1問1答 論文 虫歯

フッ素塗布の前の歯面清掃、省いてよかった——4つの臨床試験がう蝕抑制は落ちないと示した

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|フッ化物歯面塗布・APFゲル・事前清掃・4分ルール

フッ化物歯面塗布の前に、ラバーカップで一通り磨く。多くの医院で当たり前に続いてきた手順です。1990年の Journal of Dental Research に載ったRipaの総説は、そこに答えを出しました。事前の歯面清掃を省いても、う蝕抑制は落ちない——独立した4つの臨床試験が、そろってその方向を示していました。清掃してから塗った群と、清掃せず塗るだけの群のDMFS増加量の差は0.09〜0.14面にとどまり、方向も一定しません。著者は「1.23% APFゲルのトレー塗布に事前清掃は不要。接触は4分。塗布後30分はゆすがない」と3つの作法にまとめています。

論文
An Evaluation of the Use of Professional (Operator-applied) Topical Fluorides
著者
Ripa LW(ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校 小児歯科)
掲載
Journal of Dental Research 1990;69(Spec Iss):786-796
種類
総説(1989年 IADR/ORCA合同シンポジウムでの発表に基づく)
対象
術者塗布型フッ化物(溶液・ゲル・バーニッシュ・研磨ペースト・逐次洗口法)の臨床試験

フッ素塗布の前、必ず歯面清掃をしていませんか

フッ化物歯面塗布の前に、ラバーカップで一通り磨く。多くの医院で、当たり前の順番として続いてきた手順です。

理由もはっきりしています。歯の表面のペリクルや沈着物が、フッ化物の取り込みを邪魔するのではないか——だから塗る前にきれいにしておく。理屈としては、まっとうに聞こえます。

1990年の Journal of Dental Research に載ったこの総説は、そこに正面から答えを出しました。著者はニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のRipa。術者が塗るタイプのフッ化物(溶液・ゲル・バーニッシュ・研磨ペースト・洗口)を、臨床試験の結果に照らして総ざらいした一本です。

先に結論: 事前の歯面清掃を省いても、う蝕抑制効果は落ちませんでした。清掃してから塗った群と、清掃せずに塗るだけの群を直接比べられる3つの試験で、DMFS増加量の差は0.09〜0.14面にとどまります(残る1試験には「塗るだけ」の群が置かれていません)。著者はこれら4試験を根拠に「事前清掃を省いてもう蝕抑制は低下しない」と述べています。著者は「1.23% APFゲルのトレー塗布に、事前の歯面清掃は必要ない。塗布時間は4分。塗布後30分は水でゆすがない」と、3つの作法を明快にまとめています。

なぜ「清掃してから」だったのか

もともとの発想は単純です。歯面に付いた被膜(integument)を取り除かなければ、フッ化物がエナメル質に届かないだろう、という予測でした。

ところが、この予測を確かめにいった研究が次々に「変わらない」と報告します。著者が挙げているのは、in vivo で4本(Tinanoff 1974、Bruun & Stoltze 1976、Steele 1982、Seppä 1983)、in vitro で3本(Tinanoff 1975、Joyston-Bechal 1976、Klimek 1982)。いずれも歯を清掃しなくてもフッ化物の取り込みは減らないという結果でした。

ただし、取り込み量が同じでも、実際にう蝕が減るかどうかは別の問題です。そこを見たのが、次の4つの臨床試験でした。

結果その1:清掃を省いても、う蝕の増え方はほぼ動かなかった

清掃なし・塗るだけ
術者が清掃+塗布
自分で磨く+塗布

0 1.7 3.3 5 DMFS増加量(低いほどう蝕が少ない) 2.14 2.05 2.48 2.09 2.23 2.33 3.19 3.33 3.18 Houpt 1983 (2年) Katz 1984 (2.5年) Ripa 1984 (3年) 濃い棒=事前清掃を省いた群。術者清掃との差は0.09〜0.14面で、方向も一定しない

Table 5の3群。「塗るだけ」=事前の清掃を一切していない群。Bijella 1985にはこの群が置かれていないため、図は残る3試験

原著の表は、処置を3通りに分けています。術者が清掃してから塗る群、子どもが自分で歯を磨いてから塗る群、そして清掃を一切せずに塗るだけの群です。

  • Houpt 1983(2年):清掃あり2.05 / 自分で磨く2.48 / 塗るだけ2.14
  • Katz 1984(2.5年):清掃あり2.23 / 自分で磨く2.33 / 塗るだけ2.09
  • Ripa 1984(3年):清掃あり3.33 / 自分で磨く3.18 / 塗るだけ3.19
  • Bijella 1985(1.5年):清掃あり3.30 / 自分で磨く2.60 /(塗るだけの群は置かれていない。この試験のみAPF溶液を使用)

