ペリオ|Phase1 初期治療
根面のセメント質を削り取らなくても治る——そう分かってから、SRPの力加減は変わりました。では拡大鏡と細身の器具でそっと触る「低侵襲な非外科的治療(MINST)」は、従来のSRPの代わりになるのか。2022年、Chungらが同じ口の左右で比べています。差がなかったこと自体が、この研究の答えです。
①「削らないと治らない」は、もう前提ではない
かつては細菌の産物がセメント質に浸透しているから、手用器具で病的セメント質を削り取らなければ治らないと考えられていました。ルートプレーニングという言葉の重みは、そこから来ています。
ところが近年の知見では、根面の実質を意図的に除去することは治癒の必要条件ではありません。プラークと歯石を落とすだけの、やさしく軽いタッチの器具操作で十分とされています。
一方で従来型の非外科的治療(CNST)には残る課題があります。5mmを超えるポケットでは歯石が残りやすいこと。従来型キュレットの刃部の幅では、複根歯の根分岐部に届きにくいこと。そして歯肉退縮は避けられず、深いポケットほど大きくなること。
そこで拡大鏡と、細く繊細に設計された器具を使って組織のダメージを最小限にする「低侵襲非外科的歯周治療(MINST)」が登場しました。骨縁下欠損の深さの減少については、低侵襲な歯周外科と遜色ないという報告もあります。しかし「従来型の代わりになるか」を正面から比べた研究は、これまでありませんでした。
②同じ口の左右で、9人・250歯を比べる
対象は台北医学大学附属病院で募集された、全身的に健康な30歳以上の患者。各象限に保存可能な歯が5歯以上ある、ステージII〜IVの広汎型歯周炎が条件です。喫煙者、糖尿病や自己免疫疾患のある人、6か月以内に歯周治療を受けた人、1か月以内に抗菌薬を使った人、妊娠中の人は除外。
10名が登録され、来院不能の1名を除く9名が再評価まで完了しました。全員が広汎型ステージIIIグレードBで、ベースラインの全顎プラークスコアは94.73%、全顎出血スコアは54.61%——口腔衛生状態は良好とは言えない集団です。解析対象はCNST側127歯、MINST側123歯の計250歯。
器具の違いが、この研究の核心です。
CNST側は、標準的な超音波スケーリングチップ(P-10・P-20)で大部分を行い、標準サイズのグレーシーキュレット(1/2・11/12・13/14)で仕上げ。MINST側は、細く繊細な専用チップ(P-26L・P-26R・P-40)と、ミニチュアサイズのキュレット(マイクロミニファイブ・グレーシー1/2・11/12・13/14)を使い、4.0倍の拡大鏡を併用します。
両側とも局所麻酔下で、同一の経験ある歯周病専門医が施術。術者が納得するまで時間制限は設けていません。口腔衛生指導は毎回、両側に等しく行われています。測定は6点法で、ベースライン・1か月後・3か月後。
③結果は、ほぼ重なった
ベースラインは両側でよく揃っていました(PPD 3.43mm対3.32mm、退縮 0.50mm対0.65mm、付着レベル 3.88mm対3.92mm、BOP 58.0%対51.2%)。
3か月後、両側ともすべての項目が有意に改善(p<0.05)しています。PPDの減少はCNST 0.92mm、MINST 0.83mm。付着レベルの改善は0.60mm対0.55mm。BOPは25.44%対23.67%。1か月後の時点でも同じ傾向(PPD 0.83mm対0.76mm)です。
そして、群間比較ではどの項目も統計学的に有意ではありませんでした(p>0.05)。前歯・臼歯に分けた解析でも同様です。
差がなかったこと自体が、この研究の答えです。細い器具で最小限に触っても、標準的な器具でしっかり触ったときと同じ場所に着いた——それが示されました。
④退縮と快適さは、MINST側がわずかに良い
歯肉退縮は、1か月後がCNST 0.35mm・MINST 0.33mm、3か月後が0.27mm対0.23mm。MINST側のほうが小さいという結果でした(ただし有意差はありません)。退縮は非外科的治療のあとに避けられない変化で、炎症の強い歯肉ほど大きく出ます。その量をわずかでも抑えられる可能性があるというのは、前歯部を扱うときに意味を持ちます。
患者さんの感じ方も見ています。10cmのVASで評価した不快感は、CNST 2.9、MINST 2.4。「まったく不快でなかった」と答えたのは、MINSTで4名、CNSTで1名。こちらも有意差はありませんが、方向としてはMINST側が好まれています。
所要時間は、CNST 約23.5分、MINST 約26.0分で、有意差なし。細い器具で丁寧に触ると時間がかかるのでは、という懸念は、この研究では2分半程度の差にとどまりました。
もうひとつ、患者さんのブラッシング回数が、ベースラインの2.22回から、1か月後3.0回、3か月後3.22回へ増えています。これは両側共通の変化ですが、治療の効果を読むときに無視できない要素です。
⑤明日の臨床へ
1つ目。力を抜いてよい、という後押しになる。 細身の器具で最小限に触った側も、標準的な器具でしっかり触った側と同じ改善を示しました。「削らないと不安」という感覚を、データで少し手放せます。
2つ目。前歯部・審美領域から取り入れる。 退縮の差はわずか0.04mm(3か月)で有意ではありませんが、方向は一貫してMINST側が小さい。退縮が見た目に直結する部位から、細い器具と拡大鏡を試すのは理にかなっています。
3つ目。器具と拡大鏡への投資は、時間を奪わない。 2分半の差なら、通常のアポイントに収まります。「低侵襲は時間がかかるから無理」という前提は、この研究では成立しませんでした。
4つ目。同時に、口腔衛生指導の効果を忘れない。 ブラッシング回数が2.22回から3.22回へ増えています。器具の違いを語る前に、両群に共通して効いていたものがある——この研究の設計は、それを打ち消せていません。
今日のひとこと
広汎型ステージIIIグレードBの歯周炎患者9名(250歯)を対象に、同じ口の左右で従来型の非外科的歯周治療(CNST)と低侵襲非外科的歯周治療(MINST:拡大鏡と細身の器具で最小限の器具操作)を割り付け、1か月後・3か月後の臨床パラメータと患者の快適さを比較したパイロットRCT。両群とも、PPD・歯肉退縮・付着レベル・BOPのすべてがベースラインから有意に改善(p<0.05)しました。3か月後のPPD減少はCNST 0.92mm、MINST 0.83mm。付着レベルの改善は0.60mm対0.55mm。BOPは25.44%対23.67%——群間の差は、どの項目でも統計学的に有意ではありません(p>0.05)。一方で歯肉退縮の増加はMINST側が1か月・3か月ともに小さく(3か月で0.27mm対0.23mm)、患者の快適さもMINST側が良好(VAS 2.4対2.9、「まったく不快でなかった」と答えた人はMINST 4名・CNST 1名。いずれも有意差なし)。所要時間は23.5分対26.0分で差なし。著者らの結論は「限界の範囲内で、MINSTは従来型の代替となりうる」という控えめなものです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


