1問1答 論文 虫歯

「菌がいます」と伝えたあと、何ができるか──ミュータンス菌検査は、う蝕をどれくらい予測するのか

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|う蝕の病因(細菌・リスク評価)

う蝕のない2〜5歳の子どもに細菌検査をして、ミュータンス連鎖球菌が検出された。さて、この結果をどう使うのでしょうか。2006年のこのシステマティックレビューは、その手前の問い——「検出されたことは、実際にどれくらいう蝕を予測するのか」——を9つの縦断研究から集計しました。リスク比はプラーク検査で3.85、唾液検査で2.11。関連は確かにあります。しかし著者らの結論は「リスク評価ツールとしての一般的な使用は、まだ正当化できない」でした。

論文
Are Mutans Streptococci Detected in Preschool Children a Reliable Predictive Factor for Dental Caries Risk? A Systematic Review
著者
Thenisch NL, Bachmann LM, Imfeld T, Leisebach Minder T, Steurer J(チューリッヒ大学ほか)
掲載
Caries Research 2006;40(5):366-374
種類
システマティックレビュー・メタ解析(縦断研究のみ。検索は2003年まで)
対象
ベースラインでう蝕のない就学前児を追跡した9研究(プール解析はプラーク検査3報300人・唾液検査4報451人)

「菌がいます」と伝えたあと、何ができるか

う蝕のない2〜5歳の子どもに、唾液やプラークの細菌検査をする。ミュータンス連鎖球菌(MS)が検出された。

——さて、この結果をどう使うのでしょうか

保護者に「将来むし歯になりやすいですよ」と伝えるのか。フッ化物の頻度を上げるのか。リコール間隔を短くするのか。あるいは、検査そのものが必要なのか

2006年の Caries Research に載ったこのシステマティックレビューは、その手前の問い——「MSが検出されたことは、実際にどれくらいう蝕を予測するのか」——を、9つの縦断研究から集計しています。

先に結論: 検出されるとう蝕発生のリスク比はプラーク検査で3.85(95%CI 2.48〜5.96)、唾液検査で2.11(95%CI 1.47〜3.02)。関連は確かにありました。しかし著者らの結論は「リスク評価ツールとしての一般的な使用を推奨することは、まだ正当化できない」です。理由は、元の研究が交絡因子を調整していないことと、検査の精度が研究間でばらつきすぎることにあります。

「関連がある」と「使える」は、別の話

MSがう蝕の発症に関与することは、長く研究されてきました。だからこそ細菌検査をリスク評価に使うという発想が出てきます。

ただし、ここには2段階の飛躍があります。

  1. 関連があるか——MSが検出された子は、そうでない子より将来う蝕になりやすいか
  2. 検査として使えるか——その検査結果を見て、個々の子どもの将来を十分な精度で判別できるか

1が成り立っても、2が成り立つとは限りません。集団レベルの関連の強さと、個人レベルの判別能力は別物だからです。このレビューは、その両方を分けて評価しています。

う蝕がない子だけを、追いかけた研究を集める

検索は (Pre)Medline(1966〜2003)、Embase(1980〜2003)、Cochrane Register(2003 issue 3)と、組み入れ研究の参考文献リスト。電子検索で見つかった981の抄録を、2人の査読者が独立に精査しました。

組み入れの最低条件は3つです。

  • ベースラインでう蝕のない就学前児を対象としていること
  • ベースラインで唾液またはプラーク中のMSを報告していること
  • 追跡時にう蝕の有無を評価していること

結果、9研究が組み入れられました。プール解析に使えたのは、プラーク検査のみを報告した3報(n=300)唾液検査のみを報告した4報(n=451)です。1報は唾液とプラークの混合検査のみを報告していたため除外されました。

著者らの評価は率直です: 「報告の方法論的質は低かった」——これがアブストラクトに明記されています。この一文を読み飛ばすと、あとの数字を過大に受け取ることになります。

リスク比は3.85と2.11——ただし調整なし

0 1.5 3 4.5 う蝕発生のリスク比 3.85 2.11 プラーク検査(3報・300人) 唾液検査(4報・451人) 1.00が差なし。95%CIはプラーク2.48〜5.96/唾液1.47〜3.02
ベースラインでう蝕のない就学前児で、ミュータンス連鎖球菌が検出された場合のう蝕発生リスク比(固定効果モデル)。1.00が「差なし」

プール解析の結果です。

  • プラーク検査(3報・300人):リスク比 3.85(95%CI 2.48〜5.96)
  • 唾液検査(4報・451人):リスク比 2.11(95%CI 1.47〜3.02)
  • 参考:唾液とプラークの混合検査を報告した1報では 3.09(95%CI 1.90〜5.03)

どちらも信頼区間が1.00をまたいでおらず、関連そのものははっきりしています。研究間の一貫性も悪くありません(異質性の検定はプラークでχ²=0.23、唾液でχ²=0.86)。

そしてプラーク検査のほうが、唾液検査より高い値を示しました。著者らは「陽性と出た患者は、より高い頻度でう蝕を発症する可能性を示すのかもしれない」と述べています。

ここが最大の弱点です: 組み入れられた研究の多くは、潜在的な交絡因子について統計的な調整をまったく報告していないか、不完全なリストしか使っていませんでした。食習慣・フッ化物曝露・社会経済的状況・口腔清掃——う蝕に効く因子は多数あります。調整が不完全だと結果は偏りますが、著者らは「その偏りの方向すら推定できない」と書いています。3.85という数字が過大なのか過小なのかも、分からないということです。

