1問1答 論文 虫歯

砂糖が口から消える「最初の5分」が、20分後のプラークの酸性度を決めていた

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|唾液クリアランス・プラークpH・ステファンカーブ

甘いものを食べたあと、プラークのpHが下がる。学生時代から知っているステファンカーブです。ではその下がり方の個人差は、どこで決まっているのか。1988年のカロリンスカ研究所の研究は、口の中から砂糖が消えていく「最初の数分」の速さにその答えを見ました。10名に0.6 mol/Lスクロースで洗口してもらい、唾液中スクロース濃度とプラークpHを同時に追ったところ、5分後の唾液スクロース濃度と20分後のプラーク水素イオン濃度がr=0.85で相関していました(p<0.05)。

論文
Effect of Sucrose Concentration in Saliva after a Sucrose Rinse on the Hydronium Ion Concentration in Dental Plaque
著者
Lindfors B, Lagerlöf F(カロリンスカ研究所 歯学部カリオロジー科・スウェーデン)
掲載
Caries Research 1988;22(1):7-10
種類
ヒト実験研究(被験者内での時系列測定と相関解析)
対象
健康な被験者10名(男性3名・女性7名)。3日間の口腔清掃中止後に測定

「何を食べたか」より、「どれだけ早く消えたか」

甘いものを食べたあと、プラークのpHが下がる。ステファンカーブとして、私たちが学生時代から知っている現象です。

では、その下がり方の個人差は、どこで決まっているのか。1988年のカロリンスカ研究所の小さな研究は、そこにひとつの答えを出しました。口の中から砂糖が消えていく「最初の数分」の速さです。

先に結論: 10名に0.6 mol/Lのスクロースで洗口してもらい、唾液中のスクロース濃度プラークのpHを時間を追って測定しました。すると洗口1分後・5分後の唾液スクロース濃度が、20分後・30分後のプラーク水素イオン濃度と有意に相関していました(5分後と20分後でr=0.85、1分後と20分後でr=0.64、いずれもp<0.05)。最初の数分で砂糖が早く消える人ほど、そのあとのプラークの酸性化が小さい——という関係です。

今回の一手:唾液の砂糖と、プラークのpHを同時に追う

  • 健康な被験者10名(男性3名・女性7名)
  • 3日間、通常の口腔清掃を中止してプラークを蓄積させる
  • 0.6 mol/L(600 mmol/L)のスクロース溶液で洗口
  • 洗口後0・2・5・10・20・30分にプラークのpHを、1・2・5・10・15・20分に唾液のスクロース濃度を測定
  • 唾液スクロースは酵素法(sucrose/glucose UV法)で二重測定。pHは平頭ガラス電極で測定

設計の要点は、「唾液の中の砂糖」と「プラークの中の酸」を、同じ人・同じ時間軸で並べたことです。それまでは人工プラークを使った実験で、周囲の液体の糖濃度とプラークのpH変化の関係が示されていました。それをヒトの口で確かめた研究です。

結果その1:30分たっても、pHは戻りきらない

0 2.7 5.3 8 プラークpH(10名平均) 7.35 6.67 6.14 6.05 6.06 6.25 洗口前 2分 5分 10分 20分 30分 0.6 mol/Lスクロースで洗口したあとのプラークpH。30分たっても開始値より約1単位低いまま
10名の平均プラークpH。0分=洗口前。SDは0.34〜0.57と大きく、個人差がある

プラークpHは7.35から急速に下がり、10分後に最低値6.05。その後ゆっくり回復しますが、30分後でもまだ6.25——開始値より約1 pH単位低いままでした。

ここは正確に読む必要があります。この実験の平均pHは最低でも6.05で、エナメル質脱灰の臨界pH(おおむね5.5)を一度も下回っていません。つまり「平均値としては脱灰域に入らなかった」条件です。それでも1回の糖曝露でプラークは30分たっても酸性側に傾いたままだった——回復に時間がかかるという事実のほうが、この図の読みどころです。

結果その2:唾液の砂糖は、指数関数的に消えていく

0 66.7 133.3 200 唾液スクロース濃度(mmol/L) 148.3 78.2 17.4 2.3 0.52 0.16 1分 2分 5分 10分 15分 20分 洗口後の唾液スクロース濃度は指数関数的に低下する(log S = −0.161t + 2.15、r = −0.99)。線形目盛のため10分以降の棒はごく小さく見える
唾液中スクロース濃度の平均値。1分後の148.3から20分後の0.16まで、3桁近く下がる

唾液中のスクロース濃度は、1分後148.3 mmol/L → 2分後78.2 → 5分後17.4 → 10分後2.3 → 20分後0.16と、きれいな指数関数を描いて消えていきました(log S = −0.161t + 2.15、r = −0.99)。

