1問1答 論文 虫歯

同じ歯磨剤でも、隣接面に残るフッ素は2.8倍ちがう——量・時間・すすぎ水の三つ

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|歯磨剤の量・ブラッシング時間・すすぎ量と隣接面フッ素濃度

「フッ素入りの歯磨き粉を使ってください」——ここまでは、誰もが言います。ですが患者さんが実際にどう使うかで、隣接面に届くフッ素の量は大きく変わります。同じ歯磨剤で、いちばん良い磨き方といちばん悪い磨き方を比べたら、差は2.8倍でした。

論文
Effect of Different Toothbrushing Routines on Interproximal Fluoride Concentration
著者
Ishizuka Y, Lehrkinder A, Nordström A, Lingström P
掲載
Caries Res. 2020;54(5-6):482-488
種類
ランダム化クロスオーバー試験(健常成人8名+8名・14条件)
PMID
33027798

「フッ素入りを使ってください」の、その先

う蝕予防の指導で、フッ化物配合歯磨剤を勧めない人はもういません。1,450ppmが標準になり、銘柄の話もひととおり出尽くしました。

ですが診療室を出たあと、患者さんはこう磨いています。歯ブラシに豆粒ほどの歯磨剤を乗せ、1分弱で終え、コップになみなみと水を入れて2回3回とゆすぐ。

同じチューブを渡していても、これでは届く量が違うのではないか——その「違い」を、隣接面といういちばん困る部位で実測したのがこの研究です。

先に結論: 隣接面唾液のフッ素は、いちばん良い磨き方(2cm・2分・すすぎ水10mL)といちばん悪い磨き方(1cm・1分・20mL)で2.8倍の差がついた。効いた三つは量(+47.2%)・すすぎ水の少なさ(+41.2%)・時間(+26.8%)の順である。

紙のポイントで、隣接面の唾液だけを取る

スウェーデン・ヨーテボリ大学(サールグレンスカ・アカデミー)の石塚ら(第二所属に東京歯科大学)によるランダム化クロスオーバー試験です。

  • シリーズ1:健常成人8名が、8通りの磨き方をすべて経験する(歯磨剤 1cm or 2cm ×時間 1分 or 2分 ×すすぎ水 10mL or 20mL)
  • シリーズ2:別の成人8名が、剤形3種(ペースト・ジェル・フォーム)×すすぎ2条件(すすがない or 10mL)=6通りを経験する
  • 採取部位は25/26と46/45の隣接面。5×2mmの三角形に切った濾紙のポイントを20秒挟んで、その場所の唾液だけを吸わせる(1枚あたり約4μL)
  • 採取はブラッシング前と、2・5・10・30・60分後。フッ素イオン電極で測定し、0〜60分の曲線下面積(AUC)を主要評価項目とした

被験者は12時間前からフッ化物製品を断ち(歯磨剤・錠剤・洗口液・ガム・お茶まで)、来院1時間前からは飲食も禁止。すすぎは使い捨てコップの脱イオン水で10秒と、手順まで統一されています。全身状態が良く、24歯以上あり、刺激時唾液が1.0mL/分を超える人だけが選ばれました。

細かいようですが、この統制があるから「磨き方の違いだけ」を取り出せます。

736 対 265——2.8倍

0 266.7 533.3 800 隣接面唾液のフッ素 AUC(ppm×分・0〜60分) 333 265 510 366 413 340 736 408 1cm/1分 2cm/1分 1cm/2分 2cm/2分 健常成人8名・クロスオーバー。薄い棒=すすぎ20mL。最良(2cm/2分/10mL=736)と最悪(1cm/1分/20mL=265)で2.8倍
8通りの磨き方で、隣接面唾液のフッ素AUC(0〜60分)がどう変わるか。歯磨剤は同じで、変えたのは磨き方だけである

いちばん高かったのは2cm・2分・すすぎ10mLの736±113、いちばん低かったのは1cm・1分・すすぎ20mLの265±49。その比は2.8倍(p<0.001)でした。

三つの因子を、それぞれ他の条件をまたいで平均した効果はこうです。

  • 歯磨剤の量を1cm→2cmにする:+47.2%(p<0.01)
  • すすぎ水を20mL→10mLに減らす:+41.2%(p<0.01)
  • ブラッシング時間を1分→2分にする:+26.8%(p<0.01)

もっとも大きいのはでした。もう一つ目を引くのは、2cm・2分という条件のときだけ、すすぎ水を10mLに減らした効果が跳ね上がっている点です(差は328.1、他の組み合わせでは67〜144)。ただしこの研究は三因子を別々に評価しており、交互作用の検定はしていません。著者らも「三つは完全に独立ではないと考えられる」と、あくまで推測として述べるにとどめています。それでも、たくさん出して長く磨いても、大量の水で流せば持ち去られるという向きは読み取れます。

