ペリオ|Phase1 初期治療
SRPの終わりを、私たちは指先で決めています。引っかかりが消えたら終了。ではその「滑沢さ」は、歯周組織に何をもたらしているのか。1977年、Garrettはルートプレーニングの根拠を一つずつ点検しました。出てきた答えは、当時の常識をかなり静かに揺さぶるものです。
①「引っかからなくなったら終わり」の、その先
SRPをしています。エキスプローラーを走らせる。まだ少しざらつく。もう一度当てる。滑らかになった。よし、終わり——。
この判断を、私たちは毎日、何百部位に対して下しています。ですが改めて問われると答えにくい。なぜ、滑沢にすると良いのでしょうか。歯石が取れた目印だから? それともツルツルの面にはプラークが付きにくいから? あるいは、汚染されたセメント質ごと削り取るため?
1977年、Garrettはこの問いを正面から取り上げました。ルートプレーニングという処置の根拠を、当時の研究を一つずつ並べて点検した総説です。読み進めると、私たちが「そういうものだ」と受け取ってきた前提の一部が、思ったより細い足場の上に立っていたことが分かります。
②ルートプレーニングの三つの根拠
まず、当時整理されていた根拠を確認します。露出した根面には二種類の変化が起きています。プラークと歯石の沈着、そして露出したセメント質そのものの変化です。
セメント質の側では、無機質相が変化して高度に石灰化した層(hypermineralized zone)ができること、有機基質ではセメント質表面近くでコラーゲンの横紋が失われることが、透過型電子顕微鏡で報告されていました。さらに、罹患したセメント質は上皮にも線維芽細胞にも細胞毒性を示す。エンドトキシンが病的な根面から抽出され、培養で強い細胞毒性を持つことも示されています。
ここから、ルートプレーニングの根拠は三つに整理されます。①根面を滑沢にする、②罹患セメント質を除去する、③新付着のための準備をする。この記事が追いかけるのは、このうち①がどこまで本当だったか、という話です。
③滑沢にはなった。だが、歯肉は同じだった
核心の研究がここです。Rosenberg と Ash は、ヒトの歯58本と、それに対応する歯肉生検を使いました。
歯を三群に分けます。一群はキュレットで、一群は超音波で、できる限り滑沢になるまで処置。残る一群は器具操作をしない対照です。そして抜歯の日(処置から28〜232日後)にプラークインデックスを記録し、抜いた歯の粗さをプロフィロメーターで実測し、同時に採った歯肉生検を光学顕微鏡で観察して炎症の程度を数値化しました。
粗さの結果は、私たちの予想どおりです。キュレット群は超音波群・対照群より有意に滑沢(P<0.001)でした。手用器具の方が滑らかな面をつくる。ここまでは臨床実感と一致します。
問題はその先でした。滑沢な面と粗い面のあいだで、プラークの蓄積量に差はありませんでした。そして生検でみた炎症の程度にも、差はありませんでした。
著者らの結論は明快です——根面の滑沢さの程度には生物学的な意義が認められず、ルートプレーニングの主たる根拠は歯石の除去に置かれるべきである。
Green と Ramfjord は、どれだけ努力しても根面にはある程度の粗さが残ることを観察しています。Selvig も、Jones らも、超微細構造レベルで同じ印象を述べました。Garrett はこう書いています。おそらく私たちは、細菌の付着を阻止できるほど滑らかな面を、そもそも作れていないのだと。
④では、器具はどちらを選ぶのか
手用キュレットと超音波スケーラー。当時から続くこの論争を、Garrett は三つの軸で整理しています。
プラーク・歯石の除去効率では、両者に差は見つかりませんでした。Stende と Shaffer、Moskow と Bressman(それぞれ150本と100本を抜歯前に処置)、Stewart ら(92名の患者)——いずれも臨床的にもSEMでも差を検出できていません。ただし歯石除去は超音波の方が速く、多くの患者に好まれるという点は一貫していました。
滑沢さでは、プロフィロメーターを使った研究はキュレット優位を示し、SEMを使った研究は結果がばらつきました。器具の鋭利さ、ストローク数、圧、評価方法が研究ごとに違うため、比較そのものが難しいと Garrett は指摘しています。
差がはっきり出たのはセメント質の除去能でした。