注目すべきは標準偏差です。1分後のSDは122.7——平均148.3に対して非常に大きい。同じ量の砂糖で洗口しても、1分後に口の中に残っている量は人によって大きく違うということです。

そして本題:最初の数分が、あとを決めていた

著者らは、唾液スクロース濃度とプラーク水素イオン濃度(pHが下がるほど大きくなる指標)の相関を、時点の組み合わせごとに調べました。

  • 1分後の唾液スクロース × 20分後のプラーク:r=0.64/30分後:r=0.62
  • 2分後の唾液スクロース × 20分後:r=0.56
  • 5分後の唾液スクロース × 20分後:r=0.85/30分後:r=0.73
  • 10分後の唾液スクロース × 30分後:r=0.57

いずれもp<0.05。とくに5分後の唾液スクロース濃度と20分後のプラーク酸性度の相関(r=0.85)が強いことが分かります。

2人の対照的な被験者: 論文の図1は、砂糖が速く消えた人遅く消えた人を並べています。速く消えた人は、プラークのpH低下がはっきり小さかった。同じ砂糖を同じだけ口に入れても、その後に起きることが違ったということです。

明日の臨床へ

  • 「何を食べたか」だけでなく「どれだけ早く消えたか」が効いてきます。唾液分泌量が少ない人では同じ間食でもプラークの酸性化が長引く可能性があります(これは本研究の結果からの推論で、原著が確かめたことではありません)
  • 30分たってもpHは戻りきらない——回復に時間がかかるという事実は、間食の間隔を考える材料になります。ただし本研究は洗口1回のみで、摂取量と間隔を比較したものではありません
  • クリアランスを速める方向の介入(水を飲む、食後にうがいをする、無糖ガムで唾液を出す)は、この機序から見ると理にかなっています。ただし本研究がそれらの介入を試したわけではありません
  • 本研究は唾液分泌量そのものを測っていません(著者らも「これらの因子は制御されていない」と書いています)。クリアランスの速さが何で決まるかは、この研究の外にあります

ここだけ、冷静に補助線

読むときに置いておきたいこと被験者はわずか10名です。相関係数r=0.85といっても、10点で引いた直線であることは頭に置いておくべきでしょう。②相関であって因果ではありません。砂糖のクリアランスが速い人は、唾液分泌量が多い・プラークの性状が違う・緩衝能が高いなど、他の点でも違っている可能性があります。③3日間の口腔清掃中止という条件でプラークを育てており、日常的に清掃している口とは細菌叢も厚みも異なります。④0.6 mol/Lという高濃度のスクロース洗口で、実際の間食とは曝露の形が違います。⑤pHは採取したプラークを対象に測定しており、口腔内で連続測定したものではありません。⑥う蝕そのものを見た研究ではありません。プラークpHはう蝕の代理指標であって、この研究から「クリアランスが遅い人はう蝕になる」と直接言うことはできません。

とはいえ、「唾液から砂糖が消える速さ」と「そのあとプラークがどれだけ酸性になるか」を同じ人で並べて見せたこの研究は、間食指導の背景にある機序を明快にしてくれます。回数を減らす、水で流す、唾液を出す——私たちが経験的に勧めてきたことに、理屈の線を1本引いてくれる一本です。

今日のひとこと

砂糖が口から消える速さの個人差が、そのあとのプラークの酸性化の大きさに結びついていた。10名が0.6 mol/L(600 mmol/L)スクロースで洗口したあと、プラークpHは7.35から10分後の6.05まで急落し、30分後でも6.25と開始値より約1単位低いままだった(ただし平均値としては臨界pH 5.5を下回っていない)。唾液中スクロース濃度は1分後148.3 mmol/L → 2分後78.2 → 5分後17.4 → 10分後2.3 → 20分後0.16と指数関数的に低下(log S = −0.161t + 2.15、r = −0.99)。ただし1分後のSDは122.7と非常に大きく、残っている量には大きな個人差があった。唾液スクロース濃度とプラーク水素イオン濃度の相関は、1分後×20分後でr=0.64、1分後×30分後でr=0.62、2分後×20分後でr=0.56、5分後×20分後でr=0.85、5分後×30分後でr=0.73、10分後×30分後でr=0.57(いずれもp<0.05)。図1では、砂糖が速く消えた被験者はプラークpHの低下が明らかに小さかった。ただし被験者は10名相関であって因果ではない3日間の清掃中止で育てたプラーク高濃度スクロース洗口という非日常的な曝露、そして測っているのはプラークpHであってう蝕ではない点に注意が要る。

出典:Lindfors B, Lagerlöf F. Effect of Sucrose Concentration in Saliva after a Sucrose Rinse on the Hydronium Ion Concentration in Dental Plaque. Caries Research 1988;22(1):7-10. PMID: 3422063
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。