急性歯痛|市販ベンゾカインゲル・用量反応・プラセボ反応・メトヘモグロビン血症
ベンゾカインの局所麻酔ゲルは1903年から使われてきました。それでもFDAの評価は、歯痛の緩和という用途についてはカテゴリーIII(安全だが有効性のデータが確証的でない)のまま。その空白を埋めるために組まれた576名の試験は、20%が87.3%、10%が80.7%という明確な用量反応を示しました。ただし、いちばん考えさせられる数字は別にあります——基剤のみのプラセボでも、70.4%が改善したのです。
①1903年から使われているのに、証拠が足りなかった
ベンゾカインの局所麻酔ゲルは、10%と20%の製剤として市販され、1903年から広く使われてきました。それでも米国FDAの評価は、歯痛の一時的緩和という用途についてカテゴリーIII(安全とは判断されるが、有効性のデータが確証的でない)のままでした。
興味深いことに、同じベンゾカインでも口腔・歯肉の軽度の刺激や損傷、義歯、矯正装置、口内炎、歯の萌出、口腔咽頭の痛みに対してはカテゴリーI(一般に安全かつ有効と認められる)を与えられています。歯痛だけが取り残されていた。FDAは「よく管理された研究から追加データが得られれば、カテゴリーIへの再分類を検討する」と述べており、この研究はその要件を満たすことを意図して実施されたと著者らは明記しています。
②576人が、自分の指でゲルを塗った
二重遮蔽下で、中等度〜重度の歯痛を抱えた576名が、開いた窩洞と周囲の口腔組織に、自分でゲルを塗布しました。
評価の設計が丁寧です。主要評価項目はレスポンダー率——「5分から20分のあいだのいずれかの時点で、連続する2回の評価において、ベースラインから痛みスコアが1段階以上下がった人の割合」。加えてストップウォッチ2個を使い、「何か効いてきたと最初に感じた瞬間」と「自分にとって意味のある緩和が得られた瞬間」を、被験者自身にボタンで押させています(表示は覆って見えないようにした)。
さらにこの研究には、もうひとつの目的がありました。ラベルに書かれた用量の指示を、患者はどれだけ守れるかを測ることです。塗布前後にゲルをデジタル秤で計量しています。
③結果:確かに効いた。ただし、プラセボも効いた
レスポンダー率は20%ベンゾカイン87.3%、10%ベンゾカイン80.7%、基剤のみ70.4%。両ベンゾカインとも基剤より有意に優れていました(10%対基剤 P=.038、20%対基剤 P<.001)。そして20%は10%よりも有意に優れていました(P=.047)。
著者らは、この用量反応関係を示したのは自分たちの研究が初めてであると述べています。差は6.6パーセントポイント——これを臨床的に意味のある差だと言えるのか。著者らはアセトアミノフェンの通常量と増量を比較した2004年のシステマティックレビューを引き、そこでの差が5パーセントポイントであり、5ポイントの差は臨床的に有意な差として受け入れられてきたと説明しています。
速さも測られています。「意味のある緩和」までの中央値は、基剤8.5分・10%が4.4分・20%が3.2分。「何か効いてきた」までは、2.0分・1.4分・1.1分。両ベンゾカインとも基剤より有意に速く(P<.001)、「何か効いてきた」については20%が10%より有意に速い(P=.030)という結果でした。
一方で効果の持続時間の中央値は3群とも115分超で、群間に差はありません。
④プラセボが70.4%も効いた理由
ここがこの論文の白眉です。著者ら自身が、この高いプラセボ反応をごまかさずに掘り下げています。
まず「鎮痛薬の研究では30%程度のプラセボ反応率は珍しくない」——期待効果などの理由で。しかし70.4%は明らかに高い。そこで挙げられるのが2つの説明です。
ひとつは「局所塗布では、病変を外部環境から保護することによる基剤効果がありうる」。ゲルが窩洞に蓋をするだけで痛みは和らぐ、ということです。
もうひとつが決定的です。
ベンゾカインは水に溶けにくいため、溶媒としてポリエチレングリコール(PEG)が使われます。この研究で使われた3つのゲルのPEG濃度は、20%ベンゾカインが77%、10%ベンゾカインが87%、基剤のみが97%——プラセボが最も高濃度でした。
そして著者らが引く実験室の結果がこれです。40%のPEGが複合活動電位を完全に消失させ、30%の濃度からC線維の神経活動が有意に減弱しはじめる。
