1問1答 論文 虫歯

フッ化物ゲルは28%う蝕を減らす——ただし「比べた相手」で数字が変わる

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|フッ化物ゲル・Cochraneレビュー・対照群の置き方

医院でのフッ化物ゲル塗布(トレー法・筆塗り)。年に数回のあの処置は、どれくらい効いているのでしょうか。Cochraneが28試験・9,140人の小児と青年を集めて出した答えは、永久歯でう蝕を28%予防(95%CI 19〜36%)。十分に説得力のある数字です。ただしこのレビューには、もうひとつ見逃せない発見がありました。対照群を「無処置」にした試験では38%、「プラセボゲル」にした試験では21%——比べる相手の置き方で、効果の見え方が17ポイントも変わっていたのです。

論文
Fluoride gels for preventing dental caries in children and adolescents
著者
Marinho VCC, Worthington HV, Walsh T, Chong LY(Cochrane Oral Health/ロンドン大学クイーン・メアリー校ほか)
掲載
Cochrane Database of Systematic Reviews 2015, Issue 6. Art. No.: CD002280
種類
システマティックレビュー(ランダム化比較試験28件・9,140人。GRADEで根拠の質を評価)
主題
小児・青年に対するフッ化物ゲル応用のう蝕予防効果と有害事象

年に数回のあの処置、効いていますか

トレーにゲルを入れて数分。あるいは筆で塗って終わり。医院でのフッ化物ゲル塗布は、予防の定番として長く続いてきました。

では、どれくらい効いているのか。そして「何もしない場合」と比べて何%減るのかを、はっきり答えられるでしょうか。

先に結論: 永久歯でう蝕を28%予防(95%CI 19〜36%)。ただしこの数字は、対照群の置き方によって38%にも21%にもなる——そこが今回いちばん面白いところです。

28試験・9,140人

対象はランダム化比較試験28件9,140人の小児と青年。多くは学校から参加者を集めた研究です。

ただしバイアスリスクの内訳は厳しいものでした。20試験が「高リスク」、8試験が「不明」。「低リスク」と判定された試験はありません。フッ化物ゲルの研究は古いものが多く、報告の水準が今の基準を満たさないという事情があります。

永久歯28%、乳歯20%

0 15% 30% 45% う蝕の予防割合(%) 28% 20% 永久歯(25試験・8,479人) 乳歯(3試験・1,254人) 永久歯は95%信頼区間19〜36%(根拠の質:中等度、異質性I²=82%)、乳歯は1〜38%(根拠の質:低い、異質性なし)
フッ化物ゲルのう蝕予防割合。永久歯は根拠の質が「中等度」、乳歯は「低い」と判定された

永久歯のD(M)FS(う蝕経験歯面数)でのメタ解析では、予防割合28%(95%CI 19〜36%、P<0.0001)。25試験・8,479人分のデータが統合されました。根拠の質は中等度です。

ただし試験間のばらつきは大きく、異質性 I²=82%。これは「効果の大きさが研究によってかなり違う」ことを意味します。

乳歯については3試験・1,254人のみで、20%(95%CI 1〜38%、P=0.04)。信頼区間の下限が1%まで来ており、根拠の質は低いと判定されています。

「何と比べたか」で17ポイント変わった

0 20% 40% 60% う蝕の予防割合(%) 38% 21% 対照群が「無処置」(10試験・2,808人) 対照群が「プラセボゲル」(15試験・5,671人) 無処置対照は95%信頼区間24〜52%、プラセボ対照は15〜28%。両者の差は平均17ポイント(95%CI 3〜31、P=0.018)
対照群の種類別に見た予防割合。無処置を対照にすると効果は大きく、プラセボゲルを対照にすると小さくなる

著者らは、あらかじめ決めておいた試験の特徴(対象年齢・応用頻度・フッ化物濃度など)と効果の大きさに関連があるかを調べました。ほとんどの特徴には有意な関連がありませんでした。

