カリオロジー|ミュータンス連鎖球菌・定着時期・乳幼児のう蝕
4歳の子どもの口を見て、う蝕が多い。私たちはそこで「いま何が起きているか」を見ます。1988年のスウェーデンの研究は、そこに時間の軸を持ち込みました。78名の子どもを生後15か月から3歳まで4か月ごとに唾液検査し、ミュータンス連鎖球菌がいつ口に住みついたかを記録していたのです(4歳時に再検査)。4歳時点のう蝕は、1〜2歳で定着していた群で89%・平均dfs 5.0、4歳まで未検出だった群で25%・平均dfs 0.3。定着が早いほど、う蝕は多くなっていました。
①「いつから」いたのかを、聞いていますか
4歳の子どもの口を見て、う蝕が多い。私たちはそこでいま何が起きているかを見ます。仕上げ磨き、間食、フッ化物。
1988年のスウェーデンの研究は、そこに時間の軸を持ち込みました。78名の子どもを、生後15か月から3歳まで4か月ごとに唾液検査し、ミュータンス連鎖球菌がいつ口に住みついたかを記録していたのです(4歳時に再検査)。そして4歳になったとき、う蝕を数えました。
②今回の一手:菌が「いつ来たか」を、前向きに記録していた
- 対象は78名の4歳児。全員が、生後15か月から3歳まで4か月間隔でミュータンス連鎖球菌の検査を受けていた(その後は4歳時の1回)
- 4歳時点で呼び戻し、う蝕の診査と唾液採取を実施
- 唾液はStreptococcus mutans と Streptococcus sobrinus を区別し、乳酸桿菌も測定
- う蝕はKochの基準で診断。X線は必要に応じて撮影されたため、報告されるのは臨床的に見えたう蝕のみ
「定着が早いとう蝕が多い」という話は、いま聞けば当たり前に響きます。しかし菌がいつ来たかは、来たあとに思い出して答えることができません。前向きに検査を積み重ねてきたからこそ書ける論文です。
③結果その1:定着が早いほど、う蝕をもつ子が多い
4歳児78名のうち、48名(62%)にう蝕がありました。それを定着時期別に分けると、きれいな勾配になります。
- 1〜2歳で定着(27名):89%
- 2〜3歳で定着(19名):74%
- 3〜4歳で定着(11名):36%
- 4歳まで未検出(20名):25%
④結果その2:本数で見ても、同じ勾配
平均dfsは5.0 → 2.5 → 0.9 → 0.3。原著は、1〜2歳で定着した群の5.0が、より遅く定着した群や未検出群より有意に高いと述べています(5.0対2.5でp<0.02、5.0対0.9・0.3でp<0.001)。一方、2.5対0.9、0.9対0.3の差はいずれも有意ではありません——確かなのは「最も早い群だけが際立って高い」という部分です。
隣接面う蝕で見ると、差はもっと際立ちます。
- 1〜2歳定着:37%に隣接面う蝕(平均1.0面)
- 2〜3歳定着:10%(0.3面)/3〜4歳定着:9%(0.1面)
- 未検出群:ゼロ
なお表に含まれていない子がもう1名います。重度う蝕(rampant caries)で乳歯をすべて抜去する過程にあった子で、この子は生後15か月からS. sobrinusを保有していました。
⑤菌の量と種類も、定着時期についてきた
4歳時点の唾液中ミュータンス連鎖球菌の量(×10³ cfu/mL)は、平均でみると定着時期と対応していました。1〜2歳定着群で704、2〜3歳で523、3〜4歳で249。ただし中央値は351・36・46と単調ではなく、範囲も0.4〜3700と大きく歪んでいます。
- 1〜2歳定着群では28名中10名が10⁶ cfu/mLを超えていたのに対し、遅く定着した群では30名中4名(この28名には、③④の表から除かれていた重度う蝕の1名が含まれます)
- 菌種はS. mutans が優勢(定着児58名中56名)。S. sobrinus は16名で、うち2名はS. sobrinus単独
- 2歳までに定着した子のなかで、2種を併せもつ10名の平均dfsは5.8、S. mutans だけの16名は4.8(この群内での比較です)
⑥明日の臨床へ
- 乳幼児健診で「いつから」を意識する価値があります。1〜2歳で定着していた子は、4歳で89%がう蝕をもっていました
- 隣接面う蝕の差がとくに大きい。早期定着群の37%に対し、未検出群はゼロでした
- 定着が早くても、諦める話ではありません。高フッ化物環境で育った早期定着児のdfsは、全体の早期定着児より低い値でした
- ただしこれは「関連」であって「原因」ではありません(⑦へ)。菌の定着が早い家庭は、食習慣や清掃習慣も違う可能性があります
⑦ここだけ、冷静に補助線
とはいえ、菌の定着時期を前向きに記録したうえで4歳のう蝕と突き合わせた設計は、当時としては貴重です。「いつから住みついたか」という視点を臨床に持ち込んだ一本として読む価値があります。
今日のひとこと
ミュータンス連鎖球菌の定着が早い子ほど、4歳時点のう蝕が多かった。78名の4歳児のうち48名(62%)にう蝕があり、定着時期別に分けると1〜2歳で定着(27名)89%・平均dfs 5.0(SD 3.73・範囲0〜14)、2〜3歳(19名)74%・2.5、3〜4歳(11名)36%・0.9、4歳まで未検出(20名)25%・0.3という勾配になった。原著は1〜2歳定着群の5.0が、より遅く定着した群・未検出群より有意に高いと記述している。隣接面う蝕では差がさらに際立ち、1〜2歳定着群の37%(平均1.0面)に対し、未検出群はゼロだった。4歳時点の唾液中菌量も平均では定着時期に対応し(×10³ cfu/mLで704/523/249。ただし中央値は351/36/46と単調ではない)、1〜2歳定着群では28名中10名が10⁶ cfu/mLを超えたのに対し遅い群では30名中4名。菌種はS. mutansが優勢(58名中56名)で、S. sobrinusは16名(うち2名は単独)。2歳までに定着した子のなかでは、2種を併せもつ10名の平均dfsが5.8、S. mutans単独の16名が4.8だった。注目すべきは、高フッ化物地域で育った早期定着児4名の平均dfsが2.5と、早期定着児全体の5.0より低かったこと(ただし7名中の観察)。ただしこれは観察研究であり因果ではない。定着の早さとう蝕の多さの双方を生む共通要因(母親の菌量・間食・就寝時哺乳・清掃習慣)は排除できない。またX線は全員には撮られておらず、報告は臨床的に見えたう蝕のみである。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


