ペリオ|ペリオ論文100選
下顎大臼歯の2度分岐部病変。器具は届かず、患者も磨けず、かといって抜くには惜しい——歯周治療でいちばん扱いに困る場所のひとつです。1988年のこの試験は、そこにテフロン膜を1枚置くという方法を、同じ患者の左右で従来の外科手術と比べました。6か月後、膜を置いた側では21部位のうち14部位が完全に閉じていました。
①いちばん扱いに困る場所
下顎大臼歯の2度分岐部病変。器具は奥まで届かず、患者のブラシも入らず、かといって抜くには惜しい——歯周治療で最も判断に迷う場所のひとつです。
従来の外科手術でも、ポケットは浅くなります。ただし分岐部の「穴」そのものは残る。だから清掃が難しい状態も残り続けます。
この試験が試したのは、そこに膜を1枚置くという方法でした。歯肉の上皮と結合組織が根面に到達するのを膜で遮り、歯周靭帯側の細胞が先に届くようにする——GTR(歯周組織再生誘導法)の考え方です。
②同じ患者の左右で比べる
設計はスプリットマウスです。
- 対象は21名(22〜65歳)。左右の下顎大臼歯に2度分岐部病変(頬側または舌側からの水平的な探知が3mm超)をもつ患者を選びました。評価するのは1歯につき頬側か舌側のどちらか1部位で、合計21部位ずつになります
- まず全員に一連のフルマウススケーリング・ルートプレーニングと口腔清掃指導を行い、2〜3か月後にベースライン検査。プラークコントロールが確立してから外科に入る、というこのグループの原則どおりです
- テスト側:頬舌側の粘膜骨膜弁を挙上し、肉芽組織を除去して根面を滑沢化。分岐部の入口を覆うようにテフロン膜(Gore-Tex)を設置して縫合します。縫合糸は10日後に除去し、1〜2か月後に2度目の手術で膜を取り出しました
- 対照側:膜を置かない以外は同一の外科処置。2度目の手術も行いません
- 術後は4週間の0.12%クロルヘキシジン洗口(1日2回)と、2週ごとのプロフェッショナルな清掃を含む6か月のメインテナンス。膜の除去後にもクロルヘキシジンを4週間再開しています。評価はベースライン・3か月・6か月
同じ患者の中で比べているので、口腔衛生の習慣や全身状態といった個人差が、比較から差し引かれます。
③分岐部の「穴」が、埋まった
いちばん直接的な指標が、分岐部にプローブが水平にどれだけ入るか(PAL-H)です。
ベースラインでは、頬側の分岐部が平均4.4mm(範囲3〜6mm)、舌側が4.0mm(3〜5mm)の深さでした。6か月後、GTR群では頬側0.3mm(0〜1mm)、舌側0.7mm(1〜3mm)。この変化は統計的に有意です(P<0.001)。
内訳はこうです。21部位のうち14部位が、3か月と6か月の時点で完全に閉鎖していました——分岐部の空隙が組織で満たされ、プローブが入らなくなった状態です。残る7部位のうち5部位は、残存する深さが1mm以下。合わせて19部位(90%以上)で、患者自身が清掃できる形態が得られました。
対照側でも改善はありました。ベースラインからの水平方向の平均改善は頬側2.0mm・舌側2.2mm。ただし6か月後も同じだけの深さ(頬側2.0mm・舌側2.2mm)が残っています。改善はしたが、穴は埋まっていない、ということです。対照21部位のうち完全に閉鎖したのは2部位のみでした。
④ポケットも、付着も動いた
プロービング深さは、ベースラインで両群とも分岐部で5.4〜6.0mmありました。
6か月後の減少量は、GTR群で頬側4.5mm・舌側3.5mm、対照群で頬側2.8mm・舌側2.1mm。垂直的な付着レベル(PAL-V)の改善も、GTR群で頬側4.1mm・舌側2.9mm、対照群で1.5mm・0.6mmと差がつきました。
ここで見ておきたいのは、対照群も確かに良くなっていることです。外科的な清掃とその後のメインテナンスには、それだけの力があります。違うのは、到達した先の形——分岐部が閉じたか、浅くなった穴として残ったか、です。
⑤膜が何をしたのか、は分からない
著者らは、この結果の解釈について正直に線を引いています。
この臨床試験は、得られた付着が「再生」によるものか「修復」によるものかを明らかにしない——プロービングの数値からは、新生セメント質と新しい結合組織付着が形成されたのか、それとも長い接合上皮が形成されたのかを区別できないからです。
そのうえで著者らは、こう推論しています。GTR術式は膜によって歯肉組織を根面から遮断し、しかも膜の除去時にずれは一例も認められなかった。だからテスト群の分岐部は、新しい結合組織付着——すなわち再生によって治癒したと考える理由がある。一方対照群で得られた付着は、長い接合上皮による修復である可能性が高いとしています。
ただしこの推論の裏づけは、サルやヒトで行われた過去の組織学的研究であって、この試験自体が示したものではありません。
もう一点。テスト群の2部位(いずれも下顎第一大臼歯の舌側)は、6か月時点でプロービング時に出血していました。それでもこの2部位では、水平的な組織の充填が初期4mmのうち2mm、初期5mmのうち2mmと有意な量に達しています。著者らは、これらの分岐部で充填が不完全だったのは術式そのものの不備というより、再発した歯周炎による可能性があると論じています。
⑥明日の臨床へ
- 適応は「下顎大臼歯の2度」に限られた試験である。著者らは、上下顎大臼歯の3度(貫通型)、上顎大臼歯の2度、そして平坦な根面における角状骨欠損では、同じ成功率は期待できないかもしれないと明記しています
- 外科の前に、プラークコントロールを確立する。この試験は全員にSRPと清掃指導を行い、2〜3か月おいてから外科に入っています。順序そのものが結果の一部です
- 術後のメインテナンスも結果の一部。2週ごとの専門的清掃を6か月続けた条件での数字だと押さえておく
- 2度目の手術が必要だったことを患者説明に含める。この試験のテフロン膜は非吸収性で、1〜2か月後に取り出しています(現在は吸収性膜という選択肢がある)
- 「閉じる」ことを目標に置ける場合がある。従来の外科では浅くなった穴が残る。GTRでは形態そのものが変わりうる——この違いは、患者に説明する価値があります
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
21部位のうち19部位で、患者が自分で磨ける形になった。分岐部という「どうにもならない場所」に対して、形態そのものを変える選択肢があることを示した研究です。ただし適応は狭く、術者の技術と術後管理が前提になる——その条件込みで覚えておきたい数字です。
今日のひとこと
GTRを行った21の分岐部病変のうち14部位が、3か月と6か月の時点で完全に閉鎖していた(分岐部空隙が組織で満たされ、プローブの進入を妨げた)。さらに5部位は、残存する水平的付着レベル(PAL-H)が1mm以下だった。合わせて21部位中19部位(90%以上)で、自身でプラークコントロールできる形態が得られた。分岐部の水平的な深さは、ベースラインの頬側4.4mm・舌側4.0mmから、6か月後に0.3mm・0.7mmまで浅くなった(P<0.001)。対照側でも改善はあり、水平方向の平均改善は頬側2.0mm・舌側2.2mmだった。著者らは、GTR群では90%以上で分岐部の問題が解消したのに対し、従来療法が同じ治療目標に到達したのは20%未満だったと報告している。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


