1問1答 論文 歯周病

インプラント周囲炎は、歯周炎と同じ病気ですか——菌に聞いてみた

歯周病の細菌学

同じ患者の口の中で、2つの病気を突き合わせる

腫れて、出血して、深くなって、骨が減る。診療室で見るかぎり、インプラント周囲炎は歯周炎とよく似ています。同じ病気の別の場所なのか、それとも別の病気なのか。日本の研究グループが、同じ患者から両方を採って菌のふるまいを読み比べました。

論文
Distinct interacting core taxa in co-occurrence networks enable discrimination of polymicrobial oral diseases with similar symptoms
著者
Shiba T, Watanabe T, Kachi H, ほか
掲載
Sci Rep. 2016;6:30997
種類
メタトランスクリプトーム解析(同一被験者から各12検体)
PMID
27499042

見た目は、ほとんど区別がつかない

インプラント周囲の粘膜が腫れている。プローブを入れると出血し、深い。エックス線では骨が減っている。——歯周炎のチャートを見ているような光景です。

だからこそ、僕たちは無意識に同じ発想で対応しがちです。デブライドメントをして、清掃指導をして、間隔を詰める。でも、本当に同じ病気なのでしょうか。

それまで:どちらも「悪い菌がいる病気」と括られていた

両者の細菌叢を比べた研究はいくつもありました。ただ多くは、別々の患者から採った検体を比べたものです。人が違えば口の中の菌も違う——その差が結果に混ざります。

そしてもう一つ限界がありました。16S rRNAで「誰がいるか」を数えるだけでは、その菌がそこで何をしているかまでは分かりません。名簿は読めても、仕事の中身が読めない。

今回の一手:同じ人の口で、RNAを読む

研究チームは同一の被験者から、歯周炎の部位とインプラント周囲炎の部位を各12検体採取しました。同じ人の中で比べれば、個人差という最大の交絡が消えます。

そして使ったのがメタトランスクリプトーム——そこにいる菌が実際に発現させているRNAを読む手法です。名簿ではなく、その場で動いている遺伝子を見る。健康な歯周部位のデータも併せて比較しました。

つまり: 「誰がいるか」ではなく「何をしているか」で、2つの病気を突き合わせた。

結果:顔ぶれは違う。やっていることは似ている

歯周炎とインプラント周囲炎——どこが違い、どこが同じか違っていたもの16S rRNAで見た菌の顔ぶれ菌どうしのつながり方(共起ネットワーク)ネットワークの中心にいる分類群似ていたもの機能遺伝子のプロファイル毒力因子のmRNAの出方健康な部位とは明らかに違う点同一患者から各12検体。顔ぶれは違うのに、やっていることは似ていた(Shiba 2016)

まず16S rRNAで見た菌の顔ぶれは、2つの病気で異なっていました。ここまでは従来の報告と同じです。

ところが機能遺伝子のプロファイルと、毒力因子のmRNAの出方は似ていました。そしてどちらも、健康な歯周部位とははっきり違う——著者らが「微生物の毒力タイプ」と呼ぶ状態に振れていたのです。

顔ぶれが違うのに、やっていることは同じ方向。この一見矛盾する所見が、この研究の核心です。

見分けられたのは、菌どうしの「つながり方」だった

そこで著者らは、菌どうしがどれだけ一緒に出現するかをネットワークとして描きました。すると、2つの病気でネットワークの形がはっきり分かれたのです。

さらに興味深いのは、そのネットワークを構成していた顔ぶれです。量は多くないのに、RNAの発現が活発な菌——数ではなく仕事量で目立つグループが、中心にいました。

つまり: 「たくさんいる菌が主役」とは限らない。少数でもよく働いている菌が、群れの構造を決めている。

明日の臨床へ:名簿を数えても、物語は読めない

細菌検査を出したとき、僕たちが受け取るのはたいてい「どの菌がどれだけいるか」という名簿です。この研究が示したのは、その名簿だけでは、目の前の炎症がどちらの物語なのか判断できないということでした。

もう一つ、考え方として持ち帰れることがあります。インプラント周囲炎を「歯周炎の親戚」として扱うのは、大枠では間違っていない。ただし群れの組み方が違う以上、同じ処置が同じように効く保証はない——そう構えておくほうが安全でしょう。

ここだけ、冷静に補助線 各12検体という小さな規模の横断研究です。時間軸がないので「群れが変わったから病気になった」のか「病気だから群れが変わった」のかは、このデータからは決められません。またメタトランスクリプトームは技術的な難度が高く、施設間で結果が揃うかもまだ検証の途上です。それでも、同一患者の中で2つの病気を並べたという設計は貴重で、「量ではなく発現を見る」という視点は、これからの細菌検査の考え方にそのままつながっていきます。

今日のひとこと

菌の顔ぶれは違うのに、やっていることは似ていた。そして目立っていたのは、数の多い菌ではなく、発現が活発な菌だった。

Shiba T, Watanabe T, Kachi H, et al. Distinct interacting core taxa in co-occurrence networks enable discrimination of polymicrobial oral diseases with similar symptoms. Sci Rep. 2016;6:30997. PMID: 27499042
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。