1問1答 論文 保存修復

GICの上のユニバーサルボンド、先にリン酸15秒は要る?——実験室研究では4種のGIC×2種のボンド全8組で接着強さが有意に上昇

1問1答 論文 保存修復

保存修復|グラスアイオノマー(GIC)4種とコンポジットレジンの接着を、リン酸エッチングの有無×ユニバーサルボンド2種で比べた実験室研究(Farshidfar ほか 2022・Heliyon)

深く大きな窩洞で、GICを裏層してからCRを積むサンドイッチテクニック。GICの上はボンドを塗るだけでよいのか、その前にリン酸エッチングもした方がよいのか。先行研究の結果は割れていました。イラン・シーラーズ医科大学のグループは、従来型GIC2種とレジン添加型GIC2種の上にCRを積んだブロックをつくり、35%リン酸15秒のエッチングあり・なし×ユニバーサルボンド2種(G-Premio Bond、Clearfil Universal Bond)で微小引張接着強さ(μTBS)を測りました。結果は、どちらのボンドでも、エッチングを足した群が4材料すべてで有意に高い値でした。ただし歯を使わない、24時間後の実験室の結果です。

論文
Microtensile bond strength of glass ionomer cements to a resin composite using universal bonding agents with and without acid etching
著者
Nima Farshidfar, Mahya Agharokh, Maryam Ferooz, Rafat Bagheri(イラン・シーラーズ医科大学 ほか)
掲載
Heliyon 2022;8:e08858. DOI: 10.1016/j.heliyon.2022.e08858
種類
実験室研究(in vitro)。歯は使わず、テフロン型の中でGIC(従来型:Equia Forte Fil・Riva Self-cure/レジン添加型:Fuji II LC・Riva Light-cure)の上にナノハイブリッドCR(GC Kalore)を積んだブロックを作製。表面処理は「何もしない・Clearfil Universal Bond・G-Premio Bond」×「35%リン酸15秒あり・なし」の6条件=計24群。24時間後にブロックを1mm角の棒状に切り出し、各群10本でμTBSを測定
PMID
35146166

GICの上にボンド、その前にエッチングする?

深い窩洞で、象牙質側をGICで置き換えてからCRを積むサンドイッチテクニック。GICの表面にボンドを塗るとき、リン酸エッチングを挟むかどうか。「GICの基質が溶けそう」と感じて省く人も、「接着が増す」と聞いて当てる人もいるはずです。

この論文は、その一手に実験室の数字を置きます。GICとCRのブロックで調べたところ、ユニバーサルボンドの前に35%リン酸で15秒エッチングした群は、4種のGIC×2種のボンドの8組すべてで、エッチングしない群より有意に高い接着強さでした。また、エッチングしないでボンドを塗るだけでも、4種すべてで何もしない群より有意に高い値でした。

なぜ意見が割れていたのか

著者らは序論で、深く大きな窩洞ではCRの重合収縮を補うためにGICの裏層が勧められてきたこと、GICとCRを組み合わせるサンドイッチテクニックではGICとCRの接着が強いことが前提になることを、先行文献を引いて整理しています。

ところが、GIC表面のエッチングについては、著者らが引用した先行研究の結果がそろっていません。エッチングで接着が上がったという報告がある一方、ユニバーサルボンドを使うならエッチングは要らないとした報告(Munari ほか 2018、Kermanshah ほか 2020)や、レジン添加型GICではリン酸処理がせん断接着強さにマイナスだったという報告(Otsuka ほか 2013)もあります。ユニバーサルボンドは「エッチングあり・なし」のどちらのモードでも使えるため、GICの上でどちらがよいかは、はっきりしていませんでした。

今回の実験:GIC4種×表面処理6条件

実験の骨格:歯は使っていません。テフロン製の型の中にGICを詰め、その上にCRを積んだブロックを作りました。
GIC:従来型2種(Equia Forte Fil、Riva Self-cure)と、レジン添加型2種(Fuji II LC、Riva Light-cure)。いずれもカプセル練和。光硬化型は20秒照射。
表面処理(6条件):「何もしない」「Clearfil Universal Bond」「G-Premio Bond」の3条件×「35%リン酸(Ultra-Etch)15秒→15秒水洗→乾燥」のあり・なし。ボンドは薄く塗って20秒光照射。
CR:ナノハイブリッドCR(GC Kalore)を1.5〜2mmずつ積層し、各層20秒照射。
評価:37℃・湿度100%で24時間保管後、ブロックを1mm角・長さ10mmの棒状に切り出し、各群10本で微小引張接着強さ(μTBS)を測定。計24群。24群それぞれにブロックは1個です。

