1問1答 論文 虫歯

フッ化物濃度の高い町では、根面う蝕になる人が少なかった——なった人の本数の差は、はっきりしない

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|水道水フロリデーション・根面う蝕・RCI

歯肉が下がった患者さんに、根面う蝕の話をする。では生涯にわたって飲む水にフッ化物が入っていたら、根面う蝕はどうなるのか。1990年に JADA が報告した調査は、カナダ・オンタリオ州のとなり合った2つの町——天然フッ化物1.6 ppmのStratfordと、0.2 ppmのWoodstock——の生涯居住者967名を比べました(調査は1978〜79年)。年齢・性別を調整した根面う蝕の保有率は21.5%対34.8%(p<.0001)。ところが「根面う蝕をもつ人」だけを取り出すと、罹患歯数の差ははっきりしませんでした(2.53本対3.07本・p=.09)。差がはっきり出たのは「何本やられたか」ではなく「そもそも発症しているかどうか」のほうだった、という観察です。

論文
Adult root caries survey of two similar communities with contrasting natural water fluoride levels
著者
Stamm JW, Banting DW, Imrey PB
掲載
Journal of the American Dental Association 1990;120(2):143-149
種類
横断研究(2地域の比較調査)
対象
カナダ・オンタリオ州の生涯居住成人967名(Stratford 1.6 ppm F:502名/Woodstock 0.2 ppm F:465名)

根面う蝕は「本数」より先に、「なるかどうか」で分かれる

歯肉が下がった患者さんを見て、根面う蝕の話をする。そのとき私たちは、たいていブラッシングとフッ化物の話をします。

では、生涯にわたって毎日飲む水にフッ化物が入っていたら、根面う蝕はどうなるのか。1990年に JADA が報告したこの調査は、カナダ・オンタリオ州のとなり合った2つの町で、それを実地に測ったものです(調査そのものは1978〜79年に実施)。天然にフッ化物を1.6 ppm含む町(Stratford)と、0.2 ppmしかない町(Woodstock)。どちらも生涯その町に住み続けた成人だけを集めています。

先に結論: 年齢と性別を調整した根面う蝕の保有率は、1.6 ppmの町で21.5%、0.2 ppmの町で34.8%(p<.0001。原著の表現では低フッ化物の町が62%高い)。ところが「根面う蝕をもつ人」だけを取り出すと、罹患している歯の本数の差ははっきりしませんでした(過去+現在で2.53本 対 3.07本・p=.09)。差がはっきり出たのは「何本やられたか」ではなく「そもそも発症しているかどうか」のほうだった、という観察です。

今回の一手:となり合った2つの町を、生涯居住者だけで比べる

  • 対象は967名Stratford(1.6 ppm F)502名Woodstock(0.2 ppm F)465名
  • いずれもその町の生涯居住者(lifelong residents)。引っ越しによる曝露の混ざりを避けている
  • 横断研究。保有率は「被験者のうち根面う蝕をもつ人の割合」、罹患歯数は「根面う蝕をもつ人あたりの歯数」で測る(露出根面を分母にするのは⑥のRCIの話)
  • 選択基準は18歳以上・現在歯8歯以上。軍役や進学による不在は5年まで許容している
  • 年齢・性別の構成が2つの町で違ったため、両群を合わせた分布に直接標準化して調整している
  • 資金はNIDR(米国立歯科研究所)の契約による

ここが地味に効いています。Woodstockのほうがやや高齢(平均43.0歳 対 40.2歳)で、女性が多く、しかも歯を平均1.2本多く失っていました。年齢差は調整しないと差を大きく見せる方向に働きます。一方この研究では男性のほうが根面う蝕が多いため、Woodstockに女性が多いことは、むしろ差を小さく見せる方向に働きます。だから両方を調整する意味があります。

結果その1:根面う蝕をもつ人が、およそ6割にとどまっていた

0 16.7% 33.3% 50% 根面う蝕をもつ人の割合(%) 21.5% 34.8% Stratford 1.6 ppm F Woodstock 0.2 ppm F 年齢・性別を調整した値(SE 1.7 / 1.9)。p<.0001。生涯その町に住み続けた成人967名
年齢・性別を調整した根面う蝕保有率。SEはそれぞれ1.7と1.9