ただ一つ、はっきりした差が出たのが対照群の種類です。

  • 対照が「無処置」の10試験(2,808人):予防割合 38%(95%CI 24〜52%)
  • 対照が「プラセボゲル」の15試験(5,671人):予防割合 21%(95%CI 15〜28%)
  • 差は平均17ポイント(95%CI 3〜31、P=0.018)
この差が意味すること: プラセボゲルを使った群も「トレーをくわえて座る時間」と「処置を受けたという意識」を経験しています。無処置群との比較では、フッ化物そのものの効果に、その分が上乗せされている可能性がある——という読み方ができます。

安全性は、ほとんど測られていなかった

このレビューがもうひとつ指摘するのが、有害事象の報告の少なさです。

  • ゲル塗布中の急性中毒の徴候・症状に触れたのは28試験中わずか2試験(リスク差0.01、95%CI -0.01〜0.02、490人、根拠の質は非常に低い
  • 歯の着色・粘膜刺激・アレルギー反応について報告した試験はゼロ

「有害事象が無かった」のではなく、「調べて報告していない」のです。フッ化物ゲルは高濃度(原著に登場する試験では9,000〜12,300ppmF)を扱うため、幼い子どもでの誤飲リスクには実務上の配慮が要ります。研究がそこを埋めてこなかった、というのがこのレビューの静かな指摘です。

明日の臨床へ

  • フッ化物ゲルは効く。永久歯で28%は、予防処置として十分な数字です
  • 患者さんへの説明では「何と比べて」を意識する。「何もしない場合と比べて」なら大きく、「他の予防をしたうえでの上乗せ」なら小さくなります
  • 乳歯での根拠は弱い(3試験のみ・信頼区間1〜38%)。幼児への適用は、フッ化物バーニッシュなど他の選択肢と合わせて考えたいところです
  • 塗布時の安全管理は、研究ではなく実務の側で担保する——量を守る、吸引する、飲み込ませない。根拠が薄い領域だからこそ、手技で守る意識が要ります
ここだけ、冷静に補助線28試験のうち20試験が高バイアスリスク、8試験が不明で、低リスクはゼロという構成です。異質性もI²=82%と大きい。さらに著者らはファンネルプロットから「統計的に有意な大きい効果を示した小規模研究が見当たらない」という、出版バイアスとは逆向きの偏りを指摘しています。数字そのものは信頼できる範囲にありますが、28%という一点をそのまま持ち歩くのではなく、19〜36%という幅で理解しておくのが実務的でしょう。「効果はある。どれくらいかは、比べる相手による」——予防処置を語るときに、いつも思い出したい構図です。

今日のひとこと

フッ化物ゲルの効果は確かにある。ただし数字の出方は「何と比べたか」に左右される。永久歯のD(M)FSでの予防割合は28%(95%CI 19〜36%、25試験・8,479人、根拠の質は中等度)。乳歯では20%(95%CI 1〜38%、3試験・1,254人、根拠の質は低い)でした。注目すべきは対照群による違いで、無処置を対照にした10試験では38%(95%CI 24〜52%)プラセボゲルを対照にした15試験では21%(95%CI 15〜28%)。差は平均17ポイント(95%CI 3〜31、P=0.018)です。「トレーをくわえて座っている時間そのもの」や「処置を受けたという意識」が、無処置群との差に上乗せされている可能性を示しています。もうひとつ、有害事象の報告が極端に少ないのもこのレビューの指摘です。急性中毒の徴候に触れた試験は28件中2件だけ(490人、根拠の質は非常に低い)。着色・粘膜刺激・アレルギー反応については、どの試験も報告していませんでした。効果は測られてきたが、安全性は測られてこなかった——そう読める構図です。

出典:Marinho VCC, Worthington HV, Walsh T, Chong LY. Fluoride gels for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev 2015;(6):CD002280. PMID: 26075879
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。