ここで見るべきは「清掃あり」と「塗るだけ」の差です。Houptで0.09面(清掃ありがわずかに良い)、Katzで0.14面、Ripaで0.14面(いずれも塗るだけがわずかに良い)。3試験とも0.1面前後にとどまり、方向も一定しません。

著者はこれらを根拠に、「4つの独立した臨床試験が、事前の歯面清掃を省いてもAPFゲル・溶液によるう蝕抑制は低下しないことを示した」と述べています。

結果その2:効く相手には、はっきり効く

0 3.3 6.7 10 1.5年間のDMFS増加量 9.2 3.3 2.6 無処置対照 術者が清掃+塗布 自分で磨く+塗布 年間6.1面の増加があるブラジル学童。半年ごとの塗布で64〜72%のう蝕抑制(Bijella 1985)
ブラジルの学童を対象にしたBijella 1985。無処置対照のDMFS増加が9.2面という、う蝕活動性の高い集団。この試験だけはAPFゲルではなくAPF溶液を使い、第2群は「自分で磨いてから塗布」

Table 5に無処置対照の数値が示されているのはBijella 1985だけです(Houpt 1983にも無処置対照はありますが、原著本文では「代表的でなかったかもしれない」と代表性への疑問が述べられています)。その増加量が9.2面。年間6.1面という、いまの日本ではあまり見ない水準の集団です。

そこに半年ごとの塗布を行うと、増加量は2.60〜3.30面まで下がりました(3.30=清掃あり、2.60=自分で磨いてから塗布)。う蝕抑制率にして64〜72%。著者はこの結果を「う蝕発生率の高い国におけるこの方法の可能性を示すもの」と評価しています。

裏を返せば、う蝕活動性が低い集団に一律で行っても、救える歯面の絶対数は少ないということでもあります。著者自身、う蝕有病率の低い地域の学校プログラムに全員一律で導入することは勧められない、と明確に書いています。

省くと、何が変わるか

清掃を省くと、この処置は2ステップから1ステップになります。著者の記述はかなり具体的です。

省略で生まれる余白: 事前清掃が要らなくなったことで、1人の術者(またはチーム)が、少なくとも8人の小児を10分未満で同時に処置できると述べられています。患者側の準備は「食片を落とすために水でうがいする」だけで足ります。

そのぶん、外せない作法も明確になりました。

  • トレーの適合を毎回確認する。McCall 1985は、トレーの設計によってゲルの行き渡り方が変わり、覆われなかった部位では効果が期待できないことを示しています
  • 歯面を乾燥させてから塗る。唾液で濡れたままだとゲルが薄まり、12,300 ppm Fという濃度が担保されません

「4分」と「30分」の根拠

この総説は、残る2つの作法についても根拠を挙げています。

  • 接触時間は4分。1分でよいと謳う製品もあったが、その推奨には臨床的な裏づけがないと著者は書いています。Wei らは接触を1分に短縮するとエナメル質のフッ化物取り込みが有意に少なくなることを示し、臨床試験で確かめられた4分を続けるよう勧めました(Wei & Hattab 1987、Wei 1988)
  • 塗布後30分は、ゆすがない・食べない・飲まない。Stookey 1986のin vivo研究で、塗布直後にうがいをさせると、人工的に作った初期病変へのフッ化物取り込みが約半分に減ったとされています

そして著者は、フッ化物入り研磨ペーストについては辛口です。表9に挙げられた4試験のう蝕抑制率は21%、+5%、+16%、15%と一貫せず(+は対照より増えたことを意味します。なお+16%の試験は乳歯のdefsを指標とし、至適フッ化物濃度地域で行われたものです)、「一般的な使い方をする限り、研磨ペーストによるう蝕抑制は示されていない」と結論しています。それでも販売が正当化されるのは、研磨で削られた分のフッ化物を補う働きがあるから、という整理です。