Volkinburg らは、器具操作した根面を組織学的に検討しました。キュレットで処置した37部位のうち23部位(62.2%)で完全なセメント質除去が認められたのに対し、超音波では17部位中2部位(11.8%)にとどまりました。キュレット単独の面でも8面中5面で完全除去、超音波単独では17面中2面です。
Clark らはプロフィロメーターで、超音波も歯質を確かに削ることを示しています。ただしその削除量は加える圧と出力設定に大きく左右され、圧を強く・出力を上げるほど硬組織は多く削られました。
Garrett の結論は折衷的です。露出セメント質を確実に除去できる点でキュレットは今なお不可欠。一方で超音波の速さと患者の快適さも捨てがたい。両者を組み合わせる術式が最も理にかなう——と。
⑤それで、長期的にはどうなったのか
根拠の議論が続いても、臨床家が知りたいのは一つです。この処置で、歯は保つのか。
Ramfjord らの7年間の縦断研究では、短期(1〜3年)にはルートプレーニング+キュレッタージでアタッチメントゲインが得られ、外科群ではわずかな喪失がありました。3〜7年では両群とも統計学的に有意な喪失を認めますが、その大きさは7年間で平均0.3mm——臨床的にはほとんど意味を持たない量です。ポケット深さの減少は外科の方が大きく良好でしたが、アタッチメントレベルという評価軸で見る限り、ルートプレーニング+キュレッタージは外科と同等に成功していました。
Oliver の報告はさらに率直です。少なくとも10年前に治療を終えた患者を無作為に抽出したところ、91%が失った歯は1本以下、80%は1本も失っていませんでした。そして重要なのは次の一文です——治療法の種類(当時の一般的な術式はすべて含まれていた)と成功のあいだに関係は見つからず、成功はメインテナンスの有効性に関係していた。
Oliver の二つ目の研究は、外科処置後に深いポケットが残った部位が、その後どうなるかを追ったものです。対象は69名、最終来院時に4mmを超えるポケットを1つ以上持ち、それが5年以上前という条件。深化した溝は537部位(4〜6mmが465、7〜12mmが72)、平均深さ4.7mm、平均メインテナンス期間6.3年、平均リコール間隔5か月。
結果は、227部位で2mm以上の減少、138部位で1mmの減少、123部位が不変、33部位で1mmの増加、16部位で2mm以上の増加。プロービングの1mm誤差を許容すれば、6.3年間で深くなったのは537部位中16部位(3.0%)。しかもこの16部位をX線で検討すると、明確な骨吸収を認めたのは5部位だけでした。Oliver 自身は「この期間に悪化した溝は1%」と述べています。
⑥明日の臨床へ
50年近く前の総説ですが、持ち帰れるものは驚くほど現在的です。
1つ目。滑沢さを、治療の目的にしない。滑沢感は歯石を取り切れたかを推し量る手がかりであって、それ自体が歯周組織を健康にするわけではありません。削る量を増やすことでこの指標を追いかけても、得られるものは限られます。むしろ削りすぎのリスクのほうが現実的でしょう。
2つ目。器具は使い分ける。歯石除去の効率と患者の快適さでは超音波、汚染されたセメント質を確実に除去する場面では手用キュレット。「どちらか」ではなく「どこで何を使うか」という問いに置き換えると、この論文の整理はそのまま使えます。
3つ目。結果を決めるのは、処置の翌日から先である。Rosenberg と Ash は「患者の協力(プラークコントロール)なしには、組織の長期的な改善は得られない」と結論づけ、Oliver は術式ではなくメインテナンスが成否を分けたと報告しました。私たちが1時間かけて磨き上げた根面の運命は、その後の数年間の患者のブラッシングと、リコールの設計に握られています。
今日のひとこと
根面を滑沢にすることと、歯周組織が健康になることは、同じではありませんでした。キュレットで処置した根面はプロフィロメーターで有意に滑沢(P<0.001)でしたが、その後に付着したプラークの量にも、生検でみた炎症の程度にも差はありません。一方でセメント質の除去能には差があり、組織学的に完全除去できたのは手用キュレットで37部位中23部位(62.2%)、超音波では17部位中2部位(11.8%)でした。そして長期成績を決めていたのは術式ではなくメインテナンスで、平均6.3年の追跡で深くなった部位は537中16部位(3.0%)にとどまっています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


