1問1答 論文 虫歯

唾液で菌を測る前に、カルテを見ましたか──過去のう蝕経験に、菌数は何も足さなかった

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|う蝕の病因(リスク評価・唾液検査)

う蝕リスク評価の話になると、必ず唾液検査が出てきます。ただ、現場でいちばん確実に手に入る情報は、じつは「これまでに何本、う蝕になったか」です。とすると問うべきはこうなります——「過去のう蝕経験を知っているうえで、さらに菌を測る意味はあるのか」。中国・武漢の6〜7歳児433人を2年間追いかけたこの研究は、その問いに数字で答えました。

論文
Salivary mutans streptococci counts as indicators in caries risk assessment in 6-7-year-old Chinese children
著者
Zhang Q, Bian Z, Fan M, van Palenstein Helderman WH(武漢大学ほか)
掲載
Journal of Dentistry 2007;35(2):177-180
種類
2年間の縦断研究(ベースラインの唾液ミュータンス菌数と、その後のう蝕増加の関連)
対象
中国・武漢の6〜7歳児433人(乳歯う蝕有病率76.7%・平均d2mft 4.09)

問診票に「前に何本治療しましたか」と書いてあれば、検査は要るのか

う蝕リスク評価の話になると、必ず唾液検査が出てきます。菌数を測る、緩衝能を測る、分泌量を測る。

ただ、現場でいちばん確実に手に入る情報は、じつは「これまでに何本、う蝕になったか」です。カルテを見れば分かる。問診で聞ける。お金もかからない。

とすると、問うべきはこうなります。「過去のう蝕経験を知っているうえで、さらに菌を測る意味はあるのか」

2007年の Journal of Dentistry に載ったこの研究は、中国・武漢の6〜7歳児433人を2年間追いかけて、この問いに数字で答えました。

先に結論: 過去のう蝕経験だけで、2年後の永久歯う蝕増加の分散の17%が説明できました(調整R²=0.17)。そこへ唾液の菌数を追加投入しても、説明力はまったく動きませんでした(追加の調整R²=0、95%CI上限0.06)。

「菌が多い子はう蝕が多い」は、本当だった

先に確認しておきます。菌数とう蝕が無関係だったわけではありません

0 2.7 5.3 8 乳歯のう蝕経験 d2mft 1.62 3.48 5.57 6.53 0 1〜20 21〜100 100超 横軸=唾液中ミュータンス菌のCFU。433人。相関係数0.48(p<0.001)
唾液中ミュータンス連鎖球菌のCFU階級と、そのときの乳歯のう蝕経験(d2mft)。433人。相関係数0.48(p<0.001)

唾液中のミュータンス連鎖球菌(MS)が多い子ほど、乳歯のう蝕経験ははっきり多くなります。

  • CFU=0(全体の15%):d2mft 1.62±2.57
  • CFU=1〜20(47%):3.48±3.63
  • CFU=21〜100(25%):5.57±3.56
  • CFU>100(12%):6.53±4.25

きれいな右肩上がりです。Spearmanの順位相関係数は0.48(p<0.001)。この関連だけを見れば、「菌を測る意味がある」と言いたくなります。

ところが「これから」は予測できなかった

問題は、リスク評価が見たいのは過去ではなく未来だという点です。

同じ433人で、ベースラインのMS数と、2年後までの永久歯のう蝕増加の順位相関を取ると——

相関係数は0.12まで落ちます(p<0.05)。統計的には有意ですが、0.48と0.12では意味がまったく違います。同じ菌数という指標が、「いまのう蝕の多さ」とは強く結びつき、「これからのう蝕」とはほとんど結びつかない。

この集団のう蝕の動きも押さえておきます。永久歯のう蝕有病率はベースライン6.0%から2年後29.1%へ、平均D2S(象牙質う蝕のある面数)は0.09から0.68へ増えました。乳歯のう蝕有病率は76.7%、平均d2mft 4.09——う蝕がよく出る集団です。

過去のう蝕経験に足しても、何も増えなかった

0 0.1 0.2 0.2 調整済みR二乗 0.17 0.17 過去のう蝕経験のみ +唾液の菌数 菌数を足しても説明力は動かなかった(追加R²=0・95%CI上限0.06)
永久歯のう蝕増加を目的変数とした重回帰分析の調整R²。左=過去のう蝕経験の変数のみ。右=そこに唾液の菌数を追加したモデル

ここがこの論文の核心です。

まず過去のう蝕経験の変数(乳臼歯のう蝕経験、永久歯の裂溝のエナメル質う蝕、小窩裂溝の象牙質う蝕)を重回帰モデルに投入すると、永久歯のう蝕増加の調整R²は0.17でした。

次に、そこへMS数を追加投入します。

結果は——追加の調整R²は095%信頼区間の上限でも0.06です。つまり、どれだけ好意的に見積もっても、菌数が上乗せする説明力は6%が限度ということになります。

著者らの結論は、そのまま引用するとこうです。「この中国人児童集団において、過去のう蝕経験変数をう蝕予測因子として用いた場合、唾液MS数はう蝕予測に何ら付加価値を与えなかった」

