1問1答 論文 歯周病

歯頸部の透過像、う蝕だと思っていませんか——ESEが外部歯頸部吸収にCBCTを推奨した理由

1問1答 論文 歯周病

ヨーロッパ歯内療法学会 ポジションステートメント:外部歯頸部吸収(Patel 2018・Int Endod J)

外部歯頸部吸収(ECR)には「典型的なエックス線像」がありません。吸収期には透過像、修復期には不透過像、その混在もある。臨床でも歯頸部う蝕と見誤られる。ヨーロッパ歯内療法学会の専門家委員会は、デンタルエックス線写真の限界がECRの誤診と不十分な処置につながりうると指摘し、診断がはっきりしないとき、そして治療を計画するときにCBCTを推奨しました。

論文
European Society of Endodontology Position Statement: External Cervical Resorption
著者
Patel S, Lambrechts P, Shemesh H, Mavridou A(ESE執行部による加筆・改訂を含む)
掲載
International Endodontic Journal 2018. doi:10.1111/iej.13008
種類
ポジションステートメント(ESEが招集した専門家委員会による合意)
PMID
30171768

歯頸部の透過像を、う蝕として削り始めていませんか

デンタルエックス線写真に、歯頸部の透過像が写る。臨床では歯肉の発赤と出血が少しある。「歯肉縁下のう蝕ですね」——そう判断して、麻酔をして削り始める。

ところが窩洞を開けると、思っていた深さでは終わらない。歯冠側から根の方へ、周囲へと広がっていく。出血が止まらない。ここではじめて外部歯頸部吸収(ECR)だったと気づく——という展開は、この疾患でいちばん避けたいものです。

ヨーロッパ歯内療法学会(ESE)が招集した専門家委員会のポジションステートメントは、この状況をはっきり言葉にしています。ECRは臨床的にもエックス線的にも歯頸部う蝕と誤られることがある。そしてデンタルエックス線写真の限界が、誤診と不十分な処置につながりうる

ECRには「典型像」が無い

この文書はESEが招集した専門家委員会の合意であり、現時点の臨床的・科学的エビデンスと委員の専門知に基づいています。目的は、原因・組織病理・臨床像・マネジメントについて臨床家に拠りどころを示すこと、そしてエビデンスがほとんど無い領域を明示することとされています(手元のPDFは査読通過後・未組版のAccepted Article版で、最終版とは表現が一部異なります)。

ECRとは: 通常は歯頸部から始まり、初期には歯根膜・セメント質・象牙質だけを侵す。進行すると歯髄組織も巻き込まれる。組織病理学的には吸収(開始)・吸収(進展)・修復(リモデリング)の3段階からなる動的な過程で、同じ病変の別の部位で吸収と修復が同時に進行することもある。好発するのは上顎の切歯・犬歯・第一大臼歯、および下顎第一大臼歯

原因については、委員会は慎重です。ECRが起こり進展するには歯根膜とセメント質の損傷に加えて、破歯細胞の活動を誘導・維持する刺激因子が必要だと考えられている。最も多く関連づけられているのは外傷の既往と矯正治療ですが、因果関係を確定するにはさらなる研究が必要と明記されています。

そして診断で問題になるのが、「典型的なエックス線像」が存在しないことです。吸収期には透過像、修復期には不透過像、段階によっては両者の混在——病変の見え方が固定していません。

デンタルで足りるところ、足りないところ

デンタルで足りるところ、足りないところ

デンタルエックス線写真 病変の存在に気づける 根管壁の輪郭を病変越しに追えれば 内部吸収との鑑別ができる パララックス法で位置の確認もできる — ただし広がりと性状の評価には  よく知られた限界がある

CBCT(小照射野) 病変の三次元的な形態 歯を取り巻く方向への広がりの程度 根管までの近さ この3つが分かることで、診断と処置の判断が変わる 2次元像に基づくHeithersay分類は、吸収の実際の 広がりを過小評価しうると指摘されている

CBCTが推奨されるのは、この2つの場面 ① 診断がはっきりしないとき  ② 外部歯頸部吸収の治療を計画するとき

小照射野CBCTの線量は、CTと比べれば相対的に低く、複数枚のパララックス撮影と同じオーダーとされている。 ただし電離放射線を出す装置である以上、利益がリスクを上回ることとALARAの原則の適用が前提になる

デンタルエックス線写真とCBCTで何が分かるか。ESEが推奨したのは「常に撮る」ではなく、2つの場面に限定した使用

デンタルでもできることはあります。内部吸収との鑑別——病変越しに根管壁の輪郭が追えるかどうかで見分ける方法が示されています。追えればECR、追えなければ内部吸収を疑う。またパララックス法を使えば、内部吸収との鑑別に加えて、プロービングでは触知できない病変の位置を確認できます。

足りないのはその先です。CBCTは病変の性状と広がりを正確に把握させる——具体的には三次元的な形態、歯を取り巻く方向への広がりの程度、根管までの近さの3つです。この3つが分からないまま治療方針を立てることの危うさが、この文書の主題といえます。

