ペリオ|ペリオ論文100選
骨縁下欠損が根尖まで達している歯。動揺し、移動し、時に逆行性歯髄炎まで起こしている——多くの教科書が「予後不良(hopeless)」に分類する歯です。抜いてインプラントかブリッジで置き換えるのが、標準的な判断でしょう。この試験は、そこに正面から挑みました。50名を「再生する群」と「抜いて置き換える群」に無作為に割り付け、10年間追いかけています。
①「もう抜くしかない」と言う前に
骨縁下欠損が根尖まで達している歯。動揺があり、移動し、時に逆行性の歯髄炎まで起こしている——多くの教科書が予後不良(hopeless)に分類する状態です。
抜いてインプラントかブリッジで置き換える。それが標準的な判断でしょう。実際、インプラントも歯支持型の補綴も、よく機能します。
ただ、著者らはこう問いました。その歯を残す道が、本当に無いのか。そして50名を「再生する群」と「抜いて置き換える群」に無作為に割り付け、10年間追いかけました。
②「絶望的な歯」を、くじ引きで分ける
この試験がまず驚かせるのは、その設計です。
- 対象はステージIIIまたはステージIVの歯周炎患者50名。組み入れの条件は、深い骨縁下成分をもち、CALと骨の吸収が根尖に達するかそれを越える歯、あるいは隣在歯にアタッチメント/歯槽骨のピークが明瞭に確認できる慢性のペリオ・エンド病変を、1本以上もつことでした
- この状態の歯をコンピュータ生成の乱数で、テスト群(歯周組織再生)と対照群(抜歯して置換)に無作為割付。ブロックサイズ4の置換ブロック法と、喫煙(1日20本未満)についての最小化法で群のバランスを取っています
- テスト群:乳頭保存フラップを用いた歯周組織再生マイクロサージェリー。エナメルマトリックスデリバティブ、非吸収性e-PTFE膜、吸収性膜、骨補填材を、創の安定性を最適化するために用いました
- 対照群:抜歯し、インプラント支持または歯支持の固定性部分床義歯で置換。審美と機能のために、必要に応じて軟組織/硬組織の造成も行っています
- 動揺が強い歯はしばしば連結固定し、失活歯には根管治療を実施。両群とも3か月間隔の専門的サポーティブケアに登録され、治療に関与しない1名の検者が年1回評価しました
- 登録は1998年6月〜2003年6月、10年追跡は2014年末までに完了しています
「抜くしかない」とされる歯を、くじ引きで残す側に回す——この試験が成立したこと自体が、一つの主張です。
③10年後、どちらも生き残っていた
再生した歯の10年生存率は88%。抜歯して置換した補綴装置は100%でした。数字としては差がありますが、統計的な有意差はありません(P=.08、Mantel-Cox log-rank検定)。
失われた3本の内訳も記されています。2本は1年時点の評価で予後不良と判定され、その直後に抜歯。1本は8年目、外傷によるものでした。つまり再生の失敗によるものは、1年時点で判明した2本ということになります。
なお4名(テスト群2名・対照群2名)が6年目・7年目に追跡不能となっています(3名は継続が困難になり、1名は研究とは無関係の理由で死亡)。88%という数字は、こうした打ち切りを織り込んだKaplan-Meier法による推定値です。
もう一つ、実務的に重い指標があります。最初の生物学的または技術的な合併症が起きるまでの期間です。95%信頼区間は再生群で6.7〜9.1年、置換群で7.3〜9.1年——こちらも有意差はありませんでした(P=.788)。
ただし内訳は、再生群に不利な方向でした。著者らは技術的合併症(主に連結固定の破折と、歯頸部根面の摩耗に対する充填)は再生群のほうが頻度が高く、より早く起きたと述べています。どちらの道にもメインテナンスが要る——10年という時間軸は、そのことを示しています。
④7mmの付着が、10年もった
再生群の臨床パラメータは、次のように推移しました。
- アタッチメントゲイン:1年 7.7±2.8mm → 5年 7.6±2.7mm → 10年 7.3±2.3mm
- 残存プロービング深さ:1年 4±1.7mm → 5年 3.4±0.8mm → 10年 3.4±0.8mm
- 歯の予後(予後不良/良好):1年 2/23 → 5年 0/23 → 10年 0/22
最初の12か月の治癒が終わった後、CALゲインも残存PPDもほとんど動いていません。著者らはこれを、成功した症例では得られた臨床結果が良好に安定していることの表れだと述べています。
