1問1答 論文 保存修復

エナメル質のプレエッチング、何秒かけていますか——3秒で頭打ちだった

1問1答 論文 保存修復

プレエッチング時間がセルフエッチ接着材のエナメル質疲労強度に与える影響(Takamizawa 2016・J Adhes Dent)

ユニバーサルアドヒーシブを使うとき、エナメル質にはリン酸を先に当てる。では何秒でしょうか。15秒? 10秒? この研究は、単回の接着強さ(せん断接着強さ)だけでなく、5万回の繰り返し荷重に耐える力(せん断疲労強さ)まで測って比較しました。答えは、0秒と3秒のあいだに大きな段差があり、3秒を超えたところからは接着強さがほとんど動かない、というものです。

論文
Influence of Pre-etching Times on Fatigue Strength of Self-etch Adhesives to Enamel
著者
Takamizawa T, Barkmeier WW, Tsujimoto A, Endo H, Tsuchiya K, Erickson RL, Latta MA, Miyazaki M
掲載
Journal of Adhesive Dentistry 2016;18(6):501-511
種類
in vitro 実験(せん断接着強さ・せん断疲労強さ・脱灰深さ/接着材4製品×プレエッチング4条件)
PMID
27933325

「15秒」は、どこから来た数字ですか

ユニバーサルアドヒーシブを使うとき、エナメル質にはリン酸を先に当てる——ここまでは多くの先生が同じだと思います。

では何秒でしょうか。15秒と答える方が多いはずです。エッチ&リンスの標準がそうだから。でもその15秒は、セルフエッチの前処理として最適化された数字ではありません

この差は小さくない。歯頸部の薄いエナメル質、切端の摩耗した部位、成熟していない若年者のエナメル質——余計に溶かしたくない場面はいくつもあります。そして15秒は、単純にチェアタイムです。

今回の研究は、0秒・3秒・10秒・15秒の4条件を、単回の接着強さと、5万回の繰り返し荷重に耐える力の両方で比べました。

疲労強さまで測ったところが要点

接着の研究でよく見るのはせん断接着強さ(SBS)——1回で壊すのに必要な力です。ただ、口の中で修復物が受けるのはそういう力ではありません。噛むたびの小さな荷重が、何万回と積み重なる。

研究の骨格: 使ったのは4製品——1ステップのユニバーサルアドヒーシブ2種(Prime&Bond Elect、Scotchbond Universal)、従来型の1ステップセルフエッチ(G-ænial Bond)、従来型の2ステップセルフエッチ(OptiBond XTR)。それぞれにリン酸プレエッチングを3秒・10秒・15秒行った群と、行わない群(0秒)を対照として、せん断接着強させん断疲労強さ(SFS)を測定。疲労強さは10Hz・5万回、または破壊が起きるまでのステアケース法で求め、各条件30試料を用いた(接着強さは各群15試料、脱灰深さは各群10試料)。あわせて処理後のエナメル質面の平均脱灰深さをプロフィロメーターで実測している。

つまりこの研究は、「一発の強さ」と「へたらなさ」を分けて見たところに価値があります。

0秒と3秒のあいだにだけ、段差がある

4製品ぶんの範囲——0秒と3秒のあいだにだけ、段差がある

0秒 3秒 10秒 15秒

せん断接着強さ (単回で壊す力) 27.2〜32.0 38.9〜45.2 41.1〜46.0 42.2〜48.3 MPa MPa MPa MPa

せん断疲労強さ (10Hzで5万回に耐える力) 11.6〜17.7 18.2〜23.6 19.8〜23.6 20.2〜24.9 MPa MPa MPa MPa

0秒 → 3秒:すべての接着材で有意に上昇 3秒 → 10秒 → 15秒:接着強さは有意差なし(疲労強さは2ステップ材のみ15秒が高い)

破壊の様子も変わった プレエッチングなしでは、接着材の種類にかかわらず界面での破壊が主だった。プレエッチング時間が延びるにつれ、 混合破壊とエナメル質内での凝集破壊が増える傾向が見られた(ただし15秒でも接着破壊が依然として主体)

4製品ぶんの範囲。0秒から3秒への上昇は全接着材で有意。3秒を超えたところからは、接着強さでは有意差が無い

プレエッチングなし(0秒)では、せん断接着強さは27.2〜32.0 MPa、せん断疲労強さは11.6〜17.7 MPa疲労強さでは2ステップのOptiBond XTRが他より有意に高く、ユニバーサルのPrime&Bond Electが最も低い値を示しました(接着強さのほうは、1ステップの接着材どうしに有意差はありませんでした)。

3秒のプレエッチングで、接着強さは38.9〜45.2 MPa、疲労強さは18.2〜23.6 MPaへ。すべての接着材で、プレエッチングを行った群は行わなかった群より有意に高い値を示しました。

そして10秒(接着強さ 41.1〜46.0/疲労強さ 19.8〜23.6 MPa)15秒(42.2〜48.3/20.2〜24.9 MPa)と延ばしても、接着強さでは3秒群との間に有意差はありませんでした(原著がこの記述をしているのは接着強さの節です)。疲労強さも概ね同じ傾向ですが、2ステップの OptiBond XTR だけは15秒が3秒より有意に高くなっていました。なお疲労強さでは、15秒の時点で接着材どうしの差が消えています。

破壊の様子も変わりました。プレエッチングなしでは、接着材の種類にかかわらず界面での破壊が主体。ところがプレエッチング時間が延びるにつれ、混合破壊とエナメル質内での凝集破壊が増える傾向が見られました。ただし15秒でも接着破壊は依然として主体で(疲労試験では55〜84%)、原著の書きぶりも「増える傾向がある」にとどまります。

