き縮みを見込んで、削り出しは最終形より約20%大きい。
リューサイト系(Empress CAD):もともと機械加工に向くとされ、色と透光性の違う層を重ねた多色ブロックもある。著者らは、Cerec 3を使った場合、形成から接着までの全工程が約2時間と説明しています。

著者らが示した使い分けと、症例3例

著者らは、材料は術前の状況で決まるとしたうえで、次のように整理しています。

  • リューサイト系:強さが低いため、インレー・アンレー・前歯のクラウンに限る。症例は下顎第一大臼歯のアマルガム置換インレー(チェアサイドで1回の来院)。
  • 二ケイ酸リチウム系:適応をクラウンへ広げた材料。症例は下顎第二大臼歯の摩耗した金冠をフルカントゥアクラウンに置換。青いメタケイ酸リチウムの状態で試適し、ステイン・グレーズとともに結晶化焼成してから接着しています。なお本文では、プレス法の e.max Press は3ユニットブリッジのフレームにも適するとされ、抄録でも小さなブリッジに触れています(CAD用ブロックでのブリッジ症例はありません)。
  • ジルコニア:臼歯部は咬合力が大きいため、ガラスセラミックスは単独歯(インレー・アンレー・クラウン)まで、臼歯部の長いブリッジは通常ジルコニア、と著者らは説明。症例は上顎左側の4ユニット分のスペースを、2本の支台歯と1本のポンティックの3ユニットブリッジで置換(ジルコニアのフレームにフルオロアパタイト系ガラスセラミックスを築盛、グラスアイオノマーセメントで合着)。

いずれも同社所属の歯科医師による1例ずつの写真で、経過期間や予後は書かれていません。ジルコニアについては「複数のin vitro研究と短期の臨床研究で生存率は良好」と文献を挙げるのみで、数値は示されていません。

明日の臨床へ

著者らの結論:3種の材料は物性と見た目が異なり、術前の状況に応じて選ぶ。リューサイト系は透光性が高くインレー・アンレー・前歯クラウン向き、二ケイ酸リチウム系はクラウン向き(中間段階で削ってから熱処理)、ジルコニアは強く靭性が高く、ガラスセラミックスを前装してブリッジに使う(多孔質の中間段階で削れる)。
補足(筆者の読み):
・強さの「段差」(Empress CAD 160/e.max CAD 300〜420/ZirCAD 900超 MPa)は、1社の3製品の数値として読むのが適切です。系統ごとの違いの見取り図にはなりますが、大半は試験方法が書かれておらず試料数も無いため、他社製品の数値とは横並びにできません。
・e.max CADの症例では、青い状態で試適し、結晶化焼成を経てから接着していました。結晶化焼成で耐久性と色が出るという工程の意味は、チェアサイドで扱うときに押さえておきたいところです。焼成条件はメーカーの指示どおりに。
・臼歯部ブリッジの材料選びで、著者らが「ガラスセラミックスは単独歯まで、長いブリッジは通常ジルコニア」と説明している点は参考になります。ただし同じ論文でプレス用e.max Pressは3ユニットブリッジのフレームにも適するとしており、いずれも臨床成績を比べた結果ではなく製造元の説明なので、適応の最終判断は各製品の添付文書と臨床研究で確かめてください。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、著者5名全員が紹介材料の製造元(イボクラビバデント社)の所属で、論文中に資金提供や利益相反の記載はありません。読むときはこの前提を置いてください。第二に、表の物性値は大半に試験方法の記載がなく、試料数・ばらつきはすべて記載がなく、他社材料との比較もありません。ZirCADの値は表2の製品値(900 MPa超・KIC 5.5)で、本文冒頭の900〜1200 MPa・KIC 4〜5はイットリア安定化ジルコニア一般の値として別に示されています。第三に、症例は3材料で各1例、術者・技工士とも同社の所属で、経過期間の記載がありません。ジルコニアの症例は3ユニットで、長いブリッジの例ではありません。e.max Pressの信頼性の根拠として挙げた文献には学会抄録も含まれます。第四に、説明どうしに揃わない所があります。「臼歯部のガラスセラミックスは単独歯まで」とする一方で、プレス用のe.max Pressは3ユニットブリッジのフレームに適するとし、抄録でも小さなブリッジに触れています。また「200〜400 MPaのガラスセラミックスは主に前歯に使う」と書く一方で、二ケイ酸リチウム系の臼歯クラウン症例を示しています。第五に、疲労・水中での劣化・臨床での破折率は扱っていません。それでも、「3系統の強さの段差」と「中間段階で削ってから焼いて完成させる」という設計の考え方は、ブロックを選ぶときの土台として知っておく価値があります。2010年の論文なので、現行製品の仕様は最新の資料で確認を。

今日のひとこと

著者らの説明:3種の材料は強さと見た目が違い、術前の状況で選ぶ。リューサイト系はインレー・アンレー・前歯クラウン、二ケイ酸リチウム系はクラウン(臼歯部のガラスセラミックスは単独歯まで。ただしプレス用のe.max Pressは3ユニットブリッジのフレームにも適するとも記載)、臼歯部の長いブリッジは通常ジルコニアのフレームに前装。削りやすさは、二ケイ酸リチウムを「削れる中間段階」で、ジルコニアを「多孔質の仮焼結体」で削ってから焼く工夫で得ている。ただし数値は製造元1社の自社製品の値で、大半は試験方法の、すべて試料数・ばらつきの記載がなく、症例は各1例で経過の記載もない。臨床での破折率や長期成績を比べた研究ではない。

Ritzberger C, Apel E, Höland W, Peschke A, Rheinberger VM. Properties and Clinical Application of Three Types of Dental Glass-Ceramics and Ceramics for CAD-CAM Technologies. Materials. 2010;3(6):3700-3713. DOI: 10.3390/ma3063700. PMCID: PMC5521757(PubMed未収載)。著者は全員イボクラビバデント社の所属
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。