明日の臨床へ

  • フッ素塗布のためだけの歯面清掃なら、省いてよい根拠があります。1990年の時点で、4つの臨床試験がそれを支持していました。もちろん歯石除去やPMTCそのものが目的なら話は別で、ここで問われているのは「フッ化物の取り込みのために磨く必要があるか」だけです
  • 省いた時間を、トレーの適合と乾燥に回すほうが効果に直結します。覆えていない歯面には、そもそも薬剤が届いていません
  • 4分は守る価値があります。1分に短縮する根拠は、この時点では示されていませんでした
  • 誰に行うかを選ぶ。う蝕活動性の高い人ほど、救える歯面は多くなります

ここだけ、冷静に補助線

読むときに置いておきたいことこれは総説(レビュー)であって、新しい実験を行った原著論文ではありません。1989年のIADR/ORCA合同シンポジウムでの発表がもとになっています。引用された各試験の質を、この総説が体系的に評価しているわけではありません(現在のシステマティックレビューのような手続きは踏んでいません)。②1990年の総説です。当時の北米の状況と、いまの日本の状況は違います。とくにBijella 1985の集団(年間6.1面)は、現在の日本の小児とはかけ離れています。③4試験の差の「有無」は、この総説の表からは統計的に検定されていません。数値が近いことは読み取れますが、非劣性が正式に示されたわけではなく、検出力が足りずに差が見えていない可能性も残ります。またBijella 1985には「塗るだけ」の群がありません。④Houpt 1983は、半年ごとのゲル塗布を2年続けても効果が認められなかった試験です(原著は”reported no effect”と記述)。効かなかった試験で群間差が出ないのは当然とも言えるので、4試験を等しく数えるのは慎重であるべきでしょう。⑤「塗布後30分はゆすがない」という推奨は、その後に反証が出ています。2010年のDelbemらは、中性フッ化物ゲル・フォームを塗った直後に30秒以上の水流で洗い流しても、30分待った場合と再石灰化の程度が変わらないことをヒトのin situモデルで示しました。ただしこちらは製剤も(中性 vs 酸性APF)指標も(硬さの回復 vs フッ化物取り込み)違うので、単純に上書きされたと読むのは早計です。

とはいえ「フッ化物の取り込みのために磨く」という前提については、取り込みを見た7本の研究と、う蝕を見た4つの臨床試験が同じ方向を向いています。少なくともこの総説の時点で、長年の手順を1つ手放してよいと言い切った一本として読む価値があります。

今日のひとこと

フッ化物の取り込みのためだけに塗布前の歯面清掃をする根拠は、1990年の時点で既に無かった。原著Table 5は処置を3群に分けている——術者が清掃してから塗る/子どもが自分で磨いてから塗る/清掃せず塗るだけ。DMFS増加量はHoupt 1983(2年)で2.05・2.48・2.14、Katz 1984(2.5年)で2.23・2.33・2.09、Ripa 1984(3年)で3.33・3.18・3.19(Bijella 1985は清掃あり3.30・自分で磨く2.60で、塗るだけの群を置いていない)。「清掃あり」と「塗るだけ」の差は0.09〜0.14面にとどまり、方向も一定しない。取り込み量についても、in vivo 4本・in vitro 3本の研究が「清掃しなくても減らない」と報告していた。省略によって処置は2ステップから1ステップになり、著者は1人の術者が少なくとも8人の小児を10分未満で処置できると書いている。Table 5で無処置対照の数値が示されているBijella 1985では、対照のDMFS増加9.2面に対し塗布群は2.60〜3.30面で、う蝕抑制率64〜72%。一方で残る作法は明確で、接触は4分(1分に短縮すると取り込みが有意に減る:Wei & Hattab 1987)、塗布後30分はゆすがない(直後のうがいで人工初期病変への取り込みが約半分に:Stookey 1986)、トレーの適合を毎回確認する(覆えない部位には効果が期待できない:McCall 1985)、歯面を乾燥させてから塗る(唾液で薄まると12,300 ppm Fが担保されない)。フッ化物入り研磨ペーストについては、4試験の抑制率が21%・+5%・+16%・15%と一貫せず、一般的な使用法ではう蝕抑制は示されていないと結論している。ただしこれは総説であって新規の実験ではなく、引用各試験の質を体系的に評価してはいない。4試験の差は統計的に検定されておらず、Houpt 1983はそもそも2年間のゲル塗布で効果が認められなかった試験である点も割り引いて読む必要がある。また「30分はゆすがない」という推奨には、2010年のDelbemらによる反証がある(製剤も指標も異なるため単純な上書きではない)。

出典:Ripa LW. An Evaluation of the Use of Professional (Operator-applied) Topical Fluorides. Journal of Dental Research 1990;69(Spec Iss):786-796. PMID: 2179342
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。