1問1答 論文 虫歯

砂糖をすべてキシリトールに替えたら、2年後のう蝕の増加はゼロだった——Turku sugar studies

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|スクロース・フルクトース・キシリトール・食事置換試験

「キシリトールは虫歯にならない甘味料です」。ガムの箱に書いてあるあの一文には、原典があります。1970年代、フィンランドのトゥルク大学が、成人の食事の砂糖を2年間まるごと別の糖に置き換えるという、今なら倫理審査を通らないであろう試験をやりました。その最終報告です。

論文
Turku sugar studies V: Final report on the effect of sucrose, fructose and xylitol diets on the caries incidence in man
著者
Scheinin A, Mäkinen KK, Ylitalo K
掲載
Acta Odontol Scand. 1976;34(4):179-216
種類
ヒト介入試験(成人115名・3群並行・2年間の食事糖置換)
PMID
795260

「キシリトールは虫歯にならない」の原典

ガムの箱に書いてある一文です。私たちも患者さんに説明します。では、その根拠はどこにあるのか。

原典は、1970年代前半のフィンランド・トゥルク大学の一連の研究——Turku sugar studiesです。今回はその最終報告(第V報)。何をしたかというと、成人の食事に含まれる砂糖を、2年間まるごと別の糖に置き換えたのです。

当時わかっていたのは、Vipeholm研究(1954年)などから「スクロースはう蝕を起こす」ということでした。分かっていなかったのは、スクロース以外の糖ならどうなのか。フルクトース(果糖)なら軽いのか。そしてキシリトールという五炭糖アルコールは、本当にう蝕を作らないのか。

先に結論: 2年間のDMFS増加は、スクロース群 7.2フルクトース群 3.8キシリトール群 0.0。キシリトール群と他の2群の差は p<0.005。フルクトースはスクロースより軽かったが、ゼロではなかった

2年間、食事の糖をまるごと入れ替える

  • 対象125名(平均27.5歳)。本人の希望も加味して3群に分けた。S群(スクロース)35名/F群(フルクトース)38名/X群(キシリトール)52名。X群を多めにしたのは脱落を見込んでのこと
  • 介入食事のスクロースを、フルクトースまたはキシリトールでほぼ完全に置き換える。量や回数は本人任せ(ad libitum)。この点はVipeholm研究(摂取量と頻度を規定した)と大きく違う
  • 期間2年。期間中8回の診査(頻繁なのは、糖による害が出たときに早期に見つけて中止できるようにするため)
  • 診査:臨床所見にエックス線写真を加え、う蝕を「実質欠損なし(C1)/あり(C2)」まで分けて記録。2回法の重複測定で観察者誤差・方法誤差も算出して報告している
  • 解析:全体比較にKruskal-Wallis検定、群間比較にMann-Whitney U検定
  • 最終解析:脱落・除外10名を除く115名(S群33・F群35・X群47)
0 20 40 60 試験開始時のDMFS(歯面数) 42.1 48 50.7 スクロース群 (n=33) フルクトース群 (n=35) キシリトール群 (n=47) 平均±SDは 42.1±15.80/48.0±13.38/50.7±18.39。年齢・性別・う蝕歯面数・充填歯面数・抜去歯数を含め、開始時点で群間に有意差はなかった
試験開始時のDMFS。3群に有意差はなかった(この均質さが、後の差を読むうえでの前提になる)

開始時のDMFSは42.1/48.0/50.7で、群間に差はありません。平均27歳、DMFS 40台後半——すでにかなりう蝕を経験している成人集団だということも押さえておきたい点です。

結果——キシリトール群のΔDMFSは 0.0

0 2.7 5.3 8 2年間のDMFS増加(ΔDMFS・歯面数) 7.2 3.8 0 スクロース群 (n=33) フルクトース群 (n=35) キシリトール群 (n=47) キシリトール群と他の2群の差は p<0.005。フルクトース群とスクロース群の差は1年目では有意でなく、2年後に有意となった
2年間のDMFS増加(ΔDMFS)。キシリトール群は 0.0
  • スクロース群 7.2フルクトース群 3.8キシリトール群 0.0
  • キシリトール群 対 他の2群p<0.005
  • フルクトース群 対 スクロース群:1年目の時点では有意差なし。2年後には有意差が出た
  • 病変の「大きさ」の変化(C1→C2 などのサイズ増大を含めた指標)でも、X群 対 S群、X群 対 F群がともに p<0.01

もうひとつ、この論文が丁寧なところがあります。DMFS指数だけでは、二次う蝕の新生も病変の拡大も見えない——著者らはそう指摘し、病変の「数」と「大きさ」の両方を拾う指標を別に作って併記しています。この修正指標で見ても、結論は変わりませんでした。

