疲労試験まで回したら、落ちたのは従来型のセルフエッチのほうだった(Takamizawa 2016・Dental Materials)
「セルフエッチ系の象牙質にリン酸をかけると、コラーゲンにレジンが入りきらず接着が落ちる」——そう習ってきました。ではエナメル質のためにリン酸を使いたいユニバーサルアドヒーシブでは、象牙質側は損をするのでしょうか。1回の引張ではなく、5万回の繰り返し荷重で確かめた研究があります。
①エナメル質のためにリン酸を使うと、象牙質が心配になる
ユニバーサルアドヒーシブの売りのひとつが、リン酸エッチングをしてもしなくても使えることです。セルフエッチ系がエナメル質で不利だという報告は多く、そこを補うためにセレクティブエッチやトータルエッチで使いたくなります。
ところが窩洞は、エナメル質と象牙質が同時に露出しています。リン酸をエナメル質だけに限局させるのは、現実にはなかなか難しい。そして「セルフエッチ系の象牙質にリン酸をかけると、脱灰されたコラーゲン網にレジンが入りきらず、接着が落ちる」——これは長く言われてきたことです。
実際、G-Bond Plusを使ったHanabusaらの報告では、微小引張接着強さ自体には差が出なかったものの、リン酸を使った群の混成層は多孔性でレジンの浸透が悪く、界面が生分解に脆弱に見えたと結論づけられています。「数字は同じでも、質は違う」という指摘です。
ではユニバーサルアドヒーシブでは、どうなのか。1回で引きちぎる試験だけでなく、繰り返し荷重に耐える力(疲労強さ)で見るとどうなるのか。
②5万回の繰り返し荷重で、界面の耐久性を測る
日本大学とクレイトン大学(米国)の共同グループが、ユニバーサルアドヒーシブ3製品と、従来型の1ステップセルフエッチ1製品を、トータルエッチモードとセルフエッチモードで比べました。
疲労試験を入れているのがこの研究の要点です。1回で引きちぎる強さと、繰り返しに耐える強さは別の性質で、後者のほうが亀裂の発生しやすさ=界面の「質」を反映します。
③ユニバーサルは落ちず、落ちたのは従来型だった
二元配置分散分析では、接着材の違いは有意(P<.001)だが、エッチングモードそのものは有意でなく(P=.451)、両者の交互作用が有意(P<.001)でした。つまり「リン酸を足すと上がる/下がる」ではなく、製品によって向きが違うということです。
接着強さと疲労強さで、まったく同じ順位が出ました。ユニバーサル3製品はリン酸を足しても落ちず、PEはむしろ上がる。落ちたのは、対照に置いた従来型の1ステップセルフエッチだけです。
疲労強さを接着強さで割った比(SFS/SBS)も出ています。PE 0.495 vs 0.441、AU 0.472 vs 0.419とトータルエッチのほうが高く、SU 0.449 vs 0.480、CS 0.444 vs 0.470ではセルフエッチのほうが高い。ここでも製品ごとに向きが分かれました。
④なぜ製品で分かれるのか——擦り込みとHEMA
原著は、CSだけが落ちた理由として塗り方の違いを挙げています。CS以外の3製品は、メーカーが15〜20秒の擦り込み塗布(ラビング)を指示しているのに対し、CSにはその指示がありません。擦り込みは、酸性モノマーと象牙質の相互作用を促し、エッチング成分を混成層へ行き渡らせると考えられています。脱灰した象牙質へレジンを入れ込むには、この一手間が効いている可能性がある——というのが著者らの読みです。
もうひとつは機能性モノマー。SUとAUはMDPを含みます。MDPのカルシウム塩は溶けにくく安定で、ハイドロキシアパタイトに強い化学結合を作る(adhesion-decalcification concept)。この化学結合が、接着強さだけでなく疲労強さにも効いた、と考察されています。