脱灰の深さは、接着材を塗った面で頭打ちになる

0 10μm 20μm 30μm エナメル質の平均脱灰深さ(μm) 0.2μm 3.8μm 20.6μm 20μm 24.8μm 20.5μm 25.7μm 21.5μm 0秒(プレエッチングなし) 3秒 10秒 15秒 リン酸のみ(接着材なし) リン酸+Scotchbond Universal プロフィロメーターによる実測値(各群10試料)。リン酸のみは 0.2(0.1)/20.6(3.2)/24.8(2.3)/25.7(2.9)μm、Scotchbond Universal を塗った面は 3.8(1.1)/20.0(2.3)/20.5(2.4)/21.5(4.7)μm。二元配置分散分析では、プレエッチング時間は脱灰深さに有意に影響し(p<0.001)、接着材の種類は影響せず(p=0.08)、両者の交互作用は有意だった(p<0.001)。この交互作用のとおり、接着材を塗った面では3秒・10秒・15秒に有意差が無いのに対し、リン酸のみの面では10秒・15秒が3秒より有意に深い
プロフィロメーターで実測した平均脱灰深さ。接着材を塗った面では3秒でおよそ20μmに達し、そこから先は有意に深くならない。一方リン酸のみの対照面では、10秒・15秒が3秒より有意に深くなっている

ここは丁寧に読む必要があります。まずリン酸のみを当てた対照面では、3秒で20.6μm、10秒で24.8μm、15秒で25.7μm。この面では10秒・15秒が3秒より有意に深くなっており、「頭打ち」にはなっていません。

一方、接着材を塗った面——実際の臨床に近い条件です——では、Scotchbond Universal で3秒 20.0μm、10秒 20.5μm、15秒 21.5μm。この3つに有意差はありません。ほかの接着材でも同じ傾向でした。

二元配置分散分析では、プレエッチング時間は脱灰深さに有意に影響した(p<0.001)一方で、接着材の種類は影響しませんでした(p=0.08)。そして両者の交互作用は有意(p<0.001)——リン酸のみの面と接着材を塗った面で、時間の効き方が違っていたということです。原著本文が「3秒を超える群どうしに有意差は無かった」と述べているのは、この交互作用を踏まえて読む必要があります。

接着材だけを塗った場合(0秒群)の脱灰深さは3.5〜3.9μm。何も処理していないエナメル質面が0.2μmですから、セルフエッチの酸性モノマー自体はエナメル質をわずかしか溶かしていません。リン酸3秒で、一気に5倍以上の深さになる——接着強さの段差と、この脱灰深さの段差は対応しています。

著者らの結論は簡潔です。「セルフエッチ接着材の塗布前に3秒間のリン酸プレエッチングを行うことで、エナメル質接着の有効性を高めることができる」

明日の臨床へ

エナメル辺縁へのリン酸は、3秒から始めてみる。この研究の条件では、それ以上かけても接着強さはほとんど変わりませんでした。逆に言えば、15秒かけていた分の12秒が接着強さに上乗せしていたものは、統計的には検出されていません。

意味が大きいのはエナメル質を余計に溶かさずに済むことです。歯頸部の薄いエナメル質、摩耗した切端、若年者の未成熟なエナメル質——「時間を短くしても効果が変わらない」なら、短いほうを選ばない理由がありません。

そしてプレエッチングの効果は疲労強さでも確認されているという点。単回の接着強さが上がるだけなら「実際の口腔内では関係ないのでは」と思えますが、5万回の繰り返し荷重に耐える力でも、0秒と3秒のあいだに同じ段差が出ました。プレエッチングは、瞬間の強さだけでなく、へたらなさも上げているということです。

ちなみに、プレエッチングをしない場合には2ステップのセルフエッチが有利でした。1ステップのユニバーサルを使うなら、エナメル辺縁のプレエッチングはより意味を持ちます。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 これはin vitro の実験です。平坦に研削したエナメル質面での測定であり、実際の窩洞にある未研削のエナメル質——表層にアプリズマティックな層が残る面——では同じ結果になるとは限りません。研削面のほうが酸が効きやすいので、臨床では3秒がやや短い可能性は残ります。また5万回という回数は、口腔内で修復物が受ける荷重の総数からすればごく一部です。接着強さや疲労強さは代替指標であり、修復物が何年もつかという臨床の結果とは別物であることも忘れないでおきたいところです。そして「3秒で頭打ち」という言い方にも、注釈が要ります。接着強さではそのとおりですが、疲労強さでは OptiBond XTR だけ15秒が3秒より高く、脱灰深さもリン酸のみの対照面では10秒・15秒でさらに深くなっていました。とはいえ「0秒と3秒のあいだに大きな段差がある」ことは、接着強さ・疲労強さ・脱灰深さの3つの独立した測定で一致して出ています。段差の位置がどこにあるかは、はっきりしていると言えます。

今日のひとこと

プレエッチングは「するか、しないか」で大きく変わり、「何秒か」ではほとんど変わらない。接着強さは3秒で頭打ちになり、疲労強さも脱灰深さもほぼ同じ形を描く(2ステップ材の疲労強さと、リン酸のみの対照面だけは例外)。エナメル質を余計に溶かさず、チェアタイムも使わずに、接着の質だけ取りに行ける——その落としどころが3秒である。

Takamizawa T, Barkmeier WW, Tsujimoto A, et al. Influence of Pre-etching Times on Fatigue Strength of Self-etch Adhesives to Enamel. J Adhes Dent. 2016;18(6):501-511. doi:10.3290/j.jad.a37361 PMID: 27933325
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。