1問1答 論文 歯周病

縁下の器具操作は、どこまで治せるのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

「初期治療でどこまで良くなりますか」——患者さんにも、スタッフにも聞かれます。平均で何ミリ浅くなる、という答えは持っていても、「何割のポケットが治るのか」までは即答しにくい。2020年、欧州歯周病学会のガイドライン作りの土台となったこのレビューが、その数字を出しました。

論文
Subgingival instrumentation for treatment of periodontitis. A systematic review
著者
Suvan J, Leira Y, Moreno Sancho FM, Graziani F, Derks J, Tomasi C
掲載
Journal of Clinical Periodontology 2020;47(Suppl 22):155-175
種類
システマティックレビュー+メタ解析(RCT・EFP S3ガイドライン基礎資料)
PMID
31889320

「平均で何ミリ」では、患者さんに届かない

非外科的歯周治療の効果は、これまで何度も総説にまとめられてきました。ただ、そこで報告されてきたのはほとんどが「平均ポケット深さの減少」と「平均付着獲得」です。

著者らはここに問題を見ています。治療のゴールは「浅いポケットと、炎症所見がないこと」——つまり「その部位が治ったかどうか」であって、集団の平均が何ミリ動いたかではない。だから今回のレビューでは、「ポケット閉鎖(PD 4mm以下かつBOP陰性)の割合」を重要なアウトカムとして正面に据えました

もう一つ、現場が知りたい問いが2つあります。「手用と超音波、どちらが良いのか」「4回に分けるのと、1日でまとめるのと、どちらが良いのか」このレビューは、その3つをまとめて引き受けています(EFPのS3レベル・ガイドライン作成の土台になった資料です)。

先に結論: 6〜8か月で、ポケットの74%が閉じる。そして器具の種類でも、進め方でも、結果は変わらなかった

3つの問いと、その集め方

CENTRAL・MEDLINE・EMBASE・SCOPUS・LILACSを2019年3月まで検索し、治療後3か月以上追跡したRCTのみを採用補助的な薬剤(局所・全身の抗菌薬など)を使った群は除外されています。

問い①(縁下器具操作そのものの効果)には、大きな壁がありました「縁上清掃だけの対照群」を置くことは倫理的に難しく、条件を満たすRCTは1件しか存在しなかったのです(対照群の縁下治療を3か月遅らせた研究)。そこで著者らは、問い②③のために集めたRCTの各治療群を独立した単位とみなし、治療前後の縦断的な変化から効果を推定するという方法を採りました。この点は、結果を読むうえでの前提として押さえておく必要があります

問い②には6 RCT、問い③には13 RCTが該当し、それぞれメタ解析が行われています

結果:6〜8か月で、74%のポケットが閉じる

0 33.3% 66.7% 100% 割合 (%) 57% 74% 56.7% 62.7% ポケットが閉じた割合 BOPの減少率 「ポケットが閉じた」=深さ4mm以下かつBOP陰性。95%CIは3〜4か月で46〜68%、6〜8か月で64〜85%
ポケットが閉じた割合とBOPの減少率。時間とともに、閉じる部位は増えていく

ポケット深さの減少は、3〜4か月で1.0mm(95%CI 0.8-1.3・9研究)、6〜8か月で1.7mm(95%CI 1.3-2.1・11研究)

そしてポケット閉鎖の割合は、3〜4か月で57%(95%CI 46-68)、6〜8か月で74%(95%CI 64-85)BOPは3〜4か月で56.7%、6〜8か月で62.7%減少しました。

「4本に3本は閉じる」——これは、患者さんへの説明に使える数字だと思います。同時に「4本に1本は閉じない」という情報でもあり、再評価の場で外科や追加処置を相談する下地にもなります。

著者らはこの結果から、「きちんと行われた非外科的歯周治療は、より高コストで患者負担の大きい追加・代替治療の必要性を減らしうる」と述べています。

深い部位ほど、大きく減る。ただし閉じにくい

0 1.2 2.3 3.5 ポケット深さの減少 (mm) 1.5 1.6 2.6 2.6 浅い部位(4〜6mm) 深い部位(7mm以上) 全部位をまとめた減少は3〜4か月で1.0mm、6〜8か月で1.7mm。深い部位ほど減り幅は大きい
初期の深さ別に見たポケット減少量。深い部位ほど大きく減る

初期に浅かった部位(4〜6mm)の減少は、3〜4か月で1.5mm、6〜8か月で1.6mm初期に深かった部位(7mm以上)は、どちらの時点でも2.6mmでした。

深いほど、減る量は大きい。ただし著者らは、「進行した症例では、ポケット減少という意味では非外科治療がより効果的である一方、ポケット閉鎖という意味での疾患の解決は起こりにくい」と整理しています。2.6mm減っても、9mmが6.4mmになっただけなら閉じていない——「減り幅」と「治ったかどうか」は別だということです。

この視点は、2018年の新分類(ステージ1〜2は浅いポケット、ステージ3〜4は深いポケットと分岐部病変)とも整合しますステージが上がるほど、非外科だけで完結する割合は下がる——数字で裏づけられた形です。

