歯周病|プラークコントロール(電動歯ブラシ)
電動歯ブラシを勧めるとき、どこまで自信を持って言えるでしょうか。音波、超音波、回転振動、反転回転——種類も多く、価格帯も広い。2002年、オビエド大学のSiciliaらは、歯肉炎・歯周炎の患者を対象に電動と手用を比べた21件のランダム化試験を集めました。ばらつきが大きすぎて統合はできませんでしたが、それでも効果が見えたのは回転振動型と反転回転型に集中し、音波・超音波では見えませんでした。
①電動歯ブラシを勧めるとき、どこまで言えるか
「電動、買ったほうがいいですか」。これも診療室でよく聞かれる質問です。
ただ、答えるのは意外と難しい。音波、超音波、回転振動、反転回転と方式が違い、値段も数千円から数万円まで開きます。「まあ、うまく使えれば」で濁していないでしょうか。
2002年、スペイン・オビエド大学のSiciliaらが、この問いにシステマティックレビューで挑みました。対象は歯肉炎または歯周炎をもつ患者。原因除去療法(cause-related therapy)の中で、電動歯ブラシが歯肉出血・炎症をどれだけ減らすかを問うています。
②343件から21件まで絞る
検索はMEDLINEとコクラン口腔保健グループの登録から、2001年6月まで。加えて主要3誌(J Clin Periodontol/J Periodontal Res/J Periodontol)と、総説・関連書籍・過去のワークショップの参考文献のハンドサーチも行っています。
- ヒットした343件から、2組の査読者がタイトル・抄録で絞り込み、62件を全文評価
- 2名(I.A.とA.S.)が独立に全文を評価し、最終的に21件を採用(41件を除外)
- 組入条件は、15歳以上・歯肉炎または歯周炎あり・インプラント/広範な補綴/矯正装置なし
除外理由も具体的です。ランダム化の記載がない9件、歯肉出血・炎症の情報がない18件、情報が不完全な3件、15歳未満が対象の3件、矯正治療中の5件、など。
そのうえで著者らは、集まった21試験を「患者が受けた歯科的介入」で4つのモデルに分類しました。これがこのレビューのいちばん賢いところです。
- OTC:説明書どおりに使うだけ(プロの介入なし)=薬局で買ってきた状態
- OHI:口腔衛生指導を受けて習慣を変えた
- POHI:初診時にPMTC(プロフェッショナルクリーニング)+衛生指導を受けた
- SPT:中等度の歯周病治療後、3か月ごとのメインテナンスを受けている
③21試験の判定は、きれいには割れなかった
まず全体像です。
- 電動が優れる:10件
- 差がない:8件
- 手用が優れる:1件
- 解釈困難:2件
半分弱で電動が優れ、半分弱で差がない。この時点で「電動は明らかに優れている」とは言えません。
しかも著者らは、統合できなかった理由を厳しく書いています。表に載った歯肉出血・炎症とプラークの指標は、合わせて23種類。歯肉出血の指標を使った試験は21件中16件で、そのうち最も多いBOPでも3件しかありません。順序尺度なので値の間隔が等しくなく、数学的に合算できない。加えて21件中7件は分散の指標(標準偏差)が示されていないか誤って標準誤差が使われており、20件中6件に統計的な誤りが見つかったとも書かれています。
④型で分けると、絵がはっきりする
ここが本題です。判定を電動の型ごとに並べ直すと、構図が変わります。
- 回転振動型(oscillating-rotating):電動が優れる4件/差なし1件
- 反転回転型(counter-rotational):電動が優れる4件/差なし1件/解釈困難1件
- 音波:電動が優れる0件/差なし2件/手用が優れる1件
- 超音波:電動が優れる0件/差なし1件/解釈困難1件
- その他(円弧運動型・往復運動型など):電動が優れる2件/差なし3件
回転振動型では、歯肉出血の減少が対照群の0.35〜4.5倍大きく、同時にプラークも0.13〜2.3倍多く減っていました。反転回転型では、出血の減少が0.47〜2.32倍、プラークが0.37〜0.91倍です。
