AIベーシック講座 第2回(2026年7月4日開催)
「AIを育てる」という言い方をよく聞く。毎日話しかけていれば、だんだん自分のことを理解して、賢くなっていく——そんなイメージを持っている人は多い。
「たくさん使えば賢くなる」は誤解——AIを育てるとは、装備と記憶を与えること
はじめに
「AIを育てる」という言い方をよく聞く。毎日話しかけていれば、だんだん自分のことを理解して、賢くなっていく——そんなイメージを持っている人は多い。
第2回で、この理解にはっきり×がついた。AI本体は、こちらが何をしようと賢くならない。モデルの性能を上げるのは開発元の仕事であって、利用者にできることではない。
では「育てる」とは何なのか。答えは装備品を与えることと、記憶を付与することだった。
この記事で分かること
- チャット型とエージェント型は何が違い、なぜ環境構築が「最初が肝心」なのか
- CLAUDE.md(憲法・就業規則)とスキル(業務マニュアル)の役割分担
- パソコンを触らせるからこそ必要な、安全のための線引き
①エージェント型は「働き続けるAI」
第1回のチャット型は、質問に答えを返すAIだった。エージェント型の違いは一点に尽きる。
何時間もかかっていた同じような作業が、5分ほど指示を考えるだけで終わる。講義で挙がった例を並べると、守備範囲の広さが分かる。
- 請求書の作成(前回のものを複製し、名前・日付・項目・金額を差し替える)
- 20枚単位の領収書を、日付や勘定科目で一気に整理する
- ぐちゃぐちゃのフォルダを整理して、中身が分かる名前に付け替える
- 医院の経営ダッシュボードを作り、KPIが自動で溜まるようにする
- ホームページの改善点を提案させ、修正まで行う
とくにホームページは分かりやすい例だった。業者に依頼すれば制作に相応の費用がかかり、その後の変更にも都度費用が発生する。それが手元でほぼ完成させられるようになった。
②導入はデスクトップアプリ版で
Claude Codeには3つの入口がある。初心者が選ぶべきはアプリ版だと明言された。
| 操作 | パソコン内のファイル | 弱点 | |
|---|---|---|---|
| Web版 | マウス | 触れない | クラウド上で動くため手元のファイルを扱えない |
| アプリ版(推奨) | マウス | 触れる | パソコンが起動していないと動かない |
| CLI版 | キーボード中心 | 触れる | コマンドを覚える必要があり難易度が高い |
導入時の設定でいくつか押さえるべき点も示された。「AIモデルの改善にご協力ください」はオフにする(学習に使われるため)。リモートコントロールを有効にするとスマートフォンから操作できる。
許可モードとモデルの使い分け
作業させるときの許可の強さは4段階あり、まずプランモードで計画を立て、それからオートで進めるのが基本形になる。慣れてくると、いちいち確認されるのが煩わしくなるので、許可を求めないモードに切り替えていく。
モデルは、賢いものほどトークンを消費する。計画は賢いモデルで、実行は軽いモデルでという使い分けが、上限のあるプランでは効いてくる。
③最初の関門——作業するフォルダを決める
エージェント型は、いきなりパソコン全体を触らせると大変なことになる。だから「このフォルダの中で作業して」と場所を決めるところから始まる。
ここで絶対に守るべきルールが示された。
理由は同期にある。ローカルとクラウドが同期しているフォルダで作業させると、ファイルが削除されることがある。医院のデータを扱うなら、なおさら危険だ。
作る場所と配る場所は分ける。作業はローカルで行い、完成した成果物だけをドライブに載せる。この順序を守っていれば事故は起きない。
④「育てる」の正体は、装備と記憶
ここが第2回の核心である。
AIは新しいチャットを始めるたびに記憶を失う。にもかかわらず「会話を重ねれば自分のことを理解してくれる」と言われる。矛盾しているようだが、答えは単純だった。
