ペリオ|Phase1 初期治療
スケーリング・ルートプレーニングのあと、患者さんから「冷たいものがしみるようになった」と言われる。誰もが経験する場面ですが、それは何割の患者に起きて、いつピークを迎え、いつ収まるのか。ヨーロッパ歯周病学会のワークショップが、この地味だけれど毎日直面する問いを、システマティックレビューで正面から扱いました。
①「先生、しみるようになったんですけど」
SRPを終えて、次の来院。患者さんがこう言います。悪気はありません。ただ、こちらは一瞬ひやりとする。治療したのに悪くなった——そう受け取られていないだろうか、と。
ここで「よくあることです」と答えるのは正しい。ですが、「何割に起きて、いつ収まるのか」を数字で言えるかどうかで、その言葉の重みはまったく変わります。
2002年、ヨーロッパ歯周病学会の第4回ワークショップで、von Troilらがこの問いをシステマティックレビューにしました。テーマは歯周治療後の根面知覚過敏(root sensitivity)の頻度です。
②「知覚過敏」と「根面知覚過敏」は同じではない
著者らはまず用語を整理しています。一般に言う象牙質知覚過敏(dentine hypersensitivity)は、露出した象牙質が温度・接触・浸透圧などの刺激に短く鋭い痛みで応じ、他の疾患では説明がつかないものを指します。除外診断が前提の言葉です。
一方、歯周治療の後に起こるものは、SRPによってセメント質・象牙質が意図的に露出・削除された結果として生じます。原因がはっきりしている。だから著者らはこれを「根面知覚過敏(root sensitivity)」と呼び分けました。
この区別は臨床でも役に立ちます。SRP後のしみは治療の副産物であって、失敗ではない。そう説明できる根拠になるからです。
③6本を評価して、残ったのは2本だった
検索の結果、条件に照らして評価された研究は6本。そのうち2本だけが組み入れられました(Fischer 1991/Tammaro 2000)。
除外された4本の理由も明快です。2本は治療前後の「強さの変化」しか報告しておらず頻度が分からない。1本はメインテナンス期の患者が対象。もう1本は一部の被験者しか歯周治療を受けていませんでした。
組み入れられた2本の被験者は、それぞれ11人と35人。合計46人です。この数字は覚えておいてください(§⑦で効いてきます)。
④治療前の2割が、治療後には半数になる
この一致が、この論文の芯です。研究の規模もデザインも違う2本が、「治療後は約半数」という同じところに着地した。
⑤山は1週目。1か月でおおむね収まる
もうひとつ、Fischer 1991が拾った所見があります。エックス線的な骨吸収が根長の50%を超える患者は、50%以下の患者より閾値が低かった——つまり、より敏感でした。深く進んだ症例ほど、しみやすい。露出する根面が広いことを考えれば、自然な結果です。
そしてTammaro 2000では、口腔衛生指導だけを行った象限では、知覚過敏はむしろ2〜3週後に有意に減少していました。器具を入れた側とそうでない側で、逆の動きをしたわけです。
⑥明日の臨床へ:説明を「前」に置く
著者らの結論はきわめて実務的です。治療前に、知覚過敏が起こりうることを患者に知らせておくことが推奨される。
同じ症状でも、事前に聞いていたかどうかで患者さんの受け取り方は変わります。聞いていなければ「悪くなった」。聞いていれば「予定どおりだ」。この差が、その後の治療への協力度を左右します。
特に、深く進行した症例(骨吸収50%超)ほど強く出やすいことが分かっているので、重症例ほど丁寧に前置きする。これが数字から導ける優先順位です。
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
SRP後にしみるのは、失敗ではなく予測できる経過です。約半数に起こり、1週目が山で、1か月でおおむね収まる。
この3つを治療の前に伝えておく。それだけで、痛みは同じでも、患者さんの体験はまるで違うものになります。
今日のひとこと
歯周治療の前に根面の知覚過敏があった患者は9〜23%。治療後はそれが54〜55%へ跳ね上がりました。約半数です。強さは治療の1週後にピークを迎え(VAS 3.1→7.2)、その後ゆるやかに下がって4週後には統計学的な有意差が消えました。つまり「約半数に起こる。1週目が山で、1か月でおおむね収まる」。この2つを治療前に伝えておくだけで、患者さんの不安と不信は大きく減らせます。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