21.5% 対 34.8%。この差はp<.0001で、著者らが挙げるほぼすべての年齢・性別のサブグループで同じ方向に出ました。原著はこれを「低フッ化物の町のほうが62%高い」と記述しています(z=5.22)。

調整前の生の数字では、根面う蝕をもつ人の割合はWoodstockのほうが77%高いという差でした。

結果その2:ところが「なった人」の本数では、差がはっきりしない

Stratford(1.6 ppm F)
Woodstock(0.2 ppm F)

0 1.7 3.3 5 根面う蝕をもつ人の、罹患歯数(本) 1.93 2.3 0.6 0.77 2.53 3.07 現在の病変 充填のみ 過去+現在 根面う蝕をもつ人だけを取り出すと、罹患歯数の差はいずれも有意ではない(p=.20 / .27 / .09)

根面う蝕をもつ人に限った罹患歯数(年齢・性別調整済み)。3つの指標いずれも有意差なし

ここがこの論文のいちばん面白いところです。根面う蝕をもつ人だけを取り出すと、罹患歯数の差は小さくなり、統計的な有意差も消えます(ただし点推定は0.54本ぶん低フッ化物の町が多く、差が無いと示されたわけではありません)。

  • 現在進行中の病変がある歯:1.93本 対 2.30本(p=.20)
  • 充填されているだけの歯:0.60本 対 0.77本(p=.27)
  • 過去+現在を合わせて:2.53本 対 3.07本(p=.09)

著者らはこれを、調整前の数字で端的に書いています。「根面う蝕をもつ人の割合は77%高いのに、病変をもつ人に限れば1人あたりの病変数は21%高いだけ」

読み替えると: 差がはっきり出たのは「根面う蝕のある人/ない人」を分ける段階でした。いったん発症してしまった人のなかでは、町による差はぼやけます。予防が効くのは発症の手前——という、日々の実感と重なる読み方ができます(ただしこれは横断研究の観察であって、因果を示したものではありません)。

プラークは多いほうの町が、う蝕は少なかった

もうひとつ、目を引く数字があります。プラーク指数はStratford(1.6 ppm)が0.89、Woodstock(0.2 ppm)が0.75う蝕が少なかった町のほうが、プラークは多かったのです。この差は20〜49歳でとくにはっきりし、年齢・性別を揃えても残りました。

さらに、Woodstockでは約20%が「歯科医院でのフッ化物塗布を受けたことがある」と答え、Stratfordではほぼ皆無でした。水にフッ化物が入っていることが知られていたためと考えられます。つまりWoodstock側には、塗布という追加のフッ化物が乗っていたことになります。それでもなお差がついた、という読み方ができます。

もうひとつの発見:根面う蝕の「測り方」の問題

この論文には副産物があります。根面う蝕の指標として広く使われるRoot Caries Index(RCI)——露出根面のうち何%がやられたかを示す指標——の作り方に、著者らが疑問を投げているのです。

標準のRCIは「CEJが見えて、退縮量を計測できる面」だけを分母に入れるため、分母が小さくなります。修復物にCEJが覆われて計測できない面が落ちるためで、原著によればこれは病変面の30%にあたり、本研究の緩めた定義なら90%が残るといいます。結果として、病変の数は少なめに、有病率は多めに見積もられると著者らは指摘しました。

明日の臨床へ

  • 根面う蝕の予防効果は、「本数を減らす」より「発症する人を減らす」形で現れます。ハイリスクの患者さんに介入するとき、期待すべきアウトカムの形が変わってきます
  • フッ化物の効果は、プラーク量の差を越えることがあります。プラークが多い町のほうが根面う蝕が少なかった、という観察は、清掃指導だけに頼る危うさを示唆すると読むこともできます(2つの町を平均で比べた生態学的な比較である点には注意)
  • 根面の露出そのものは止められません。だからこそ、露出した面に日常的に低濃度のフッ化物が触れ続ける環境(歯磨剤・洗口・水)の意味が大きくなります
  • ただしこれは横断研究で、日本の水道水にこの濃度のフッ化物は入っていません。そのまま持ち込める話ではありません(⑧へ)

