ペリオ|⑥Phase4 メインテナンス
SRPを終えたポケットの中で、細菌叢はどのくらいの速さで元に戻るのか。1980年、ペンシルベニア大学のグループが、14名の患者に全顎SRPを1回だけ行い、その後90日間にわたって縁下の細菌を暗視野顕微鏡で数え続けました。口腔衛生指導は、あえて一切行っていません。純粋に「機械的清掃1回」の持続時間を測るためです。
①「次はいつ来てもらうか」を、細菌の側から決める
リコール間隔は、3か月が習慣になっています。では、その3か月という数字は、どこから来ているのか。
この論文は、その問いに正面から答えようとした初期の仕事です。14名の患者に全顎のSRPを1回だけ行い、その後90日間、縁下の細菌がどのくらいの速さで元の構成へ戻るのかを追いました。
設計が徹底しています。著者らは、口腔衛生指導をあえて一切行いませんでした。「1回の機械的清掃だけの効果を試すためには、被験者の口腔衛生を変えたり、スケーリングを複数回に分けたりすると、観察の解釈が難しくなる」——そう明言しています。SRPも1回で全顎、平均約3時間かけて終わらせています。臨床の通常手順とは違いますが、「機械的清掃1回」を単離するための設計でした。
②14名、11時点、暗視野顕微鏡
対象は全身的に健康な成人14名(男性2名・女性12名、24〜58歳)。全員がエックス線写真で全顎的な骨吸収を示し、4mm以上のポケットを複数持っていました。試験前7か月半のあいだ、抗菌薬を服用していないことも条件です。
SRPの4日前に完了した先行研究(サンプリング自体の影響を調べた研究)の42日値を、この研究の新しいベースラインとしています。
- 介入:全顎のスケーリング・ルートプレーニングを1回のセッションで実施(平均約3時間)。口腔衛生習慣は変えない
- 評価時点:3・7・14・21・28・35・42・49・56・70・90日目の11時点。各時点で1名につき1ポケットを、あらかじめ無作為に割り付けた予定に従ってサンプリング
- 評価項目:プラーク指数(PlI)、歯肉炎指数(GI)、プロービングデプス(1mm単位)、そして暗視野顕微鏡による細菌形態の割合
- 細菌は4群に分類:球菌・運動性桿菌・スピロヘータ・その他
疾病のため49日目と70日目は13名の観察にとどまっています。解析は不均衡データ用の Method of Fitting Constants(Type II 平方和)で行い、対応する時点間の比較にはBonferroni補正を用いました。
③3日で入れ替わり、42日で戻る
SRPの直後、ポケットの中身は劇的に入れ替わりました。
- 球菌:ベースライン25.1% → 3日目に76.1%。14日目まで有意に高い状態が続き、その後ベースラインと差のない水準へ落ちた(21日目に復帰)
- スピロヘータ:ベースライン33.6% → 7日目に2%未満。3日目から35日目まで有意に低い状態が続いた
- 運動性桿菌:ベースライン14.8% → 3日目に3.8%。ただし有意差が出たのは3日目だけで、約1週間で戻っている
- その他:ベースライン26.5% → 3日目に18.1%へ一過性に低下し、そこから徐々に上昇して70日目に46.1%のピーク
著者らはこれを「3日後の細菌構成比は、Listgarten & Helldén(1978)が歯周組織の健康な部位について報告した比率に、より近いものになった」と表現しています。つまり、1回のSRPは、ポケットの中の生態系を一時的に「健康な溝」の側へ押し戻したわけです。
戻る速さは、菌種によってはっきり違いました。運動性桿菌は約1週間、球菌は21日、スピロヘータは約42日。42日目のスピロヘータは21.4%で、ベースラインとの有意差はもう検出されませんでした。その後49〜90日目は25.5〜33.3%で安定しています。
この「42日」が、著者らの結論の中心にある数字です。「1回のスケーリング・ルートプレーニングは、縁下細菌叢における一部の細菌形態の構成比を乱すことができ、その構成比がベースラインへ戻るには、およそ42日を要する」。
一方、臨床指標の動きはもう少し複雑でした。PlIとGIはSRP後1週間で急速に低下し、28日目ごろにベースラインへ戻っています。その後28日目を過ぎたあたりで二次的な低下が現れ、49〜56日目ごろに再びベースラインへ戻りました。GIの平均値は3日目から35日目までベースラインより有意に低く、最低値は7日目でした。