実際、従来から使われてきたHeithersay分類は2次元画像に基づくため、吸収の実際の広がりを過小評価する、あるいは十分に把握できない結果になりうると指摘されています。Patel分類——デンタルエックス線写真とCBCTの両方に基づく三次元的な分類——が、正確な診断と臨床家どうしの意思疎通のために提案されました。

撮るのは「2つの場面」——線量の話も明記されている

ESEの推奨は限定的です。診断がはっきりしないとき、および/または治療を計画するときにCBCTが推奨される。ECRを見たら必ず撮る、ではありません。

線量についても具体的な記述があります。小照射野CBCTの線量は、CTと比べれば相対的に低く、複数枚のパララックス撮影と同じオーダーである——だからECRの診断と経過観察への使用は正当化される、という論理です。

そのうえで、電離放射線を出す装置である以上、スキャンの利益がリスクを上回ることと、ALARA(合理的に達成可能な限り低く)の原則の適用が前提だと釘を刺しています。

治療の選択肢は5つ

治療の選択肢は5つ——決めているのは「広がり・性状・到達しやすさ」

1 外側からの修復(必要なら根管治療を併用) 吸収組織を除去し、直接修復で欠損を封鎖する。歯髄が巻き込まれていれば根管治療を加える

2 内側からの修復+根管治療 根管治療を行い、吸収による欠損を除去して直接修復材で封鎖する

3 意図的再植 他の方法では到達できない欠損に対し、根管治療済みの歯を一度抜いて修復・形態修正し、戻す

4 定期的な経過観察 治療できない歯や、病変内に相当量の修復性組織がある症例は、定期的に観察する

5 抜歯 治療のために到達できないとき、または機能や審美を満足に回復できないほど病変が広いとき

治療の目的は、吸収組織の除去・生じた欠損と侵入口の封鎖・再発の防止。症例によっては粘膜骨膜弁の剥離が必要になる これらの選択が治療成績にどう影響するかは、さらなる研究が必要だとステートメント自身が述べている
治療の選択肢。どれを選ぶかは病変の広がり・性状・到達しやすさで決まる。だからこそ、その3点を知るための画像が要る

治療の目的は、患部の歯を健康で機能する状態に保つこと、必要なら審美を改善することです。具体的な目標は吸収組織の除去、生じた欠損と侵入口の封鎖、再発の防止の3つ。

選択肢は上図の5つで、どれを選ぶかは病変の広がり・性状・到達しやすさで決まります。つまり治療方針の分岐点そのものが、画像で分かる情報に依存している。ESEが「治療を計画するとき」をCBCTの適応に挙げた理由が、ここにあります。

予後については、到達可能で保存的な治療が可能な病変は予後が良いとされました。ただし患者には治療成績に関するエビデンスが限られていることを説明すべき、という一文が続きます。

明日の臨床へ

まず、歯頸部の透過像を見たときの鑑別リストにECRを常駐させることです。好発部位は上顎切歯・犬歯・第一大臼歯と下顎第一大臼歯。問診で外傷歴と矯正治療歴を確認する。ピンクスポットが見えたら鑑別に挙げる(歯冠側に及ぶ血管に富む病変がそう見えることがあり、歯肉縁上まで及んだ内部吸収も同じように見えうる、と原著は両方に触れています)。

次に、デンタルでできる鑑別をきちんとやる。病変越しに根管壁の輪郭が追えるか。パララックス法で位置を確認できるか。ここまでは追加の被曝も設備投資も要りません。

そのうえで、診断がつかない、あるいは治療に踏み込むと決めたなら、CBCT。なお推奨として名指しされているのはこの2場面ですが、原著は線量の記述に続けて「診断と経過観察への使用は正当化される」と書いており、経過を追う目的での撮影も否定していません。

そして最後に、削り始める前に決める。窩洞を開けてから「思っていたのと違う」と気づくのが、この疾患でいちばん避けたい展開です。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 この文書はランダム化比較試験の集積ではなく、専門家委員会のポジションステートメントです。そして委員会自身が、エビデンスの薄さを何度も明示しています——ECRの臨床像と進行速度についての質の高いエビデンスは不足している、原因因子の因果関係は確定していない、治療選択肢が成績に与える影響と予後因子はさらなる研究が必要、病変の大きさや段階(吸収期か修復期か)が結果に及ぼす影響も研究が必要。つまり「CBCTを撮れば正解が分かる」という文書ではありません。それでも、典型像が無い疾患に対して2次元画像だけで治療方針を決めることの危うさは、はっきり指摘されました。診断の精度を上げる道具がある場面を2つに絞って示した——実務としては、それだけで十分に使えます。

今日のひとこと

ECRに典型像は無い。だからデンタル1枚だけで治療方針まで決めるのは無理がある。診断がはっきりしないとき、そして治療を計画するときにCBCTを撮る——ESEが推奨として引いたのはこの2本の線である。小照射野のCBCTの線量は、複数枚のパララックス撮影と同じオーダーだと明記されている。

Patel S, Lambrechts P, Shemesh H, Mavridou A. European Society of Endodontology Position Statement: External Cervical Resorption. Int Endod J. 2018. doi:10.1111/iej.13008 PMID: 30171768
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。