たとえば「おはよう」と打ったとき。新人の秘書なら「今日はどんなご用でしょうか」と返してくる。育った状態はこうなる。
この差を生むのは会話量ではない。やって欲しい手順を書いた資料と、外部データへのアクセス権である。
だから乗り換えも怖くない、という話が続いた。装備品なので、会話の記憶もスキルも他のAIへ移せる。特定のAIに賭けるのではなく、環境整備そのものが資産になる。
⑤CLAUDE.md——憲法と就業規則
まず作るのが CLAUDE.md という前提情報のファイルだ。必ず読み込まれるという性質を持つ。
| 役割 | 書く内容 | |
|---|---|---|
| グローバル | 全体に効く憲法 | パスワードや個人情報をネットに公開しない、お金がかかることは必ず許可を取る、ファイルの削除は必ず許可を取る |
| プロジェクトごと | そのフォルダの就業規則 | あなたの役割は何か、ユニットの台数、診療時間など |
注意点も明確だった。必ず読まれるということは、その分だけ記憶容量を消費するということでもある。
なお、このファイルは自分で書くものではない。「この業務を効率化したいのでCLAUDE.mdをセットアップして」と頼めば、質問しながら作ってくれる。
⑥スキル——業務マニュアルが自動化の要
CLAUDE.md が憲法と就業規則なら、スキルは業務マニュアルにあたる。そして講義では「これが1番大事」と言い切られた。
CLAUDE.mdとの決定的な違いは読まれ方にある。CLAUDE.mdは毎回全部読まれるが、スキルは「何が書いてあるか」の見出しだけが読まれ、必要なときに本体が開かれる。だから何百個あっても容量を圧迫しない。
(ただし似たようなスキルが大量にあると、AIがどれを使うべきか迷う。そこは整理が要る。)
置き場所は使う場所に合わせる。広報の担当者が使うスキルなら広報のフォルダに、全員が使うスキルなら全体のフォルダに置く。
実演では「おはようと言ったら、メールとカレンダーを調べて今日やるべきことを提案するスキル」が、その場で作られていった。作るのは自分ではなくAIで、こちらは質問に答えていくだけである。
⑦コネクターとMCP——外部とつなぐ
導入直後のAIは、実はほとんど何もできない。メールも見えないし、カレンダーも見えない。文章とコードを書くことに特化しているぶん賢いが、外の世界を知らない。
そこで接続する。実演ではメール・ドライブ・カレンダーを、それぞれ初回の認証ボタンを押すだけでつないでいた。
APIとMCPの違い
外部サービスを使わせる仕組みとして、2つが説明された。
APIは、各サービスが発行する鍵である。画像生成のように、そのAI自身ができないことを他社に頼むときに要る。ただし従来はサービスごと・AIごとに個別の鍵と仕組みが必要で、提供する企業側の負担が大きかった。
MCPは2024年11月に登場した共通規格だ。講義での例えが分かりやすい。
この規格が普及すれば、レストランの予約や交通機関の手配まで、AIに頼めることが増えていく。
🔴 APIキーをチャット欄に貼らない
実演中、AIが「APIキーを貼り付けてください」と求めてくる場面があった。ここで講師は指示を止めた。
そして「二度と指示してほしくないので、憲法に書いておいて」とその場でルール化した。キーは環境変数やファイルとして保存し、チャットには絶対に貼らない。患者さんの個人名やカード番号も同じ扱いである。
⑧安全に使うための3つのルール
パソコンを触れる権限を与えるからこそ、設計が要る。まとめると3つだった。
- ローカルのフォルダでしか作業させない(クラウド同期のフォルダで作業させない)
- Googleドライブを直接操作させない(成果物を置く場所として使う)
- 憲法にルールを書かせる(削除・課金・個人情報について、明文で禁じる)
デスクトップを意図的に散らかした状態で「整理整頓して、中身が分かる名前に変えて。ただし削除は絶対にしないで」と指示するデモも行われた。憲法に書いてあることを、その場の指示でも念押しする——この二重化が実務的だった。
⑨記憶を長く持たせる