結論は率直です——「したがって、ベンゾカインを溶液に保つために商業的に用いられている基剤は、それ自体が活性を持っている可能性が高く、厳密な意味での『真のプラセボ』ではないかもしれない」。実際、歯痛患者においてPEGのゲルと液剤の鎮痛反応率が47%と60%だったという報告も引かれています。
⑤患者は指示どおりに塗れたか、そして安全性は
塗布量の平均は235.6mg(SD 148.7、中央値203、範囲18〜1,026mg)。88.2%が400mg以下に収まっており、著者らは遵守は良好だったと評価しています。
ここで著者らが指摘するのが面白い。彼らが渡した製品ラベルには塗る量を示した絵が入っていました。この絵は市販のベンゾカインゲルのラベルには載っていない——そしてこの図解が良好な遵守率に寄与したと考えられ、今後のラベル表示で検討されるべきだ、と。
1,000mgを超えて塗ったのは1名だけ(20%群の29歳男性)。理由も記録されています——「すぐに効いてほしかった」から指に取りすぎてしまい、戻せないので全部塗った。
有害事象は576名中わずか16件。基剤群3.5%、10%群2.6%、20%群2.6%で、群間に差はありません。最も多かったのは一過性の血圧上昇(3件)と消化器症状(2件)。メトヘモグロビン血症の症例はゼロでした。
このメトヘモグロビン血症こそ、ベンゾカインをめぐる最大の懸念です。著者らはFDAの懸念が高まっていると認めたうえで、歯痛の一時的緩和を目的としたOTCのベンゾカイン製品の使用では、めったに起こらないと整理します。薬剤性メトヘモグロビン血症は多くの場合、強い酸化性薬剤の過量投与のあとに起こる——つまり量の問題だ、という整理です。
⑥明日の臨床へ
第一に、ベンゾカインゲルは、応急処置として患者に勧められる根拠を持った。原著の実務的含意は「患者は10%および20%のベンゾカインゲルを、歯痛の一時的な治療のために安全に使用しうる」です。効き始めの中央値は1分あまり、意味のある緩和まで3〜4分——受診までのつなぎとしては十分な速さでしょう。
第二に、「効いた」という患者の言葉を、原因の手がかりにしすぎない。基剤のみでも70.4%が改善しました。塗って楽になったからといって、病態が特定できるわけではありません。
第三に、説明するときは「量」を絵で示す。この研究で遵守率が高かった理由として著者らが挙げたのは、ラベルに載せた絵でした。市販品のラベルにはそれがない。口頭で「少量を」と言うより、指に取って見せるほうが確実だということです。
まず資金源を押さえておきます。この研究はファイザー・コンシューマー・ヘルスケアとチャーチ・アンド・ドワイトからの助成を受けており、両社はそれぞれアンビゾール(Anbesol)とオラジェル(Orajel)というベンゾカイン製剤の製造販売元です。著者のひとりはファイザーの従業員で同社株を保有しています。研究デザインは二重遮蔽・多施設・576名と堅牢ですが、利害関係は結果の読み方に影響しうるので明記しておきます。原著自身が挙げる限界は「1日を通した複数回投与を評価していない」こと——ベンゾカイン歯痛製品のラベルは1日4回までを上限としますが、そこは測られていません(同日中に確定的治療を受けてもらう設計だったため、多回投与研究は実施可能でも倫理的でもなかった、と説明されています)。そして最大の留保は、比較対象が真のプラセボでなかった可能性です。基剤のPEG濃度は97%で、実験室では40%で複合活動電位が消失する——つまりこの研究が測ったのは「ベンゾカインを足すことの上乗せ効果」であって、「ゲルを塗ることの効果」ではありません。それでも、1903年から使われてきた薬に、ようやく規模のある比較試験が付いたという意味は大きい。そして「プラセボが効きすぎた理由」を自分で解剖してみせたこの論文の姿勢は、読み手にとってむしろ信頼の材料になります。
今日のひとこと
ベンゾカインゲルは基剤より有意に効き、20%>10%という用量反応も初めて示された。効き始めの中央値は1分あまり、意味のある緩和まで3〜4分——受診までのつなぎとしては十分に速い。ただし基剤のみでも70.4%が改善しており、著者ら自身が「厳密な意味での真のプラセボではないかもしれない」と認めている。溶媒のポリエチレングリコール濃度は、プラセボで最も高い97%だった。この研究が測ったのは「ゲルを塗ることの効果」ではなく、「そこにベンゾカインを足すことの上乗せ効果」である。