結果:エッチングを足すと8組すべてで有意に上昇

0 5 10 15 微小引張接着強さ μTBS (MPa) 3.83 6.32 3.85 6.88 9.23 11.98 6.34 10.17 Equia Forte Fil従来型 Riva Self-cure従来型 Fuji II LCレジン添加型 Riva Light-cureレジン添加型 G-Premio Bondのみ リン酸15秒+G-Premio Bond 原著の表2・表3の平均値(MPa)。各群は1個のブロックから切り出した棒状試料10本、24時間保管後に測定。4材料ともエッチングあり・なしの差は有意(表3の表記はp=.000)。オレンジ=従来型GIC、ティール=レジン添加型GIC、淡い棒=エッチングあり
G-Premio Bondを使った群の微小引張接着強さ(平均値、MPa)。濃い棒=ボンドのみ、淡い棒=35%リン酸15秒のあとにボンド。オレンジ=従来型GIC、ティール=レジン添加型GIC
0 5 10 15 微小引張接着強さ μTBS (MPa) 3.33 5.36 5.77 7.44 6.61 11.39 7.25 10.47 Equia Forte Fil従来型 Riva Self-cure従来型 Fuji II LCレジン添加型 Riva Light-cureレジン添加型 Clearfil Universal Bondのみ リン酸15秒+Clearfil Universal Bond 原著の表2・表3の平均値(MPa)。各群は1個のブロックから切り出した棒状試料10本、24時間保管後に測定。4材料ともエッチングあり・なしの差は有意(Riva Self-cureはp=.004、他3材料は表記p=.000)。オレンジ=従来型GIC、ティール=レジン添加型GIC、淡い棒=エッチングあり
Clearfil Universal Bondを使った群の微小引張接着強さ(平均値、MPa)。色の読み方は上の図と同じ

G-Premio Bondでは、ボンドのみの3.83〜9.23MPaが、エッチングを足すと6.32〜11.98MPaに。Clearfil Universal Bondでは、3.33〜7.25MPaが5.36〜11.39MPaになりました。全24群で最も高かったのはFuji II LC+エッチング+G-Premio Bondの11.98MPa、最も低かったのは何も処理しないEquia Forte Filの1.48MPaです。

全24群の平均値(MPa、原著の表2)
エッチングなし(何もしない/Clearfil Universal Bond/G-Premio Bond)
・Equia Forte Fil(従来型):1.48/3.33/3.83
・Riva Self-cure(従来型):1.99/5.77/3.85
・Fuji II LC(レジン添加型):3.73/6.61/9.23
・Riva Light-cure(レジン添加型):3.21/7.25/6.34
35%リン酸15秒あり(エッチングのみ/+Clearfil Universal Bond/+G-Premio Bond)
・Equia Forte Fil:2.52/5.36/6.32
・Riva Self-cure:2.95/7.44/6.88
・Fuji II LC:5.40/11.39/11.98
・Riva Light-cure:4.96/10.47/10.17
統計の結果(表2・表3)
ボンドのみ vs 何もしない:4材料×2ボンドのすべてで、ボンドを塗った群が有意に高い
エッチング+ボンド vs ボンドのみ:8組すべてで、エッチングを足した群が有意に高い
エッチングのみ vs 何もしない:レジン添加型のFuji II LC(p=.021)とRiva Light-cure(p=.022)は有意に上昇。従来型のEquia Forte Fil(p=.958)とRiva Self-cure(p=.983)は、原著の表3では有意差なし(ただし表の平均±SDとは食い違いがある=⑦参照)
2種のボンドの差:エッチングありでは、どのGICでも2種のボンドに有意差なし。エッチングなしでは、Riva Self-cureはClearfil Universal Bondが、Fuji II LCはG-Premio Bondが有意に高かった

著者らは「レジン添加型GICは従来型GICより高い値だった」とまとめ、ボンドを使った場合の例外として、エッチングなし・Clearfil Universal BondでのRiva Self-cureとFuji II LCの比較を本文で挙げています。ボンドを使った条件で有意差がなかったのは、この1組だけです。一方、ボンドを塗らない対照群(エッチングなし)では、Riva Self-cureとRiva Light-cureにも有意差がなく、著者らの「ボンドの有無にかかわらずレジン添加型が上」という記述は、表2と一部合いません。