PEがセルフエッチモードで低かった理由は、また別です。PEはHEMAを含みません。SEMでは、セルフエッチモードのPEでコンポジットと硬化した接着層の境界付近に多数のボイド(気泡)が観察されました。液滴やブリスターが亀裂の起点になったのではないか、と述べられています。HEMAフリーの接着材は強めのエアブローで液滴が減るという先行報告もあり、この研究の穏やかなエアブローでは飛ばしきれなかった可能性がある、という筋道です。
界面の形も違いました。ユニバーサル3製品では、トータルエッチで長く明瞭なレジンタグが形成され、破壊は混成層の下で起きる。一方セルフエッチでは、接着層とコンポジットの境界、あるいは接着層の中で外れる。なお従来型のCSでは、どちらのモードでもレジンタグは観察されていません。接着層の厚みはSU 6〜8μm、AUとCS 4〜5μm、PE 1〜2μmで、トータルエッチのAU・SU・CSでは2〜3μmの混成層が確認されています。
⑤明日の臨床へ
第一に、被着面の構成でモードを選ぶ。原著の臨床的含意はここが核心です——「被着面の大部分が象牙質であれば、術後の知覚過敏を減らし、レジン/象牙質界面の経時的な劣化を抑えるために、セレクティブエッチかセルフエッチのアプローチが推奨される」。一方で「エナメル質が主体で象牙質の露出が小さい窩洞であれば、エナメル質への確実な接着を得るためにトータルエッチモードを選ぶべきである。とくに窩洞が小さくてリン酸をエナメル質だけに正確に置けない場合には、ユニバーサルアドヒーシブでのトータルエッチが有利かもしれない」。「象牙質でも落ちないからトータルエッチでよい」ではなく、「セレクティブエッチで象牙質にリン酸が乗ってしまうリスクを、ユニバーサルなら和らげられる」という位置づけです。
第二に、「ユニバーサルだから同じ」ではない。原著のSignificanceも「ユニバーサルアドヒーシブの象牙質接着の質に対するエッチングモードの影響は、接着材ごとに異なっていた」と書いています。この研究でSUは、モードによらず他の3製品より有意に高い値を示しました。PEはリン酸を足したほうが高く、CSは足すと落ちる。製品ごとの推奨手順を確認する意味は残っています。
第三に、擦り込み塗布を省かない。原著が「トータルエッチモードで良好な接着を得るには、ラビングあるいはアクティブアプリケーションが重要な役割を果たすと示唆される」と書いているとおりです。塗って待つのではなく、擦り込んで待つ。
第四に、従来型の1ステップセルフエッチには、リン酸を足さない。対照に置いたCSは、接着強さで30.6→21.8MPa、疲労強さで14.4→9.7MPaと、両方で明確に落ちました。「セルフエッチ系にリン酸は禁物」という従来の教えは、従来型については依然として正しいということになります。
これは平坦に研磨した象牙質に円柱を立てた剪断試験で、窩洞の形態でもCファクターの影響下でもありません。しかも24時間後の値であり、水中保管や熱サイクルによる経時的な劣化は評価されていません。前述のHanabusaらの指摘——「数字が同じでも混成層の質は違い、生分解に脆弱になりうる」——は、この研究では直接検証されていない点です。SEMで界面の形態は見ていますが、劣化の追跡ではありません。製品も各カテゴリー1〜3種で、ここに載っていない製品へそのまま広げることはできません。それでも、1回の剪断と5万回の疲労で同じ順位が再現されたことは、この結果が偶然の産物ではないことを支えています。そして「擦り込み塗布が効いているのではないか」という考察は、明日の診療で試せる形をしています。
今日のひとこと
「セルフエッチ系にリン酸を足すと象牙質の接着が落ちる」は、ユニバーサルアドヒーシブには当てはまらなかった。3製品のうち2つは差がなく、1つはむしろリン酸を足したほうが高い。落ちたのは、リン酸を前提にしていない従来型の1ステップセルフエッチのほうだった。ただし製品ごとに挙動が違うので、「ユニバーサルだから大丈夫」ではなく「その製品がどうか」を見る話になる。