検査としての精度は、研究ごとにばらばらだった

0 33.3 66.7 100 % 91 39 88 27 33 90 71 37 64 92 59 79 45 93 Litt 1995 Wendt 1996 Seki 2003 O'Sullivan 1996 Tenovuo 1990 Pienihäkkinen 2002 Seki 2003a 左4つ=唾液検査/右3つ=プラーク検査。淡い棒=特異度
各研究における検査の感度(濃い棒)と特異度(淡い棒)。左4つ=唾液検査、右3つ=プラーク検査。同じ検査でも、研究によってまったく違う値になっている

「関連がある」から「検査として使える」へ進むには、精度を見る必要があります。

  • 唾液検査の感度は33〜91%、特異度は27〜90%
  • プラーク検査の感度は45〜64%、特異度は79〜93%

この幅の広さが問題です。感度91%・特異度39%の研究(Litt 1995)と感度33%・特異度90%の研究(Seki 2003)が、同じ「唾液のMS検査」として並んでいます。前者はう蝕になる子をほぼ拾えるが陰性の意味がなく、後者はその逆です。

ばらつきの原因も著者らが挙げています。

  • プラークの採取部位が研究によって違う(乳臼歯の隣接面か、上顎前歯部か)。細菌の定着しやすさは部位で違う
  • 刺激時唾液と安静時唾液が混在している。この2つは細菌の数も種類も違う
  • サンプルの希釈率や培養手順もばらばらで、感度が揃っていない

比較的まとまっているのはプラーク検査のほうで、特異度79〜93%と一貫して高い——つまり「陰性なら、う蝕にならない可能性が比較的高い」という使い方には向きます。

著者らの結論:「まだ推奨できない」

このレビューの結論部分を、正確に引用します。

「一次研究のいくつもの方法論的欠陥のため、就学前児のリスク評価ツールとしてミュータンス連鎖球菌検査を一般に使用することを推奨することは、まだ正当化できない」——ただし著者らは、こう続けます。「もし今後の適切に設計された研究が、MS陽性の子どもはう蝕リスクが高いという仮説を裏づけるなら、そうした子どもに対して、フッ化物溶液・クロルヘキシジンなどの抗菌剤・反復した集中的な歯科検診といった、より特異的で費用のかかる介入を強化することが望ましいと思われる」

つまり「検査に意味がない」と言っているのではなく、「検査に基づいて介入を変える根拠が、まだ十分に固まっていない」という位置づけです。

明日の診療で、何を1つ変えるか

この論文からは、こう整理できます。

  • 検査を勧めるなら、その結果で何を変えるかを先に決めておく。変えるものがないなら、その検査は保護者の不安を増やすだけです
  • 陽性を「決定」ではなく「材料の1つ」として扱う。この研究の感度は最も低いもので33%——陰性でもう蝕になる子は少なくありません
  • プラーク検査のほうが特異度が高く一貫している。「陰性だから安心」の材料としてなら、比較的使いやすい
  • そして何より、菌の有無より、過去のう蝕経験・食習慣・フッ化物の使い方のほうが、聞き取りで得られる情報として実用的です
保護者への伝え方: 「菌がいるからむし歯になります」ではなく、「菌がいる子はなりやすい傾向があります。ただし、いない子でもなりますし、いてもならない子もいます」。この論文の数字は、まさにそう言うための根拠になります。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意が3つ: 第一に、組み入れられたのは9研究で、プール解析に使えたのは合計751人と小規模です。第二に、交絡因子の調整が不完全で、著者らも偏りの方向を推定できないとしています。第三に、MSの検出方法が研究間で標準化されていません——採取部位・唾液の種類・希釈率・培養手順のすべてが違います。それでも、プラークでも唾液でも一貫した所見が得られたことは部分的に安心材料だと著者らは書いています。この論文の価値は「MS検査を使え/使うな」を決めることではなく、「関連がある」ことと「臨床で使える」ことのあいだにある距離を、数字で見せてくれる点にあります。

今日のひとこと

ミュータンス連鎖球菌(MS)の検出が、就学前児のう蝕発生をどれくらい予測するのかを集計したレビュー。981の抄録を2人の査読者が独立に精査し、ベースラインでう蝕がない就学前児を追跡した9研究が組み入れられた。プール解析の結果、MSが検出された子どものう蝕発生リスク比は、プラーク検査で3.85(95%CI 2.48〜5.96)、唾液検査で2.11(95%CI 1.47〜3.02)。研究間の一貫性も悪くなく(異質性はプラークχ²=0.23、唾液χ²=0.86)、関連そのものははっきりしている。しかし著者らは「報告の方法論的質は低かった」とアブストラクトに明記し、「一次研究の方法論的欠陥のため、リスク評価ツールとしての一般的な使用を推奨することは、まだ正当化できない」と結論した。理由は2つ。第一に組み入れ研究の多くが潜在的交絡因子の調整をまったく報告していないか不完全で、著者らは「その偏りの方向すら推定できない」と書いている。第二に検査の精度が研究間でばらつきすぎる——唾液検査の感度は33〜91%・特異度27〜90%、プラーク検査の感度は45〜64%・特異度79〜93%。原因として、プラークの採取部位の違い、刺激時/安静時唾液の混在、希釈率と培養手順の不統一が挙げられている。比較的一貫しているのはプラーク検査の特異度(79〜93%)で、「陰性なら比較的安心」という使い方には向く。著者らは、今後の適切な研究が仮説を裏づけるなら、MS陽性児にフッ化物溶液・クロルヘキシジン・反復した集中的検診といった介入を強化することが望ましいと述べている。

出典:Thenisch NL, Bachmann LM, Imfeld T, Leisebach Minder T, Steurer J. Are mutans streptococci detected in preschool children a reliable predictive factor for dental caries risk? A systematic review. Caries Res 2006;40(5):366-374. PMID: 16946603
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。