器具も、進め方も、結果を変えなかった

問い②(手用 vs ソニック/超音波)6 RCTのメタ解析で、ポケット減少にも付着獲得にも、どの時点・どの初期深さでも有意差はありませんでしたBOPの部位別減少を報告した1研究でも差なし

問い③(クアドラント分割 vs フルマウス一括)13 RCTのメタ解析でも、ポケット減少・付着獲得・ポケット閉鎖のいずれにも差はありませんBOPの部位別減少を見た2研究でも、3〜4か月(p=0.67)・6〜8か月(p=0.78)で差なし有害事象はまれ(1研究で各群1件)器具操作後の不快感を報告した5研究でも群間差はなしでした。

面白いのは、唯一報告された「差」が術者側の感想だったことです——Loggner Graffらの研究では、術者がクアドラント法のほうが負担が軽いと感じていました

もう一点、著者らが補足しているのがフルマウス法の全身への影響です。術直後の急性の全身性炎症反応は、フルマウス法のほうが大きいという報告(Graziani 2015)が引かれています。

ここが要点: 「どちらが優れているか」の議論に、この総説は決着をつけている臨床的な結果は同じなので、選択は患者さんの都合・全身状態・チェアタイムへの耐性・指導を繰り返す必要性で決めてよい

明日の臨床へ

1つ目。「半年で4本に3本は閉じます」と説明できる。 ポケット閉鎖74%(95%CI 64-85)という数字は、初期治療の見通しを具体的に伝えられる材料です。「一定の割合は閉じません」も同時に伝えられるので、再評価後の相談がスムーズになります。

2つ目。器具の選択に、優劣の根拠はない。 手用でも超音波でも、臨床結果は同じ術者の得意・部位の形態・時間で選んでよいという裏づけになります(実際、多くの臨床家は両者を組み合わせています)。

3つ目。分けるか、まとめるかも自由に決めてよい。 ただしフルマウス法は術直後の全身性炎症反応が大きいという報告があります。全身状態に不安のある患者さんでは、分割のほうが穏やかという判断はありえます。逆に、通院回数を減らしたい患者さんには一括を提案できる

4つ目。「治った部位の数」で結果を見る癖をつける。 平均PD減少1.7mmより、閉鎖率74%のほうが臨床の実感に近いチャートを見るとき、「何ミリ減ったか」だけでなく「4mm以下でBOP陰性になった部位が何か所増えたか」を数える——この総説が勧めている見方です。

ここだけ、冷静に補助線。 最大の限界は、問い①に答えるRCTが実質存在しないことです。倫理上、「縁下を触らない対照群」を置けないため、治療前後の縦断的変化から推定するしかありませんでしたしたがってここでの「1.7mm」「74%」は、対照群と比べた上乗せ効果ではなく、治療を受けた集団の変化です。Eggerの検定でも、この解析では出版バイアスのリスクが高いと示されています。加えて、採用研究の多くは大学など管理された環境で行われており、実臨床の成績(effectiveness)ではなく効力(efficacy)を表していること、追跡は6か月までがほとんどであること、細い超音波チップやマイクロ・ミニキュレットが登場する前の研究も含まれていることも、著者らが率直に挙げています。それでも、EFPのガイドラインを支える基礎データとして、この数字は今の標準的な見通しを表しています

今日のひとこと

2019年3月までの5データベースを検索し、3つの問い(①縁下器具操作そのものの効果 ②手用器具と超音波/ソニック器具の比較 ③クアドラント分割とフルマウス一括の比較)に答えたシステマティックレビュー。①については、縁上清掃のみと比較したRCTが1件しか存在しなかったため、11研究の治療前後の値から効果を推定しました。ポケット深さの減少は3〜4か月で1.0mm(95%CI 0.8-1.3)、6〜8か月で1.7mm(95%CI 1.3-2.1)ポケットが閉じた(4mm以下かつBOP陰性)割合は、3〜4か月で57%、6〜8か月で74%(95%CI 64-85)BOPは3〜4か月で56.7%、6〜8か月で62.7%減少しました。初期の深さ別に見ると、浅い部位(4〜6mm)は1.6mm、深い部位(7mm以上)は2.6mmの減少——深いほど減り幅は大きいが、閉じる確率は下がるという関係です。②手用と超音波/ソニックの比較(6 RCT)では、どの時点・どの初期深さでも有意差なし③クアドラント分割とフルマウス一括の比較(13 RCT)でも同様に差はなく、患者が報告する不快感にも差はありませんでした。結論は「機械的な縁下器具操作は、器具の種類や実施方法にかかわらず、歯周炎の感染コントロールを達成する有効な手段である」

出典:Suvan J, Leira Y, Moreno Sancho FM, Graziani F, Derks J, Tomasi C. Subgingival instrumentation for treatment of periodontitis. A systematic review. J Clin Periodontol 2020;47(Suppl 22):155-175. PMID: 31889320
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。