なぜエッチングで上がったのか(著者らの推察)

この研究では、GIC表面の形や化学的な結合そのものは調べていません。以下は著者らが先行研究を引いて述べた説明です。

リン酸がGICの基質を溶かして表面を粗く、多孔質にし、ボンドが入り込む足場になるのではないか(Navimipour ほか 2012の推察の引用)。また、ユニバーサルボンドに含まれるMDPがGIC由来のカルシウムイオンと化学的に結びつくことが、エッチング後の高い値に関わっている可能性がある、と著者らは述べています(Munari ほか 2018を引いた説明)。

エッチングだけでは従来型GICが上がらなかった点について、著者らは、粘度の高いCRは濡らす役のボンドがないとGIC表面にうまく広がらないためではないか、と推察しています。レジン添加型GICが高かった理由には、HEMAなどのレジン成分がボンドやCRとなじみやすいことを挙げています。

明日の臨床へ

著者らの結論:この研究の条件では、ユニバーサルボンドの前に35%リン酸で15秒エッチングすると、エッチングしない場合よりGICとCRの微小引張接着強さが高かった。著者らは「サンドイッチテクニックで、ユニバーサルボンドと15秒のエッチングを使うと、従来型・レジン添加型ともにCRとの接着強さが上がるかもしれない」と臨床的な意義を書き、同時に、臨床に当てはまる結論にはランダム化比較試験が必要だとしています。
補足(筆者の読み):
・GICを置いたあと、ボンドの前にリン酸を15秒当てて水洗・乾燥する手順は、CR充填の流れに組み込みやすい一手です。
・ただし、この実験に歯の窩洞・象牙質・辺縁の封鎖は含まれていません。実際の窩洞では、GICに当てたリン酸が周りの歯質にも触れます。GICを詰めてからエッチングまで何分待ったかも書かれていないため、練和直後のGICを水洗しても同じ結果になるかは、この論文からはわかりません。
・最も高い群でも約12MPaで、試料がどこで壊れたか(GICの中か、境界か)は報告されていません。
・結果はこの研究で使った4種のGIC・2種のボンド・1種のCRでのものです。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、歯を使わない実験室研究です。GICとCRのブロックを24時間保管したあと1回引っ張って測った値で、温度サイクルなどの劣化試験や、臨床での脱離・二次う蝕といった結果は調べていません。第二に、論文の記載では24群それぞれ1個のブロックから棒を切り出し、各群10本を測っています。同じブロックから取った棒どうしは独立ではないので、有意差は実際より出やすい可能性があります。第三に、表3のp値は、平均値の差の大きさと見比べると読み取りにくいところがあり(例:Equia Forte Filの1.48と2.52の比較でp=.958)、どの検定の値かが本文からははっきりしません。表の平均±SD・各群10本から計算すると、Equia Forte Filは1.48±0.57と2.52±0.72、Riva Self-cureは1.99±0.21と2.95±0.44で、どちらもp<0.01程度になります(筆者の計算)。「エッチングだけでは従来型GICは上がらなかった」という読みは、慎重に扱うのが無難です。第四に、材料はGC社とSDI社から提供されたと謝辞にあります(利益相反はないと記載、研究費は大学から)。先行研究にはエッチング不要とする報告もあり、条件の違いで結果が変わりうる、と著者ら自身も書いています。それでも、「GICの上はボンドだけで済ませず、エッチングも選択肢に入る」という視点は、サンドイッチテクニックの手順を見直すときの材料になります。

今日のひとこと

著者らの結論:この研究の条件では、ユニバーサルボンドを塗る前に35%リン酸で15秒エッチングすると、エッチングしない場合よりGICとCRの微小引張接着強さが高かった。エッチングを使った場合、レジン添加型GICは従来型GICより高い値だった。ただし歯を使わないブロックで24時間後に1回測った実験室の結果で、著者ら自身も臨床での意味を確かめるにはランダム化比較試験が必要と述べている。

Farshidfar N, Agharokh M, Ferooz M, Bagheri R. Microtensile bond strength of glass ionomer cements to a resin composite using universal bonding agents with and without acid etching. Heliyon. 2022;8:e08858. PMID: 35146166. DOI: 10.1016/j.heliyon.2022.e08858
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。