「以前は改善した」という報告との折り合い

過去には、MS数を過去のう蝕経験と組み合わせると予測が改善したという報告がありました。矛盾しないのでしょうか。

著者らの説明は明快です。

比べる相手が弱ければ、足したものは効いて見える: それらの研究で使われていた「う蝕経験の変数」は、その後の研究で予測因子として劣ることが分かったものでした。弱い予測因子と組み合わせれば、菌数が何かを付け足す余地は残ります。しかしより良い予測因子を使うと、その余地は消える——それが本研究の所見です。

同じ結論はオランダの研究でも報告されていましたが、そちらはサンプルサイズが小さく第二種の過誤(本当は差があるのに見つけられない)を否定できませんでした。本研究は433人と大きいため、その懸念は無視できると著者らは述べています。

R²が0.17にとどまった理由も、書かれている

誠実な論文だと感じるのは、著者らが自分たちのR²の低さも説明している点です。オランダの7〜8歳児の研究ではR²=0.40でした。差を説明しうる要因として、著者らは2つを挙げています。

  • 年齢:本研究の子どもはより若く、永久歯が生えてからの期間が短いため、永久歯を使った予測変数がまだ力を持たない
  • 予測期間:オランダの研究は本研究の2倍の長さ。期間が長いほうがう蝕増加の妥当性・検出力が上がる

そして著者らは、これとは別のもう一つの要因としてこう書いています——433人中217人が、1本以上の第一大臼歯にクロルヘキシジンバーニッシュの処置を受けていた。予防割合25%で境界的な有意性であり、この小さな効果がう蝕経験変数とう蝕増加の相関を乱し、R²に影響した可能性がある、と。

つまり「過去のう蝕経験だけでは17%しか説明できない」ことも、額面どおりには受け取らないほうがよい——条件が違えば40%になった報告もあるわけです。

明日の診療で、何を1つ変えるか

まず、聞き取りとカルテを使い切る: この研究が示したのは「菌検査に意味がない」ではなく「過去のう蝕経験という強い予測因子を持っているなら、菌数は上乗せしない」ということです。順番の問題です。

具体的には、こう整理できます。

  • 過去のう蝕経験をきちんと記録することが、いちばん安価で強力なリスク評価になります。乳歯の状態は、永久歯の将来を語る材料です
  • 菌検査を追加するなら、その結果で何を変えるかを先に決める。変えるものがないなら、費用と時間の分だけ損になります
  • 一方、菌数は「いまの口の中の状態」をよく映します(相関0.48)。予測ではなく現状の可視化・動機づけの道具としてなら、別の価値があります
  • そしてこの集団は、う蝕がよく出る6〜7歳児です。う蝕が少ない集団や、成人・高齢者での結果ではありません

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意が4つ: 第一に、これは中国・武漢の6〜7歳児433人という特定の集団での2年間の結果です(乳歯う蝕有病率76.7%=う蝕が多い集団)。第二に、もともと武漢市の7校から650人が無作為に選ばれましたが、2年後に診査できたのは493人(157人=24%が転校などで脱落)で、さらにシーラント保有の60人を除いた433人が解析対象です——脱落と除外の割合は、外挿を考えるうえで無視できません。第三に、う蝕診査は視診のみでX線を撮っていません——隣接面う蝕を拾いきれていない可能性があります(検者2名の一致度はκ 0.69〜0.79)。第四に、433人中217人がCHXバーニッシュの処置を受けており、著者ら自身がこれがR²に影響した可能性を認めています。それでも——「関連の強さ」と「予測への上乗せ」を明確に分けて示した点でとても実務的な論文です。同じ0.48という数字を見ても、「だから測ろう」ではなく「では、それを知って何が変わるか」と問い直せるようになります。

今日のひとこと

唾液ミュータンス連鎖球菌(MS)数が、過去のう蝕経験に上乗せの予測価値を持つかを検証した2年間の縦断研究。まず、MS数と「いまの」乳歯う蝕経験の相関は0.48(p<0.001)と強く、CFU階級ごとの平均d2mftは0で1.62、1〜20で3.48、21〜100で5.57、100超で6.53ときれいな用量反応を示した。ところがMS数と「これからの」永久歯う蝕増加の相関は0.12(p<0.05)まで落ちる。重回帰では、過去のう蝕経験の変数だけで永久歯のう蝕増加の調整R²が0.17となり、そこへMS数を追加投入しても追加の調整R²は0(95%CI上限0.06)だった。著者らの結論は「過去のう蝕経験変数を予測因子として用いた場合、唾液MS数はう蝕予測に何ら付加価値を与えなかった」。過去にMS追加で予測が改善したという報告があることについては、それらの研究で使われたう蝕経験変数が、その後の研究で劣った予測因子と判明している——弱い予測因子と組み合わせれば菌数が付け足す余地は残るが、良い予測因子を使うとその余地は消える、と説明している。なお著者らは自らのR²=0.17がオランダの報告(0.40)より低い理由として、対象がより若く永久歯の存在期間が短いこと、予測期間が半分であること、433人中217人がクロルヘキシジンバーニッシュ処置を受けていたことを挙げている。う蝕診査は視診のみでX線は撮られていない。

出典:Zhang Q, Bian Z, Fan M, van Palenstein Helderman WH. Salivary mutans streptococci counts as indicators in caries risk assessment in 6-7-year-old Chinese children. J Dent 2007;35(2):177-180. PMID: 16949192
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。