ここだけ、冷静に補助線

読むときに置いておきたいこと横断研究です。ある一時点で観察した結果であり、フッ化物が根面う蝕を防いだという因果を証明する設計ではありません。著者ら自身、露出根面に限って見た場合の根面う蝕と年齢の関係について「横断デザインを踏まえれば」と留保を付けています。②2つの町の住民は、フッ化物濃度以外でも違っていました。年齢・性別・喪失歯数・プラーク指数・フッ化物塗布歴がいずれも異なります。年齢と性別は調整されていますが、それ以外は揃っていません。③「生涯居住者」だけを選んでいます。そのぶん曝露は明確ですが、引っ越さなかった人という特殊な集団を見ていることにもなります。④1.6 ppmは天然のフッ化物濃度で、いわゆる至適濃度(0.7〜1.2 ppm程度)より高い水準です。日本の水道水(0.8 ppm以下)とは前提が違います。⑤標準誤差は大きいと著者ら自身が書いており、年齢・性別ごとの細かい比較は参考程度に読むべきです。なお著者らは、歯の喪失によって町どうしの差はむしろ小さく見えている(欠損の多い低フッ化物の町で、失われた歯にあったはずの病変が数えられない)とも述べており、この点は差を控えめにする方向に働きます。⑥根面う蝕をもつ人に限った罹患歯数の差(p=.09)は「差がない」ことの証明ではありません。この規模では検出しきれなかった、という読み方も同じくらい妥当です。

とはいえ、となり合う似た町で生涯居住者だけを集め、年齢と性別を直接標準化して比べるという設計は、当時できる範囲でよく詰められています。「発症するかどうか」に効いていたという所見は、予防の目標をどこに置くかを考えるうえで示唆に富みます。

今日のひとこと

差がはっきり出たのは、「根面う蝕になっているかどうか」を分ける段階だった。年齢・性別を直接標準化した根面う蝕保有率は、1.6 ppmの町で21.5%(SE 1.7)、0.2 ppmの町で34.8%(SE 1.9)p<.0001(原著の表現では低フッ化物の町が62%高い・z=5.22)。調整前の生の数字では保有者の割合が77%高い。ところが根面う蝕をもつ人だけを取り出すと差は縮み、有意ではなくなる——現在の病変がある歯1.93本対2.30本(p=.20)、充填のみ0.60本対0.77本(p=.27)、過去+現在で2.53本対3.07本(p=.09)。ただし点推定は0.54本ぶん低フッ化物の町が多く、差が無いと示されたわけではない。著者らは調整前の値で「保有者の割合は77%高いが、病変をもつ人に限れば1人あたりの病変数は21%高いだけ」と表現している。興味深いことにプラーク指数は根面う蝕の少ないStratfordのほうが高く(0.89対0.75)、またWoodstockでは約20%が歯科医院でのフッ化物塗布歴をもつのに対しStratfordではほぼ皆無だった。副産物として、標準のRoot Caries Index(RCI)はCEJが視認・計測できる面だけを分母にするため、病変面の30%が落ちる(緩めた定義なら90%が残る)と指摘し、より妥当な推定にはRCIの定義を緩める必要があるとしている。ただし横断研究であり因果の証明ではない。2つの町は年齢・性別・喪失歯数・プラーク・塗布歴が異なり、調整されたのは年齢と性別のみ。なお著者らは、歯の喪失によって町どうしの差はむしろ小さく見えているとも述べている。1.6 ppmは天然濃度で、いわゆる至適濃度より高い点にも注意が要る。

出典:Stamm JW, Banting DW, Imrey PB. Adult root caries survey of two similar communities with contrasting natural water fluoride levels. Journal of the American Dental Association 1990;120(2):143-149. PMID: 2299058
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。