1問1答 論文 歯周病

そのゴール、何人が届いているのか——1.35%という数字と、それでも残っていた歯

メインテナンス

治療のゴール達成率とSPC後の歯の喪失(システマティックレビュー・メタ解析)

PPD 4mm以下、BOP 10%未満。2018年の新分類が示した「安定した歯周炎」の基準です。では実際に、SPCへ移る時点でこの基準を満たしている患者は、どれくらいいるのでしょうか。15の研究、12,884人、323,111歯を集めた答えは——1.35%でした。そして、その先に続く数字のほうが、もっと重要です。

論文
Prevalence of stable and successfully treated periodontitis subjects and incidence of subsequent tooth loss within supportive periodontal care: A systematic review with meta-analyses
著者
Rattu V, Raindi D, Antonoglou G, Nibali L
掲載
J Clin Periodontol. 2023;50(11):1371-1386
種類
システマティックレビュー+メタ解析(15研究・12,884人・323,111歯)
PMID
37402624

「4mm残っちゃいましたね」と言う日

再評価。前よりずっと良くなった。でも7番の遠心に4mm、あそこにも5mm。教科書のゴールには届いていません。

この患者さんは、失敗なのでしょうか。——この論文は、その問いに数字で答えます。そして答えは、想像よりずっと厳しく、そして少し優しいものでした。

それまで:ゴールは3つ、並立していた

「歯周治療のゴール」には、いま複数の定義があります。

安定した歯周炎(2018年の新分類)……PPD 4mm以下・BOP 10%未満・4mm部位にBOPなし / 治療のエンドポイント(EFPガイドライン)……PPD 4mm超でBOPなし・PPD 6mm以上なし / コントロールされた歯周炎……PPD 5mm以上が4か所以下

どれも妥当に見えます。では、実際にどれだけの患者が到達しているのか。そして、到達しなかった人はその後どうなったのか。ここが空白でした。

今回の一手:SPCへ入る時点の「達成率」を数える

著者らは、能動的な歯周治療を終えてSPC(サポーティブペリオドンタルケア)へ入った患者を追った研究を系統的に集めました。該当したのは15研究・12,884人・323,111歯。各研究の著者へ連絡を取り、解析に必要な臨床データを取り寄せています。

そのうえで、①SPC開始時に上記の基準を満たしていた割合と、②5年以上のSPCの中で、基準に届かなかったことが歯の喪失とどう結びついたかを、メタ解析で評価しました。

結果その1:ほとんど、誰も届いていなかった

0 16.7% 33.3% 50% SPC開始時に基準を満たしていた割合 (%) 1.4% 11% 34.6% 安定した歯周炎 治療のエンドポイント コントロールされた歯周炎 安定した歯周炎=PPD≦4mm・BOP<10%・4mm部位にBOPなし/治療のエンドポイント=PPD>4mmでBOPなし・PPD≧6mmなし/コントロールされた歯周炎=PPD≧5mmが4か所以下(Rattu 2023)

安定した歯周炎の基準を満たしていたのは1.35%。100人に1人です。EFPの治療のエンドポイントで11.00%、いちばん緩い「コントロールされた歯周炎」でも34.62%。

著者らの表現は率直です——圧倒的多数の患者と歯は、提唱されている歯周安定のエンドポイントに到達していない。

学会発表や専門誌で目にするのは、きれいに治った症例です。それは選ばれた症例だから当然で、責める話ではありません。ただ、その景色を「標準」だと思って自分の診療を測ると、物差しが狂います。

結果その2:それでも、歯は残っていた

0 1.7 3.3 5 歯の喪失のリスク比(基準に届かなかった場合) 2.6 2 1.6 コントロールされた歯周炎 PPD<6mm PPD<5mm 各基準に届かなかった人の、患者単位での歯の喪失のリスク比。5年以上のSPCデータがある1,190人の解析。届かないほど失いやすいが、5年間で1本でも失った人は3分の1未満だった(Rattu 2023)

ここからが、この論文の本題です。

5年以上のSPCデータがある1,190人のうち、この期間に歯を失った人は3分の1に満たず、失われた歯は全体の3.14%でした。そして著者らは、こう結論します——圧倒的多数の患者と歯は提唱されたエンドポイントに到達しないが、それでもほとんどの歯周病患者は、平均10〜13年のSPCの中でほとんどの歯を保っている。

もちろん、届かないことが無害だという話ではありません。患者単位で見ると、「コントロールされた歯周炎」に届かなかった人の歯の喪失のリスク比は2.57、PPD 6mm未満に届かなかった人で1.98、PPD 5mm未満で1.59——いずれも統計学的に有意な関連でした。届かないほど、失いやすい。それは確かです。

明日の臨床へ:ゴールを二階建てにする

① 理想のゴールは、下ろさない。 PPD 4mm以下・BOP 10%未満を目指すこと自体は正しい。リスク比が示しているのは、そこへ近いほど歯が残るということです。
② ただし、届かない=失敗ではない。 4mmや5mmが残った状態で、10年以上ほとんどの歯を保っている人が現実の多数派です。残ったポケットを見て「もう一度全部やり直す」と決める前に、この分布を思い出す価値があります。
③ 患者さんに伝える言葉を変える。 「まだ4mm残っています」ではなく「ここは深いままなので、その分こまめに診ていきましょう」。到達できなかったことより、これから何をするかのほうが、その後を分けます。
ここだけ、冷静に補助線 集まった15研究はデザインも追跡期間もSPCの中身も揃っていません。多くは専門的な環境で行われた研究で、一般診療の平均像とは限らない点に注意が要ります。また、この論文が数えたのはSPC開始時点の達成率であって、SPCを続ける中で改善した人がどれだけいるかは別の問いです(実際、通い続ける中で出血するポケットの多くは改善するという報告もあります)。それでも「理想のゴールに届く人はほとんどいない。それでも歯は残る」という二つの事実を同時に持っておくことは、明日の再評価の日に、患者さんにも自分にも効いてきます。

今日のひとこと

ゴールに届く人はほとんどいない。それでも平均10〜13年のSPCで、失われた歯は全体の3.14%。届かないことと、失うことは、同じではない。

Rattu V, Raindi D, Antonoglou G, Nibali L. Prevalence of stable and successfully treated periodontitis subjects and incidence of subsequent tooth loss within supportive periodontal care: A systematic review with meta-analyses. J Clin Periodontol. 2023;50(11):1371-1386. PMID: 37402624
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。