デスクトップ版の会話記録は、既定では30日しか残らない。ただしこれは延長できる。
さらに重要なのがメモリという考え方だ。会話履歴は膨大になり、結局すべては読み込まれない。だから残したい情報は、履歴から取り出して別の場所に保存しておく必要がある。
AIが自動で選別して保存してくれるが、絶対に覚えておいて欲しいことは念押しするのが確実だという。ユニットの台数や売上目標のような情報は比較的残りやすい。
案件台帳を作っておくのも有効だと紹介された。進行中か、誰かの返事待ちか、完了したか——状態が一覧で見えると、案件が増えても迷子にならない。
⑩自動化は4段階で進む
講義の終盤、自動化がどう深まっていくかが段階で示された。自身のSNS運用を例にした説明が具体的だった。
| 段階 | 状態 | かかる時間 |
|---|---|---|
| ① 手作業 | 自分で資料を渡し、作らせる | 1本あたり数時間 |
| ② 効率化 | 「おはよう」と言えばまとめてくれる | 8割減 |
| ③ 自動実行 | 毎朝6時に勝手に届く | ゼロ(考える時間もなくなる) |
| ④ 提案 | AIが「こういう記事はどうか」と提案してくる | — |
③に入ると質が変わる、という指摘が印象に残る。「やらなきゃ」と思い出す必要すらなくなる。
さらに「楽できないか」と考え続ける姿勢が語られた。朝礼で話した内容を記事にする作業も、文字起こしをコピーして貼り付ける手間が残っていれば、そこを潰す。一個ずつ潰していくと、どんどん自由になっていく。
質疑応答・補足
Q:スキルは何個まで作れるのか?
A:何百個あっても構わない。見出しだけが読まれ、必要なときに本体が開かれるため容量を圧迫しない。ただし似たようなスキルが増えると、AIがどれを使うか迷うので注意する。
Q:長い会話を続けたほうが賢くなるのでは?
A:逆である。記憶容量の30〜40%を超えたあたりから精度が落ちる。最初に言ったことを忘れ始めるので、話題が変わったら必ず新しいチャットにする。記憶は別の形で保管すればよい。
Q:他のAIから乗り換えると、それまでの蓄積は無駄になるか?
A:ならない。会話の記録もスキルも移せる。装備品なので持ち運べると考えればよい。
Q:大量の単純作業も任せられるのか?
A:任せられる。記録を1件ずつPDF化するような、人手では現実的でない量の作業を、24時間稼働で数日かけて処理させている例が紹介された。
Q:やって欲しいことをうまく説明できない。
A:画面を録画して渡す。「この動画の作業を自動化したい」と伝えればよい。マニュアル作成も同様で、操作を録画して渡すと、要所のスクリーンショット付きの手順書ができあがる。
テイクホームメッセージ
- AI本体は、こちらが何をしても賢くならない。育てるとは、装備品を与え、記憶を付与すること
- 作業フォルダは必ずローカルに作る。クラウド同期のフォルダで作業させるとファイルが消えることがある
- 作る場所と配る場所を分ける。作業はローカル、成果物だけを共有先へ
- CLAUDE.mdは憲法と就業規則。必ず読まれるぶん容量を使うので簡潔に
- スキルは業務マニュアル。これが自動化の要で、いくつ作っても容量を圧迫しない
- APIキーをチャットに貼らない。クレジットカード番号を打つのと同じこと
- 記憶容量の30〜40%を超えたら新しいチャットに。長く続けるほど精度は落ちる
- 自動化は「効率化→自動実行→提案」と進む。自動実行に入ると、思い出す手間すら消える
理解度チェッククイズ(全10問)
第1問 講義で示された「AIを育てる」の正しい意味はどれか。
A. 毎日話しかけて学習させること B. 装備品を与え、記憶を付与すること C. 有料プランで賢いモデルを使うこと D. 長い会話を続けて文脈を深めること
第2問 初心者に推奨されたClaude Codeの入口はどれか。
A. Web版 B. アプリ版 C. CLI版 D. スマートフォン版
第3問 作業用フォルダを作る場所として正しいものはどれか。