一方、音波ブラシを扱った3試験では、2試験で差がなく、1試験は手用のほうが良い結果でした。超音波を扱った2試験も優位性を示していません。しかもそのうち1試験(Terezhalmyら1994)は、電動群で歯肉出血が60%減った一方、対照群では10%増えていたにもかかわらず、プラークは両群で40〜54%増えているという、解釈の難しいデータになっています。著者らはこれを「逆説的」と表現しました。
⑤効いていたのは「プラークが落ちたかどうか」だった
著者らが一貫して指摘するのは、歯肉出血の減少とプラークの減少がセットで動いていることです。
電動が有意に優れた10試験のうち、プラークのデータがある9試験を見ると、7試験でプラークが61〜82%、2試験で34.5%と41.9%減っています(Terezhalmyら1件は両群でプラークが増えた例外)。逆に差がつかなかった試験では、プラークの減少幅が5.9〜25.8%と小さい。
これを裏づけるのが、PMTCを行った短期試験(POHIモデル)の結果です。初診時にプロがクリーニングしてしまうと、3件の短期試験はいずれも「電動が優れる」という判定になりませんでした(うち1件では電動群で歯肉出血の減少が大きかったものの、Table 7では解釈困難に分類されています)。著者らは「プロの介入の治療効果が大きすぎて、ブラシの差を覆い隠したのではないか」と書いています。ただし同じPOHIでも、長期(12か月・8か月)の2試験では、回転振動型で歯肉出血の有意な減少が見られました。
もうひとつ目を引くのがSPTモデル——歯周治療後にメインテナンスへ入った患者です。ここでは3試験すべてで、歯肉出血もプラークも有意に減っています(うち2試験は反転回転型)。
⑥安全性:歯肉退縮も擦過傷も増えなかった
電動を勧めるときに気になるのが「削れませんか」「下がりませんか」です。このレビューは副次目的としてそこも見ています。
- 歯肉退縮を評価したのは2試験だけ。6か月(音波)と2年(円弧運動型)で、いずれも退縮の増加はなく、対照群との差もなかった
- 擦過傷:8試験中6試験で有意差なし。反転回転型の1試験で20例中4例に局所的な擦過傷(対照は20例中2例)
- 音波ブラシは手用より擦過性が低いと報告した試験もあった
著者らの言葉では、「電動歯ブラシが対照の手用歯ブラシより大きな組織損傷を起こすというエビデンスは見つからなかった」。
⑦明日の臨床へ
- 勧めるなら、方式を指定する。回転振動型と反転回転型には限られたエビデンスがあるが、音波・超音波にはこのレビューの時点で示されていない
- 電動=プラークが落ちる道具、と説明する。歯肉が良くなるのはプラークが落ちた結果であって、電動そのものの効果ではない
- すでにきちんと磨けている人・PMTC直後の人では、差が出にくい。伸びしろのある人にこそ意味がある
- メインテナンス期の患者では、期待が持てる。SPTモデルの3試験は全て有意な改善を示した
- 「歯肉が下がる」「削れる」という心配には、根拠が乏しいと答えてよい。ただし退縮を見た試験は2件しかない
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
電動歯ブラシが歯肉出血・炎症を減らすかを問うたシステマティックレビュー。343件から62件を全文評価し、最終的に21件を採用した。指標の種類も対象も方法もばらばらで、量的統合(メタ解析)は不可能と判断されている。判定の内訳は電動が優れる10件/差がない8件/手用が優れる1件/解釈困難2件。ブラシの型で分けると差ははっきりし、回転振動型(電動優位4件/差なし1件)と反転回転型(電動優位4件/差なし1件/解釈困難1件)に効果が集中し、音波(0/2/手用優位1)・超音波(0/1/解釈困難1)では優位性が示されなかった。効果はプラーク除去能力と結びついており、プラークが減った試験でこそ歯肉出血も減っている。一方で、初診時にPMTCを行った短期試験では、電動の型を問わず有意差が出なかった(プロによる介入が効果を覆い隠した可能性)。歯肉退縮の増加や擦過傷の増加は示されなかった。著者らの結論は「歯科医師は原因除去療法の補助として電動歯ブラシを処方してよい」だが、根拠はいずれも「限られたエビデンス(limited evidence)」という但し書き付きである。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