プロービングデプスだけは、ずっと下がったままでした。ベースライン平均6.4mmから7日目には5.0mm未満へ下がり、35〜90日目は5.00mm以下を保っています。28日目にベースラインへ近づいた時期を除けば、90日間のほぼ全期間で有意に低い値でした。
④スピロヘータと球菌は、鏡合わせだった
この研究のもうひとつの収穫は、細菌と臨床指標の関係を数字で示したことです。
- スピロヘータの割合は、PD(r=0.607、P<0.025)・GI(r=0.521、P<0.05)・PlI(r=0.589、P<0.025)と正の相関
- 球菌の割合は、GI(r=-0.626、P<0.01)・PlI(r=-0.616、P<0.01)と負の相関
- そして、スピロヘータと球菌のあいだには強い逆相関(r=-0.809、P<0.005)
スピロヘータが増えれば球菌は減り、炎症とポケットは深くなる。逆もまた然り。暗視野顕微鏡という素朴な道具で、この鏡合わせの関係が見えています。
戻り方の順番にも、生態学的な筋道がありました。「最初の1週間は球菌が優勢で、2週目から糸状菌・紡錘菌・運動性菌に置き換わっていく。スピロヘータは3週目に有意な数で現れ、そこから縁下細菌叢の重要な構成要素になる」。この細菌学的な遷移のパターンが、SRP後にポケットが再び細菌に満たされていく道筋を決めている、と著者らは考えました。
さらに踏み込んだ推測もあります。「機械的なデブライドメントは、その性質上、微生物を組織内へ持ち込み、術直後の期間に既往免疫応答を引き起こしうる」。ルートプレーニング後の菌血症の発生率は80%を超えるという報告(Korn & Schaffer 1962)を引きながら、著者らは「戦略的に間隔を置いたアポイントは、細菌叢を直接乱すだけでなく、宿主の免疫状態のブースターとしても働くのではないか」と述べています。ただし「この仮説はさらなる検証を要する」と、自ら釘を刺しています。
⑤明日の臨床へ
第一に、「1回で効果が続く期間」の目安を持つ。この研究では、乱れた構成比が元に戻るのに約42日でした。つまり1回のSRPが縁下環境を押さえ込んでいられるのは、6週間ほど。3か月という間隔は、この数字の2倍にあたります。個々の患者でリスクが高いと判断したとき、間隔を詰める根拠のひとつになります。
第二に、SRPだけで完結させない。この研究が示したのは、逆に言えば「口腔衛生指導を一切しなければ、SRP1回の効果は6週間で消える」ということです。著者ら自身も「1回の機械的デブライドメントの効果は、繰り返しの介入ほど良くはないだろう」と認めています。セルフケアという毎日の介入が入って初めて、この6週間は延びていきます。
第三に、ポケットの深さは別の時間軸で動く。細菌の構成比が42日で戻ったあとも、PDは90日間ずっと下がったままでした。著者らはこれを、炎症の軽減による組織の収縮に加え、炎症性浸潤の縮小と新しいコラーゲンの沈着によって「組織がプローブに対して入りにくくなった」ためだろうと説明しています。プローブの数字が良いことと、細菌叢が抑えられていることは、必ずしも同じではありません。
今日のひとこと
14名に対し、平均約3時間をかけた全顎スケーリング・ルートプレーニングを1回だけ実施し、口腔衛生習慣には一切手を加えなかった。3・7・14・21・28・35・42・49・56・70・90日目に、1名につき1ポケットを暗視野顕微鏡で観察した。球菌はベースライン25.1%から3日目に76.1%へ急増し、14日目まで有意に高い状態が続き、21日目にベースラインへ戻った。スピロヘータはベースライン33.6%から7日目に2%未満まで減り、3〜35日目まで有意に低い状態が続いた。42日目に21.4%となってベースラインとの有意差が消え、49〜90日目は25.5〜33.3%で安定した。運動性桿菌は14.8%から3日目に3.8%へ下がったが、有意差が出たのは3日目のみで、約1週間で戻った。プロービングデプスはベースライン平均6.4mmから7日目に5.0mm未満へ下がり、28日目を除く90日間のほとんどで有意に低いまま推移した。スピロヘータの割合はPD(r=0.607)・GI(r=0.521)・PlI(r=0.589)と正の相関、球菌はGI(r=-0.626)・PlI(r=-0.616)と負の相関を示した。著者らの結論は「1回のSRPは縁下細菌叢の構成比を乱すことができ、その構成比がベースラインへ戻るにはおよそ42日を要する」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


