カリオロジー|歯面別のう蝕感受性・隣接面・小窩裂溝
「シーラントをしておけば、あとは大丈夫でしょうか」。混合歯列期の保護者からよく出る問いです。咬合面が危ないのは間違いない。ただ1996年、グラスゴー大学のChestnuttらが、スコットランドの12歳児4294名を3年間追いかけて歯面ごとに数え直したところ、新しく発生したう蝕の内訳は、思っているのとは少し違う姿をしていました。
①「シーラントをしておけば大丈夫ですか」
混合歯列期の保護者からよく出る問いです。私たちも、まず咬合面を守ることを考えます。それは間違っていません——この研究でも、大臼歯の咬合面はリスクのある面の35.8%がう蝕になっており、最も危ない場所でした。
ただし、それは「1面あたりの危なさ」の話です。集団に新しく生じるう蝕全体を数えたとき、どこが最も多いのか。これは別の問いです。
②4294名を、1人140面ずつ、4回数えた
- 場所と時期:スコットランド・ラナークシャー、1988年8月〜1992年3月。3年間の歯磨剤の二重盲検う蝕試験に付随した解析
- 対象:32校の12歳児8358名に案内し、6212名の同意を得て、歯の成熟度と過去のう蝕経験から4294名を選定(平均12.5歳)。う蝕がまったくない子は除外されている
- 使用歯磨剤:試験を通じて1000ppm または 1500ppm のフッ化物配合(この比較自体は別報告)
- 診査:学校に可搬式の器材を持ち込み、仰臥位・55Wのライト。歯を乾燥させずにミラーとCPITN-Cプローブで診査し、すべての隣接面には光ファイバー透照(FOTI)を併用
- 部位の分け方がこの研究の肝:下顎大臼歯の頬側小窩と上顎大臼歯の口蓋側小窩を、平滑面とは別の部位として記録(大臼歯は1歯6部位)。上顎切歯の口蓋側小窩も別記録(1歯5部位)。第三大臼歯を除き1人あたり140面
- 回数:年1回・計4回。各児は終始同じ検者が診査し、検者は前回のスコアを知らされない。毎年6%を24時間後に再診査して再現性を確認
小窩を平滑面から切り離して数えた——ここが効いてきます。
③すでにあるう蝕と、これから生じるう蝕は主役が違う
ベースラインでは、601,160面のうち 6,061面(1.0%)がう蝕、20,160面(3.4%)が充填、10,909面(1.8%)がう蝕により喪失していました。この時点でのう蝕経験(DMF)の内訳は小窩裂溝54.5%・隣接面31.9%・平滑面13.6%——小窩裂溝が過半です。
ところが、試験を完了した児で開始時に健全だった454,663面を追いかけると、8,176面(1.8%)がう蝕、14,832面(3.3%)が充填、4,000面(0.9%)が喪失となり、その内訳は小窩裂溝39.8%・隣接面47.5%・平滑面12.6%。隣接面が最多に入れ替わります。
ではなぜ、面あたりでは咬合面が最も危ないのに、総数では隣接面が上回るのか。理由のひとつは単純です——隣接面は1歯に近心・遠心の2面があり、母数が倍ある。1面あたりの感受性でみると、こうなります。
- 大臼歯の咬合面:35.8%がう蝕化(最も危険)
- 大臼歯・小臼歯の隣接面も高い——上顎第一大臼歯の近心20.7%、下顎第一大臼歯の近心17.9%と、咬合面に次ぐ水準
- 頬側・口蓋側の小窩:8.8%——平滑面としてまとめず、小窩として数えた場合の値(こちらは全大臼歯の小窩をまとめた値なので、上の個別歯面の数字とは粒度が違います)
- 頬側・舌側の平滑面:いずれも低い
- 第一大臼歯と第二大臼歯を比べると、絶対数では第二大臼歯の咬合面が最多(4,029面)だが、リスク面あたりの割合では第一大臼歯が有意に高い(p<0.001)
大臼歯の小窩の存在感も具体的です。上顎大臼歯では口蓋側小窩が、その歯のう蝕増加分の 1,011/7,165(14%)を占め、下顎大臼歯では頬側小窩が 1,080/8,388(12.8%)。一方、同じ面の平滑面部分は上顎5.2%・下顎8.6%にとどまります。頬側の「面」ではなく「小窩」が危ないということです。
④見つかっているか、放置されているか
ここがこの論文のいちばん痛いところです。
- 咬合面(う蝕化した8,225面):88.4%(7,275面)が充填済み、7.6%(627面)が未処置、3.9%(323面)がう蝕により抜歯
- 隣接面(う蝕化した12,836面):52.1%(6,685面)が未処置のまま、36.9%(4,735面)が充填、11%(1,416面)が喪失
咬合面のう蝕には治療が入っている割合が高く、隣接面のう蝕は半分以上が治療されないまま残っていた。しかも失われる割合は隣接面のほうが高い。光ファイバー透照まで使った研究者の目には見えていたものが、通常の診療では拾われていなかった可能性があります。
ただし著者ら自身が、この対比に2つの但し書きを置いています。ひとつは、隣接面を修復すれば、その歯の咬合面も必然的にDMFSに計上されること——咬合面の「充填88.4%」はその分だけ膨らみます。もうひとつは、同じ地域の別の研究で臨床的に健全に見える咬合面の、下顎大臼歯で最大12.1%・上顎で3.1%に、エックス線写真では明らかな象牙質う蝕があったという報告です。咬合面もまた、見えているとは限らない。
なお、ベースラインで「あり」としたものが最終診査で「なし」になる誤診(リバーサル)は0.29%と極めて低く、再現性の指標も信頼性係数0.93〜0.95・Kappa 0.91〜0.97と良好でした。
⑤明日の臨床へ
- 咬合面を守るのは正しい。ただし「守った後」の主役は隣接面に移る。シーラントの説明をするとき、この続きまで話せると価値が上がります
- 頬側は「面」ではなく「小窩」を見る。下顎大臼歯の頬側小窩・上顎大臼歯の口蓋側小窩は、平滑面と一緒くたにすると見落とします。この研究が部位を分けて数えた意味はここにあります
- 隣接面は「治療が届いていない」ことを前提に組む。半数以上が未処置で残っていた——見つかっていない場合もあれば、経過観察や未受診の場合もあります。いずれにせよ、視診と探針だけでは足りません。咬翼法・光ファイバー透照の出番です
- 萌出から年数が経った第一大臼歯のほうが、面あたりの危険度は第二大臼歯より高かった(この年代で萌出直後なのは第二大臼歯のほうです)。著者らも、萌出から7〜10年経ってなお咬合面の罹患が増え続けるという報告を引いています。萌出直後だけでなく、その後も見続けるということです
- フッ化物入り歯磨剤を使い続けた集団でも、この分布だった。なお著者らは考察のなかで、「う蝕が減るとき、減り方が大きいのは頬舌側の平滑面だ」という他の研究(Hugoson ら)を引いていますが、本研究にフッ化物を使わない対照群はなく、この分布から部位別の効き方を導けるわけではありません
今日のひとこと
開始時のう蝕経験(DMF)の内訳は小窩裂溝が54.5%と過半だったが、その後3年間に新しく発生したう蝕では隣接面が47.5%で最も多く、小窩裂溝は39.8%だった。しかも咬合面のう蝕は88.4%が充填されていたのに対し、隣接面は52.1%が未処置のまま残っていた。数が多いだけでなく、治療が届いていないのが隣接面である。