累積曲線の形も違いました。S群とX群はほぼ直線的に増えていく(X群は水平に近い直線)のに対し、F群は2年目に入って急に増加が鈍った。ただし著者らは、これをフルクトース群は摂取頻度がスクロース群より低め(試験の最後の8か月で1日約4.2回)で、2年目には摂取量も減っていたと、慎重に留保しています。

脱落した10名が語ること

この試験を読むうえで、脱落者の内訳は見逃せません。

  • 1名:キシリトール摂取による浸透圧性の下痢(糖アルコールの宿命です)
  • 3名(S群2・F群1):う蝕が多発したため、試験から外された
  • 残り:厳しい食事制限を続けられなかった、その他の個人的事情

「う蝕が多発したので途中で外した」——この一文が、この試験の性格を物語っています。2年間、成人に砂糖を摂り続けさせる群を置いた研究です。同じデザインの試験は、今なら実施が難しいでしょう(当時は倫理的に許容されると判断されたと、論文にも書かれています)。だからこそ、この論文は今も引用され続けています。

なぜキシリトールでは起きなかったのか

著者らは、生化学・微生物学の姉妹論文と合わせて、こう説明しています。

  • 細菌が代謝できない:キシリトールは口腔細菌の代謝基質として適さない。酸が作られない
  • 酸産生菌叢そのものが減った:X群では酸産生性の菌叢が減少し、唾液インベルターゼも低下した
  • 唾液側の変化:分泌の刺激、pHの上昇、一部の電解質濃度の上昇、ラクトペルオキシダーゼ系への影響

ただし著者ら自身が、正直にこう書いています——酸産生菌叢の減少や唾液インベルターゼの低下は、「スクロースが無くなったこと」だけでも起こりえた。つまり「キシリトールを足した効果」と「スクロースを抜いた効果」は、この研究でも完全には分けられていないのです。それでも、唾液の物理化学的変化やラクトペルオキシダーゼ効果はキシリトールの摂取そのものに帰すべきだ、というのが結論の骨格です。

明日の臨床へ

  • 「キシリトールは虫歯にならない」の根拠は、この規模と厳密さで一度だけ示された。エックス線を含む8回の診査、観察者誤差の報告まで含めて、当時としては相当に丁寧な研究です
  • ただし条件は「食事の砂糖をすべて置き換えたら」ガムを1日数粒噛む話とは別物です。ガムの効果を語るなら、別の研究(部分置換の1年試験など)を根拠にする必要があります
  • フルクトースは「スクロースよりまし」だが、ゼロではない。「果糖だから安心」という患者さんの理解は、ここで訂正できます
  • 口腔衛生に手を付けていない点も注目に値します。この試験では清掃習慣に介入していません(ただし著者らは、対象がもともと口腔清掃レベルが中〜高の集団だったと明記しています)。食事だけでこれだけ差が出た、という読み方ができます
  • 糖アルコールの下痢は現実の問題です。1名が実際に脱落しています。大量摂取を勧める文脈では必ず触れる
ここだけ、冷静に補助線 — まず群分けが本人の希望を加味して行われており、無作為化ではありません。開始時のう蝕状態に差がなかったことは確認されていますが、「厳しい食事制限を選んだ人」という性格の偏りは残ります。X群を52名と多めにしたのは、脱落を見込んだ設計上の判断です。次に、これは平均27歳・DMFS 40台後半という、う蝕経験の多い成人での結果です。小児や、う蝕の少ない集団にそのまま外挿はできません。盲検化については論文に記載がありません(参加者側は介入の性質上、盲検になりえません)。また著者ら自身が、試験食品を量も費用も気にせず自由に受け取れたことが摂取量の増加を促し、ときに高いう蝕発生につながったと書いています——スクロース群が現実以上に強く負荷された可能性は差し引く必要があります。そして最大の限界は、この介入が「食事の砂糖を2年間まるごと置き換える」という、現実にはまず起こらない条件だということです。この論文が示したのは「キシリトールという糖には、う蝕を作る力がない」という物質の性質であって、「キシリトール製品を使えばう蝕が減る」という臨床の効果ではありません。両者はよく混同されます。そこを分けて読めば、今も価値の落ちない一本です。

今日のひとこと

2年間のDMFS増加は、スクロース群 7.2、フルクトース群 3.8、キシリトール群 0.0。キシリトール群と他の2群の差は p<0.005。キシリトールが「う蝕を作らない」ことは、この規模と厳密さで一度だけ示された。ただしそれは「食事の砂糖をすべて置き換えたら」という条件つきの話で、ガムを噛む話とは別物である。

Scheinin A, Mäkinen KK, Ylitalo K. Turku sugar studies V: Final report on the effect of sucrose, fructose and xylitol diets on the caries incidence in man. Acta Odontol Scand. 1976;34(4):179-216. PMID: 795260
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。