1問1答 論文 虫歯

封鎖が最も強かった材料が、深部では細胞を最も減らした——RMGIの二面性と、残存象牙質0.25mmという分かれ目

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|歯髄保護・細菌漏洩・裏層材の選択

「歯髄を守るために裏層する」——習ったとおりの理屈ですが、何から守るのかで答えが変わります。マルセイユ大学とバーミンガム大学が、矯正で抜歯予定の小臼歯272歯にV級窩洞を作り、6種類の材料で修復してから抜歯し、組織学的に調べました。細菌漏洩を最も防いだのはRMGIとZnOEで、ともにゼロ。ところが窩底が歯髄に迫った窩洞(残存象牙質0.250〜0.040mm)では、そのRMGIが象牙芽細胞を最も減らしていました(−62.5%)。測っている軸が違えば、材料の順位も違うということです。

論文
Restorative pulpal and repair responses
著者
Peter E. Murray, Imad About, Jean-Claude Franquin, Mireille Remusat, Anthony J. Smith(バーミンガム大学歯学部 口腔生物学/マルセイユ歯学部 ほか)
掲載
The Journal of the American Dental Association 2001;132(4):482-491
種類
ヒトの生体内における組織学的比較研究(患者135名・272窩洞)
PMID
11315379

「歯髄を守るために裏層する」——何から守るのですか

深い窩洞に何を敷くか。水酸化カルシウムか、グラスアイオノマーか、それとも接着してそのまま詰めるか。習った理屈はどれももっともらしく、しかも互いに矛盾しています。

この研究は、その矛盾を1つの実験の中で並べて見せました。マルセイユ大学とバーミンガム大学が、矯正のために抜歯予定の健全小臼歯272歯にV級窩洞を作り、6種類の材料で修復し、その後に抜歯して組織切片で歯髄を直接観察したものです。患者135名、平均年齢12.54歳。ヒトの生体内で、材料を横並びに比較した貴重なデータです。

先に結論: 細菌漏洩を最も防いだのはRMGIとZnOE(ともに0%)。しかし残存象牙質が0.250〜0.040mmの窩洞では、象牙芽細胞を最も減らしたのがRMGI(−62.5%)だった。同じ材料が、測る軸によって最上位にも最下位にも来る。著者らの結論は「浅〜中等度はRMGIで、深い窩洞は窩底にCa(OH)2を薄く敷いてからRMGI」。

なぜ「封鎖」が主役になったのか

修復物の失敗で最も多く、かつ深刻なのは、修復物と歯質の界面からの細菌漏洩だと著者らは整理します。術後の知覚過敏、辺縁の変色、二次う蝕、歯髄炎、歯髄壊死、そして最終的な根管治療——すべてここから始まる。

そこで長らく議論されてきたのが「生活象牙質を酸処理すると、刺激物が象牙細管から入って歯髄を傷めるのではないか」という懸念です。この研究は、そこにも答えを出しています(⑤で扱います)。

今回の一手:ヒトの歯で、材料を横並びにする

  • 対象:健常者135名(女性86名・男性49名)、平均年齢12.54歳(9〜25歳)。矯正のため抜歯予定の第一・第二小臼歯
  • 窩洞:頬側のセメントエナメル境から1mm上に、規格化したV級窩洞(露髄なし)。残存象牙質厚さ(RDT)は0.040〜2.993mm(平均0.90mm)
  • 材料:CR(象牙質接着・4システム145歯)/CR(エナメル接着・44歯)/RMGI(43歯)/アマルガム+ZnPC(11歯)/アマルガム+Ca(OH)2(19歯)/ZnOE(10歯)——計272歯
  • 評価:平均68.45日後に抜歯し、5μmの切片をヘマトキシリン・エオジン染色。細菌はBrown-Brenn染色で判定。歯髄炎症は国際基準(FDI・ISO)で3段階に分類

