1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

歯が痛いのに、原因が見えない?——選ばれたPIDAP患者で、歯肉溝などの異痛症は69/76人(91%)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

痛み・口腔顔面痛|選ばれたPIDAP患者の診療所見を調べた観察研究(Sanner 2022・International Endodontic Journal)

痛む歯を指せても、診察と画像で原因を説明できない。そこで何を記録するか。Sannerらは、紹介中心の歯内療法診療所で慢性の歯の痛みを訴えた160人から、PIDAPの基準を満たす78人を選びました。歯肉溝・インプラント周囲粘膜の異痛症は、検査できた76人中69人(91%)。天然歯とインプラントを合わせた患者数です。垂直打診痛・根尖部圧痛は除外基準に含まれ、対照群はありません。所見を記述した研究で、異痛症による確定診断を検証したものではありません。

論文
Patients with persistent idiopathic dentoalveolar pain in dental practice
著者
Frank Sanner, David Sonntag, Norbert Hambrock, Matthias Zehnder
掲載
International Endodontic Journal 2022;55(3):231-239. doi:10.1111/iej.13664
種類
観察研究。ドイツの紹介中心の歯内療法診療所で2003年1月〜2019年6月に前向きに集めた診療データへ、ICOPのPIDAP基準を後ろ向きに適用。慢性の歯の痛みを訴えた160人を評価し、78人を解析(女性63人、男性15人)。対照群なし。
PMID
34792207

①歯が痛いのに、原因が見えない?

「ここが痛い」と指す歯はある。けれど、診察と画像では、その痛みを説明できる異常が見つからない。次に、何を確かめるか。

Sannerらが報告したのは、選ばれたPIDAP患者の診療所見だ。PIDAPは持続性特発性歯槽部痛。この集団では、歯肉溝やインプラント周囲粘膜への軽い機械刺激で痛みが生じる所見が多かった。原因を除外した先にも、記録できる痛みの特徴がある。ただし、その所見だけで診断が決まるという研究ではない。

②PIDAPは除外診断

痛みが続くときは、歯に由来する痛み、それ以外の痛み、両者が混じった痛みを分けて考える必要がある。原著が出発点に置いたのは、この診断の難しさだった。

原著が引用するICOP(国際口腔顔面痛分類)のPIDAPは、基本的に片側の口腔内の歯・歯槽部に生じ、まれに複数部位に及ぶ持続痛で、毎日、1日2時間を超え、3か月を超えて繰り返すもの。先行する原因となる出来事がないことも定義に含まれる。

ただし、期間だけでは診断しない。この研究では問診・診察・画像で他の原因を検討した。歯原性疼痛や関連痛、外傷後の三叉神経の痛みなどを除外した。そこで残った患者に、どんな共通点があるかを探している。

③集めた診療データを、新しい基準で見直した

ドイツの紹介中心の歯内療法診療所で、2003年1月〜2019年6月に診療時のデータを前向きに収集。その後、ICOPの基準を後ろ向きに適用した観察研究だ。治療の効果を比べた試験ではない。

慢性の歯の痛みを訴えた160人から、PIDAPの基準を満たす78人を選んだ。女性63人、男性15人。全例で痛む部位のデンタルエックス線写真を確認し、痛む部位にプロービング時出血や病的なポケットなどがある患者も除外している。

感覚の診察では、歯周プローブで歯肉溝に軽い圧を加え、痛みの反応を確認した。反対側と比べ、すべての区画の歯肉溝を調べた。ここでいう異痛症は、通常は痛くない刺激で痛むこと。歯をたたく検査とは区別して読もう。

④異痛症は、検査できた76人中69人

選ばれたPIDAP患者のうち検査可能な患者

0 25% 50% 75% 100% 異痛症を認めた患者の割合(%) 91% 検査可能な患者69/76人 選ばれたPIDAP患者。天然歯68/75例、インプラント1/1例。無歯部の2人は検査できなかった。91%は原著記載値で、診断精度を表す値ではない。

歯肉溝・インプラント周囲粘膜の異痛症:69/76人(91%)。天然歯68/75例、インプラント1/1例。無歯部の2人は検査できなかった。割合は原著記載値。

ここは分母が大切だ。91%は、歯やインプラントに痛みがあり、この所見を検査できた患者での割合である。天然歯だけの割合でも、診察した全員の割合でもない。痛んだのは歯肉溝の一部分で、全周ではなかった。

