1問1答 論文 虫歯

歯磨きのあと、水でゆすがない——矯正患者の新規う蝕が2年で83%減った

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|フッ化物歯磨剤・スラリーリンス・矯正治療中の脱灰

ブラケット周囲の白斑は、装置を外した日に見つかると取り返しがつきません。フッ化物入り歯磨剤は当然使っている。それでも起きる。2010年のサウジアラビアの臨床試験は、歯磨剤を変えるのではなく「磨いたあとの30秒」を変えるという一手を試しました。少量の水を含んでスラリーを歯間に行き渡らせ、その後はすすがず、2時間飲食しない。矯正患者100名を2年間追った結果、新規う蝕(ΔDFS合計)は対照群3.5に対しMFTT群0.6——予防率にして83%でした(数えたのは白斑ではなく、WHO基準のDFS=実質欠損と修復面です)。

論文
Modified fluoride toothpaste technique reduces caries in orthodontic patients: A longitudinal, randomized clinical trial
著者
Al Mulla AH, Al Kharsa S, Birkhed D(スウェーデン・サウジアラビア)
掲載
American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics 2010;138(3):285-291
種類
準ランダム化比較試験(2年間)。原著の表記は randomized clinical trial だが、割付は誕生日の奇数・偶数によるもので隠蔽化されていない
対象
リヤドの矯正専門医院に連続来院した矯正患者。150名登録→100名を解析(MFTT群51名・対照群49名/平均年齢16歳)

装置を外した日に、白斑が見つかる

矯正治療中の脱灰は、私たちが最も避けたい合併症のひとつです。ブラケット周囲の白斑は装置装着から1か月で起こりうると報告されており、しかも見つかるのは装置を外したあと。そのときにはもう遅い。

フッ化物入りの歯磨剤は当然使っています。洗口剤も勧めています。それでも起きる。ではもう一段、何ができるのか

ただし先に断っておくと、この試験が数えたのは白斑ではありません。WHO基準に沿ったDFS(実質欠損と修復面)です。白斑の指標は使われていません。それでもなお、差ははっきり出ました。

先に結論: この論文が変えたのは歯磨剤ではなく「磨いたあとの30秒」です。少量の水を口に含んで歯磨剤のスラリー(泡と水の混合液)を頬の運動で歯間に行き渡らせ、吐き出したらそれ以上すすがない。2年後の新規う蝕は対照群3.5面に対しMFTT群0.6面、予防率83%でした。

なぜ「すすぎ方」なのか

フッ化物歯磨剤の効き目を決める要素は4つあると整理されています。ブラッシングの頻度・時間・フッ化物濃度・そして磨いたあとのすすぎ方。前の3つは指導し尽くしている感がありますが、4つ目はどうでしょうか。

  • 先行研究では、歯磨剤を使ったあとの唾液中フッ化物濃度は、すすぎの水量・時間・回数が増えるほど有意に低下すると報告されている
  • 同じく先行研究で、磨いた直後に飲食すると唾液中フッ化物は磨いただけの場合の12〜15分の1まで落ちるとされる
  • 歯磨剤スラリーですすぐ方法は、就学前児の隣接面う蝕を平均26%減らしたという先行報告がある

つまり、せっかく口に入れたフッ化物を、私たちは自分で洗い流しているのかもしれない、という話です。

今回の一手:MFTT(8つの指示のパッケージ)

試験群に渡されたのは、口頭と書面による8項目の手順でした。これをMFTT(modified fluoride toothpaste technique)と呼んでいます。

  • 濡らした歯ブラシに2cm(約1g)の歯磨剤をとる
  • 上下顎に均等に広げる
  • すべての面を2分間ブラッシングする
  • 歯磨剤を口に残したまま手のひら一杯ほどの少量の水を含み、頬を動かしてスラリーを歯間に30秒間押し込むようにしてから吐き出す
  • そのあとは水ですすがない
  • 2時間は飲食しない
  • 1日2回(朝食後と就寝直前)
  • 試験期間中は他の歯磨剤を使わない

対照群にはまったく同じ1450ppmFの歯磨剤が渡され、通常の口腔衛生指導(1日2回のブラッシングとフッ化物洗口)が行われました。つまり比べているのは歯磨剤の性能ではなく、その使い方です。ただし正確に言えば、試験群だけが8項目の手順を口頭と書面(図解入りのパンフレット)で受け取っています——「指導の量」も同時に違っていました。

結果:2年後の新規う蝕は、5分の1以下だった

0 1.7 3.3 5 2年間の新規う蝕(ΔDFS合計・歯面数) 0.6 3.5 MFTT群 n=51 対照群 n=49 標準偏差は 0.6±2.1 と 3.5±4.7(p<0.001)。内訳は臨床 0.2 対 1.6、X線 0.4 対 1.8
2年間(矯正開始時→装置撤去直後)の新規う蝕の合計。p<0.001

数字はこうです。

  • 臨床:MFTT群 0.2±1.1 / 対照群 1.6±3.5
  • X線(バイトウィング):MFTT群 0.4±1.2 / 対照群 1.8±2.0(第一小臼歯遠心から第二大臼歯近心までの24面が対象。ブラケット周囲の頬側面は含まれません)
  • 合計:MFTT群 0.6±2.1 / 対照群 3.5±4.7