結果①:封鎖できたのはRMGIとZnOE

0 10% 20% 30% 細菌が検出された歯の割合 (%) 24% 11% 0% 0% CR エナメル接着 CR 象牙質接着 RMGI ZnOE Brown-Brenn染色による判定。修復歯全体では12.12%に細菌が検出された。材料の選択は細菌漏洩の予防に有意に寄与した(ANOVA P=0.020)。Ca(OH)2とZnPCは染色用の歯質が足りず未測定=「漏洩しなかった」ではなく「測っていない」
切削象牙細管内に細菌が検出された歯の割合。全体では12.12%だった(Ca(OH)2とZnPCは未測定)
0 33.3% 66.7% 100% 該当した歯の割合 (%) 59% 9% 56% 6% 49% 0% 17% 0% 9% 0% CR 象牙質接着 CR エナメル接着 RMGI Ca(OH)2 ZnOE 淡い棒が重度。重度の歯髄炎症は、切削象牙細管への細菌侵入があった群にのみ現れた(ANOVA P=0.0006)。ただし中等度まで含めるとRMGIは49%で、著者らが「炎症活性を最も抑えた材料」と呼んでいるのはZnOE(9%)
歯髄の炎症活性。重度が現れたのは、細菌侵入があった2群だけだった
  • 細菌漏洩:CRエナメル接着 24%/CR象牙質接着 11%/RMGI 0%/ZnOE 0%(材料選択の寄与は ANOVA P=0.020)。Ca(OH)2とZnPCは染色用の歯質が足りず測定できていません——「漏洩しなかった」のではなく「測っていない」です。著者らは同じ段落で、霊長類の研究でCa(OH)2裏層アマルガムの9.4%に細菌が見られたことを引いています
  • 重度の歯髄炎症:CR象牙質接着 9%/CRエナメル接着 6%/RMGI・ZnOE・Ca(OH)2 いずれも0%
  • 重度の炎症は細菌の象牙細管への侵入から生じたように見えると著者らは書いています(ANOVA P=0.0006)。炎症は材料の毒性ではなく、まず漏洩の帰結だったと読めます
  • ⚠️ ただし中等度の炎症まで含めるとRMGIは49%で、CR2群(59%・56%)に次ぐ3番目の高さです。著者らが抄録で「歯髄の炎症活性を最も抑えた材料」と呼んでいるのはZnOE(9%)のほうで、RMGIではありません

エナメル接着が象牙質接着より漏洩が多かった理由は単純で、象牙質面には接着していないからです。RMGIとZnOEが強かったのは、封鎖性に加えてフッ化物・ユージノールの抗菌性があるためだろう、と著者らは考察しています。

結果②:深部では、順位が入れ替わる

0 23.3% 46.7% 70% 象牙芽細胞密度の減少率 (%) 11.3% 29.1% 32.6% 36.5% 55.2% 62.5% Ca(OH)2 ZnOE CR 象牙質接着 ZnPC CR エナメル接着 RMGI 窩洞と無関係な部位の密度を基準にした減少率。著者らは別に、CRエナメル接着とRMGIを歯髄から0.5mm以内に置くと50%を超える減少が起きた、とも記している
残存象牙質厚さが0.250〜0.040mmの窩底直下における、象牙芽細胞密度の減少率

ここがこの論文の核心です。ただし正確に言うと、同じ指標の順位が深さで入れ替わったのではありません「細菌漏洩の順位」と「深部での象牙芽細胞密度の順位」は、別々の指標です。その2つを並べると、漏洩でトップだったRMGIが、象牙芽細胞では最下位に来る——そういう構図です。

  • 残存象牙質0.250〜0.040mmの窩底直下での象牙芽細胞の減少率(窩洞と無関係な部位を基準):Ca(OH)2 −11.3% < ZnOE −29.1% < CR象牙質接着 −32.6% < ZnPC −36.5% < CRエナメル接着 −55.2% < RMGI −62.5%
  • 著者らは別に、CRエナメル接着とRMGIを歯髄から0.5mm以内に置くと、象牙芽細胞が50%を超えて減少したとも記しています
  • そもそも深さ自体が最大の要因:RDTが0.500〜0.251mmになると象牙芽細胞は24.3%減り、0.250〜0.040mmではさらに30.5%減る
  • 第三象牙質(修復象牙質)が最も作られるのはRDT 0.500〜0.251mmのとき。0.251mmを切ると、どの材料を使っても第三象牙質の形成は伸びない(著者らはこれを、象牙芽細胞自体の傷害による分泌活性の低下がおそらく原因だろう、と推測しています)
  • 第三象牙質の形成量(Ca(OH)2を100とした比):Ca(OH)2 100 > CR象牙質接着 68.8 > CRエナメル接着 46.9 > RMGI 39.1 > ZnOE 20.5 > ZnPC 0
そして、酸処理は犯人ではなかった。生活象牙質を酸処理して接着したCR象牙質接着群の象牙芽細胞減少は−32.6%で、象牙質を酸処理していないZnPC(−36.5%)やCRエナメル接着(−55.2%。エナメル質は酸処理している)よりむしろ少なかった。第三象牙質の量には酸処理の有無が効いていたが、象牙芽細胞密度には効いていない(ANOVA P=0.5663)。長く懸念されてきた「酸処理が歯髄を傷める」という説を、ヒトのデータが支持しなかったということである。

