1問1答 論文 歯周病

リステリンは、プラークを落とすから効くのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

洗口液の効果は「殺菌してプラークを減らすから」と説明されます。ではプラークの減り方が同じなら、歯肉炎の起き方も同じはずです。イエテボリ大学のSekinoとRambergが、2週間まったく歯を磨かせないという厳しい条件で、リステリンとクロルヘキシジンを並べました。すると、プラークと歯肉炎で成績表が食い違ったのです。

論文
The effect of a mouth rinse containing phenolic compounds on plaque formation and developing gingivitis
著者
Sekino S, Ramberg P
掲載
Journal of Clinical Periodontology 2005;32(10):1083-1088
種類
無作為化クロスオーバー試験(単盲検)
PMID
16174272

「洗口液は、プラークを減らすから効く」——本当にそれだけ?

患者さんに洗口液をすすめるとき、私たちはこう説明します。殺菌成分が細菌を減らし、プラークがつきにくくなるから、歯肉炎が防げると。

筋は通っています。ですが、もしそれだけなら、プラークの減り方が同じなら歯肉炎の起き方も同じになるはずです。逆に言えば、プラークをあまり減らせない洗口液は、歯肉炎もあまり防げないはずです。

2005年、イエテボリ大学のSekinoとRambergが、この前提を検証しました。使ったのは2週間まったく歯を磨かせないという、古典的で厳しいモデルです。

先に結論: プラーク抑制では、リステリンはクロルヘキシジンに明確に負けた。ところが歯肉の出血では、両者に有意差がなかった。プラーク量を揃えて比べても、リステリン群の歯肉炎は対照より低いままだった。

フェノール化合物という、少し変わった主役

リステリンの主成分はチモール・ユーカリプトール・メントール・サリチル酸メチル——エッセンシャルオイルと総称されるフェノール系の化合物群です。臨床効果は長らく殺菌作用で説明されてきました。

ですが著者らは、冒頭でこう指摘します。フェノール化合物は、炎症過程そのものに干渉することも知られている。もしそうなら、この薬の効き方には二本目の経路があることになります。

それを確かめるには、プラークの量と歯肉炎の量を、別々に測って突き合わせるしかありません。この研究の設計は、その一点に向けられています。

2週間、まったく磨かない

参加者は21人。3つの実験期間をクロスオーバーで回します。

各期間の前に: 2週間の口腔衛生指導+スケーリング+PMTCで、口の中をリセット
実験期間(14日間): すべての機械的清掃を中止。代わりに割り当てられた溶液10mLで1日2回・60秒洗口
3つの溶液: 試験=リステリン/陽性対照=0.1%クロルヘキシジン/陰性対照=生理食塩水

0日目と14日目にプラーク(Quigley-Hein指数)と歯肉炎(GI)を評価。さらに0・7・14日目に歯肉縁上プラークを採取して暗視野顕微鏡で6種類の細菌形態を数え、歯肉溝滲出液のラクトフェリン/アルブミン比も測定しました。

プラークでは負け、出血では負けなかった

14日目の成績:プラークと歯肉の出血で結果が食い違う

プラークスコア(QHI) 3.0 0 1.36 CHX 2.08 リステリン 2.87 対照 CHXに有意に負けた

出血する歯肉ユニット(%) 25 0 13.5 CHX 10.7 リステリン 23.2 対照 CHXと有意差なし

左:プラークスコアはクロルヘキシジン1.36 < リステリン2.08 < 対照2.87で、リステリンは対照より少ないがクロルヘキシジンより多い(いずれも p<0.05)。右:出血する歯肉ユニットの割合は、リステリンと対照の差は有意(p<0.01)だが、リステリンとクロルヘキシジンの間には有意差がない

健康な歯肉ユニット(GI=0)の割合も見てみましょう。14日目でリステリン12.3%、対照3.5%、クロルヘキシジン18.7%。ベースラインで健康だった部位が2週間後も健康だった割合は、リステリン17.0%、対照5.8%、クロルヘキシジン25.3%でした。

決定的だったのは「プラーク量を揃えた比較」

ここがこの研究の白眉です。著者らは、同じくらいプラークが付いている部位どうしで歯肉炎の程度を比べました

プラークが少ない部位(QHI 1〜2): 平均GIはリステリン1.00/クロルヘキシジン0.93 に対し、対照は1.17
プラークが多い部位(QHI 3〜5): リステリン1.08/クロルヘキシジン1.04 に対し、対照は1.24
いずれもリステリン・クロルヘキシジンは対照より有意に低い(p<0.05)

プラークの量が同じなら、歯肉の炎症も同じ——その前提が、ここで崩れました。同じだけプラークが付いていても、リステリンで洗口していた部位のほうが炎症が軽かったのです。

歯肉溝滲出液の所見も方向を合わせます。炎症の指標であるラクトフェリン/アルブミン比の上昇幅は、リステリン群が対照群より有意に小さいものでした。

明日の臨床へ

この研究を臨床の言葉に置き換えると、こうなります。

読み替えると: リステリンの価値は「プラークを落とすこと」だけで測れない。プラークが残る状況でも、歯肉の炎症を抑える方向に働く。ブラッシングが十分にできない期間——術後、矯正装置装着中、手指の機能が落ちた高齢者——での位置づけが変わってくる。

もちろん、プラーク抑制そのものではクロルヘキシジンに及ばないことも同時に示されています。強力な化学的プラークコントロールが必要な短期間なら、クロルヘキシジンに分があります。両者は「同じ土俵の強弱」ではなく、効き方の質が違うと理解するのが正確でしょう。

そして大前提として、これは2週間まったく磨かないという極端な条件での話です。洗口液は機械的清掃の代わりにはなりません。

ここだけ、冷静に補助線

被験者は21人、観察期間は14日。歯肉炎の発生モデルとしては確立された設計ですが、慢性歯周炎の長期経過をそのまま予測するものではありません。また陽性対照のクロルヘキシジンは0.1%濃度であり、より高濃度の製剤を使えば差はさらに開いた可能性があります。「抗炎症作用がある」という結論も、臨床所見と歯肉溝滲出液の指標から示唆されたものであって、作用機序を直接証明したわけではありません。とはいえ、プラーク量を揃えて歯肉炎を比べるという一手で、「殺菌=効果」という単純な図式に疑問符を打った着眼は見事です。洗口液を「弱い消毒薬」としてではなく、別の作用を持つ薬として見直すきっかけになる一本です。

今日のひとこと

効き方の説明が変われば、使いどころも変わります。リステリンは、プラークを落としきれない場面でこそ、もうひとつの顔を見せるのかもしれません。

「殺菌するから効く」。その一言で片づける前に、この21人の2週間を思い出してみてください。

今日のひとこと

2週間まったく磨かない条件で、14日目のプラークスコアはクロルヘキシジン1.36、リステリン2.08、生理食塩水2.87。プラーク抑制ではリステリンはクロルヘキシジンに明確に負けました。ところが出血する歯肉ユニットの割合はリステリン10.7%、クロルヘキシジン13.5%、対照23.2%で、リステリンとクロルヘキシジンの差は有意ではありません。さらにプラーク量を揃えて比べても、リステリン群の歯肉炎は対照より低いままでした。フェノール化合物は、菌を減らすだけでなく炎症そのものを抑えている可能性があります。

出典:Sekino S, Ramberg P. The effect of a mouth rinse containing phenolic compounds on plaque formation and developing gingivitis. J Clin Periodontol 2005;32(10):1083-1088. PMID: 16174272
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。