つまり: この91%は打診痛の割合ではない。歯肉溝・インプラント周囲粘膜への軽い機械刺激で生じた痛みを数えている。

一方、この研究では垂直打診痛と根尖部圧痛がある患者は除外されている(Table 1)。結果にも両所見は陰性と書かれているが、垂直打診痛・根尖部圧痛は除外基準だった。陰性だったことを、新しく発見された診断所見やPIDAP一般の必須所見にはできない。

⑤夜中に痛みで目が覚めない患者が多かった

夜間の覚醒起床後の無痛時間

0 25% 50% 75% 100% 各質問に該当した患者の割合(%) 85% 82% 痛みでの夜間覚醒なし66/78人 起床後の無痛時間あり64/78人 分母はいずれも選ばれたPIDAP患者78人。別々の質問で、割合は合計しない。割合は原著記載値。「夜間はまったく痛くない」という意味ではない。

選ばれたPIDAP患者78人の回答。痛みで夜中に目が覚めない:66/78人(85%)。起床後に痛みのない時間がある:64/78人(82%)。両方に該当する患者がありうる別々の質問で、割合は合計しない。

痛みの強さだけでなく、いつ痛むかにも特徴があった。ただし「夜中に目が覚めない」は、「夜間はまったく痛くない」と同じ意味ではない。

診察前2週間の最大痛の中央値は、NRS-11で8だった(Table 2)。夜中に起こされないという回答から、痛みが軽いと読み替えることもできない。

⑥感覚の変化があっても、原因まで分かったわけではない

著者らは、歯肉溝の異痛症に神経系の可塑的変化、つまり神経での痛みの処理の変化が関わる可能性を論じている。しかし、この研究でその仕組みを直接測ったわけではない。異痛症という所見と、痛みの原因の説明は分けておきたい。

もう一つ、診察する側が覚えておきたい結果がある。診察後に痛みが増したと答えた患者は32人いた。歯肉溝への接触などで痛みが増す場合があったという。何度も刺激すれば、そのぶん診断が確かになると示した研究ではない。

⑦明日の臨床へ

この研究が確かめたことは、選ばれたPIDAP患者で、歯肉溝などの異痛症や、痛みで夜中に目が覚めないという特徴が多く観察されたこと。ここから先は筆者の臨床的な読みであり、診断精度や治療成績が改善するかを試した結果ではない。

  • 睡眠の問診と感覚の所見を記録する。「夜は眠れますか」から一歩進めて、痛みで目が覚めるか、起床後に痛みのない時間があるかを聞く。感覚は刺激の場所や反対側との違いまで記録する。所見は診断を考える手掛かりとして扱いたい。
  • 追加処置の前に、痛みを説明する根拠を見直す。異痛症があるという理由だけで、その歯への追加処置を決めない。痛みを再現するための刺激も、必要以上に繰り返さないようにしたい。
  • 原因が定まらなくても、相談先につなぐ。この研究では診察後、頭痛・顔面痛の診療施設や痛みの専門家へ紹介している。「原因が見えない」で説明を終えず、確認できた所見と分からない点を分けて伝える出発点になる。
ここだけ、冷静に補助線
紹介中心の診療所で選ばれた78人の観察研究で、対照群なし。感染による歯の痛みの患者と直接比較しておらず、診断精度や有病率は分からない。痛みや治療の経緯は患者の記憶にも依存する。垂直打診痛・根尖部圧痛の陰性は対象選別と切り離せず、異痛症だけで確定診断はできない。それでも、除外診断を支えるために、問診と診察で何を記録するかを具体的に示した点は臨床に持ち帰れる。

今日のひとこと

選ばれたPIDAP患者では、検査可能な76人中69人(91%)に歯肉溝・インプラント周囲粘膜の異痛症があった。除外診断を支える所見として記録し、単独で確定診断する根拠にはしない。

Sanner F, Sonntag D, Hambrock N, Zehnder M. Patients with persistent idiopathic dentoalveolar pain in dental practice. Int Endod J. 2022;55(3):231-239. doi:10.1111/iej.13664. PMID: 34792207
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。