明日の臨床へ

  • 深さで道具を替える。著者らの推奨はきわめて実務的です——浅〜中等度の窩洞はRMGIで修復し、深い窩洞は窩底にCa(OH)2を薄く敷いてからRMGIを置く。封鎖はRMGIに、直下の細胞保護はCa(OH)2に分担させる
  • 著者らが置いている閾値は「0.251mm」です。原文は「残存象牙質が小さい窩洞、とくに0.251mmを下回る場合は、第三象牙質の修復反応よりも材料の細胞毒性を優先的に考慮すべき」。この数字をそのまま頭に入れておくのが安全です
  • 0.251mmを切ったら、第三象牙質には期待しない。この深さでは象牙芽細胞自体が傷んでいるためだろうと著者らは推測しており、実際どの材料でも修復象牙質は伸びていません。「Ca(OH)2を敷けば象牙質ができる」は、深さ次第です
  • エナメル接着だけで済ませない。象牙質面を封鎖しない設計は、この研究では漏洩24%・象牙芽細胞減少55.2%と、両方で不利でした
  • 酸処理を恐れて封鎖を諦めない。生活象牙質の酸処理は、少なくともこのデータでは象牙芽細胞の減少を増やしていません

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:2001年の研究で、材料は当時の製品です(Scotchbond・Vitrebond/Vitremer・Dycal など)。現在のユニバーサルボンドやバイオセラミック系は含まれていません。群の大きさが不揃いで、ZnOEは10歯・ZnPCは11歯と小さく、この2群の数字は幅を持って読む必要があります。Ca(OH)2とZnPCは染色用の歯質が足りず、細菌漏洩を測れていません(著者らも明記)。観察期間は平均68.45日で、最長では1年近く経った歯も含まれます(ただし原著の中で範囲の記載が食い違っており、抄録は20〜381日、方法は3〜364日、考察は28〜381日となっています)。著者ら自身は「第三象牙質と象牙芽細胞の反応を観察するには十分な時間が経過していた」としつつ、同時に「機械的な失敗や漏洩は年単位で表面化するので、解釈には慎重さが要る」とも書いています。対象が平均12.5歳の若年者である点も、象牙細管の太さや歯髄の反応性を考えると外挿の際の注意点です。それでも、ヒトの生体内で6材料を組織学的に横並びにしたデータは今なお稀で、「封鎖と細胞毒性は測っている軸が別で、どちらを優先するかは深さで変わる」という骨格は、材料が変わっても効き続けると思います。

今日のひとこと

細菌漏洩を防いだ順は RMGI・ZnOE(ともに0%)> CR象牙質接着(11%)> CRエナメル接着(24%)。重度の歯髄炎症は、細菌侵入があった2群(CR象牙質接着9%・CRエナメル接着6%)にだけ現れた。ただし中等度の炎症まで見るとRMGIは49%で、著者らが「歯髄の炎症活性を最も抑えた材料」と呼んでいるのはZnOE(9%)のほうである。そして残存象牙質が0.250〜0.040mmの窩洞では象牙芽細胞の減少率が Ca(OH)2 −11.3% < ZnOE −29.1% < CR象牙質接着 −32.6% < ZnPC −36.5% < CRエナメル接着 −55.2% < RMGI −62.5% となり、封鎖で最優秀だったRMGIが最下位に来る。著者らの推奨は「浅〜中等度の窩洞はRMGIで、深い窩洞は窩底にCa(OH)2を薄く敷いてからRMGI」、そして「残存象牙質が0.251mmを下回る窩洞では、第三象牙質の形成より材料の細胞毒性を優先して考えるべき」。もう一つ重要なのは、生活象牙質への酸処理が象牙芽細胞の減少を増やさなかったことである。

Murray PE, About I, Franquin JC, Remusat M, Smith AJ. Restorative pulpal and repair responses. J Am Dent Assoc. 2001;132(4):482-491. PMID: 11315379. DOI: 10.14219/jada.archive.2001.0211
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。