カリオロジー|Dentocult-SM・う蝕活動性試験・間食習慣・数量化理論II類
「まだ虫歯がないから大丈夫ですね」——健診でそう言って終わりにしていないでしょうか。虫歯がゼロでも、口の中のミュータンス菌の量は子どもによって違います。岡山大学のグループが、う蝕のない3〜5歳児114名の菌数を測り、保護者への15項目のアンケートと突き合わせました。何が、菌の多い少ないを分けていたのか。
①「まだ虫歯がないから大丈夫」で終わらせない
健診で虫歯ゼロの子を見たとき、そこで話が終わってしまうことがあります。でも虫歯がゼロでも、口の中のミュータンス菌の量は子どもによってまるで違います。
この研究の着眼点は、そこにあります。「もう虫歯ができた子」ではなく、「まだ虫歯のない子」だけを集めて菌数を測った。虫歯という結果が出る前の段階で、何が菌の多い少ないを分けているのかを見にいった研究です。
②う蝕ゼロの114名を選び出して測る
- 母集団:3〜5歳の幼稚園児330名に歯科健診とDentocult-SM Strip mutansテスト(SMテスト)を実施
- 解析対象:そのうちう蝕のない小児114名を抽出
- 菌数の測定:パラフィンペレットを1分間噛ませ、プラスチックストリップを舌の上で10回転させて唾液を付着。培地に挿入して48時間培養し、モデルチャートでクラス0〜3の4段階に判定
- クラスと菌数:クラス0=10⁴CFU/mL未満/クラス1=10⁴〜10⁵/クラス2=10⁵〜10⁶/クラス3=10⁶超
- アンケート:保護者に間食習慣と歯磨き習慣を中心とした15項目
- 解析:菌の有無を外的基準とした林の数量化理論II類。上位項目についてはさらにχ²検定
判定結果はクラス0が69.3%(79/114)、クラス1が21.9%(25/114)、クラス2が8.8%(10/114)、クラス3はゼロ。クラス0を「SM−群」、クラス1〜3を「SM+群」(30.7%)として解析しています。
著者らは先行研究では3〜5歳児の有所見者(クラス1〜3)が約60.4〜66.7%と、本研究のおよそ2倍だったことに触れ、う蝕のない子だけを選んだからクラス0が多くなったと説明しています。この集団が「もともと良い側に寄っている」ことは、読むうえでの前提です。
③菌の有無と関係が深かった項目
- 甘食を始めた時期 0.2135(1位)/間食回数 0.2085(2位)/保護者の齲蝕 0.2077(3位)
- 間食後の歯磨き 0.1779(4位)/甘味飲料の回数 0.1714(5位)/間食の規則性 0.1550(6位)/よく飲む飲み物 0.1203(7位)
- 下位:フッ化物塗布の経験 0.0473(14位)/外遊び 0.0027(15位)。保護者の甘味嗜好も0.0050(13位)
なお原著は、レンジと偏相関係数の2つの指標で順位を見ています(レンジでは間食回数が1位=1.0302、甘食を始めた時期が2位=0.8938)。ここでは偏相関係数の順位で並べました。
上位7つのうち5つが「何を、いつ、どれだけ、どういうリズムで口に入れるか」の話です。フッ化物塗布の経験が下位だった点は意外に見えますが、ここで測っているのは「う蝕」ではなく「菌の定着」であり、しかも質問項目は「塗ってもらったことがあるか」の有無だけで、時期も頻度も問うていません。この順位から「フッ化物が菌に効かない」とは読めない——むしろ著者らは考察で、PMTC・クロルヘキシジン・家庭でのフッ化物利用を組み合わせる3DSの応用に期待を寄せています。
④検出率で見ると、差はもっとはっきりする
- 間食が不規則(37名)48.6%/規則的(77名)22.1%(p<0.01)。リスク比 2.2(本文の割合から計算)
- 間食3回以上(17名)47.1%/2回以下(97名)26.8%(p<0.01)。リスク比 1.8
- よく飲む飲み物が甘味飲料(23名)47.8%/お茶・牛乳が中心(91名)26.4%(p<0.05)。リスク比 1.8
- 保護者の齲蝕が多い(72名)37.5%/普通・少ない(42名)19.0%(p<0.05)。リスク比 2.0
- 間食後に歯を磨かない(88名)37.5%/磨く(26名)7.7%(p<0.05)。リスク比 4.9
いちばん差が大きかったのは「間食後に歯を磨くか」でした。7.7% 対 37.5%。ただし磨いている子はわずか26名で、SM+はそのうち2名だけ。この極端な数字は、少人数からの推定であることを踏まえて読む必要があります。
そして有意差が出なかった項目も紹介しておきます。甘いおやつを食べ始めた時期は、3歳以上(28名)21.4%/2歳以下(86名)33.7%で、χ²検定では有意ではありませんでした(p=0.16)。数量化理論II類では偏相関係数1位だった項目が、単独のχ²検定では差がつかなかった——多変量で上位に来ることと、単独で有意になることは別だという、良い実例です。
⑤なぜ「間食のリズム」が効くのか
この研究自体はメカニズムを検証していませんが、上位に並んだ項目の顔ぶれには一貫性があります。
- だらだら食べれば、口の中が糖にさらされる時間が長くなる。ミュータンス菌にとっては定着と増殖の条件が整う
- 回数が増えれば、酸性に傾く時間も増える。菌にとって有利な環境が繰り返し作られる
- 保護者の齲蝕が多いことが3位に来たのは、母子伝播の文脈で読める結果です。著者らは緒言で、ミュータンス菌の伝播は母子を中心とする家族内感染だとする報告が多いことを踏まえ、「侵入しても定着しなければ感染とはいえない」——だから宿主側の定着させない条件を調べる意味がある、と研究の動機を述べています
⑥明日の臨床へ
- 虫歯ゼロの子にこそ、間食の聞き取りをする。この研究のいちばんの含意です。まだ結果が出ていない段階で、菌のレベルには既に差がついている
- 聞くべきは「回数」と「時間を決めているか」の2つ。この2項目だけで、検出率が1.8〜2.2のリスク比で変わっています
- 飲み物も忘れずに。「よく飲むものは何ですか」——甘味飲料中心の子は47.8%、お茶・牛乳中心の子は26.4%
- 保護者の口の中も見る。3位に来た項目が「子ども本人ではなく保護者の齲蝕」だったことは、保護者への介入が子どもへの介入でもあることを示しています
- 間食の指導は、早いほどよい。著者らはまとめで、ミュータンス菌が定着する2歳以前に保健指導を行うことで定着を防げる可能性を挙げています
- フッ化物塗布の「経験の有無」は、この研究では菌の検出と関係が薄い(14位)でした。ただしこの項目は有無しか聞いておらず、時期も頻度も分かりません。「フッ化物は効かない」と読むための材料ではありません
今日のひとこと
う蝕ゼロの3〜5歳児114名のうち、ミュータンス菌が検出されたのは30.7%。菌の検出と関係が深かったのは、甘食を始めた時期(偏相関係数 0.2135)・間食回数(0.2085)・保護者の齲蝕(0.2077)・間食後の歯磨き(0.1779)。検出率は間食が不規則な子で48.6%、規則的な子で22.1%。一方でフッ化物塗布の「経験の有無」は0.0473(14位)、外遊びは0.0027(15位)と下位だった(ただし有無しか聞いておらず、時期も頻度も分からない)。著者らはまとめで、菌が定着する2歳以前の保健指導を挙げている。虫歯がまだ無い段階でこそ、食べ方を聞く値打ちがある。