ジェルはペーストと同じだった(フッ素量は4割なのに)

0 100 200 300 隣接面唾液のフッ素 AUC(ppm×分・0〜60分) 235 120 232 125 152 77 ペースト ジェル フォーム 薄い棒=10mLですすいだ場合。2cm分のフッ素量はペースト1.86mg・ジェル0.76mg・フォーム0.19mgと大きく違うが、ペーストとジェルに有意差はなかった
剤形×すすぎの6条件。フォームだけが低く、ペーストとジェルには差がなかった

ここからは別の8名で行われたシリーズ2です。使われたのはいずれも1,450ppmF(フッ化ナトリウム)の3製品で、ペースト・ジェル・フォームを比べています。

2つの図は、互いに比べられないシリーズ1とシリーズ2は被験者が別なので、この図の数値を前の図の数値と直接比べることはできません。同じ「2cm・2分・10mL・ペースト」でも、シリーズ1では736、シリーズ2では120と大きく異なります。比べてよいのは、それぞれの図の”中”だけです。

2cm分を秤にかけると、含まれるフッ素量はこれだけ違います。

  • ペースト 1.28g(フッ素 1.86mg)
  • ジェル 0.52g(フッ素 0.76mg)=ペーストの約4割
  • フォーム 0.13g(フッ素 0.19mg)=ペーストの約1割

ところが結果は、ペーストとジェルで有意差なし(すすがない条件で差 −2.3、p=0.93/10mLで差 4.1、p=0.75)。フォームだけが有意に低い(p<0.01)という形でした。

著者らは、ジェルの発泡性の低さを理由に挙げています。泡立たない分、口の中で薄まらず流れ出しにくい。フッ素の総量が4割でも、隣接面に居座る量では並んだ、という読み方です。

そしてすすぎの効果は剤形を問わず一貫していました。すすがない場合と10mLですすいだ場合の差は、ペースト −114.2、ジェル −107.8、フォーム −74.8(いずれもp<0.001)。どの剤形でも、すすげば半分近くが持ち去られます

明日の臨床へ

  • 銘柄を揃えたあとに残る伸びしろは、手順の側にある。同じチューブで2.8倍の差がつくのだから、製品を選び直す前に使い方を見直す価値がある(もっとも、シリーズ2が示すように剤形の違いは無視できません
  • 数字で言う。「たっぷり」ではなく「2cm」、「しっかり」ではなく「2分」、「軽く」ではなく「水は10mL、ペットボトルのキャップ1.5杯ぶん、1回だけ」。曖昧な副詞は、患者さんの手元で必ず縮む
  • いちばん効くのは量。時間を延ばすより、まず出す量を見直すほうが伸びしろが大きい(ただし6歳未満の小児は誤飲量の観点から別扱い=この研究の対象は成人である)
  • すすぎが苦手な人にはフォームという選択肢。著者らは「フォームは、うがいが上手にできない高齢者や特別な配慮が必要な患者への、フッ化物の投与手段の代替になりうる。その場合はすすがないことの重要性を強調する必要がある」と述べています。ただし「フォームですすがない」と「ペーストですすぐ」を統計的に比べた検定は、この論文にはありません(数値上は152と120ですが、直接比較はされていません)
  • ジェルは「フッ素量が少ない=弱い」ではない。総量ではなく、口に残る量で考える
ここだけ、冷静に補助線まず、測っているのはフッ素濃度であって、う蝕そのものではありません。唾液フッ素のAUCが2.8倍になれば、う蝕が2.8分の1になるという話ではない——ここは踏み外さないようにしたいところです。各シリーズ8名と規模も小さく、しかも唾液分泌が正常(1.0mL/分超)で24歯以上ある健常成人という、条件のよい人たちです。口腔乾燥のある方や小児にそのまま当てはめる根拠にはなりません。剤形の比較についても、著者ら自身が「3製品のフッ素量が揃っていない」「組成も違う」ことを限界として挙げており、差が”剤形”によるのか”量”によるのかはこの設計では分けられません。とはいえ、量・時間・すすぎという三つが揃って効くことは、同一人物の中で条件を入れ替えたクロスオーバーで確かめられています。明日の説明を少し具体的にするには、十分な材料です。

今日のひとこと

歯磨剤2cm・2分・すすぎは水10mL。健常成人8名の試験では、この三つを揃えた条件と最悪の条件で、隣接面のフッ素に2.8倍の開きがあった。銘柄を揃えたあとに残る伸びしろは、手順の側にある。

Ishizuka Y, Lehrkinder A, Nordström A, Lingström P. Effect of Different Toothbrushing Routines on Interproximal Fluoride Concentration. Caries Res. 2020;54(5-6):482-488. PMID: 33027798
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。