7mmを超えるアタッチメントゲイン。根尖まで骨が失われていた歯が、残存プロービング深さ平均3.4mmの歯に変わったということです。
⑤費用と、患者の気持ち
この試験のもう一つの柱が、経済とQOLです。
ここは丁寧に読む必要があります。再発(生物学的・技術的合併症と歯の喪失)の管理にかかる費用だけを取り出すと、両群の95%信頼区間は観察期間を通じて大きく重なっており、有意差はありませんでした。再生群は初期に費用がかさみ、置換群は後年に費用が増える傾向がありました。
差が出たのは、初期治療の費用と10年の再発管理費用を合わせた総費用のほうです。こちらは観察期間全体を通じて、再生群のほうが有意に低いものでした——失われた3本の歯の置換費用を含めた上で、です。
患者側の数字も明快でした。
- ベースラインで50名中44名(88%)が「できれば歯を残したい」と答えていました。抜歯を希望したのは3名、希望を示さなかったのが3名です
- 口腔関連QOL(OHIP-14)は、1年後に再生群6.6±2.4、置換群11.9±3。両群ともベースライン(約24)から大きく改善していますが、改善の度合いは再生群のほうが有意に大きいものでした(P=.013)
- 一方で治療満足度そのものは両群とも高く、群間に差はありませんでした(P=.464)。咀嚼機能と審美への不安も、両群とも1年で有意に改善し、10年まで維持されています
患者は自分の歯を残したがっている。そして残せた場合、QOLの改善はより大きい。ただし抜いて置き換えた人も、十分に満足している——この2つを同時に読むのが誠実な読み方でしょう。
⑥明日の臨床へ
- 「予後不良」を、確定した判決として使わない。少なくとも深い骨縁下欠損をもつ歯では、選択肢がもう一つあることが示された
- ただし適応は「深い垂直性の骨縁下欠損」。著者らは、この結果を「深い垂直性骨縁下欠損をもつ障害された歯に対する選択治療」と位置づけています。この範囲を超えた外挿は、この試験からはできません
- 術者の技術と、周辺条件が前提になる。歯周炎の確実なコントロール、動揺と二次性咬合性外傷の管理、歯髄/根管の状態の管理——著者らはこれらを「成功した治療の前提条件」と明記しています
- 3か月ごとのサポーティブケアが条件。この10年の数字は、その体制の中で得られたものです
- 費用の話を、患者にできる。10年で見れば初期治療を含めた総額は再生のほうが低かった、という結果は相談の材料になります(再発管理の費用だけなら差はなく、またイタリアの9診療所の平均料金表に基づく試算である点は添えて)
- 患者の希望を先に聞く。88%が「残したい」と答えていた事実は、説明の順序を考えさせます
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
10年後、どちらの道もおおむね機能していた。違いは、費用と、患者の実感と、そして「自分の歯である」という一点です。抜くと決める前に、もう一度だけ考える理由——この試験が渡してくれるのは、そういう種類の数字です。
今日のひとこと
10年生存率は、再生した歯で88%、抜歯して置換した補綴装置で100%だった。両群に統計的な有意差はなかった(P=.08)。最初の生物学的または技術的な合併症が起きるまでの期間(合併症フリー生存)の95%信頼区間は、再生群6.7〜9.1年、置換群7.3〜9.1年で、こちらも有意差はなかった(P=.788)。再生群の10年アタッチメントゲインは7.3±2.3mm、残存プロービング深さは3.4±0.8mmで、最初の12か月の治癒の後は大きく動かなかった。初期治療と10年の再発管理を合わせた総費用は、観察期間全体を通じて再生群のほうが有意に低かった(再発管理の費用だけを取り出すと、両群の95%信頼区間は大きく重なり有意差はない)。ベースラインで50名中44名(88%)が「できれば歯を残したい」と答えていた。治療1年後のOHIP-14(口腔関連QOL)は、再生群6.6±2.4、置換群11.9±3で、改善の度合いは再生群のほうが大きかった(P=.013)。ただし治療満足度そのものは両群とも高く、群間に差はなかった(P=.464)。著者らは、この治療の複雑さが広範な適用を制限するとしたうえで、深い骨縁下欠損に対する再生の有益性の「強力な原理証明」であると述べている。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