プラークインデックスも、開始時は差がなかったのに(1.4対1.5)、追跡時にはMFTT群1.1±0.8・対照群1.6±0.7とMFTT群が有意に良好でした(p<0.05)。フッ化物の残り方だけでなく、清掃そのものも変わっていたことになります(原著はこの点に踏み込んで考察していません)。

予防率でみると87%・78%・83%

0 33.3% 66.7% 100% 予防率 PF(%) 87% 78% 83% 臨床で見たう蝕 X線で見たう蝕 合計 PF=(対照群のΔDFS − MFTT群のΔDFS) ÷ 対照群のΔDFS × 100。この3つの値は原著が抄録と本文で報告している
予防率PF=(対照群のΔDFS − MFTT群のΔDFS) ÷ 対照群のΔDFS × 100

フッ化物洗口やバーニッシュを歯磨剤に「上乗せ」したときの追加効果は、一般にもっと控えめです。それと比べるとこの数字は大きい。ただしこれは、う蝕リスクが高い集団で、対照群がほとんど何も上乗せしていない状態と比べた値であることを忘れないでおきます(⑦へ)。

なお試験群内で、指示の遵守が「非常に良い」22名(ΔDFS 0.3±1.5)と「良い」29名(0.8±2.5)を比べると、前者の方が少ないものの有意差はつきませんでした。51名全員が8項目のうち少なくとも1つは守っており、完璧でなくても効果は出ていたとも読めます。

明日の臨床へ

  • 矯正患者は8〜12週ごとに来院します。著者が指摘するとおり、これは他科にはない指導の機会です。毎回同じ手順を繰り返し伝えられる
  • 伝えることは「少量の水で30秒ゆすいで、あとはすすがない。2時間は飲食しない」の3点に凝縮できます。器材も追加費用もゼロ
  • すべてが難しければ、就寝前の1回から。試験群も8項目すべてを守れた人ばかりではなく、それでも差は出ていました
  • 「すすがない」に抵抗のある患者には、吐き出すことと、すすぐことは違うと伝えると納得されやすい

ここだけ、冷静に補助線

読むときに置いておきたいこと割付は誕生日の奇数・偶数で行われています。受付が振り分ける方式で、真の乱数割付でも隠蔽化された割付でもありません(準ランダム化)。②150名が登録され、解析されたのは100名です。各群21名が脱落し、さらに読影不能で試験群3名・対照群5名が除外されました。脱落した患者の方がリスクが高かった可能性は残ります。③対照群は指示どおりではありませんでした。フッ化物洗口を勧められていたのに、追跡時に併用していたのは8%、6%はフッ化物を全く使っていませんでした。比較の相手は「洗口併用群」ではなく「歯磨剤のみの群」に近いということです。④MFTTは8項目のパッケージであり、スラリーリンス・非すすぎ・2時間の飲食制限・1日2回のうち、どれがどれだけ効いたのかは分けられません。⑤ΔDFSは標準偏差が平均より大きい(1.6±3.5など)分布で、少数の患者が値を押し上げている可能性があります。⑥測ったのは白斑ではありません。アウトカムはWHO基準のDFS(実質欠損と修復面)で、脱灰段階の白斑は評価されていません。X線も第一小臼歯遠心から第二大臼歯近心までの24面に限られます。⑦試験群だけが8項目の手順を口頭と書面で受け取っています(対照群は通常の口腔衛生指導のみ)。プラークインデックスにも差がついた(1.1対1.6)ことから、フッ化物の残留以外に「清掃が良くなった」経路が働いた可能性があります。⑧サウジアラビアの高リスク集団での結果です。著者自身が「フッ化物の伝統があるスウェーデンでは、期待される減少はこれより小さい」と明記しています。

とはいえ、コストゼロ・器材ゼロで、指導だけで完結する介入です。効果量をそのまま日本に持ち込むことはできませんが、「磨いたあとをどうするか」を指導項目に加える根拠としては十分に読める一本だと思います。

今日のひとこと

歯磨剤は同じ。変えたのは「磨いたあとの30秒」だけ。MFTT(modified fluoride toothpaste technique)は、1450ppmFの歯磨剤で2分磨いたあと、少量の水を口に含んでスラリーを頬の運動で歯間に30秒行き渡らせ、吐き出したらそれ以上すすがず、2時間飲食しないという手順である。2年後の新規う蝕(ΔDFS)は、臨床でMFTT群0.2±1.1に対し対照群1.6±3.5、X線で0.4±1.2に対し1.8±2.0、合計で0.6±2.1に対し3.5±4.7(いずれもp<0.001)。予防率は臨床87%・X線78%・合計83%だった。プラークインデックスも追跡時に1.1±0.8対1.6±0.7とMFTT群が良好(p<0.05)。ただし数えたのは白斑ではなくWHO基準のDFS(実質欠損と修復面)である点、割付が誕生日の奇数・偶数による準ランダム化である点は押さえておきたい。また150名中50名が脱落・除外されている。また対照群はフッ化物洗口を指示されていたが、追跡時に実際に併用していたのは8%だった。う蝕リスクの高い集団での結果であり、著者自身が「スウェーデンのようにフッ化物が行き渡った国では効果はこれより小さいはずだ」と述べている点も含めて読みたい。

出典:Al Mulla AH, Al Kharsa S, Birkhed D. Modified fluoride toothpaste technique reduces caries in orthodontic patients: A longitudinal, randomized clinical trial. American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics 2010;138(3):285-291. PMID: 20816297
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。