A. Googleドライブ上 B. クラウド同期されたフォルダ C. 自分のパソコン内(ローカル) D. 外付けドライブ
第4問 クラウド同期のフォルダで作業させると起こりうる問題はどれか。
A. 動作が遅くなる B. ファイルが削除されることがある C. 課金が増える D. 権限エラーで止まる
第5問 CLAUDE.md を簡潔に書くべき理由はどれか。
A. 書くのに時間がかかるから B. 必ず読み込まれ、記憶容量を消費するから C. 長いと文字化けするから D. 他人に見られるから
第6問 スキル(業務マニュアル)が何百個あっても問題ない理由はどれか。
A. 自動で圧縮されるから B. 見出しだけが読まれ、必要なときに本体が開かれるから C. クラウドに保存されるから D. 使わないものは自動削除されるから
第7問 2024年11月に登場し、AIと外部サービスの接続を共通化した規格はどれか。
A. API B. MCP C. OAuth D. Webhook
第8問 AIが「APIキーを貼り付けてください」と求めてきたとき、正しい対応はどれか。
A. 一度だけなら貼ってよい B. 貼らずに、ファイルや環境変数に保存する C. 画像にして貼る D. 分割して貼る
第9問 長い会話を続けた場合、精度が落ち始める目安はどれか。
A. 記憶容量の5〜10% B. 記憶容量の30〜40% C. 記憶容量の70〜80% D. 上限に達するまで落ちない
第10問 自動化の段階として、「かかる時間がゼロになり、思い出す必要もなくなる」のはどの段階か。
A. 手作業 B. 効率化(頼めばやってくれる) C. 自動実行(毎朝勝手に届く) D. 提案(AIから持ちかけてくる)
解答と解説
第1問 B(装備品を与え、記憶を付与すること)
AI本体の性能は開発元が上げるもので、利用者が会話で変えられるものではない。手順書とアクセス権を整えることが「育てる」の実体である。
第2問 B(アプリ版)
マウスで操作でき、パソコン内のファイルも扱える。ターミナルに文字を打つ作業を避けられるのが初心者向きの理由。
第3問 C(自分のパソコン内)
作業はローカルで行い、完成した成果物だけを共有先に置く。この順序が事故を防ぐ。
第4問 B(ファイルが削除されることがある)
ローカルとクラウドの同期が働いている場所で作業させると、同期による削除が起こりうる。医院のデータなら被害は深刻になる。
第5問 B(必ず読み込まれ、記憶容量を消費するから)
長く書くほど、AIは最初から容量を食われた状態で仕事を始めることになる。細かい手順はスキル側に書く。
第6問 B(見出しだけが読まれ、必要なときに本体が開かれるから)
必要になったマニュアルだけを開く仕組みなので、数が増えても負担にならない。ただし似たものが多いと選択に迷う。
第7問 B(MCP)
それまではサービスごと・AIごとに個別の接続が必要だった。共通規格の登場で「Type-Cを1つ用意すればどのAIでもつながる」状態になった。
第8問 B(貼らずに、ファイルや環境変数に保存する)
チャット欄にキーを貼るのは、クレジットカード番号を打ち込むのと同じ。講義ではその場で憲法に禁止事項として書き足していた。
第9問 B(記憶容量の30〜40%)
そこを超えると最初に言ったことを忘れ始め、エラーも増える。話題が変わったら新しいチャットにするのが原則。
第10問 C(自動実行)
毎朝決まった時刻に成果物が届くようになると、作業時間だけでなく「やらなければ」と考える時間そのものが消える。
今日のひとこと
AIは毎朝、記憶を失って出社してくる新人だ。賢くするのではなく、道具と手順書を置いておく。それが「育てる」の正体である。
本記事は、プライムデンタルネット会員向けウェビナー「AIベーシック講座 第2回 Claude Code入門・最初が肝心!環境構築」(2026年7月4日開催)の内容を、参加できなかった方向けに再構成したものです。講義中に例示された院内の数値・固有名は割愛しています。モデル名や仕様は開催時点のものです。


